敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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3-4 第4整備中隊

 連邦の反攻作戦が開始してからすでに3日が過ぎていた

反攻作戦の報がもたらされた直後から、コンウェル基地は警戒態勢のレベルを上げ、事態に対処していた。

だが、オデッサをはじめとする周辺拠点との連絡は断続的にしかつながらず、戦闘の推移については断片的な情報しかもたらされなかった。その断片的な情報ですら2日目以降はジオンの劣勢を明確にしていた。そしてその通信も、3日目には完全に途切れた。

 連邦軍の一次目標からは外されていたようだが、コンウェル基地が襲撃を受ける可能性は常にあった。そして、あくまで資源開発基地でありまともな戦力を持たないコンウェル基地は、連邦の攻撃が行なわれた場合、事実上降伏以外の選択肢を持たなかった。

だからこそコンウェル基地の管制塔では、航空機のみならず地上の警戒をも厳とするよう指示が出されていた。

 

 それに気づいたのは双眼鏡まで持ち出して、管制塔で監視任務に当たっていた若い兵。彼が西の地平線に現れた車列を双眼鏡に捉えたのは、すでに太陽は傾き、空が赤く染まりはじめた時刻だった。

 

「西北西に車列あり。小型車2台とトラック・・・?

 いやもっといる。

 当基地に向かっています!」

 

 その言葉に反応した管制官の指示で、ただちに警戒のサイレンが基地に鳴り響く。

 

「連邦か!?」

 

「影になっているので・・・・

 いえ、待ってください!」

 

 彼は車列から遅れて後方に現れた巨人のシルエットに気づく。見間違えようのないその姿───

 

「ザクです───後方にザク1機!

 友軍です!!」

 

 その言葉に不安と安堵のないまぜになったどよめきが管制室に湧き起こった。

 

 

 サイレンが鳴り響き、オレは格納庫から走り出した、連邦の攻撃を考えたからだ。だが、その後サイレンは唐突に止んだ。いぶかしむオレの前を、何台かの車輌があわただしく滑走路を横切っていく。さらに、それに続き走っていく何人もの警備兵───

オレは近くを走る警備兵の一人を呼び止めた。

 

「なにごとだ?」

 

「友軍の部隊が接近中。

 西ゲートを開けろとの指示です」

 

「なに!?」

 

 

 一時間近くが過ぎ、その部隊がコンウェル基地に到着した。

ゲートから入ってくるどのクルマも泥と土ぼこりにまみれている。だが、オレの言葉を失わせたのは後方から近づいてくるザクだった。右腕にマシンガンを装備したザクが、フェンス越しに近づいてくる───それは、全身を泥と硝煙、そして被弾痕で汚していた。塗装が剥がれ、破損により装甲の内部構造が露出した部分も少なくない。それらすべては、目の前のザクがくぐり抜けてきた激しい戦闘を物語っていた。

そしてオレの目は、ザクの肩アーマーに書かれた102-4という数字に釘付けになる。

 

『───102小隊か!』

 

 オレは兵員輸送トラックから降りてきた兵の肩をつかみ、ザクを指差すと怒鳴った。

 

「あれは102小隊か?

 107小隊はどうした!?」

 

 すでに疲れ切っていたのだろう、問われた男はオレの剣幕に威圧され弱々しくこたえた。

 

「107と101小隊はおそらく全滅・・・・

 102小隊の生き残りも彼だけです。

 我々を脱出させるために・・・・」

 

「全滅・・・・」

 

 オレは言葉を失った。

 

 兵員輸送トラック2台、小型車輌2台、サムソントレーラー1台とザク1機、それが到着したすべてだった。

そのザクはゲートを通過し基地内に入ってくると、そのまま崩れるように腰を落とし、片ひざをついて、うなだれるように動きを止めた。

 

「おい、ハッチを開けろ!」

 

 その声にふりむくと、動きを止めたザクの下で警備兵が叫んでいる。パイロットの応答がないようだ。

オレと話していた男がすがるように言った。

 

「ベイリー伍長は負傷しているんです。早く・・・・」

 

 男の言葉をすべてを聞き終える前に、オレは近くに来たクルツに叫んだ。

 

「パイロットは負傷している!

 リフト車をまわせ」

 

 そうしてオレはザクの足元に向かって走った。コックピットハッチはわずかに開いているようだが、パイロットの様子を知ることはできない。

 

『チクショウ、ここが月なら』

 

 低重力の月なら、この程度の高さどうにでもなるものを───オレは心の中で悪態をつく。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 叫ぶオレの声に応答はない。

そのとき高所作業用リフト車が到着した。アウトリガーを展開させる最中に、クレーン先端の作業スペースにいる作業者が叫んだ。

 

「少尉、こちらへ!」

 

 その声で作業スペースに乗っているのがクルツだと分かった。オレはリフト車の作業台に駆け上がる。

 

「よし、上げろ!」

 

 オレの指示でクレーンが動きはじめ、そのままオレ達をコックピット前に上昇させていく。オレはハッチを押し上げ、コックピットに上半身を突っ込んだ。

そこにベイリー伍長がいた。ヘルメットはかぶっていない、目を閉じ、うつむいた頭部に巻かれた包帯は、とうに乾いた赤茶けた血に染まっている。

 

「伍長、わかるか?

