敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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7-2 ロス

 狭い階段を下りた先にある地下室のドアを開けると同時に、マスードは呼びかけた。

 

「ロス! いるか!?」

 

 薄暗い部屋の中はコンピューターのディスプレイとキーボードが何台も所狭しと並び、周囲の棚には開戦後ミノフスキー粒子のせいで役に立たなくなった無線機やケーブル、得体の知れないユニットが押し込められ、ほこりをかぶっていた。

 

「あんたか────

 また何か調べごとか?」

 

 ディスプレイの背後から顔を上げたのは、メタルフレームのメガネをかけた40代と思われる恰幅のいい男だった。

マスードはその男に近づき、顔を寄せると小声で言う。

 

「マックール駐屯基地の内部情報が欲しい」

 

「なんだ、物資の横流しでもするつもりか」

 

「昨日の夜、ボリスの北にある砂漠で連邦とジオンの戦闘があった。

 その戦闘記録と、死亡者がいるならその検死記録を見たい。」

 

「ああ!? 何でまたそんなものを・・・・・」

 

「いいから早くやれ!」

 

「まったく────

 駐屯基地とはいえ連邦軍のサーバーに侵入するんだぞ・・・・・」

 

 ロスと呼ばれた男はブツブツとぼやきながら、ディスプレイに向かってキーボードを叩き始める。それを背後で見つめるマスード。

 

「これだけ経由させておけば、まあ大丈夫だろう」

 

 つぶやいてなお操作を続けるロス。

しばらくしてディスプレイをにらんだまま言った。

 

「よし、入り込んだ。

 そっちの端末で戦闘記録を調べろ。

 こっちは検死記録を探す」

 

 こういった操作には慣れているようだ。その言葉に応じてマスードはロスの背後に腰掛け、背中合わせで端末の操作をはじめる。 

戦闘記録はすぐに見つかった。日付を確認し、該当するファイルを開く────

 

「こいつか・・・・・・・」

 

 ジオンの物資調達行動の発覚にはじまり、それを阻止するための部隊編成、強襲に至るまでの経緯のあと、戦闘状況が記録されていた。

 

『────イル・ファン・シルバ軍曹のGMはザクとの戦闘により大破、シルバ軍曹は死亡するもザクに対し大きなダメージを与える。

 その後、ザクはランス・ロール伍長によりロケットランチャーで撃破される。ザク・パイロットは死亡。

 ロール伍長はジオンの銃撃により死亡────』

 

『やはりクロウは死んでいたか・・・・』

 

 マスードは諦念とともに残る記録に目を走らせる。

 

『ほかにジオン側の死亡者や、捕虜に関する記載はない───か』

 

「検死記録があったぞ」

 

 背後でロスが言った。

 

「誰を探してるんだ?

 連邦の死傷者が多いようだが」

 

「ザクのパイロットだ」

 

「ジオン側────

 こいつのことか」

 

 マスードは振り向き、ロスを押しのけてモニターパネルに表示されたデータを覗き込む。

 

『名前:不明

 階級:不明

 性別:男

 人種:アラブ系(推定)

 髪 :黒 (推定)

 目 :茶 (推定)

 年齢:40代後半から50代と推定

 身長:約174cm

 体重:約90kg 』

 

 身体の特徴に続き、短い文章が加えられている。

 

『ザクパイロット

 軍服未着用、認識票なし

 背部に銃弾の痕跡あり

 身体の広範囲に成型炸薬弾による破損』

 

 続いて、数点の画像データが添付されていた。

焼け焦げた遺体が納まるザクのコックピット、ただれた遺体の顔・・・・陰惨な画像が続く。

 

『クロウじゃない!』

 

 表示された画像データを見て、マスードは愕然とする。

データに記載されている身体の特徴と、焼け爛れた死体の画像を見つめて確信する。

 

『こいつはサハドだ───』

 

 だが・・・・・・サハドにMSの操縦ができるはずがない。

 

「なるほど、そういうことか・・・・・・・」

 

 すべてを悟った男の笑みを、ロスが訝しげな顔で見つめていた。

 

 




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