敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
先程までサムソントップのいた場所に、オレはザクを移動させた。
そこには、日が落ちる前にトレーラーから降ろしたザクの武装が用意されている。覆っている砂よけのシートをザクの手ではぎとり、あらわになった武装にモノアイを向ける。
モニター上に映った兵器が認識されると、その輪郭形状を光がふちどり、名称が表示される。
モニター上で黒い箱としか見えないそれは、《ML9》と表示された。9連装ミサイルランチャーだ。その横に3本並んでいるザクバズーカは《SB25K》と表示されている。
『せっかくだ、こいつを使うか』
オレは《ML9》を選択し、《右腕》を指定して装備する。ザクの右腕が、ロケットランチャーのグリップを握り、左腕がそれを補助しながら持ち上げる。───加重がかかり、ザクが微妙にバランスを取るのを尻に感じる。
オレは立ち上がったザクを、武装の集積場所から50メートルほど移動させた。
ザクが片膝をつき、その巨体を隠すように低い丘の向こう側を窺う───すでにミサイルランチャーを肩に構えた発射姿勢だ。
ザクのモノアイが、進んでくるホバー車両1台と、その後方にGMを捉える。さきほどサムソンのソナーが感知した部隊だ───モニターに表示されるモノトーン映像の奥から手前に移動している。このまま進めば移動中の本隊と接触する可能性が高い───それは避けなければならなかった。
『やっかいなのはホバー車両か・・・・・
まず、あいつの足を止めなければ───』
後方のモビルスーツ───おそらくGMは、3機確認できた。
『GMの武装は?
ビーム兵器を持っていなければいいが───』
連邦の大規模な反攻作戦時に撒かれたミノフスキー粒子は厚く残り、長距離通信の可能性は排除していい。ホバー車両が生き残り、交戦が別の部隊に連絡されてしまう可能性を第一に回避しなければならない。
───その反攻作戦が『オデッサ作戦』と呼ばれていることを、その時点でオレはまだ知らなかった。
『ホバー車両を破壊できれば、連中は足止めできる。
たとえオレがやられても本隊は・・・・・・』
そこまで考えて苦笑する──むざと死ぬ気はない──と見え透いたウソをついたばかりだった。
トレーラーからここに運んだ武装は、9連装ミサイルランチャー1機とザクバズーカが3機、それにザクマシンガン。
それ以外に現時点でザクに装備してある武装は、右腰にヒートホーク、左腰にハンドグレネードが3個、腰背部にマシンガンのドラム弾倉、左右脚部に3連装ミサイルポッドが1機ずつ固定されている───1機のザクが装備するには多すぎる武器だったが、GM3機とホバー車両を相手にするにはこれでも足りるかどうか・・・・・
『むこうさんはオレに気づいていない。
奇襲をかけるのはこちら────』
それだけがオレの優位だった。
オレはミサイルランチャーの照準を敵隊列の先頭に合わせ、接近するのを待つ────アラートサインの赤い点滅がコックピットを染める。
『4キロ、まだ遠い────』
充分ミサイルの射程内ではあるが、命中精度の不安をぬぐい切れず、オレはできるだけ近距離での使用をするつもりだった。なにしろ、このミサイルランチャーは本来MS用ではなく、支援車両用武装の転用品であり、ザクの
とはいえ、9発のミサイルを連続発射できるという戦力は捨てがたく、何とか使い物にすべくFCSに設定したのは、このオレだった。だからこそ、オレはミサイルランチャーの命中精度を信用できずにいるわけなのだが───
ついでに言えば、FCS上に表示される《ML9》という素っ気ない名称も、オレ自身が登録したからだ。
モニター上のホバー車両との距離を示す数値が下がっていくのに連動し、ザクの腕が微妙に角度を変える───ミサイルを連続発射する際、標的の移動に合わせて着弾点をコントロールするシステムも動作しているようだ。急ごしらえで組上げたロケットランチャーと火器管制システムの連携はうまくいったらしい。
下がり続けるターゲットとの距離表示が3000を切る。
「よし」
オレは発射トリガーを引く。
ミサイルが1発ずつ、短い時間差を伴いながら連続発射されていく。発射の轟音と振動がザクのコックピットを揺さぶった────
“10時方向からミサイル!!”
