敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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3-6 MSパイロット

 ベイリー伍長との話を終え、格納庫へ戻ったオレとクルツに、ウェイド軍曹の若い部下が声を掛けてきた。たしかドーエル二級整備兵だ。

 

「少尉、電装ユニットの交換は終了しました。

 システム・チェックを再度お願いします。

 しかし───」

 

「どうした?」

 

「部品がなく、交換できないユニットが2点ありました」

 

「どこのユニットだ?」

 

「脚部のオートバランサー・ユニット、左右2点です」

 

 ドーエル整備兵はチェック表のコピーを示す、先ほどオレの書き込んだもののコピーだ。

 

「バランサー・ユニットが交換できないのはまずいな。

 ただでさえ左足がいかれてるのに負担が───」

 

 ユニットの型式ナンバーを確認しながらそう言いかけ、オレはあることに気づいた。

 

「ん? ちょっと待て・・・・

 バランサー・ユニットは補給品の中になかったか?」

 

「リストは確認しましたが、ありませんでした」

 

「いや、確かあったはずだ」

 

 オレは自分の持っていたペーパーホルダーの補給品リストをたぐる。目的のユニットを見つけ、型式ナンバーのところにペンで2箇所マーキングすると、それをクルツに渡す。

 

「クルツ、このふたつだ。

 パレットの場所を覚えているか?」

 

「ザク関連の電装品をまとめたパレットですね」

 

「ああ、ケースごと持って来い」

 

「分かりました」

 

 クルツは身軽に走り出した。

 

「待ってください!

 少尉、そのユニットは形式番号が違います!」

 

 あわてるドーエルの声は、つい大きくなり格納庫に響く。

 

「いや、問題ない」

 

 オレ達の声を聞きつけたのだろう、ウェイド軍曹が小走りにやってきた。

 

「何事だ?」

 

「軍曹、少尉が間違ったユニットを───」

 

 彼が事情をウェイド軍曹に説明している間に、クルツがケースを持って戻ってきた。

 

「少尉、これですね」

 

「いいところに戻ってきたな」

 

 オレはクルツが持ってきたケースをウェイド軍曹に差し出す。

 

「軍曹、脚部のバランサーユニットならこいつでいけるはずだ」

 

 ケースを受け取った軍曹は、貼ってあるラベルで型式ナンバーを確認している。

 

「少尉、これは・・・・F型ザク用のユニットではありませんか?」

 

軍曹はとまどいつつ言った。

 

「そうだ。

 駆動システム系に関する限りF型ザクの電子ユニットは、たいがいJ型ザクに装着して問題ない」

 

 二人が軽く驚いた顔を見合わせる。オレはその二人に言葉を付け足す。

 

「逆は無理だがな」

 

 

 ジオンの地球侵攻が開始された3月、強襲降下戦闘団に投入されたMSの多くは、MS-05(旧型ザク)、MS-06C(C型ザク)であり、それらは本来、空間戦用の機体を改修した機体だった。地上戦用MSー06J(J型ザク)も投入されてはいたが、その数は少なく、J型が地球における主力となっていくのはジオンの地球支配が確立する過程においてだった。それはジオンの地球侵攻が、もともと予定になかったことを示すものであった。

F型は、宇宙空間での運用が主目的だったが、月やコロニー内部、地球など重力環境下での運用も想定されていた。

それに対し、J型は地球の1G環境下、大気圏内での運用に特化したモデルだ。1Gの重力と、地球の天候のもとで使用するために耐久性を強化し、モノアイをはじめとするセンサー類は、大気中での使用を前提としている。地球上での運用においてJ型はF型よりも優秀な性能を示していた。

 

 

「駆動システム系だけで考えるなら

 J型はF型ザクから宇宙仕様を取り除いたデチューン版と言ってもいい。

 生産性を上げるためだろう」

 

「申し訳ありません、知りませんでした」

 

 ドーエル二級整備兵が恐縮している。整備担当として知らなかったのがよほど恥ずかしいようだ。

 

「扱ったザクはJ型だけか?」

 

「102小隊はJ型だけです。

 他の部隊には違うタイプのザク、それからグフもいましたが、F型はいませんでした」

 

 ドーエル整備兵に尋ねたつもりだったが、応えたのはウェイド軍曹だった。

 

