敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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6-3 戦闘 Ⅰ

 指定時刻まで、まだ少し間がある。風が強くなってきたようだが、流れる雲の間に昇った月が輝いている。オレは見るともなく、その月を見上げていた。それが分かったのだろう、不意にサハドが声をかけてきた。

 

「あそこにいたのか?」

 

「ああ、ひと月ほど前まで、あの月の裏側にあるグラナダにいた。

 生まれたのは月の向こう側のコロニーだ」

 

 オレは顔を月に向けたままこたえる。

 

「ワシには想像もつかねぇ」

 

「だが、今は重力の底で

 あそこに帰るために苦労している」

 

 肩をすくめるオレに、サハドが笑う。

 

「たしかにな───

 ままならねぇもんだ」

 

 ひとしきり笑いあった後、オレは言った。

 

「いろいろ世話になったな」

 

「取引だ、是非もねぇ───

 だが、知り合った宇宙人があんたで良かった。

 あの子たちにとってもな」

 

 サハドが口にした意外な言葉にオレは聞き返す。

 

「そうなのか?」

 

「そうさ・・・」

 

 サハドの声は穏やかだった。

 

 監視装置が警告音とともに画面の一部を赤く点滅させた。覗き込んだモニターの暗視映像に、近づいてくる3台の車両が確認できた。

 

「来たようだな」そう言って、サハドは立ち上がった。

 

「おまえはそこにいてクルマを誘導しろ」

 

 サハドはトラックに乗り、エンジンをかけると谷の入り口に向かった。

 

 

「待っていたぞ」

 

 やってきたトラックは3台とも軍用ではなかった。サハドはその運転席に呼びかける。

 

「そのまま進んでくれ。

 荷はおたくの少尉殿がライトを振っているあそこだ」

 

 サハドが指差した先で、クロウの持つライトが暗闇に輪を描いていた。運転手はその光を確認した後、後方の荷台に呼びかけた。

 

「2人ここで見張りに立て」

 

 その声に応え、小銃を持った男が2人荷台から降りる。それを見て、運転手は谷の奥へトラックを移動させた。荷台にはそれなりの人数が乗っているようだった。

 

 

 ライトを振るオレの前でトラックが止まり、荷台から次々に男たちが降りてくる。

中の一人が呼びかけてきた。

 

「敬礼はヌキでいい、よくやった少尉」

 

 言いながら、こちらの肩を叩く。トラックのヘッドライトでは顔を確認しづらいが、酒場でサハドと交渉していた男のようだった。名前も階級も知らないが、オレより上なのだろう。

 

「荷はそこの洞窟だ」

 

 オレは親指で背後の洞窟を示す。

 

「よし、運び出せ!」

 

 指示に従い、男たちが洞窟の中に入っていく。

 

「荷はきっちりそろっていたと報告があった。

 グッジョブだ」

 

「これぐらいどうってことはない」

 

 オレは肩をすくめた。荷がそろっていることについては、夕方来た男の報告を受けていたのだろう。

彼が少佐が来ると言っていたことを思い出し、聞いてみる。

 

「ところで少佐が来ると聞いたが───」

 

「ああ、少し後にもう1台に来る」

 

 オレとサミ、ナオが運び込んだ物資は、あっという間にトラックに運び込まれていく。

1台目のトラックが移動し、2台目のトラックに積み込みがはじまる。まだ積載スペースは充分残っているが、積載しすぎてスピードが落ちるのを警戒しているのだろう。

そのとき監視装置のアラームが鳴った。オレはモニターを覗いてから指揮をしている男を手招く。

 

「小型車両のようだが少佐の車か?」

 

 男はモニターの暗視映像を確認する。

 

「・・・ん? そのようだな」

 

 そう言って男は監視装置をまじまじと眺める。

 

「こんなものまで使っていたのか?」

 

「用心は必要だろう。

 宇宙に帰る前にこれ以上の面倒事はごめんだ」

 

「たしかにな」

 

 男は、渋い顔をするオレの肩を笑いながら叩いた。

 

 

 

 谷に入ってきたシュナイダー少佐の車両は、荷台にリング式の機関銃座が取り付けられている。軍用戦闘車に見えるが、オレの記憶するジオン装備車両の中には無かったように思う。地球で調達した戦闘車両なのかもしれない。

そのドアが開き、姿を現したシュナイダー少佐がオレに気づいた。

 

「面倒をかけたな少尉」

 

「いえ、軍の仕事に比べれば天国でした」

 

 肩をすくめるオレに少佐が笑う。

 

「帰りたくなくなったかね?」

 

「もしそうならここにいませんよ」

 

「けっこう───

 この取引が終わり次第、貴様はアデンに移動させる」

 

「その言葉を聞いてホッとしました」

 

 言いながら、オレは自分の言った言葉に納得しきれていないものを感じていた。

 

 耳に届く電子音にオレは振り向く。すでに聞きなれた監視装置の警告音だ。目を向けたハードケースのモニターで赤い光で点滅している。

 

「まだ後続がくるのですか?」

 

「───?