突如モニターが赤く染まりアラートサインが鳴るのと、がなり声がヘッドセットから響くのはほぼ同時だった。ブラッドハウンドの後方にいるシルバ軍曹の声だ。
「迎撃態勢!」
隊列最後尾にいた隊長機のエモ・ファルディ少尉が叫ぶ。その声に一瞬遅れ、ビーム光が闇を裂いた。シルバ軍曹がビームスプレーガンでミサイルを迎撃したのだ。GMの装備するビームスプレーガンは、ある程度広範囲にビームの粒子束をばら撒くことができる。ロケット弾や、ミサイルの迎撃には有効だが、1射目のビームがミサイルを捉えることはなかった。
ファルディ少尉の前にいるロベルト・バーリ伍長機がGMの頭部ガトリングガンでロケット弾を打ち落とそうと、応射を開始した。最後尾のファルディ少尉は迎撃を二人に任せ、左腕に装備されたシールドで機体前面を覆いつつ、敵の位置を探る。
前方にいる2機───シルバ軍曹は右側に、バーリ伍長は左側へとGMを移動させつつ、ガトリングガンによる迎撃を続けているが当たるものではない。
シルバ軍曹による2射目のビームが放たれた。今度は1発のミサイルを捉えた。虚空に爆発が起こる───暗視映像で見る爆発は白い花のようだった。
ブラッドハウンドが右に方向転換しているが、遅い。
“────何をやっている、逃げろ!!”
シルバ軍曹が叫ぶ───だが直後、着弾したロケット弾の爆発が次々に湧き起こりブラッドハウンドの姿を隠す。衝撃波がGMの機体を震わせ、飛散した破片がGMの装甲にぶつかる。攻撃は、先頭のM353A4・ブラッドハウンドを狙ったものらしい。
爆煙の中に停止したブラッドハウンドの姿を確認する。ギリギリ直撃はなかったようだが至近距離の爆発で動けない状態のようだ。
「───大丈夫か!?
グレイ!! 応答しろ───」
車長のグレイ・ヒル伍長を呼ぶが応答がない。ファルディ少尉は、ブラッドハウンドに接近しながら敵影を探す。敵位置の当たりをつけ、損傷したブラッドハウンドをかばうように機体を移動させた。
「こいつか!?」
モニター上に熱源を感知し、左側に自機を移動させつつ、バズーカの照準に入れる。
『あぶりだせるか・・・』
ファルディ少尉は自問しながらトリガーを引いた。
《発射終了・残弾0》がモニターに表示され、確認音が響く。同時に《投棄》を実行し、ミサイルランチャーを右前方の斜面に投げ捨てると、着弾の確認もせず、武装の集積場所へと戻る。続いて、足元に並べられている3本の《SB25K》ザクバズーカから、最も右側の物を選択する。徹甲弾を装填したバズーカだ。《右腕》に装備を実行───ザクの右手がバズーカのグリップを握り、取り上げて構える。オレは自機の位置を左側に移動させた。
一連の作業中に、ビームの火線が虚空を貫くのが見えた。
「ビーム兵器を装備していたか。
やっかいな───」
オレは無意識に上唇を舐める。
その直後、夜の荒野に爆発が湧き起こりモニターを白く灼いた───その爆発の後方から反撃の火線が向かってきた。
『ロケット弾!』
だがそれは、オレのいる場所よりも大きく右手前の斜面に着弾した───それは、オレが投棄したミサイルランチャーのあたりだった。おそらく、そのミサイルランチャーを熱源として探知し、発射したのだろう。
『やれることはやっておくものだ───
ホバー車は?』
こちらのミサイルは命中したように見えた───爆煙の薄れる中、ホバー車両は動きを止めていた。
「しめた!」
ホバー車両を守るように1機のGMがシールドを構え、バズーカをこちらに向けている。今、着弾したロケット弾を撃ったのはこいつだろう。他の2機は左右に展開し、1機がマシンガンを短射しつつこちらに向かってくる。
こちらを追い詰めるつもりだろうが、それを許すほどの時間を与えるつもりは無い───オレは丘の上に立ち、相手に向けてザクの姿をさらすと、ホバー車両の前に立ちはだかるGMに向けてバズーカを3発、連続発射した。 ほぼ同時にそのGMもまたバズーカを発射したのが分かる。
『悪いがGMは動けまい。
動くならそれでもいい。
ホバー車を見捨てることになるだけだ───』
「シルバ、ロベルト! 左右に展開して敵を牽制しろ!」
ファルディ少尉が叫ぶのとほぼ同時に、敵MSが丘の上に上半身をあらわした───
“ザクだ!”