「戦略資源採掘部隊は後発の編成だから、J型中心の配備ができたのだろう。

 しかし、その部隊にF型のユニットを回してくるとはな」

 

 オレはぼやいた。

 

「F型ユニットを送っておけば

 F型とJ型、両方で使えると思ったのでは?」

 

 クルツが遠慮がちに発言した。だが、その意見をオレは渋面で否定する。

 

「上層部がそんな気のきいたマネをするか。

 単に兵站が混乱しているだけだ」

 

 オレの身も蓋もない言葉に、その場にいた全員が納得の表情を浮かべた。

 

「それにしても、F型のユニットをJ型で使うとなれば

 地上で運用するための設定変更が必要なのではありませんか?」

 

「その辺の設定変更はオレがやる。

 グラナダで乗っていたザクはF型だったが、設定変更はしょっちゅうだった。

 グラナダ防衛部隊といえど、宇宙に出ることはあるからな」

 

「そうですか───」釈然としない声のウェイド軍曹。多分、心の中で『月ではそんなことまでパイロットがやるのか?』と考えているのだろう。

 

「まあいい、このユニットはオレが交換する」

 

 オレはウェイド軍曹の持つユニットを受け取って言った。

 

「手伝え、クルツ」

 

「はい」

 

「ま、待って下さい、ユニットの取り付け場所はご存知なんですか?」

 

 トレーラにかけられた金属ステップを上ろうとするオレに、ドーエル二級整備兵があわてて言った。オレは首だけで振り向く。

 

「シート後方の下段パネルを外した中のスロットだろう?

 F型と変わらんはずだ」

 

 言い終えてオレ達はステップを上がり、再びザクのコックピットを目指した。

 

 

 トレーラーに上っていった二人の影が視界から消えるのを待って、ドーエルが口を開いた。

 

「何者なんですかあの少尉は?

 地球じゃいろんなMS乗りを見てきましたが、

 あんな人見たことがないですよ」

 

「ああ・・・自分もだ。

 妙にMSに詳しい───

 それでいて一部の頭でっかちのパイロットとも違う」

 

 いぶかしげな表情を浮かべる二人は、疑問の答がごく身近にあることに気づいていなかった。

 

 

 

 オートバランサーユニットを交換し、一連のシステムチェックが終わった。細かい調整はまだあるにしろ、とりあえず電気系に限ってはザクを動かすのに支障はない。あとは機械系の作業進行次第だ。

オレが外したユニットを手にしてトレーラー上に降りると、そこにドーエル二級整備兵がいた。

 

「システム・チェック終わったぞ。

 おおむねOKだ、脚部バランサーもな」

 

「そうですか」

 

 オレは外したユニットを彼に渡す。

 

「こいつは左足がおかしいのに長時間負担をかけた事による過負荷だろう」

 

 そのとき、開け放たれた入り口から格納庫に入ってくる男たちに気づく。夕方コンウェルに着いた整備中隊の者達だ、10人以上いる。ウェイド軍曹と並んで先頭にいる男がよく通る声で叫んだ。

 

「クロウ・ギーケイ少尉はいるか?」

 

 オレはトレーラーを降り、進み出ると男の階級章を確認する。

 

『中尉───ということはこの男が・・・・』

 

 オレは中尉の前に立ち、敬礼した。

 

「クロウ・ギーケイ少尉であります」

 

「ペーター・リンズ中尉だ、第4整備中隊を預かっている」

 

「申し訳ありません。

 ウェイド軍曹以下、整備兵をお借りしています」

 

「いや、少尉が指示を出してくれて助かった。

 自分はデニス司令への状況説明と今後の方針に関する会議で、外すことができなかった」

 

 そして中尉は振り向き、後方にいた男に「おい」と声をかける。それに応え、背の高い男がオレに向かって進み出てくる。

彼は神妙な表情でオレを正面から見据えると、やにわに敬礼した。背後にいる者も一斉に格納庫内に靴音を響かせ、それに倣う。

 

「ハリー・オード軍曹です。

 我々は107小隊担当整備班であります!」

 

『107小隊付きか!?』

 

 彼は敬礼したまま話し続ける。

 

「我々は少尉のことを知らず、

 コンウェル基地に到着後、今まで休息を取っておりました。

 まことに申し訳ありません」

 

