敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
風の音がする────
クルツと別れたときも、サミ、ナオ、ディアと別れたときも風が吹いていた。サハドが死んだときも────そして、オレは荒野でひとりになる。間違った選択をしたと悔やむつもりはなかったが、それが運命だと受け入れなければならないことが悲しかった。
風が強くなる───砂を巻き上げて視界を遮り、荒野を歩くオレの顔に吹き付ける。オレはただひたすらに歩き続けた。
どれだけ時間が過ぎたのだろう?オレはその砂嵐の中に、ぼんやりとした人影が歩いていくのに気づく。
オレは人影に声をかけようとした、だが声がうまくでない───
よろめきながら重い足を動かし、オレは人影に近づき───そして、気づく。
「クルツ!!」
人影は、クルツだった。だが、オレの声が聞こえないのか、彼はこちらを振り向きもしない。
オレはクルツを追うが、砂に足をとられて、思うように動けない。クルツはオレに気づかず、砂嵐の中を去っていく───
クルツだけではなかった、その後ろに続く人影が通り過ぎていく。皆、笑いあい、何事か話しながら。
ウェイド軍曹とオード軍曹が───、リンズ中尉と整備中隊の者たち───、そして、デニス司令とカルドゥ軍曹が───
「待ってくれ!」
オレの声は届かない。彼らはオレに気づかないまま、砂嵐の中にかすみ、消えていく───
そして、新たに姿を現す人影───オデッサで別れたディーンだった。
「ディーン、オレだ!」
聞こえないはずはない。
「待ってくれ。
おまえも少尉に昇進したのか!?」
だが、我が友ディーン・ベロフも振り向くことはなかった。そのディーンの横にいるのはヴィットだ。
「ディーン! ヴィット!!」
ヴィットを追ってアランが走っていく。その後ろをジオニックのドクター・ポッシュとティル・フィルが、笑い、何事か話しながら歩いていく───
「アラン! ドクター! ティル!」
オレは叫ぶ。だが、声は届かない。
「レッティ隊長───」
グラナダ防衛部隊のリオ・レッティ中尉とクラウス・ラダ曹長、そしてジェイ・ハンター軍曹が────必死に足を動かすオレの前を通り過ぎていく。
「ラダ曹長、ハンター軍曹───ひどいじゃないか!
確かにオレ達はあまりうまくいっていなかったが───」
みんな背を向けて行ってしまう、オレを置き去りにして────
オレは悟る────
仕方がない────
オレは彼らと一緒に行く資格のない人間なのだ────
オレは兵士ではなく人殺しだ────
だから置き去りにされるのだ───
いつもひとりになってしまうのだ────
風が吹き続けている。オレは膝をつき、荒野にくずおれ、仰向きになってあえぐ。
疲れた───
身体に力が入らない────
もう、このまま眠ってしまいたい────
だが風の音はそれを許さない。
『おまえは
『
風の音は断罪の声となり、吹きすぎていく。
「うるさいよ────
頼むからこのまま眠らせてくれないか・・・
もう、動きたくないんだ・・・」
それでもオレに対する糾弾の声がやむことはなかった。
『おまえは罪人だ────』
『罪人にやすらかな眠りは許されない────』
『おまえは罪人だ────』
『おまえは罪人だ────』
そして、オレはふと気づく。
仰向けになったオレの顔に、ポツリ、またポツリと、温かなものが降りかかることに────
「雨か・・・
いいな───もっと降ってくれ。
地球の雨はこんなに温かいものだったのか────」
その時、少しだけ薄れた風の中で、かすかにオレを呼ぶ声が聞こえた。
『クロウ───』
どこかで聞いたことがある声だ────
「誰だ?」
周りには誰も見えない。誰がオレを呼んでいるのだろう?
誰も振り向くことのない、ただの人殺しになってしまった自分を・・・・・・
声はオレを呼び続ける。
『クロウ───
クロウ───』
「眠らせてくれよ・・・」
オレは何度目かの言葉を繰返す。だがオレを呼ぶ声がやむことはない・・・・・・
『クロウ───
クロウ───
クロウ───』
「やめてくれ──
オレは・・・・・・」
言いかけたオレの言葉をさえぎり、雷鳴のように彼女の声が轟いた。
「クロウ! 起きなさい!!
死んだら許さないわよ────」
理不尽な言葉に、オレは重いまぶたを薄く開く────そこにディアがいた。
オレの両肩を掴み、顔をのぞきこんで、必死でオレに呼びかけている。暖かな雨だと思い込んでいたもの───大粒の涙がオレの顔に零れ落ちる。
オレは───乾き、ひび割れた唇を動かす。
「・・・どうしたディア?
別嬪さんが・・・台無しだぜ・・・・・・」
かすれた声だが意味は通じたようだった。
ディアの顔が喜びにあふれる────
「────そうだ、その方がいい。
その方がずっときれいだ・・・・・・」
重い腕をあげ、ディアの頬をつたう涙をぬぐおうとするがうまくできない。ディアが両手で俺の腕を掴み、その手のひらに、濡れた頬を押し付ける。幸せそうに────
「「クロウにーちゃん!」」
ディアの両脇からサミとナオが顔を出す。
「なんだ、おまえ達まで来たのか・・・・・・」
オレは何が起きているのか理解できていなかった。
「オイ、分かるか?
これを飲め、ゆっくりだぞ───」
マスードが俺の口に金属製のボトルを押し付ける。ぬるい水がオレの口に流れ込んできた───オレは咳き込みながらそれを飲み下す。
「よし、肩を貸せ───」
マスードが腕を掴みオレの身体を起こそうとする。よろけるオレの身体を、ディア、サジ、ナオが3人がかりで支えた。
オレが覚えているのはそこまでだった────
「クロウ!」
意識を失ったクロウにあわてるディアを、マスードがさえぎる。
「脱水症状で意識が混濁しているようだ。
車に運ぶぞ」
意識の無いクロウを背負い、マスードは車に向かって歩き始めた。
次回「コンテナハウス」