バーリ伍長の声だった。自分の発射したロケット弾は大きく外れてしまったようだ。
「ふざけやがって!!」
バズーカをザクに向けて2連射する。同時に向こうもバズーカを発射していた。
『まずい!!』
ロケット弾はまっすぐこちらに向かってくる。自分が避ければ後方のブラッドハウンドに当たりかねない。
頭部ガトリングガンでロケット弾を狙い撃つが、当たらない。自分が逃げれば、動きを止めたブラッドハウンドに搭乗する3人を見捨てることになる。一瞬の判断で覚悟を決め、シールドを前面に構え、その影に機体とブラッドハウンドを隠そうとする。
「うおおおお───」
咆哮が咽喉から湧き上がる───
そのとき、撃ち続けていたガトリングガンの1発がロケット弾を捉え、至近距離で爆発が起こる。だが、それに安心する間もなく、後方から飛来したロケット弾が、その爆発を突き抜けてGMに着弾した。
───衝撃がGMを突き上げる。
GMの発射した2発のロケット弾のうち1発は、オレの前方20メートルあたりの斜面に着弾し、もう一発は頭上を越え、後方で爆発した。斜面の爆発で吹き飛ばされた石がザクの装甲に跳ねる。
こちらの発射したロケット弾の爆発後、GMが倒れているのを確認する。
『しめた────!』
奇襲とはいえ予想以上の戦果だ。ホバー車両とGM1機が動かなければ、連中が作戦行動を継続することは不可能だ。
ザクの発射したロケット弾が当たったのはGMのシールドだった。だが、徹甲弾はそのシールドを真っ二つに破壊し、背後のGMに大きな打撃を与えていた。
“隊長!大丈夫ですか!?
───応答してください!!”
シルバ軍曹のがなりたてる声───だが、ファルディ少尉には爆発の衝撃でまともに応答することができない。
“チクショウ! ロベルト、追うぞ!!”
『やめろ・・・・・・無理に追うな・・・・・・・』
奇襲を受けこちらの戦力は半減、敵戦力も分からない状態でムキになって追撃するのは自殺行為だ。
声を出したいが、ファルディ少尉の口から出るのは言葉にならないうめき声だけだった・・・・・・
オレは、向かってくるGM2機のうち、ビーム兵器を装備しているらしい左側GMに向け、残っていたロケット弾を2発を発射する。これで、手にしているバズーカは弾倉が空だ。
オレは急ぎ、集積場所にあるザクバズーカを《右腕》に《交換》する。ザクが空になったバズーカを地面に置き、2本目のバズーカを取り上げる。残っているバズーカには粘着榴弾を装備させていた。
その作業を行いながらも、オレには発射したばかりのロケット弾が、GMのビームによって迎撃されたのが分かっていた。
「それなら───」
ビーム兵器を装備していないらしき、右側のGMに3発連続でロケット弾を撃つ。だが、これもまた2発をビームにより阻止され、残り1発はターゲットを外した。
「チッ!こちらの位置を特定されたか」
こうもたやすくロケット弾による攻撃を阻止されるというのは、そういうことなのだろう。ならば、これ以上攻撃にこだわる必要はない。
オレはこの時点で、先行するコンウェル基地本隊の移動時間を稼ぐという、当初の目的を達成しているのだ。ならば、あとは残ったGM2機を牽制しつつ後退すればいい────問題はオレが本隊を追う事ができないという点だ。オレの移動方向を追跡されて本隊が捕捉されるわけには行かない。
最悪、刺し違えることを覚悟の奇襲だったのだから不満はない。残ったGMとて無理に自分を追うことはしないだろう。
────だが、その考えは間違っていた。
バーリ伍長を標的としたロケット弾を迎撃し、シルバ軍曹は不審げにつぶやいた。
「敵は1機だけ?」
シルバ軍曹は、被弾したファルディ隊長とブラッドハウンド乗員が気になっていた。
だが───
『ザクを放置すれば再び攻撃を受ける』
その可能性を排除するべく、まずザクとの片を付けることを優先した。
「ロベルト!敵はMS1機だけのようだ。
