敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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6-1 別れ

 その日の朝、オレはいつもどおりサミ、ナオとともに、エレカで水を汲みに泉に出かけた。いつもと違うのは、ハンドルを握っているのが、オレではなくサミだということだ。

 

 サミも、ナオも、いつもどおり明るい。何も変わらない日のはじまりのように思えた。

 

 帰ってくると、ディアが笑いながら朝食の支度をしている。サハドはあいかわらずしかめ面で言葉が少ない。

オレもまたいつもどおりふるまっている。だがそれは全員が演技をしているのだと分かっていた。

今日の夜、ジオンとの取引がある。オレがこの家を出れば2度と戻ってこない。皆、そのことに触れたくない。そのことを口にして気を使わせたくない。そのことを認めたくない・・・さまざまな意識が働いていたのだろう。

 

 朝食がすむとサハドは立ち上がって言った。

 

「昼メシのあと取引きに出る。

 話したいことがあれば、今のうちに話しておけ」

 

 ディアは黙っていつもどおり食事をかたづけはじめる。

 

「サミ、ナオ。 エレカの簡単な整備を教えておいてやる───」

 

「え、分かるかな?」

 

「心配するな、ザクに比べりゃ楽勝だ」

 

 それは本音だった。サミとナオ、2人とも機械に関してカンがいいことは、エレカの修理、ザク整備の手伝いをさせて分かっていた。

オレは2人を外に連れ出すと、水汲みに行った後、玄関脇に止めっぱなしになっていたエレカを前に、その構造と整備についての説明をはじめる。

 

 

「フン・・・・」

 

 家の中から、窓の横に隠れるようにして見ていたサハドが、おもしろくなさそうな顔つきで鼻を鳴らす。そんなサハドの姿を家の奥から見て、ディアがくすりと笑う。サハドは、なんだかんだでクロウのことを認めているのだ。

 

 ───表面上はいつもと同じ、特別なことは何もない時間が過ぎていった。

 

 

 いつもの時間、ディアが昼食の仕度ができたとオレ達を呼びに来る。

オレ達は、いつもより時間をかけて昼食をとった。

 

 

 

「先に乗っているぞ」

 

 ぶっきらぼうにサハドは言い、背を向けてトラックに乗り込む。

オレはひざをつきサミとナオに目線の高さを合わせる。

 

「ナオもサミも、ディアの言うことを聞くんだぞ。

 そしてディアを守ってやれ」

 

「「うん、うん・・・」」

 

 2人が頷くのを見てオレは言葉を続ける。

 

「でも、おまえたちなら

 こんなことは言わなくたって大丈夫だな」

 

「クロウ」

 

 玄関から姿を現したディアが、歩いてくると包みをオレに差し出す。

 

「荷物の受け渡しまで時間があるんでしょ?

 これ、2人分の夕飯よ」

 

「そうか───これでディアのメシも食えなくなるな。

 残念だよ」

 

 ディアが淋しげに微笑む。話すべきことは、すでに昨日話しつくしていた。

 

「ディア、オレにできるのはこんな事だけだ。

 取っておけ」

 

 オレはポケットから取り出した札をディアに渡す。それは少佐から受け取り、コートを買う以外ほとんど使うことのなかった金だった。

 

「そんな───」

 

「オレにはもう必要ない。

 元気でな」

 

 彼らと話すべきことを話し終え、オレはトラックの助手席に乗り込んだ。ハンドルを握るサハドが何も言わずにエンジンをかけ、トラックが動き出す。オレはこちらを見上げるサミ、ナオ、そしてディアに手を上げた。

ゆっくりとトラックはスピードを上げる。

 

「クロウにいちゃん!」

 

 サミが叫び、ナオとともにトラックを追って走り出すのが分かった。オレは窓から顔を出し、後方に首をひねる。

砂煙の中を走るサミとナオ。トラックとの距離はみるみる開いていく。その後方で、ディアは祈るように両手を胸の前で組み、彫像のように動かない。その姿がオレの胸をつく───

砂煙の中に置き去りにして、3人の姿がオレの視界から消える。オレは助手席に座りなおし、前を向く。

 

 サハドは、何も言わなかった───

 

 

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