敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
シュナイダー少佐との商談の次の日から、サハドは必要な物資の手配に奔走することになった。その物資が入ってくるまで、オレはサミ、ナオと隠してあるコンテナに残された荷物の回収作業をすることになった。
「ワシは物資の注文をかけてくるが、今日明日に持ってこれるのはごく一部。
まとまって入荷するのは早くても明後日以降だ。
それが入荷するまでおまえ達は、コンテナの荷物を分類して運びだしておけ」
サミとナオをまかせ行動を許したところをみると、すでにオレは客人ではなく労働力の一部と考えられているようだ。
「今日はなるべく連邦を避けろ、明日までに身分証を用意する」
もちろん偽の身分証だろう───オレは唇を歪める。
「トラックを使っていいのか?」
「ああ、ワシはマスードが迎えに来る」
「?───いつ連絡したんだ」
「昨日、あんたが外套を買っている時に店の電話を借りたんだ」
なるほど、手の早いことだ。
「了解だ。
行くぞ、おまえら」
「「おー!」」
オレははしゃぐサミとナオをうながし、トラックへ乗り込んだ。
二人とも朝の水汲みの時から、オレが買ってやったおそろいのコートを着ている。
「待ってクロウ」
サハドと入れ違いにディアが包みを胸に抱いて家の中から駆けてくると、その包みと水筒をトラックの窓越しにオレに手渡す。
「これ、お昼よ」
「ああ、ありがとう」
「いってらっしゃい」
軽く手を振るディアにオレも手を上げてこたえるとトラックをスタートさせた。
助手席でサミとナオが、いい感じのオレ達のことを「イヒヒヒ・・・・・」と笑いあっていることにも気づかずに───
コンテナを隠した場所に着き、オレ達はさっそくコンテナを掘り返し始めた。基本、オレがスコップで掘り返し、サミとナオがトラックに積んできた運搬用一輪車で土を運ぶ。適当に役割を交代しながら、コンテナ入り口を掘り出すのに昼過ぎまで使った。
午後、オレ達は荷物を運び出す作業に入った。必要なものは分類したうえでジャンク屋まで持ち帰ることになる。
ただし真昼間に荷を移動させるのはいかにも目立つ。荷を移動するのは夕方以降にして、昼はコンテナ内の大雑把なリストを作成することに時間を費やすことにした。調べて換金できそうな物から持ち帰ればいい。
その作業中だった、ナオが荷物を両手で抱えて運び出してきた。
「クロウにいちゃん、これなに?」
「───機械部品用のコンテナだな。
電子機器みたいだが」
それは、機械部品を収納するための、樹脂製の小型コンテナだった。整備士上がりのオレにとっては見慣れたそれを確かめようと、コンテナ表面に貼り付けてあるラベルに顔を寄せる。ラベルの最上段に記されているのは『MS-06J』の文字、その下に記載されている内容を読んでオレは顔色を変えた。
「ザク用の電子ユニット!?
こんな物が積んであったのか」
ふりむいてナオに問いかける。
「ナオ、このコンテナはまだあるのか!?」
「荷物が崩れてる奥の方に埋まってたよ」
「どこだ!?」
オレはナオの手を掴み、コンテナの中に駆け込んだ。
「こっちだよ。」
熱気のこもる暗いコンテナの中、崩れた荷の隙間を作業用の携帯ライトで照らしながらナオが器用に進む。オレは通ることができず、崩れた荷を横に積みなおしながら進まねばならない。
途中でナオに取り残されたオレは納得した。なるほど、ナオの小さな身体だからこそ崩れた荷の隙間を通り、奥にあるコンテナを発見できたのだ。
悪戦苦闘しながらたどり着いたコンテナの奥、その崩れた荷の中に小型コンテナは埋もれていた。オレはライトでコンテナのラベルを照らし、内容を読み取っていく。
MS-07・グフ用、MS-09・ドム用もある・・・・だが、その多くはMS-06・ザク系の電子ユニットや機械部品だった。
オレは谷に隠したザクの不具合部分を頭の中でチェックしはじめた。
『こいつがあれば、ザクをそこそこ直すことができるかもしれない・・・・・』
以前、オレがこのコンテナトラックを見つけ、中をあさったときはまるで気づかなかった。あの時オレは水と食料を探すのに必死で、その後やったのは砂漠の生活に役立ちそうなものを選別することだった。他の事にはまるで頭が回っていなかったうえ、必要なものをそろえたあとは荷崩れしたコンテナを奥まで調べる気にとてもなれなかったのだ。
「クロウ兄ちゃん。
どうしたんだい?」
振り向けば、背後にはいつの間にかサミもやってきて、興奮するオレを不思議そうに見ていた。
「サミ、ナオ! このコンテナを洞穴に運ぶぞ。
ラベルにMS-06と書いてあるヤツだけでいい」
コンテナの中でモビルスーツ部品を発見したオレ達は、日が傾くまで荷物の分類と積み込みを続けてから洞窟に移動した。そして、ザク用部品の入った小型コンテナをオレの隠れていた洞窟に運び込む。作業が終わった後、オレはサミとナオの二人に声をかけた。
「サミ、ナオ、ちょっと来い」
「なんだい、にいちゃん?」
たずねるサミに手招きして歩き出す。
「どこ行くの?」
ナオが好奇心に満ちた目でオレを見る。
「いいものを見せてやる」
オレは歩きながら、彼らに背を向けたままで答えた。行く先は言うまでもなくザクの隠してある崖下だった。
「モビルスーツだ!」
崖に背を向ける形でうずくまるザクを見上げ、ナオが感嘆の声を上げる。
「すげえ・・・・・・本物のザクだ」
サミもネットで覆われたザクを見上げ、息を呑む。カモフラージュネットで一部覆われていたが、長期間放置され砂埃をかぶったザクは、夕闇せまる崖の下で古代の石像のように見えた。
戦災孤児の二人にモビルスーツを見せることに多少抵抗があったが、オレの心配とは裏腹に、サミとナオは間近で見るザクに大きな目を輝かせた。
「こいつは今、まともに動かないが───」
オレは短い時間とはいえ自分の愛機だったザクを見上げ、その脚部をこぶしで軽く叩く。
「ナオが見つけてくれたコンテナはMSの部品だ。
修理することができるかもしれない。」
「ホント!」
「ああ。だから、まずはコンテナの荷物を完全に片付けて時間を作らなけりゃならん。
協力してくれ。」
オレはふりむいて、二人に頼む。
「「うん!」」
その翌日でコンテナの荷物はほぼ分類を終わった。
それからは、午前中は入荷した物資を洞窟に運び込み、昼の空いた時間をザクの修理に費やした。そして午後には移動してコンテナの物資をトラックに積み、夕方にサハドのジャンクヤードに持ち帰るというパターンがオレ達の日課になった。