位置が分かった以上、ロケット弾は戦闘機動とビームで対処できる。
落ち着いて進め」
“頼みますよ軍曹”
シルバ軍曹の声にバーリ伍長が返答する。
後退を決心したオレは、こちらに移動してくるGM2機のうち、ビーム兵器を装備している左側GMに向け、バズーカに残っていたロケット弾を2発を撃ちつくすと同時に《投棄》。そして着弾を確認もせず、かたわらに残る武装を再度モニター上に映し出すとザクの腰を落とした。
認識された中から、《M-120A1》ザクマシンガンを選択、《右腕》に《装備》する。こいつはすでに予備のドラムマガジンを1機、腰背部に《搬送》している。
さらに、3機目となる《SB25K》ザクバズーカを《左腕》に《装備》、過剰な装備ではあるが使い道があった。
運んでおいた武装には、まだバズーカ用の弾倉やらマシンガンも残っているが、それにこだわって引き際を間違えたくはなかった。オレはザクを起こし、後退を開始しようとして斜面をうかがう───すでに2機のGMは斜面に取り付いていた。
「簡単には逃がしてもらえんか・・・・・・」
「ロケット弾!」
敵の攻撃を確認し、バーリ伍長に警告を送るが、これは自分を狙ったものだろう───シルバ軍曹は、GMを右に振りながら加速させ、ロケット弾をやり過ごす。
『───当たりはしない。ブラッドハウンドと隊長の被弾は奇襲による結果だ』
敵MSの位置は把握できた、しかも戦闘機動中だ。自分に言い聞かせつつ斜面を登り始める。
攻撃は止んだがバーリ伍長を100メートルほど左後方に従え、慎重に機体を進める。丘の稜線を超える前に一時機体を止め、GMの頭部センサーで向こう側をうかがう。少し下った場所にトレーラーらしき車両がある───そして、さらに奥の山陰にザクがいた。
ズームアップした粗い映像、バズーカを構えた左腕の肩アーマーに、『102』とペイントされた数字を読み取ることができた。
「ザク1機、待ち伏せ700メートル先!
貴様が横に来たら、 タイミングを合わせて突入する」
“分かりました”
わずかに待つ間に、バーリ伍長の機体が丘の稜線手前に並び、無線で呼びかけてくる。
“位置につきました”
「ビームを撃つと同時に突入する。
だが、ビームは限りがある、マシンガンで牽制してくれ。
───タイミングを合わせろ」
“了解”
ビームスプレーガンはジオンのザク相手なら強力な武器だったが、ロケット弾の防御にエネルギーを使いすぎた。射撃数には限りがあるし、連射するにもエネルギーチャージの微妙なタイムラグもある。
だが、バーリ伍長はマシンガンの予備弾倉を装備している。2機で交互に攻撃を行いながら、距離を詰めるつもりだった。近接戦闘になれば、ビームサーベルを装備するGMの優位は明らかなのだ。
シルバ軍曹は短いカウントダウンを開始した。
「──3、2、1、GO!」
ビームガンでザクを狙い撃ち、稜線を越えるべくGMを前に出す。同時にバーリ伍長の機体もマシンガンを撃ち始める。
我々の動きを予期していたのだろう。GMの行動と同時にザクがバズーカを発射した。
オレは山の斜面に機体の右半身を隠し、左腕にバズーカを構え、丘を越えてくるGMを待ち受けていた。人でいうところのアイソセレススタイルだ。
ビームの火線が闇を切り裂き、同時に2体のGMが稜線から上半身を現した。
『来た!』
オレはバズーカの引き金を引く。照準を水平に移動させながら連続で3発。ロケット弾の発射炎が暗闇に吸い込まれるように小さくなっていく───だが、その1発目の標的はGMではなかった。
ザクの発射したロケット弾の弾道は大きく右に反れていたが、シルバ軍曹は念のために自機を左に回避させた。残り2発も弾道は低く、当たることはないとの判断だった。ビームガンは使用直後だった、エネルギーチャージの不安もあり、迎撃する必要はないと判断したのだ。
