敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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7-4 風の果て

 風の音がする────

クルツと別れたときも、サミ、ナオ、ディアと別れたときも風が吹いていた。サハドが死んだときも────そして、オレは荒野でひとりになる。間違った選択をしたと悔やむつもりはなかったが、それが運命だと受け入れなければならないことが悲しかった。

風が強くなる───砂を巻き上げて視界を遮り、荒野を歩くオレの顔に吹き付ける。オレはただひたすらに歩き続けた。

 

 どれだけ時間が過ぎたのだろう?オレはその砂嵐の中に、ぼんやりとした人影が歩いていくのに気づく。

オレは人影に声をかけようとした、だが声がうまくでない───

よろめきながら重い足を動かし、オレは人影に近づき───そして、気づく。

 

「クルツ!!」

 

 人影は、クルツだった。だが、オレの声が聞こえないのか、彼はこちらを振り向きもしない。

オレはクルツを追うが、砂に足をとられて、思うように動けない。クルツはオレに気づかず、砂嵐の中を去っていく───

クルツだけではなかった、その後ろに続く人影が通り過ぎていく。皆、笑いあい、何事か話しながら。

ウェイド軍曹とオード軍曹が───、リンズ中尉と整備中隊の者たち───、そして、デニス司令とカルドゥ軍曹が───

 

「待ってくれ!」

 

 オレの声は届かない。彼らはオレに気づかないまま、砂嵐の中にかすみ、消えていく───

そして、新たに姿を現す人影───オデッサで別れたディーンだった。

 

「ディーン、オレだ!」

 

 聞こえないはずはない。

 

「待ってくれ。

 おまえも少尉に昇進したのか!?」

 

 だが、我が友ディーン・ベロフも振り向くことはなかった。そのディーンの横にいるのはヴィットだ。

 

「ディーン! ヴィット!!」

 

 ヴィットを追ってアランが走っていく。その後ろをジオニックのドクター・ポッシュとティル・フィルが、笑い、何事か話しながら歩いていく───

 

「アラン! ドクター! ティル!」

 

オレは叫ぶ。だが、声は届かない。

 

「レッティ隊長───」

 

 グラナダ防衛部隊のリオ・レッティ中尉とクラウス・ラダ曹長、そしてジェイ・ハンター軍曹が────必死に足を動かすオレの前を通り過ぎていく。

 

「ラダ曹長、ハンター軍曹───ひどいじゃないか!

 確かにオレ達はあまりうまくいっていなかったが───」

 

 みんな背を向けて行ってしまう、オレを置き去りにして────

 

 オレは悟る────

 

 仕方がない────

 

 オレは彼らと一緒に行く資格のない人間なのだ────

 

 オレは兵士ではなく人殺しだ────

 

 だから置き去りにされるのだ───

 

 いつもひとりになってしまうのだ────

 

 風が吹き続けている。オレは膝をつき、荒野にくずおれ、仰向きになってあえぐ。

 

 疲れた───

 

 身体に力が入らない────

 

 もう、このまま眠ってしまいたい────

 

 だが風の音はそれを許さない。

 

『おまえは罪人(つみびと)だ────』

 

罪人(つみびと)にやすらかな眠りは許されない────』

 

 風の音は断罪の声となり、吹きすぎていく。

 

「うるさいよ────

 頼むからこのまま眠らせてくれないか・・・

 もう、動きたくないんだ・・・」

 

 それでもオレに対する糾弾の声がやむことはなかった。

 

『おまえは罪人だ────』

 

『罪人にやすらかな眠りは許されない────』

 

『おまえは罪人だ────』

 

『おまえは罪人だ────』

 

 そして、オレはふと気づく。

仰向けになったオレの顔に、ポツリ、またポツリと、温かなものが降りかかることに────

 

「雨か・・・

 いいな───もっと降ってくれ。

 地球の雨はこんなに温かいものだったのか────」

 

 その時、少しだけ薄れた風の中で、かすかにオレを呼ぶ声が聞こえた。

 

『クロウ───』

 

 どこかで聞いたことがある声だ────

 

「誰だ?」

 

 周りには誰も見えない。誰がオレを呼んでいるのだろう?

誰も振り向くことのない、ただの人殺しになってしまった自分を・・・・・・

声はオレを呼び続ける。

 

『クロウ───

 クロウ───』

 

「眠らせてくれよ・・・」

 

 オレは何度目かの言葉を繰返す。だがオレを呼ぶ声がやむことはない・・・・・・

 

『クロウ───

 クロウ───

 クロウ───』

 

「やめてくれ──

 オレは・・・・・・」

 

 言いかけたオレの言葉をさえぎり、雷鳴のように彼女の声が轟いた。

 

「クロウ! 起きなさい!!

 死んだら許さないわよ────」

 

 理不尽な言葉に、オレは重いまぶたを薄く開く────そこにディアがいた。

オレの両肩を掴み、顔をのぞきこんで、必死でオレに呼びかけている。暖かな雨だと思い込んでいたもの───大粒の涙がオレの顔に零れ落ちる。

オレは───乾き、ひび割れた唇を動かす。

 

「・・・どうしたディア?

 別嬪さんが・・・台無しだぜ・・・・・・」

 

 かすれた声だが意味は通じたようだった。

ディアの顔が喜びにあふれる────

 

「────そうだ、その方がいい。

 その方がずっときれいだ・・・・・・」

 

 重い腕をあげ、ディアの頬をつたう涙をぬぐおうとするがうまくできない。ディアが両手で俺の腕を掴み、その手のひらに、濡れた頬を押し付ける。幸せそうに────

 

「「クロウにーちゃん!」」

 

 ディアの両脇からサミとナオが顔を出す。

 

「なんだ、おまえ達まで来たのか・・・・・・」

 

 オレは何が起きているのか理解できていなかった。

 

「オイ、分かるか?

 これを飲め、ゆっくりだぞ───」

 

 マスードが俺の口に金属製のボトルを押し付ける。ぬるい水がオレの口に流れ込んできた───オレは咳き込みながらそれを飲み下す。

 

「よし、肩を貸せ───」

 

 マスードが腕を掴みオレの身体を起こそうとする。よろけるオレの身体を、ディア、サジ、ナオが3人がかりで支えた。

オレが覚えているのはそこまでだった────

 

「クロウ!」

 

 意識を失ったクロウにあわてるディアを、マスードがさえぎる。

 

「脱水症状で意識が混濁しているようだ。

 車に運ぶぞ」

 

 意識の無いクロウを背負い、マスードは車に向かって歩き始めた。

 

 




 次回「コンテナハウス」
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