 いや、我々が最後だ」

 

 少佐の怪訝そうな言葉を聞いたオレは、監視装置に走り寄り、片ひざをついてモニターを覗きこむ。

モニターの暗視映像にはヘッドライトを絞り込んだ車両が5台以上映っていた。見た瞬間、オレはその車両の正体に気づいていた。

 

「連邦軍だ!大型車が5台以上───」

 

 少佐が物も言わずにオレの横に走り寄ると、かがんでモニターを食い入るように見つめた。

そのときオレはその車両の後方にいるモノに気づき愕然とした。

 

「後方にモビルスーツがいる!!」

 

「何だと!?」

 

 異変に気づいた者たちが集まりはじめていた。

 

「連邦が来る!

 谷が封鎖される前に脱出するぞ!!」

 

 立ち上がった少佐が、周囲の者に指示をとばす。

 

「連中が谷に到達する前に血路を開く」

 

 谷に追い詰められたら全滅、当然の判断だ。だが───

 

「待ってくれ、少佐!」

 

 オレは少佐の肩を掴んで言った。

 

「MSがいるなら猶予はない───

 荷を積んだ分、足が遅い」

 

 険しい表情で振り向く少佐の言葉を遮り、オレは怒鳴った。

 

「ザクがある!

 オレが突破口をつくる!!」

 

「ザク?」

 

 少佐は一瞬虚を突かれたようだが、酒場で『取引現場の近くにザクがある』とオレが言ったことを思い出したのだろう───すぐに問い返してきた。

 

「どこにある!動くのか?」

 

「谷の奥に───

 すぐに出せる」

 

 谷の奥───暗闇の先を指差し、オレは短く答える。

 

「長時間の戦闘は無理だが

 向こうはこちらにザクがいることなど知らない。

 MSが後方にいるのはそのせいだ」

 

「谷を封鎖して、こちらを投降させるつもりか・・・」

 

 いつの間にか周囲に人垣ができ、オレと少佐の会話に聞き入っている。

 

「連中が布陣する前にオレがザクで突入し、ひっかきまわす。

 車を数台破壊すれば、後退してMSを前面に出すはずだ。

 連中が混乱している間に突破してくれ」

 

「しかし、それでは───」

 

 貴様を置き去りにする結果となる───と言いたかったのだろうか。少佐がかすかにためらう。

だが、それは本当に一瞬のことだった。少佐はオレの目を見て言葉を飲み込むと、周囲の男達に叫ぶ。

 

「ギーケイ少尉がザクで出る!

 我々はそれに続き敵を突破する───

 用意しろ!!」

 

 可能な限りの命を救わねばならない。軍人として当然の決断だった。

 

「ザクをここまで移動させる。

 そちらの判断で出るから、合図してくれ」

 

 オレは言い捨てて谷の奥へと走り出す。

 

 

 サハドは巻き起こった事態を前に、とっさに動くことができなかった。一連の会話の後、クロウが谷の奥に走り去るのを、茫然と見送っていた。そのサハドに声がかかる。

 

「サハドさんよ」

 

 背後からの声に驚き、振り向くサハド。男はナバンの銃口をサハドの脇腹に突きつけて言った。

 

「スマンが我々に従ってくれ」

 

「む・・・・・」

 

 サハドのうめきは、それ以上言葉にならなかった。

 

「あんたのトラックを使わせてもらう。

 足が欲しい」

 

 サブマシンガンを手にしたもう一人の男が、サハドの逃げ道をふさぐように正面から近づいてきた。

 

「しばらく同行してもらうぞ。

 なに、安全な場所まで脱出したら開放してやるから心配するな」

 

「おめぇら・・・・」

 

 サハドがうめくようにつぶやいた。

 

 




 次回「戦闘 Ⅱ」
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