その初弾が自分を狙ったのではないと分かったのは、着弾後だった。予想された爆発にワンテンポ遅れ、連続的な爆発の衝撃が側面からGMの機体を襲った。
「な!?」
1発目のロケット弾は見事に標的を捉えていた。
標的となったのは、先ほどまでクロウがいた場所に残されたザクの武装だった。バズーカの弾倉、マシンガンとその弾倉、ハンドグレネード等、まだ多くの武器弾薬がそこに置き去りにされており、それが誘爆を起こしたのだった。
爆発の衝撃に続いて、ほの赤く染まる黒煙の中から、連続した破裂音と共に巻き散らされた物がGMの機体に当たり、金属音を響かせる。残された弾薬類が破裂し、弾を四方へ巻き散らしているのだ。
事態を把握できないシルバ少尉がGMの足を止め、シールドで機体を保護する。
爆発に一瞬足を止める2機のGM───オレは狭いコックピットでほくそえむ。
マシンガンを持つGMに向けて、さらに1発バズーカを発射する。だが、こちらはマシンガンを撃ちながら、以外にも素早い機動で前進してくる。
「あと1発、それなら───」
オレはバズーカをトレーラーに向け、最後のロケット弾を発射する。
爆発がトレーラー横で起こり、こちらにも少量残っていた弾薬類が誘爆を起こす。多少の機材を残したからといって、コンウェル基地本隊の手がかりとはならないはずだったが、遺留品は出来る限り残さない方がいいに決まっている。
オレは《左腕》のバズーカを《投棄》すると、山影から移動し、前進してくるGMにマシンガンを撃った。
『ち、照準がずれる』
弾道が照準よりも右上にそれる。ザク本体の整備に時間を取られ、マシンガンの実射テストまでは手が回らなかったからだ。オレはザクを後退させつつ、手早くモニター上で照準の簡易調整を行なう。
“な、舐めやがって!!”
バーリ伍長の怒鳴り声が無線を通じて耳に届く。
GM本体ではなく、残された弾薬類に対する攻撃の結果は、多分に偶然の成しえたものではあった。だが、彼はもてあそばれているように感じたのだろう。マシンガンを撃ちながらシルバ軍曹の機体を追い越し、前に出る。
「落ち着け、ロベルト!
前に出すぎるな!!」
ザク1機による待ち伏せ、他に伏兵はいそうもない。しかもザクは後退しつつある。
ならば───
『これ以上の追撃は中止し、隊長の元に戻った方が───』
だが、彼の考えをよそに、バーリ伍長はGMを前進させた。
やむをえずシルバ軍曹は後を追う。
ザクを進めながらモニターを見る。ザクの左足関節が嫌なきしみを伝えてくる。急ごしらえで整備され、完調とは言えないザク───しかも脚部にはミサイルポッドまで装備している、これでGMの追跡を振り切るのはつらい。
『いよいよ本隊を追うわけにはいかなくなったな』
オレは覚悟を決め、逃走ルートに選んであった山あいにザクを進めた。
「それなら、それでいい────
相手してやるぜ!」
オレは、むしろせいせいとした気分でつぶやいた。地球に降りてからというもの、どういう運命のイタズラか、オレは身動きのとれない鬱屈した状況におかれていた。
事前に決めておいた逃走ルートは、モビルスーツにとってはさして広くない。2機のモビルスーツが並べばマトになるだけだ。追跡するGMは、オレのザクと距離を詰められずにいる。
オレはマシンガンを短射し、GMを牽制する────
マシンガンによる応射と後退────GMはそれに引っかかった。そうしながらオレはやつらを誘っていたのだ。
GMとの距離は500メートルを切っているだろうか・・・・・ オレは、切り立った崖下を通過するとき、その崖を確認しつつザクを全速で前進させた。2機のGMにしてみればザクが自分達を振り切るために逃げ出したように見えただろう。だが、それはフェイクだった。
自分がつい先ほど通過した崖下にGMが差し掛かる前に、オレはザクを振り向かせ、脚部ミサイルポッドから左右1発ずつミサイルを発射した。────今度も標的はGMではなかった。
“逃がすか!!”
