敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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5-7 休日

「荷はすべて運び込んだ、もう作業はねぇ」

 

 夕食の席でサハドは仏頂面で言った。

 

「明日、ワシはカナールに行かなきゃならねえが

 おまえらは休みだ、好きにしろ」

 

 サミとナオが顔を見合わせたあと「「やったー!」」とはしゃぎ出す。

 

「そうか・・・」

 

 オレは少し気が抜けた声を出す。

最初この家にやって来たとき、オレはジオンに戻ることしか考えていなかった。客人として扱われながら、自分がここにいることが落ち着かなかった。連邦と接触した場合のことを考え、焦っていた。サミ、ナオ、ディアの3人とも理解しあえたとは言えない状態だった。

シュナイダー少佐と接触し、再びこの家にやってきてからは、取引のための忙しさに追われていた。これは任務ではあったが、サミ、ナオ、ディアと打ち解けることのできた時間でもあり、サハドの本音も知ることができたように感じていたのだ。

それが終わる───

 

「クロウ兄ちゃん、明日どうする?」

 

「そうだな───」

 

 サミの声に我に返ったオレは少し考え、そして棚上げになっていた約束を思い出した。

 

「お前たちがあのエレカを運転できるように

 ペダルまわりを改造するか・・・・」

 

 オレの言葉に、はしゃいでいたサミとナオの顔からスッと笑顔が引く。チャイを淹れていたディアもとまどいに表情をくもらせる。

───水汲みに行ったとき口にし、果たしていなかった約束。だが、それを果たすということは、オレが彼らの前からいなくなるという意味でもあった。

 

 

 翌日、オレはコンテナハウスの横で、サミとナオを交互に作業用エレカの運転席に座らせ、シートを何度も動かして足とペダルの間の寸法を測り・・・・うなる。

 

「う~ん・・・」

 

 オレはメモに記入した測定値を凝視し、ナオに向かって結論を口にした。

 

「ナオの身長だと前を見るのにシートを高くしなきゃならん。

 そうするとペダルにかますゲタが高くなりすぎる。

 サジに合わせてゲタを作るから、おまえはもう少し背が伸びるまで運転は待て」

 

「え~・・・」

 

 思いきりなさけない顔をするナオの背を、サミが叩く。

 

「すぐ運転できるようになるさ。

 それまで兄ちゃんが運転してやるよ」

 

「うん・・・」

 

 うなづきつつもしょげ返るナオ。よほどエレカを運転したかったのだろう。

 

 オレは廃棄されていた厚めのアルミ板を切り出して、アクセルとブレーキに取り付けるゲタを作ることにした。新しく切り出したペダル板に、取り付けステーをねじ留めにする。そのねじの頭がペダル上の滑り止めになるように配置した。

ゲタは複数作っておくつもりだったが、仮に壊れたとしても複雑な構造ではない。サハドなら楽に加工することができるし、サミでも何とかなるレベルのものだ。

 

 とりあえずアクセル用とブレーキ用に1セットずつゲタを作り上げたオレは、それをペダルに仮止めする。

 

「サミ、乗ってみろ」

 

 取り付けたゲタを踏ませて位置あわせをし、ねじを増し締めする。

そして、オレは助手席に座ると、ナオに向かってエレカから離れているように手で合図し、サミに指示した。

 

「よし、スタートボタンは分かるな?

 起動して動かしてみろ。

 アクセルはゆっくり踏めよ」

 

「う、うん・・・・」

 

 緊張した面持ちのサミがスタートボタンを押すと、コンソールの表示が点灯する。サミはハンドルを握り、ゆっくりアクセルを踏み込んだ。

静かにエレカが動き出すと、サジが満面の笑みを浮かべて叫ぶ。

 

「動いた!動いたよ、クロウ兄ちゃん!」

 

「スピードはそのままだ、ハンドルを切ってみろ」

 

 オレの指示でサミが左にハンドルを切る。エレカがグルリと1周旋回する。

 

「よし、そこで停めろ」

 

 エレカが停止し、オレは助手席に乗り込みながらナオを手招きする。

 

「ナオ、いいぞ。乗れ」

 

 駆け寄って来たナオが後部座席に座ったのを確認して、オレはサミに言った。

 

「好きに走ってみろ。

 ただしスピードは30キロまでだ」

 

「了解、隊長」

 

 そう言って、ナオはアクセルを踏み込む。オレはいつのまにか隊長にされてしまっていた。

発進したエレカは、ナオとサミの暮らすコンテナハウスからヤードを通り抜け、サハドの家の前までやってくる。

 

「「ディーアねーちゃーん!」」

 

 サミとナオが大きな声で家に呼びかけると窓からディアが顔を出す。

「まあ───」眼を大きく開いたディアが玄関にまわり、外へ出てきた。

 

「サミでも運転できるようになったのね。

 大丈夫?

 危なくない?」

 

「心配するな、この作業用エレカはもともと大してスピードが出るわけじゃない。

 それにサミは慣れるのが早い」

 

「ディアね-ちゃんも乗りなよ」

 ナオが後部座席でディアを呼ぶ。

 

「それじゃ、みんなでヤードの周りをドライブだ」

 

 サミの言葉に、オレはディアに向かってうなづく。

ディアはやれやれという表情でナオの隣に乗り込んできた。

 

「いいわよ、出して」

 

 ディアの言葉にサミがアクセルを踏む。しかし故意か、偶然か、その踏み込みは少々大きかった。急発進したエレカにディアが驚きの声を上げる。

 

「きゃ!」

 

 一方、サミとナオは大喜びをしている。

 

「もう!ちゃんと運転しなさい!!」

 

 ディアは半分悲鳴のように叫んだ。3人の様子にオレは笑いはじめる。

 

 乾いた風を顔に受けながら、オレは思い出していた。

グラナダを出てからバイコヌールに降り立ち、コンウェル基地に到るまでの緊張。連邦の反攻作戦が始まってからの焦燥。整備中隊到着後、コンウェル基地を出るまでの喧騒。

そして、連邦のMSとの戦闘後、異邦である地球の荒野をたった一人でさまよう孤独・・・・・・

 サハドの家にやって来たとき、オレはジオンに戻ることしか考えていなかった。客人として扱われながら、自分がここにいることが落ち着かなかったし、連邦に見つかることを恐れ、周囲が見えなくなっていた。

シュナイダー少佐達と接触し、オレはようやく自分を取り戻すことができた。この家を再び訪れ、やっと落ち着いて周囲を見回すことが可能になった。

 

 サミが、ナオが、ディアが、そしてオレが走るエレカに乗りながら屈託無く笑い声を上げる───

それはオレにとって、地球に降りてきてからやすらぎを感じる数少ない1日であり───そして、最後となるはずの1日だった。

 

 




次回「前夜」


2022.03.21 PM20:52
申し訳ありません、登場人物の名前等、一部間違っていた部分を訂正しました。
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