敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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1-2 遭遇Ⅱ

 サハドがトラックのキーをひねる。聞きなれないエンジン音と振動、そして匂いに気づき、オレは運転席のサハドを見つめる。そのサハドはこわばった顔で、助手席のオレを横目で見た。二人の兄弟はトラックの荷台にうずくまって肩を寄せ合っている。

 

「あんた、名前は?

 オレはクロウ・ギーケイだ」

 

「サハド────サハド・アディフだ」

 

 階級章を見れば少尉だと分かるだろうが、オレはあえて階級を伏せて名乗った。そのオレに対し、仏頂面で答えたサハドは、ハンドルを握り、トラックをスタートさせた。

 

「谷を出たら東に向かってくれ」

 

「東?まだ砂漠を奥に向かうのか」

 

「ああ、そういうことだ」

 

 谷を出て、サハドがトラックのスピードを上げる。オレは流れる景色をひとしきり眺めてから、気づいていたことをサハドに尋ねた。

 

「なあ、このトラックは内燃エンジンなのか?」

 

「・・・・そうだ」

 

「ほう、初めて乗ったぜ。

 月やコロニーには無いからな。コンウェル基地でも見なかった。

 地球じゃ普通なのか?」

 

 機械好きの血が、オレにそんな質問をさせた。

 

「ほかの地域のことは知らんが、このあたりでエレカを使うのは街中だけだ。

 砂漠でエレカを使うヤツはいない」

 

「なぜだ?」

 

「砂漠で車が壊れるのは、生き死ににかかわる。

 ガソリンだろうが、ディーゼルだろうが、内燃エンジンなら壊れた時に応急でも直せるからな。

 エレカは壊れた時に替えの部品がないと修理がきかん」

 

「なるほど・・・たしかにそうかもしれんな」

 

「いまだに内燃エンジンの車を使っている奴は多い。

 だが、修理できる者はどんどん少なくなる───

 おかげでワシも修理屋を続けていられるってわけだ」

 

 スペースコロニー内ならエレカが壊れたところで困ることはない。代わりのエレカや交通機関などいくらでもある、月の都市でも同様だ。

スペースコロニーや月都市では、気候は調整され、大きな温度変化は起こらないように設定されている。しかし、地球の砂漠という厳しい環境下では、電子部品の急速な劣化は避けようがないだろう。たった一つの電子部品が壊れただけでも、壊れた個所を特定するには一苦労する。たいていの電子回路はユニット化されているだろうが、その予備ユニットをいちいち用意しておくことなど不可能だ。

機械部品はそうではない、多少の無理はきくし、応急対策もできる。そしていきなり不具合を起こす電子部品と違い、機械部品には不具合が起きる前兆があり、トラブルを回避することも、対策することも不可能ではない。

 

「戦闘で壊れたコンテナトレーラーは、この先50キロほどだ」

 

「そんなに奥だったのか。

 しかし、あんたなんでそれを知ってる?」

 

 驚いたサハドがオレを見る。オレは口を歪めて笑っただけで、それに答えなかった。

 

 

 砂漠を走り続けて1時間ほど───件のトレーラーが小さく見えはじめ、サハドが目を細めて言った。

 

「あれか───

 しかし、あれは?」

 

 見えてきた車両は、たしかにジオン軍の牽引トレーラーだが、牽引されているコンテナはない。それどころか、残った牽引トレーラー部分はすでに残骸であり、屋根すらない。オレにはそれがよくわかっていた。

 

「ああ、あれは残骸だ。

 左側の山に向かえ、まわりこんだ山あいだ」

 

 オレは進行方向の左手にある山に向かうよう指示した。何か問いたげな顔をしたサハドだったが、黙ってオレの指示した方向にトラックを向ける。

山に近づくにつれ、斜面の影に隠れていた丸い岩が見えてくる───

 

「その岩の手前で止めろ」

 

「こんなところに何があるんだ?」

 

 それには答えずオレは質問した。

 

「スコップはあるか?」

 

「荷台だ」

 

 サハドは渋面で背後を親指で示すと、オレの指示した岩の手前でトラックを止めた。

オレはトラックを降りると、荷台からこちらを恐る恐るのぞきこんでいる二人に声をかけた。

 

「スコップを取ってくれ」

 

 洞窟でオレが殴りつけた少年がビクリと震え、荷台にベルトで縛り付けてあるスコップを外して両手でオレに手渡す。

 

「来いよ」

 

 オレはサハドに声をかけ、スコップを肩に担いで斜面に向かって歩いていく。オレの後にサハドが、そして二人の少年も顔を見合わせた後、好奇心に駆られたのか数メートル間を開けてついてくる。

 

『たしかにここだ・・・・』

 

 オレは岩の横で足を止めた。いびつな卵型の岩は高さ1メートルよりすこし高いくらい、しばしその岩を見つめるとサハドを振り返る。

 

「この上だ」

 

 そしてすこし離れた場所の斜面に上ると、高さ5メートルあたりで平らになった地面をスコップで掘り始めた。

あっけに取られてオレを見つめるサハド、その背後で両脇から顔を出し見つめる少年二人。彼らの前でオレは黙々と地面を掘り続ける。あっという間にオレの顔から汗が噴き出し首筋をつたう。

掘りだしてから20分あまり、スコップの先がガチと何かに当たり、オレはそこを掘り広げる。それは最初地面と区別がつかなかった。だが、穴が大きくなると現れた物がサンドイエローに塗装された金属であることがサハドの目にも明らかになった。

 

「こいつは・・・・」

 

 しゃがんで穴の中をのぞき込むサハド。

 

「分かるか?