 彼らはコンウェル基地に着いたことに安堵し、到着後に食事をとり、そのまま基地が用意した場所で睡眠をとっていたのだ。彼はそれを謝罪しているが、長い戦闘後にたどりついた友軍基地───まして、オレの存在を知らなかった以上、それは仕方のないことだった。

 

「ウェイド軍曹に事情を聞き、

 我々も作業に加わるべく参上しました」

 

 さらに後方にいた者が声を上げた。

 

「101小隊担当整備班であります。協力させていただきます」

 

 事情を理解し、オレは彼らを見回し、大声で言った。

 

「貴官等は長時間の戦闘状態にあったのだ。

 食事も睡眠も必要だ、謝罪の必要はない!」

 

 言葉を切り、あらためて彼らを見渡し言葉をつなぐ。

 

「力を貸してくれるならありがたい。

 よろしく頼む!」

 

「ありがとうございます!」

 

 オード軍曹の表情がややふてぶてしい笑いに変わり、そこにいる一同の緊張がどよめきとともに解けた。

 

「そういうわけだ。今まで休んでいた分、厳しく使ってやってくれ」

 

 リンズ中尉はオレに向かって言うと、オード軍曹をはじめとする者達に首を巡らせる。

 

「キサマ等!少尉に恥ずかしい働きを見せるなよ!!」

 

 中尉は再度その声を響かせると「まだ打ち合わせがあるのでな」と言い残して格納庫を出て行った。

オレはそれを見送り、傍らのウェイド軍曹をふりむく。

 

「彼等を呼んできてくれたのだな?」

 

「明日の夕方に移動すると聞きました。

 どう考えても我々だけでは作業を終わらせる事ができません」

 

「うむ」オレはうなずいて言った。

 

「人手が増えたところでちょっと聞いてくれ。

 ああ、オード軍曹もだ」

 

 オレは作業机に広がっていたザクの作業図を前に言った。

 

「人手が増えても左股関節とひざ関節の駆動部は交換できんだろう。

 作業が大掛かりになりすぎる」

 

「ハイ」ウェイド軍曹がうなづく。

 

「そこで───駆動部そのものは調整にとどめて、

 駆動部周辺のフレームの補強と、補器類を交換したらどうだ?」

 

 オレは図面を指差しながら続ける。

 

「関節の異常は、駆動部本体に負担がかかったせいもあるだろうが、

 戦闘で駆動部周辺の保持がイカれたことも大きいように思う。

 駆動部本体の交換ならいざ知らず、

 周辺のフレームと補器類だけなら人手さえあればいけるのではないか?」

 

「少尉、そいつは───」

 

 オード軍曹が図面から顔を上げ、あきれたようにオレを、次にウェイド軍曹を見る。

 

「なぜ、それを・・・・」

 

 ウェイド軍曹も驚いてオレを見ている。オレは二人の反応にとまどった。

 

「なにか───おかしなことを言ったか?」

 

 二人の軍曹が顔を見合わせる。そしてウェイド軍曹が口を開いた。

 

「いえ、その案は先ほど整備に関して相談したとき、

 ハリー・・・いえ、オード軍曹が提案した方法と同じです───」

 

「どうして少尉はそれを───」

 

 二人の言葉に、オレは自分が大きなお世話をしてしまったことに気づいた。

 

「ああ、同じことを考えていたんだな。

 少し前にベイリー伍長からザクの使用状況を聞いたのだ。

 そこからの判断だが───スマン、余計なことを言った。

 あとは安心してキサマ等にまかす」

 

 再度、釈然としない表情を見合わす二人だが、それ以上は何も言おうとしなかった。

 

 

 リンズ中尉が去り、合流した者たちが作業部署ごとに別れ、計画と作業内容の伝達がはじまると格納庫は一気に活気づいた。

その中でオレはウェイド軍曹に声をかけた。

 

「ウェイド軍曹。

 交代要員ができたのならキサマ等も休め」

 

 彼と彼の部下はコンウェルに到着後、食事すら運ばせた簡単なものを格納庫で食べただけだった。むろん睡眠はとっていない。

 

「は、部下は順次休ませます」

 

「軍曹もだ」オレは強く言った。

 

「いえ、自分はこの機体に責任があります。

 持ち場を離れるわけにはいきません」

 

