敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
オレとシュナイダー少佐が屋上から戻ると、サハドがなにやら大声で我が同胞とやりあっていた。それを見た少佐が間に入っていく。
「どうした?
調達の難しい物資でもあるのか?」
「調達に問題はない、問題は時間だ!
受け渡しまで10日では、とてもそろえることができん。」
ふりむいたサハドが少佐にまくしたてる。
「正確に言えば品をそろえることはできるが持っていくことができん、量が多すぎる。
うちのジャンク屋まであんたらが取りに来れるわけじゃないだろう。」
サハドは、一旦息をつくと付け足した。
「ま、取りに来られても迷惑なだけだがな────」
「それなりの報酬は提示している。人手の問題なら手配しろ」
サハドと話していた男が横から口をはさむ。
「こう、急な話だと信用のできる男を雇うのも難しい。
あんたらだってこの話が外に漏れちゃまずいんだろう」
サハドがずけずけとものを言う。
それを聞き、オレが口をはさんだ。
「待て、何人必要だ?」
サハドがぎろりとオレを見る。
「ワシのほかに最低二人だ」
「サミとナオがいるだろう」
「子供だ───二人で一人前に足りん。
必要なのは運転できる人間だ」
「もうひとりはオレだ」
親指で自分を指差す。オレの言葉にサハドがあんぐりと口をあけた。
オレは少佐を向いて言葉を続けた。
「オレがこのままサハドと物資を用意して
受け渡しと同時に合流すればいい」
「フム────」
あごに手をあて、少佐が考える。
「たしかにそれは助かる。
今、少尉に合流されても物資を調達するまで動くことはできんからな」
うなずいてオレに顔を向ける。
「だが、いいのか?」
「サハドの家のメシは、なかなかうまいんでね」
ニヤリと笑ったオレの言葉に、周囲の男達がドッと笑う────サハドだけが苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「それなら受け渡し場所はここでどうだ?
この谷には洞窟がいくつかある、人がくることはまずない。
そこに物資を運び込んでおく」
サハドがテーブルの上に広げられた地図を指で示す。オレはサハドが指差した場所がどこなのか気づいた。
「そこは────」
サハドは地図から顔を上げると、ふてぶてしい笑いを浮かべオレを見る。
「そうだ───初めてあんたと出会った谷だ」
そこはオレが隠れていた洞窟のある谷だった。
取引の詳細がまとまったあと、別れ際に少佐がオレを酒場の隅に呼びよせた。
「我々は物資が手に入り次第、移動するつもりだ────行く先は言えん。
だが、貴様は確実にアデンに送ってやる」
小声でオレに打ち明ける。
「分かりました」
異存は無かった。だが────
「自分のザクが受け渡し場所の近くにあるのですが────」
「モビルスーツの回収まではできん。目立ちすぎる」
「そうでしょうね」
「取引が終わったら連絡だけはしておくが、ザクではな。
期待はするな。」
さすがにザク1機では回収の手間はかけられないということか────いずれにしても、オレがあのザクに乗ることはなさそうだった。
そう考えてオレは忘れていたことを思い出す。
「そうだ」
オレは荷物の中から、隠しておいた
「────これを」
「これは?」
「連邦のMSと交戦後、砂漠をさまよっていたとき擱坐したコンテナトラックを見つけました。
それに乗っていた兵のものです」
オレはその認識票を少佐に手渡す。
「二人はトラックの近くに埋葬しました。
あれと出会わなければ、自分は砂漠でのたれ死んでいたでしょう────」
「そうか」少佐は手のひらの認識票を見つめ、握り締める。
「では───」
言うべきことを言い終え、背を向けようとするオレに少佐の声がかかる。
「待て」
まだ、何かあるのか───と、ふりむくオレに少佐は顔を寄せる。
「少尉、金は持っているのか?」
「え?───いえ、ほとんど持っていません。
しかし、サハドの家にいる限り必要ないので」
意外なことを問われ、答えるオレの前で少佐は懐から札束を取り出す。その札束から無造作に札を引き抜くとオレの手に押し付け、笑った。
「持っていろ、あって困ることはない。
特別任務の必要経費だ」
そうしてオレは少佐と別れ、酒場を出た。太陽が完全に落ちるにはまだ時間があるがすでに暗い、街には少ないながらもあちこちに灯がともっている。昼とは様相の一変した街の路地を、サハドは苦も無く歩いていく。オレはその後を早足で追いかける。迷宮のように見える街は、はぐれたらまずいと感じさせるのに充分だったからだ。オレには、サハドが早足で歩いていくのが信じられなかった。
どうやら、最初にいた市場の近くまで戻ってきたとわかったとき、オレは前を歩くサハドの背に声をかけた。
「サハド、このあたりで服を売っている店はないか?」
「ああ?」
サハドが足を止めて振り向く。
「まだしばらくやっかいになるわけだが、夜は寒いだろう。
上着を買いたいんだ」
砂漠はどこもそうらしいが、昼と夜の寒暖差が大きい。軍用のジャケットならあるが、これから作業のために出歩くとなれば目立たない上着が必要だった。これまでは、夜に出歩くことがなかったのでさほど気にしなかったのだ。
「金ならある」
「ああ・・・まあ、確かにな。
それなら、この先の路地に店がある。
ついてきな」
オレは、サハドの案内した店で膝あたりまである長めのコートを買い、そのまま着込んで帰ることにした。
他に買った数点の荷を脇に抱えて───