通信機がミノフスキー粒子による雑音の底からバーリ伍長の叫びを伝える。
彼はザクが移動を早くしたのを確認し、マシンガンを撃ちつつそれを追った。その直後だった。ザクが動きを止め、振り返るとミサイルを発射した。
「どこを狙ってやがる!」
シルバは、シールドを機体前面に構えて援護射撃をしつつ、嘲笑で唇を歪める。ミサイルは見当はずれの方向に飛んでいる。だが────そうではないことに気がつき、声を張り上げた。
「出るなロベルト!上だ!!」
頭上でミサイルが崖に着弾し、周囲を一瞬照らし出すと同時に衝撃波が機体を震わせる。そして砕け散った岩の破片と砂が落下し、GMの機体を打つ。
『岩を落とすつもりか!?』
“行けます、軍曹!”
ヘッドセットからバーリ伍長の声が響き、モニターに映る彼の機体が動き出す。
「待て、罠だ!!」
だが、その声は彼に届いたのだろうか?伍長の機体が止まることはなかった。
引くか、進んでくるか? 息を止めてモニターをにらむ。
オレにとってはどちらでも良かった。ミサイルの爆発で岩を落とすことなど、まあ無理なことだ。だが目くらましの岩の破片や砂を落とすことはできるだろう。それで、向こうさんが引いてくれるのならいい。だが、あえて進んで来るのなら・・・・・
砂煙の中からGMの機体が姿を現す────
「粗忽者が!」
オレは構えていたマシンガンを撃つ、一瞬遅れてGMも撃ち始める。互いの火線が交錯するが、オレの弾丸が相手を捉えるほうが早かった。だがGMの弾丸もオレのザクをかすめ、捉える。凄まじい衝撃がコックピットを揺さぶる。
それに耐えながら、オレは残った脚部ミサイルを発射した。
マシンガンの火線がGMの胸部装甲に火花を上げ、頭部センサーを砕く。それに一拍遅れ、ミサイルが襲い掛かる。
爆発の中にGMの影が踊った。
オレは残ったミサイルを発射する。たった今、撃墜したGMの後方に向けて───これでミサイルも撃ち尽くした。
オレは《脚部ミサイルポッド》を《投棄》する。爆発ボルトが作動し、こもった爆発音に続き、ミサイルポッドが地面に落ちる重い金属音────
オレはザクを方向転換し、離脱にかかる。もう1機いるはずのGMから攻撃は無い。これで振り切ることができるはずだ───
「フ・・・・・ハハハハハ・・・・・
やったぜ!───やってやったぜ!!」
こみ上げる衝動に、狭いコックピットでオレは笑い続けた。
「ざまあみやがれ!
アーハッハッハッハ────」
長期に渡り強いられた緊張状態、そして戦闘から開放されたためだろう、オレはハイになってザクを走らせていた。
むろん、自分自身では理解できていなかったが・・・・・・
闇の中、砂混じりの風が吹きすさぶ山あいに、重い足音を響かせながら巨人のモノアイが遠ざかっていった。
序章の後編です。
「モビルスーツの運用はこうではないか」という個人的な妄想で書きました。
MSが武装を腕に握る際の動作は、パイロットがいちいち操作するのではなく、MSが武装を認識し、パイロットが装備を指定すれば自動的に動作する───こんな感じです。
「そうじゃねえだろ」という方は感想をいただけると嬉しいです。
あと、ザクバズーカはロケット弾5発の連装式という「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」の設定を採用しています。当作「敗残兵の荒野」では、マガジンが交換できるということになっています。
ところで、せっかく読んでくださった方を、がっかりさせてしまいそうですが、以後、物語終盤になるまでMSの戦闘はありません。
(物語終盤にはMS戦があります。)
実を言うと、物語は完結していますので、文章を整えつつ、週2回ぐらいのペースでUPしていきたいと思います。
大雑把に考えて、半年ほどかかるのではないかと・・・・・・長いな。
それでは次回「遭遇Ⅰ」