 ウェイド軍曹は頑固に言い張った。その気持ちがオレには痛いほど分かる。

 

「軍曹、人手は増えたが

 明日の出発までにこの機体は完全に直るか?」

 

「動かすだけならばできますが、

 戦闘に耐えるレベルにするには継続した作業が必要です」

 

「そういうことだ。

 明日基地を出た後も、しばらくは作業を続ける必要がある。

 それまで、キサマに倒れられては困るのだ」

 

「いえ、少尉がなんと言われても

 これは自分の職分であります」

 

 オレはかたくななウェイド軍曹の態度にあきれつつ、だからこそ彼が信頼できる整備兵であることが分かっていた。この手の頑固な人間が整備兵に多いことをよく知っていたからだ。

オレは、少し考えたうえで───説得方法を変えることにした。

 

「MS整備は整備班の仕事だ、

 パイロットだろうとよけいな口を出すなというわけか?」

 

 オレは声に少々怒気をこめて言った───ある考えがあったからだ。

 

「それは───」

 

 オレのケンカを売っているも同然のセリフに、ウェイド軍曹がたじろぐ。だがそれも一瞬、彼は背筋を伸ばし言い放った。

 

「いえ、その通りであります!」

 

 オレは軍曹の顔をにらみつける。周囲にいる者たちが不穏な空気を感じ、動きを止めた。

クルツはどうしたものかと途方にくれている。唯一、おもしろそうな顔でオレ達を見ているのはオード軍曹だった。

 

「バード隊長も、キーネン軍曹も、ベイリー伍長も

 時間に追われ、整備不十分な機体で送り出すことしかできませんでした。

 自分の責任です!」

 

 ウェイド軍曹は苦しそうな顔つきで吐き出すように続けた。

 

『そうか、それゆえのかたくなさだったか───』

 

 オレは理解し軍曹の背後に目をそらす。周囲の人間は沈黙し、オレと軍曹のやりとりを遠巻きにうかがっている。

 

「みんな、聞いてくれ!」

 

 オレは周囲にいる整備員達の顔を見渡し、格納庫に声を響かせる。

 

「オレは元々キサマ等と同じ整備兵だ!」

 

 唐突なオレの発言に、周囲にいる者はとまどい、声もなく互いの顔を見合わせる。オレの言葉を飲み込めないでいるようだ。

 

「グラナダ基地、第3整備部でMS整備を担当していた。

 技術兵課における最終階級は一級整備兵。

 地球侵攻にともなうMSパイロット不足のせいで、戦闘兵科に転属させられた。

 そのあげく、手柄を立てたおかげでいまや少尉様だ」

 

 一級整備兵というのは一般兵の伍長に相当する。ようやく理解が追いついてきたのだろう、驚きの視線が集中する。最も驚いているのはクルツだった。

 

「そういうわけで───」

 

 オレはウェイド軍曹に向き直ると言った。

 

「ザクの整備についてはいささか承知している。

 パイロットについてもだ」

 

 軍曹の目を真正面から見つめ、オレは話し続ける。

 

「パイロットは状況しだいで、機体が完璧でなくとも戦わねばならん。

 だが、そのことで整備員を恨むことはない。

 ベイリー伍長もそんなことは一言も言っていなかった。

 彼はただ、中隊を無事にコンウェルへ送り届ける任務を果たしたことに安堵していた」

 

 オレは彼の肩に手を置き、掴む。

 

「だから、すべてを自分の責任として背負い込む必要はない。

 休め!

 従ってもらうぞ、ウェイド軍曹。

 我々が生き伸び、宇宙に帰るためだ」

 

「・・・・」

 

 呆然としたウェイド軍曹。とっさに何を言うべきか判断がつかないのか、開いた口をもてあましている。そこへ横から援護射撃の声が飛んだ。

 

「ハーヴェイ、少尉のお言葉に甘えろ!」

 

 オレとウェイド軍曹の顔が向いた先にいた声の主は、腕を組み、笑うオード軍曹だった。

 

「それとも、元一級整備兵殿の言葉では従うことができんか!?」

 

 その発言を聞きオレは口元をゆるめる。そして、目の前のスウェイド軍曹に笑いかけ、肩に置いた手でポンと叩く。

 

「なに・・・心配するな。

 言っただろう、パイロットは文句を言わん」

 

 オレが口にした最後の一言で、周囲にどっと笑いが湧く。そして軍曹の表情が和らいだ。

彼は大きく息を吸い込むと言った。

 

「分かりました!