 すぐにおろしてやる」

 

 理解できているのかどうか、ベイリー伍長はわずかに目を開き、うめき声を発する。オレは彼のシートベルトを外すと、ハッチ横にあるウインチのワイヤーを引き出し、フックをベイリー伍長のベルトに取り付ける。万が一の落下防止だ。どうにか伍長を立たせると、狭いコックピットから身体を引きずり出す。そして外にいるクルツの手を借りて伍長をリフト車の作業台に乗せた。

クルツがウインチのフックを外したのを確認し、オレは叫ぶ。

 

「すぐに降ろせ、オレはこのままザクを移動させる」

 

「了解!」応えたクルツは、そのままリフト車の運転席に向かって手を振り回しながら叫んだ。

 

「降ろせー!!」

 

 

 オレはワイヤーを回収しザクのシートにすわると、コックピットのモニター類をチェックする。地上戦用のJ型ザクは初めてだが、基本的に宇宙用と大きく変わることはない。

モニターでザクの足もとを映し出すと、ベイリー伍長はやってきた救急車両に乗せられるところだった。

救急車両が動き出すのを確認してから、オレは外部通話用のスイッチをONにする。ヘッドセットを取り上げ、マイクで外に呼びかける。

 

「ザクを移動させる。

 足もとを空けろ」

 

 響いたオレの声に、車両と人々がザクの周辺から

あわてて離れていく。それをモニターで見ながら、オレはさらに呼びかけた。

 

「この機体はサムソントレーラーに載せる」

 

 そしてオレはザクを立ち上がらせる───その瞬間、金属がきしむいやな音と振動が下方から響いてきた。腰と左足・・・・ひざ関節部だろうか?とにかくまともな状態ではない。オレは慎重に方向転換をすると、サムソンに向かってザクを進めた。ザクの歩行は揺れと突き上げがひどく、正常な機体にはほど遠い。

 

『あのケガでよく乗っていられたものだ・・・』

 

 オレは収容されたベイリー伍長を思った。

 

 

 

“この機体はサムソントレーラーに載せる”

 

「なに!?」

 

 ザクから響いた声を聞いたハーヴェイ・ウェイド軍曹は、顔色を変えて立ち上がるザクを見上げた。

 

「まずい・・・」彼はサムソントレーラーに向かって走り出す。

 

『あの男───

 パイロットみたいだが、分かっているのか?』

 

 サムソントレーラーはMS輸送を前提に設計された車両であるが、トレーラーにMSを載せるにはそれなりの手順がある。

 

『サムソンは今、移動状態のままだ。

 ザクを載せようとすれば、十中八九トレーラーを壊すことになる』

 

 だが次の瞬間、ザクから再び声が響く。

 

“サムソン、聞こえるか?

 トレーラーにザクを載せる。補助脚を出せ!”

 

 その声を聞き、彼は走る足を緩める───どうやら、あのパイロットは分かっているようだった。

 

 

 

 サムソントレーラーは初めてだが、オレはこの手の作業には慣れていた。ただ、このザクがとても正常とは言いがたいことから、補助脚の展開をサムソンに要求した。

オレの意図が伝わったらしい、トレーラーのアウトリガーが動き始める。トレーラー下面の見えないところでも補助脚が降りはじめているはずだ。

オレはもう一つ要求を伝える。

 

「サムソン、積載物を降ろすからロックを解除しろ」

 

 こちらは補助脚の展開よりも素早く行われ、すぐに返答があった。

 

“積載物ロック解除OK。降ろしてください”

 

 オレは展開が完了する前に、右腕のザクマシンガンをトレーラーから離れた場所に降ろす。そしてトレーラー上に積載されているコンテナを持ち上げ、同様に地面に降ろしていった。それらの多くはモビルスーツの武装・弾薬類と思われた。最後に大型の黒い箱──おそらくミサイルランチャーだろう──を慎重に持ち上げ、ザクマシンガンの横に並べて置く。

その間に補助脚が展開し、運転席の窓から身を乗り出した男がこちらに向かって大きく手を回すのが見えた。それと同時に、ヘッドセットに通信が入る。

 

“積載準備よし、ザクの積載作業開始してください!”

