敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
額にあたるひんやりとした感触に、オレは目を覚ます。
ディアが絞ったタオルをオレの額にあててくれていた。───口を動かすが声が出ない。
目を覚ましたオレに気づいたディアが、オレの口にボトルのチューブをくわえさせ、水を飲ませてくれる───のどから身体全体にしみいるようだった。
安心したオレは、そのまま再び眠りに落ちる────
やすらいだ気持ちで────
夢も見ずに────
目を覚ますとせまい部屋だった。
『どこだ、ここは?』
寝たまま首だけを動かして周囲を見回す────誰もいない。
朝の光が窓から差し込んでいる。天井のライトが目に止まり、それが自分の取り付けたものであることに気づく。
「サミとナオのコンテナ・・・・?」
オレはやっとそこがサジとナオが暮らしていたコンテナハウスの中だと理解した。壁のハンガーにオレのコートが吊るされているのを見つけた後、自分がスウェットの上下を着せられていることに気づく。
身体はだるいが、起き上がることはできそうだ。
マットから上半身を起こして────ドアの開く音に顔を向ける。
「クロウ、目がさめた?」
ディアの声だった。水の入った洗面器をオレのかたわらに置くと、水差しからコップに注いだ水をオレに差し出す。
「脱水症状で熱もあって、ずっと眠ってたのよ」
コップの水を飲み干したオレは、呆けた頭を振りディアにたずねた。
「あれから何日たった」
「取引の日、サハドさんとクロウが出て行ってから6日よ」
その言葉で、オレは言わねばならないことを思い出す。
「────サハドだが」
オレが告げるよりも先に、顔を伏せたディアがポツリと言った。
「死んだんでしょう」
オレは続ける言葉を飲み込み、ディアを見つめた。
「マスードさんが言ってた───
『サハドは死んだと思う』って」
「───そうだ、サハドは死んだ」
オレはそれ以上の言葉を口にできなかった。オレの仲間がサハドを殺したなどと───、そして自分がその死体をザクに乗せて焼いたなどと───、どうして言うことができるだろう。
ディアの表情は影になって見えない。だが、震える細い肩がディアの悲しみを物語る。
頬をつたう涙がディアのとがったあごから零れ落ちた。
「いい人だったのよ────
人使いは荒かったけど・・・・・」
そうしてディアは涙に濡れた顔を上げ、オレを見つめる。
「私たちを・・・・ひとりの人間として・・・
扱ってくれた・・・・・」
とぎれとぎれの言葉に嗚咽が混じる────
「ああ、そうだな────」
オレが肩に手を置き引き寄せると、ディアは泣きじゃくりながらオレにしがみついてきた。
オレは少女の身体を受け止める。自分の腕の中で肩を震わせ嗚咽するディア────その原因は誰でもない、このオレにあるのだった。
オレは少女の小さな身体をやさしく抱きしめる。あの夜、抱きしめてやれなかったのを埋め合わせるように────
どれだけ時間がたっただろう、ようやくおちついたディアは泣きはらした目元を赤く染めて、恥ずかしそうにオレから身体を離す。
「連邦軍はここに来なかったか?」
「ええ、来なかったわ。
マスードさんはここに帰るのを反対したけど、私たちがどうしても帰りたいと言ったら
『しばらくはクロウを家に置くな』って────
それでこのコンテナに」
「そうか────」
連邦がやってこないということは、サハドの身元はバレていないのだろう。
「クロウにいちゃん、気がついたのか!?」
コンテナに入ってきたサミとナオが歓声を上げて、オレのところに駆け寄ってくる。
「ああ、おまえたちにも心配をかけたな」
オレがサミ、ナオと話し出したのを機に、ディアは立ち上がった。
「食べられるものを持ってくるわ───
おなかすいたでしょう?」