敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
クルツと共に物資の仕分けを始めた翌日の午後、オレはフォークリフトに乗り格納庫にいた。クルツを含め3名の整備兵が作業を行っていた。
「おい、MSの電子ユニットは専用パレットにまとめろ。
大型のメカ部品はチェックしたらスミに置いておけ、
黙っていても整備の連中には分かる」
オレの指示が広い格納庫内に響く。
「クルツ!そのパレットはグフ用だ。
ザクとグフのパーツを混載するな!
ラベルを確認しろ」
クルツがあわてて小型コンテナを取り上げ、別パレットに移動させる。運ばれてきた物資は、輸送機に積載するためにできるだけ容積を小さくすると同時に、輸送機に積載する際の重量バランスを優先してまとめられている。おかげで整備部品に関してはMS用、車両用、その他さまざまな資材がゴチャ混ぜになっていた。
その混乱した物資を、やってくるはずの部隊が使いやすいよう、内容に応じて分類し、パレット上に載せ、格納庫内に並べる作業をオレ達は行なっているのだが・・・・・
モビルスーツの配備されていないコンウェル基地では、整備部隊の主任務は車両と航空機の整備だ。そのため、扱ったことのないMS関係部品の分類に関して手際が悪い、オレの声はつい大きくなりがちだった。
「うちの者が迷惑をおかけしますな」
声をかけてきたのは現場作業を統括しているニール・カルドゥ軍曹だった。オレよりも年上───30代後半くらいだろうか───たくましいが柔和な顔を見返し、オレはフォークリフトの座席から降りる。
「いや、本来ならやってくる整備部隊の仕事だ。
よけいな作業を増やしてスマン」
オレの言葉を聞き、カルドゥ軍曹は笑った。
「それを言うなら、MS乗りの少尉がやる仕事でもありませんよ。
それにしてはずいぶん手馴れていると感心していました。
作業がはかどります」
その言葉を聞き、オレは内心複雑だった。たしかにオレは、この手の作業に慣れている───
「グラナダでMSの評価試験を担当したことがあってな。
いろいろやらされたせいだ」
言う必要のない言葉を飲み込み、オレは言い訳がましいセリフを口にする。
「なるほど、どうりで───」
疑う様子もない軍曹───だが、次に彼は声のトーンを低くして言った。
「ところで少尉、連邦の反攻作戦が近いという噂はお聞きですか?」
「ああ、オデッサはその話題ばかりだったよ」
オレの言葉にわずかな焦燥が混じる───
『だからこそ早く部隊と合流したいのだが───』
オレが突撃機動軍の月面防衛司令部から、戦略資源採掘部隊に転属となり、地球に降りる破目になったのも、連邦の反攻作戦に対応するための補充というのが表向きの理由だった。
「連邦軍が大規模な移動を行なっているという話は多いのです。
それに───」
軍曹は声を低くして言った。
「昨日、ここから南に200キロ程の街で
白い飛行戦艦が目撃されたという情報があります」
「白い飛行戦艦───?」
その言葉の意味するところに気づき、オレは軍曹の顔を見返す。
「まさかそいつは───」
「は、『木馬』ではないかと・・・・・
反攻作戦に備え、移動しているのでは?」
『木馬』、それはジオンの『赤い彗星』と呼ばれたエースパイロット シャア・アズナブル少佐の部隊を退け、北米方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐を死に追いやった、連邦の最新鋭艦に与えられたコードネームだった。
連邦初のモビルスーツを搭載し、大気圏を突破する性能を有する艦───『木馬』の存在が明らかになってから連邦の反撃が加速しているように見えるため、ジオン軍内部でもことあるごとに噂の種になっている。
だとすれば、オレは一刻も早く107小隊と合流せねばならない。だが、今のオレにできるのは、ここコンウェル基地に107小隊が到着するのを待つことだけだった。