 それでは指示に従い、休ませていただきます」

 

「うむ」オレは大きくうなづいた。

 

 

 

 オレが自分の過去を明かした結果、整備班の連中は礼儀はわきまえているものの少々気安くなり、確認作業に呼ばれる回数が増えた。

まあ、それはいい。気を遣われて作業が滞るよりも、生き延びる確率が上がるというものだ。

 

 

 

 作業の合間にオレとクルツはトレーラーから降り、運ばれたコーヒーを飲んでいた。

 

「少尉が元整備兵だったとは驚きました」

 

「開戦前、MSパイロットの育成もろくにできていない頃から

 ジオン本国でジオニックに派遣されて

 MSに関わっていたんだ」

 

 オレは開戦前、ジオン本国にいたときのことを思い出しながら言った。

 

「ちょっとした作業でザクを移動させる必要があるとき、

 パイロットを呼ぶのが面倒で作業効率が上がらない。

 だから整備兵の中から適性のある者を選び、MSの操縦を教えたというわけだ」

 

 なにやらクルツの顔がうらやましげだ。MSに関わりたくて技術兵科に入ったのなら当然かもしれない。

 

「オレと同僚のディーンというヤツは適性があったようでな───

 おかげで便利屋としてこき使われた。

 移動のためにザクをトレーラーやら、コロニーのエレベーターに載せるのはしょっちゅうだった」

 

「そういうわけだったのですか」

 

 クルツが、腑に落ちたという表情で相槌をうつ。

 

「グラナダ占領後、ジオニックのMS生産はグラナダがメインになり

 オレ達もグラナダに移動になった。

 そしてザクを操縦できるということで

 オレとディーンは戦闘兵科に転属させられた。

 地球侵攻の直前だ」

 

「なるほどねェ」

 

 いきなり頭上から声がかかり、オレとクルツはトレーラーを見上げる。

 

「おかしな少尉殿だとハーヴェイに聞きはしましたが

 我々と同じ整備兵だったとは───」

 

 オード軍曹がトレーラーからタラップを降りてきた。

 

「さっきは助かった。

 キサマの言うことならウェイド軍曹も聞くようだな」

 

「なに、たいしたことではありません。

 あいつはいいやつですが、真面目すぎるのがタマに傷で」

 

 オード軍曹は肩をすくめ、ニヤリと笑うとつけ加えた。

 

「それにヤツが倒れたら、お役目が自分に回ってきそうだったんで───」

 

「確かにな」

 

 オレはその言葉に笑いながら、くわえたタバコに火をつける軍曹をまじまじと見つめた。

 

『こいつはタバコを吸うのか───』

 

 スペースノイドはタバコを吸わないものなのだ。

 

「───107小隊はどういう状況だったのだ?」

 

「我々にも詳しいことは、

 ただ、連邦のMSはビーム兵器を標準で扱えるようで───

 すべてのMSがビームガンを持っているわけではありませんが

 広範囲にばらまかれるビームに動きを止められ

 接近戦ではビームサーベルに撃破されるケースが多かったようです」

 

「そうか───」

 

 言葉が途切れる。しばらくの間、その場を沈黙が支配し、格納庫内に響く作業音だけがオレたち3人の間を通り過ぎていった。

その沈黙を破ったのはオード軍曹だった。

 

「後学のためにお聞きしたいのですが

 元一級整備兵殿が少尉に出世するために、どのような手柄を上げられたので?」

 

「そいつは言えんな」オレは人の悪い笑みを浮かべる。

 

「口にするといろいろまずいのだ。

 オレが地球に降りることになったのも一因はそのせいでな」

 

「それはそれは───

 宇宙に帰っても戦闘兵科への転属願は出さない方がよろしいですな」

 

「ああ、長生きしたければやめておけ」

 

 おれはヒラヒラと手を振って見せた。その言葉をくぎりに、オード軍曹は短くなったタバコを灰皿代わりの空き缶にねじ込むと、手を振りながら再びトレーラーに上がっていった。

 

 




次回「稼働試験」
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