 

 ───準備ができたのだ。

オレは一旦トレーラーの横でザクの腰を落とし、片ひざをつく。そしてザクの左手をトレーラー中央付近に当て、そこで重量をある程度支えつつ腰をトレーラー上に移動させた。モニター上で確認しながら左足を慎重に持ち上げる───

 

「さて、いきなり壊れないでくれよ・・・・」

 

 駆動音の中に混ざる、こすれるような金属音を聞きながらオレはつぶやいた。

 

 

 

 ゆっくりとザクの上半身がトレーラー上に横たわっていく───一連のMSの動きを見てウェイド軍曹は舌を巻いた。たしかに慎重に操作をしているようだったが、その動作に迷いはなかった。あれなら補助脚を展開しなくともトレーラー上にザクを積載することが可能だったのではないか───そう思わせるMSの動きだった。

 

「何者だ───?」

 

 彼は思わずつぶやいていた。

周囲の者たちが見つめる中、ザクはその身をトレーラー上に横たえ、動きを止める。しばらくしてからコックピットハッチが開き、没しかけた太陽の作り出す赤い空の下に、一人の男のシルエットが姿をあらわした。

 

 

 

 オレは横たわったザクのコックピットから這い出すと、胸から腕をつたいトレーラー上へ降り立つ。そしてトレーラーの側面にある短いはしごを使って地面に飛び降りた。周辺に集まっていた男達が近づいてくる。全員、表情の中に疲れがにじんでいる───

その中から、最前列にいた男がオレの前に進み出た。オレに正対すると敬礼する。

 

「ハーヴェイ・ウェイド軍曹であります。

 第4整備中隊で102小隊のMS整備を担当しています」

 

「第10MS中隊 第7小隊、クロウ・ギーケイ少尉だ」

 

『107小隊!?』

 

 答礼するオレにウェイド軍曹が声もなく驚き、周囲の男達がざわめいた。

 

「整備中隊の隊長は?」

 

「リンズ中尉は状況報告のため、基地司令の元に行かれました」

 

「そうか───

 オレはこのコンウェル基地で107小隊と合流する予定だったが

 その前に連邦の反攻作戦がはじまってしまった」

 

「少尉、107小隊はおそらく全員・・・・・」

 

 言いよどむ軍曹にオレはうなづく。

 

「ああ、それは聞いた。あとで詳しく教えてくれ。

 だが、それよりも至急やってもらわねばならんことがある」

 

「なんでしょうか?」

 

 オレは軍曹に顔を寄せると低くささやいた。

 

「おそらく、ここも基地を放棄して移動することになる。

 時間の問題だ。

 コンウェルには戦力と呼べるほどのものはない」

 

 軍曹はなにかを言おうとしたようだったが、その言葉を飲み込み、黙ってオレの言葉を聞いている。

 

「疲れているのは分かっているが、少人数でいい。

 大至急このザクを調べて整備プランを作ってくれ。

 それ以外の者は休ませろ、場所はあるはずだ」

 

 オレは軍曹の後方で、到着した兵に混じって様子をうかがっていたクルツを呼ぶ。

 

「クルツ!」

 

「は、はいっ」あわててクルツが進み出てきた。

 

「クルツ、キサマは今から整備班と基地の連絡役だ。

 許可はオレが取っておく。

 いいな!」

 

「!!───了解しました!」

 

 オレの意図を理解したクルツがウェイド軍曹に敬礼する。

 

「クルツ・シフェール三級整備兵であります。

 軍曹、なんでもお言いつけ下さい」

 

「まずはザクの移動だな。

 トレーラーごと格納庫に入れればいい」

 

 すでに太陽は没し、仄赤い光だけが地平線に残っている。ザクの移動作業がはじまった───

 

 

「また、こいつを直さねばならんのか・・・」

 

 ウェイド軍曹が、夕闇の中、移動をはじめたトレーラー上のザクを見上げ、つぶやく。

なんとかたどりついた友軍基地───しかし、そこも安住の地とはなりえないようだ。

 

『間に合うのか・・・・』

 

 整備中隊が撤退を開始した時、102小隊メンバーが最後に出撃していった光景が脳裏をよぎる。長い戦闘で損傷したままのザクで出て行ったバード少尉、キーネン軍曹、ベイリー伍長・・・・整備中隊を追い、戻ってきたのはベイリー伍長だけだった。

 

『直しきれぬまま、また出撃させてしまうのか・・・』

 

 さまざまな想いが交錯し、握り締めたこぶしが震えた。

その彼に部下の一人が近づき、低い声をかける。

 

「オード軍曹に知らせなくてよいのですか?」

 

 ウェイド軍曹は何事か考え込んでから言った。

 

「知らせるなら、自分がやる。

 お前たちは作業を続けろ」

 




次回「脱出計画」
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