オレは分類整理中の到着物資を見返す。ここにあるのはMSの補給部品ばかりでMS本体はない。
オレは気づかなかった───焦りを滲ませるオレの横顔を、カルドゥ軍曹が不安そうに見つめていることに・・・
そのとき格納庫に一人の若い兵が駆け込んできた。
「ギーケイ少尉!いらっしゃいますか!?」
格納庫に反響する切羽詰った声に、オレは振り返ると彼に向かって手を上げた。オレがこの基地に到着したときに出迎えたクレーゲル一等兵だった。
「ここにいる、何事だ?」
ランスはオレの前に走ってくると、敬礼もそこそこに用件を告げた。
「緊急会議が行なわれます。
司令が『少尉にも出席していただくように』とのことです────至急おいでください」
「オレに?」
何事だ────オレは眉をひそめる。コンウェル基地においてオレは部外者だ。そのオレが出なければならない緊急会議とはなんだ。しかも電話ではなく、わざわざ人を寄こすとは・・・・・・
「会議の内容は?」
不吉な予感に捕らわれて問うオレに、彼は声を潜め・・・・短く答えた。
「連邦の反攻作戦が始まったようです・・・・・・」
「予想よりも早く連邦の反攻作戦が開始された。
各地で戦闘がはじまっている────」
ミーティングルームに居並ぶコンウェル基地各部署の責任者達──といってもたいした人数ではない──その前でデニス司令は言った。
「第1報のあとオデッサとの連絡が不安定だ、
地上回線があちこちで切断している。
現在回避ルートを探しながら連絡を取っている状況だ」
ミノフスキー粒子のせいで電波による長距離通信は不可能のため、辺境基地では地上に張り巡らされた情報回線を使用するしかない。
「当基地の西、黒海沿いルートでも連邦は北進しているとの報告がある。
現時点でコンウェルは連邦の侵攻ルートから外れているようだ。
これは連邦がカフカス山脈越えを避けている為と推定されるが
当基地も周辺警戒レベルを上げて対処を行う───」
デニス司令の現状説明に続き、緊張に張り詰めたやりとりが続く。
『基地内の動揺を抑えるのが目的の会議か───』
対策会議と言うよりは、情報不足の現状を鑑み、基地内の動揺を抑えるのが主な目的の会議であるようにオレには思えた。
「緊急時に司令部の指示を仰ぐため、連絡機の用意をしておくように」
最終的に決定したコンウェル基地の積極的な行動は、オデッサ方面の近接基地に2機ある連絡機のうち1機を出すことだった。残り1機は、コンウェル基地の周辺警戒のために基地に留めることになった。
「それまでに地上回線を含め、出来る限りの状況把握に努めて欲しい。
各部署は兵が動揺しないように対処のこと」
デニス指令が会議のまとめを行い発言が途切れたとき、オレは手を挙げ発言した。
「107小隊の情報はありますか?」
出席者の顔がいっせいにこちらを向く。
「107小隊を含む第10MS中隊に関する情報はない。
現時点で、我々には到着を待つしかない」
あくまでも部外者のオレに、それ以上発言する資格は無かった。会議へ出席させたのは、状況を知らせることにより、オレの立場を再認識させるためもあったのだろう。その程度のことは理解できたが、それで己の陥った状況を納得できるものではない。
「クッ・・・・・・」
オレは何もできぬ自分を呪った。
その後、連絡機を出すことが正式に決まったらしい。日の傾いた滑走路を連絡機が飛び立つのを見送り、オレは小隊の到着を待った。
だが、連絡機は途中遭遇した激しい戦闘のため目的地にたどり着くことはできず、飛行を中止し夜遅くに帰還した。
その日107小隊が到着することはなかった。その翌日も・・・・・
時折行われる会議にオレはオブザーバー扱いで出席するものの、その都度聞かされるのは悪化する戦況だった。オレはジリジリと身を焼かれるような焦りを感じながら、状況に対処する術のない自分に絶望するしかなかった。