敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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3-8 敗残兵

 17時とされた予定時間よりも1時間ほど遅く、アデンに向かう脱出部隊の第1陣が移動を開始し、西ゲートからコンウェル基地を出て行った。軍用車両もいるが、多くの人間を乗せているのは調達された民間用バスだった。30分ごとの間隔をおいて第2陣、第3陣が移動をはじめる予定だ。

最終となる第4陣がオレ達だった。

 暗い空の下、ゲートを出て行く車列を、格納庫にいる整備中隊の者達がなんともいえぬ表情で見つめている。コンウェル基地の人間の中で分かっていた者がどれだけいるかは知らないが、整備中隊の人間はいやというほど分かっていた。これは脱出行であり、自分たちは敗残兵なのだという事実を───

 

 その格納庫前に暗がりから姿を現した人間がいた、デニス司令だった。

オレと周囲の人間がとっさに背筋を伸ばし敬礼をしようとしたが、司令は手を上げそれを止めた。

 

「こういう状況だ、敬礼は抜きでいい」

 

 デニス司令は格納庫内のザクに視線を向けて言った。

 

「ザクは大丈夫なのかね?」

 

「ハ! ウェイド軍曹はじめ整備兵達のおかげで

 いつでも戦闘に入れます」

 

「そう簡単に戦闘になったのでは困るな。

 アデンは遠い」

 

 司令は穏やかな顔で、トレーラー上に横たわるザクと周辺で作業する整備兵を見渡しながら言った。全くその通りだった、そこにいた全員が苦笑する。

次に司令が呼んだのはウェイド軍曹だった。

 

「ウェイド軍曹」

 

「ハ!」

 

「ギーケイ少尉はこう言っているが、本当のところはどうなのかね?」

 

 それを聞いた瞬間オレは渋い表情になり、ウェイド軍曹は言葉に詰まりながらも応えた。

 

「少尉の指揮もあり、作業はこれ以上ないくらいうまく進みました。

 しかし───すぐに戦闘をされたのでは困ります」

 

「やはり、そうか」デニス司令は小さく息をつく。

 

「リンズ中尉が『あのザクは1日では直らない』と言っていたのでな」

 

 司令がオレに首を向けて笑った。オレ達の小細工はバレバレだったらしい───

デニス司令は格納庫にいる全員を見まわして言った。

 

「だが、おかげで基地の者たちも心強かったようだ。

 ここにいる全員に気を遣わせてしまったな。

 コンウェルを預かる者として礼を言う。よくやってくれた」

 

 オレ達は言葉もなくデニス司令を見つめる。沈黙の中、整備作業の音だけが格納庫の中に響いていた。

 

 

「少尉、少しいいかね?」

 

 デニス司令が歩き出しながら声をかけてきた、オレは黙って司令の後に続く。

格納庫から少し離れた場所で司令は言った。

 

「今夜のうちにできる限り基地から離れる。

 だが、もし朝までに連邦軍と接触した場合は投降するつもりだ。

 リンズ中尉も同意している、承知しておいてくれ」

 

「了解しました」

 

 オレは納得するしかなかった。コンウェル基地と整備中隊の兵、全員の命がかかっている。

 

「出発後の連絡は無線か、直接連絡が第3陣から行くことになっている。

 私は第2陣で基地を出る、すまんが後はよろしく頼む」

 

「全力を尽くします」

 

 そう言ってオレは姿勢を正し敬礼する。

 

「いいと言っただろう」

 

 それでもデニス司令は笑いながら答礼した。

 

「作業に戻りたまえ」

 

 そしてデニス司令は滑走路横で出発準備中の第2陣の光へと歩いていった。

 

 

 コンウェル基地の人間は先に出た第1陣と、次に出発する第2陣に分かれた。そのデニス大尉を含む第2陣が移動を開始した。この第2陣には整備中隊の一部も含まれている。

第3陣はリンズ中尉と整備中隊だった。

最後発が整備中隊の選抜メンバーにオレとクルツを加えた第4陣だったが、移動開始が遅れている。この調子では21時頃の出発になりそうだ。

ザクを載せたトレーラーは滑走路上に引き出され、サムソントップを連結する作業がはじまっていた。

オレとウェイド軍曹は格納庫前でトレーラーを見あげていた。

 

「ギリギリ戦うことができる程度にはなったな」

 

「まだ作業は続けなければなりませんが」

 

 すでに戦闘を考慮した作業も行なわれていた。脚部にミサイルポッドが取り付けられているのは、オレのリクエストだった。

 

「スマンが出発したらオレは眠らせてもらう」

 

「サムソントップに仮眠スペースがあります。

 お使いください」

 

「いいのか?」

 

「MS運搬時にパイロットが同行する際は

 パイロットの優先使用と決まっていますのでご遠慮なく」

 

「助かる。さすがに多少疲れた」

 

 戦場から離脱してきた彼等整備中隊ほどではないが、オレも昨日から徹夜状態で若干の疲れを感じていたところだ。

そこへクルツが戻ってきた。

 

「先に休ませていただきました」

 

「夜明けまで君にサムソンを運転してもらう。

 頼んだぞ」

 

 軍曹がクルツに声をかける。このあたりの地理に詳しいクルツが出発時にサムソンを運転することになり、休んでいたのだ。

 

「クルツ、オレは仮眠スペースで寝るから

 あまりサムソンを揺らさないでくれよ」

 

「了解です」

 

 オレの冗談にクルツが笑った───

 

 

 整備中隊の中から、102、107小隊付きの整備兵で構成された第4陣は、すでに兵員輸送車に搭乗をはじめていた。サムソントレーラーに同行するなら、兵員輸送車であろうが、なかろうが同じだとオード軍曹が判断したからだ。

これでコンウェル基地は放棄されることになるが、もともとこの飛行場で働いていた現地スタッフは基地に残っており、基地のあちらこちらには灯りが残っていた。

地球に降りてから1週間、まさか自分にこれほど予想外の運命が待っているとは夢にも思わなかった。

オレはその1週間のうち、6日間を過ごした場所───コンウェル基地を見回してから、運転席でクルツの待つサムソンに搭乗した。

 

 

 こうしてオレ達 第4陣は、現地時間20時30分にコンウェル基地を出発した。

連邦のMSと接触し、戦闘に入るのは4日後のことだった。

 




次回「独立愚連隊」

 今回でコンウェル編は終了、次回より物語は元の進行に戻ります。

 物語はここでほぼ半分を消化したところです。序章の後書きで「終了まで半年ぐらい」と書きましたが、短い話を2話まとめて投降してきたので、そこまで長くはならずに済みそうです。

 それでは後半もおつきあいよろしくお願いします。
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