敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
狭い階段を下りた先にある地下室のドアを開けると同時に、マスードは呼びかけた。
「ロス! いるか!?」
薄暗い部屋の中はコンピューターのディスプレイとキーボードが何台も所狭しと並び、周囲の棚には開戦後ミノフスキー粒子のせいで役に立たなくなった無線機やケーブル、得体の知れないユニットが押し込められ、ほこりをかぶっていた。
「あんたか────
また何か調べごとか?」
ディスプレイの背後から顔を上げたのは、メタルフレームのメガネをかけた40代と思われる恰幅のいい男だった。
マスードはその男に近づき、顔を寄せると小声で言う。
「マックール駐屯基地の内部情報が欲しい」
「なんだ、物資の横流しでもするつもりか」
「昨日の夜、ボリスの北にある砂漠で連邦とジオンの戦闘があった。
その戦闘記録と、死亡者がいるならその検死記録を見たい。」
「ああ!? 何でまたそんなものを・・・・・」
「いいから早くやれ!」
「まったく────
駐屯基地とはいえ連邦軍のサーバーに侵入するんだぞ・・・・・」
ロスと呼ばれた男はブツブツとぼやきながら、ディスプレイに向かってキーボードを叩き始める。それを背後で見つめるマスード。
「これだけ経由させておけば、まあ大丈夫だろう」
つぶやいてなお操作を続けるロス。
しばらくしてディスプレイをにらんだまま言った。
「よし、入り込んだ。
そっちの端末で戦闘記録を調べろ。
こっちは検死記録を探す」
こういった操作には慣れているようだ。その言葉に応じてマスードはロスの背後に腰掛け、背中合わせで端末の操作をはじめる。
戦闘記録はすぐに見つかった。日付を確認し、該当するファイルを開く────
「こいつか・・・・・・・」
ジオンの物資調達行動の発覚にはじまり、それを阻止するための部隊編成、強襲に至るまでの経緯のあと、戦闘状況が記録されていた。
『────イル・ファン・シルバ軍曹のGMはザクとの戦闘により大破、シルバ軍曹は死亡するもザクに対し大きなダメージを与える。
その後、ザクはランス・ロール伍長によりロケットランチャーで撃破される。ザク・パイロットは死亡。
ロール伍長はジオンの銃撃により死亡────』
『やはりクロウは死んでいたか・・・・』
マスードは諦念とともに残る記録に目を走らせる。
『ほかにジオン側の死亡者や、捕虜に関する記載はない───か』
「検死記録があったぞ」
背後でロスが言った。
「誰を探してるんだ?
連邦の死傷者が多いようだが」
「ザクのパイロットだ」
「ジオン側────
こいつのことか」
マスードは振り向き、ロスを押しのけてモニターパネルに表示されたデータを覗き込む。
『名前:不明
階級:不明
性別:男
人種:アラブ系(推定)
髪 :黒 (推定)
目 :茶 (推定)
年齢:40代後半から50代と推定
身長:約174cm
体重:約90kg 』
身体の特徴に続き、短い文章が加えられている。
『ザクパイロット
軍服未着用、認識票なし
背部に銃弾の痕跡あり
身体の広範囲に成型炸薬弾による破損』
続いて、数点の画像データが添付されていた。
焼け焦げた遺体が納まるザクのコックピット、ただれた遺体の顔・・・・陰惨な画像が続く。
『クロウじゃない!』
表示された画像データを見て、マスードは愕然とする。
データに記載されている身体の特徴と、焼け爛れた死体の画像を見つめて確信する。
『こいつはサハドだ───』
だが・・・・・・サハドにMSの操縦ができるはずがない。
「なるほど、そういうことか・・・・・・・」
すべてを悟った男の笑みを、ロスが訝しげな顔で見つめていた。
次回「地図」