敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
トラックは、コンテナのあった場所から、砂漠を3時間ほど走り道路に出た。舗装はされていないが、ここがこのあたりの幹線道路らしい。
ときおりすれ違う車も現れる。オレは、どうやら人間のいる世界に戻ってきた気分だった。
さらに1時間弱走ってから、トラックは小さな集落に入っていく。だが、通り過ぎるその集落にひと気はなく、焼け、崩れている家も多い。
「ここに住んでいるのか?」
「もうすこし先だ」
ハンドルを握ったサハドは、オレに顔を向けもせずに言った。
「以前はこのあたりに住んでいたが、戦争で水道も電気も止まったからな。
今は誰も住んじゃいねえ。」
トラックは集落をすぎ、小高い丘を目指す。遠く、雑多に積上げられた機械の山が見えはじめた。積上げられているのはほとんどが自動車───おそらくは内燃エンジンの自動車なのだろう。そのほかに得体の知れない機械やら、軍用と思われる車輌も見え隠れする。それに目をやり、オレはサハドに問う。
「モビルスーツは無いのか?」
「あんなヤバイものを扱えるか!」
即答だった。
「あっという間にジオンと連邦の両方に目をつけられちまう。
だいたいあんなデカい物、運ぶことすらできん」
「まあ──そうだろうな」
考える間もなく、トラックが停まった。 シャッターが閉まっているが自動車の修理工場らしい建物の前だ。
トラックを降りたオレは周囲を見渡す。すこし離れた場所に石とレンガで作られた家があった。
「ここがオレたちのねぐらだ。」
「なあ、長いこと身体を洗ってないんで───
シャワーを浴びたいんだが」
トラックを降りたオレは周囲を見回してサハドに話しかけた。
「────あのコンテナがシャワールームになっている。
水は節約して使えよ。」
サハドが示したのは家に隣接して置かれた貨物コンテナだった───上に円筒形のタンクが乗っている。オレはバッグを肩に引っ掛け、コンテナに向かって歩き出す。
元々が何のコンテナだったのかは分からないが、後付けされたドアの前に短い階段が取り付けられている。
オレはその階段を登り、ドアを開いて中に入る───
天井まで2メートルと少し───光を取り入れる窓が二つあり、コンテナを改造したものではあったがせまい印象は感じさせない。 そこに一人の少女が立っているのに気づきオレは足を止める。
16、7歳だろうか?黒い髪、茶色の瞳、水のしずくをはじく健康的な褐色の肌は日焼けではない。なにしろ全身───まだ控えめな乳房も、ボリュームにかける尻も同じ色───
つまり彼女は全裸だった。 驚きで大きく見開かれた目に、長いまつげが震える───
オレは思いがけず向き合った少女に言った。
「あ、スマン・・・・誰か入ってるとは・・・・」
すべてを言い終えることはできなかった。
「ヒ・・・・」
少女の顔は恐怖にゆがみ、開かれた口から悲鳴が上がる。
「イヤァアアア!!」
少女は立っていられず、腰を落とし床を這うようにしてオレから逃げようとする。
「やめて! いや、いや・・・・」
「待て、オレは何もしない───」
説明しようとするオレの声は、少女の耳には届いていなかった。
少女の悲鳴を聞きつけたのだろう、ドアが乱暴に開かれサハドが飛び込んで来た。
オレの身体を突き飛ばすように押しのけると、落ちていたタオルを拾い、少女の身体を覆う。
「大丈夫だディア、こいつは客だ!」
少女に声をかけると、オレに振り向いて叫ぶ。
「外に出ていろ!」
今はそうした方がいいようだ、オレはサハドの言葉に従い外に出ると、後ろ手にドアを閉める。外にはサミとナオが立っていた。サミはオレをにらみつけ、ナオは泣きそうな顔でこちらを見上げている。
「お、おい。オレはなにもしてないぜ・・・・・」
何でこんな言い訳をしなきゃならんのだと思いつつ、二人に言う。
「分かってるよ・・・・」
顔をそらし不機嫌そうにサミが言った。
「────?」
オレは、その言葉の意味をはかりかねて押し黙る。
背後でドアの開く音がした。服を着た少女───まだ髪は濡れ、頭からタオルをかぶっている───がサハドに肩を抱かれ、姿をあらわした。少女は一瞬オレに目を向けると、おびえてすくむようにサハドの影に隠れようとした。
「驚かしちまったな、スマン」
引きつった笑顔で言ってみたが、うつむいた少女はオレを見ようとはしなかった。
「あとで着替えを持っていく。ここでは軍服は無しにしてもらうぞ。」
サハドがオレに怒鳴る。
「あ、ああ───」
「さっさとシャワーを浴びちまいな。」
そう言ってサハドは、ディアと呼ばれた少女を連れて行った。心配そうなサミとナオがそれに続く───
オレは彼らが家の中に入るまで、少女の後ろ姿を見つめていた。