 この下にあのトレーラーの運んでいたコンテナが隠してある。

 掘り出して中身を見せてもいいが時間がかかるぞ」

 

「う~む・・・・・・」

 

 サハドが周囲を見回してうめく。自分の立っている場所がコンテナを隠した小山であることに気づいたのだ。その背中に向ってオレは言う。

 

「食料と水、あと必要な物は運び出したが、他はほとんど手をつけていない。

 こいつをあんたにやる」

 

 驚きに片眉を上げるサハド。そして、探るように言う。

 

「何が望みだ?」

 

「アデンまで行きたい」

 

「無茶だ!」

 

 サハドが血相を変えた。

 

「砂漠を越えて3000キロある。

 今、アラビア半島の情勢がどうなってるか知らんが。

 連邦の目をかいくぐるのは不可能だ」

 

「やはり、そうか───」

 

「車を手に入れるのは簡単だが

 検問もある。途中で燃料も手に入れなきゃならん。

 あんたにゃ無理だ」

 

「────それでは」

 

 オレは言葉を区切り、代案を提示する。

 

「ジオン軍と連絡をつけられるか?

 オレは軍と合流することができればそれでいい・・・・・・」

 

「むぅ、それならば・・・・・」

 

 考え込むサハド。

 

「あと、ジオンと接触できるまでかくまってくれ。

 なにしろ宇宙から降りて日が浅い上に、

 このあたりがどこなのかもよく分かっていないんだ」

 

 オレは肩をすくめた。

 

「わかった、ジオンと連絡をつけてみよう」

 

 目を細めたサハドがオレを見上げる。

 

「連邦の反攻作戦以後、このあたりからジオンはいなくなっちまったが

 まだなんとかできるだろう。

 ────ただ、時間がかかるかもしれんぞ」

 

「商談成立というわけだな」

 

 オレはニヤリと笑う。

ふと気づくとオレのそばにいるのはサハドだけで、あの兄弟らしき二人の姿はなくなっていた。周囲を見回すと、二人は斜面の下で丸い岩の上に座っている────先ほどオレが足を止めた岩だ。

 

「埋め戻しておいてくれ」

 

 オレはサハドにそう言い捨て、スコップを押し付けると、斜面を降りて二人の前に歩いていった。

近づいてくるオレを見て二人の顔におびえの色が走る。その二人にオレは言った。

 

「スマンがそこから降りてもらえるか?」

 

「「───?」」

 

 オレが何を言っているのか分からなかったようだ。二人は顔を見合わせた後、けげんな顔でこちらを見る。オレは続けて言った。

 

「その岩の下に、トラックに乗っていた兵を埋葬してあるんだ」

 

 丸い岩はコンテナを隠した場所の目印であると同時に、トレーラーで死んでいた兵二人の遺体を埋葬した墓標でもあった。

驚いた二人は自分達の座っていた岩を見ると、あわてて岩から降りた。

 

「ご、ごめんなさい・・・・」

 

 年上の少年が頭を下げる。

 

「いいんだ────

 来い、傷の手当をしてやる」

 

 オレはそう言ってトラックへと歩き出す。

 

「「え?」」

 

 オレの背後で二人は顔を見合わせた。

 

 

 日陰になった場所で、腰掛けた少年の頭にボトルの水をふりかけ傷口を洗う。

 

「痛い、痛い!」

 

「動くな」

 

 オレは暴れる少年の頭を掴んで動かないようにするとボトルを置く。脱脂綿で水を吸い取り、傷薬を塗ったガーゼをこめかみの傷口に当て、テープで固定した。

 

「ほら、もういいぞ」

 

 オレは少年の頭を離すと、洞穴から持ち出したバッグの中に救急キットを戻す。

 

「大丈夫?兄ちゃん」

 

 年下の少年が兄を気づかい、見上げる。

 

「おまえら、名前は?」

 

「────サミ」

 

 オレの問いに兄の方がぶすくれた顔で答える。

 

「ボク、ナオ」

 

 弟の方は恥ずかしげにオレを見上げる。

 

「サミとナオか・・・・・さっきは悪かったな。」

 

 オレは二人に謝罪する。とっさのこととはいえ、子供に銃を向けたうえ殴りつけてしまったのだ。

 

「ナオが悪いんだ。

 あんたの食い物を盗むようなマネをして・・・・・」

 

「う゛・・・・・」

 

 サミが横目でナオをにらみ、その言葉にナオがしょげ返る。二人の会話をほほえましく思いながら、オレはナオに質問した。

 

「腹が減ってたのか?」

 

 オレの問いにナオが黙ってコクリとうなずく。

 

「そうか、ひもじいのはいやだな・・・・・・」

 

 そう言って、うなずいたナオの頭にポンと手をのせる。

 

「オレも仲間とはぐれた後、

 あのコンテナトラックを見つけるまで腹が減ってしかたなかったよ」

 

 意外な言葉だったのだろうか、サミとナオが驚いてオレを見上げる。それとも、オレの言葉に実感がこもりすぎていたせいだろうか?

あまり思い出したくない記憶がよみがえった────

 




次回「彷徨」
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