敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
「これ着替えだよ」
オレがシャワーを浴びていると、ナオがやってきて服を置いていった。シャワーを終えたオレはナオの置いていった服を広げる。
「ほう、こいつは・・・・」
それはグレーの作業用ツナギだった。オレはニヤリと笑う。
ひさびさのシャワーで人間的な気分を取り戻したオレは、渡されたツナギを着て、擦り切れた絨毯の敷かれた床に座っていた。ここが食堂となっているらしく、サハドに「靴を脱げ」と言われた。オレの正面にはサハドが座り、ディアと呼ばれた少女が食事の支度をしている。
ディア・スターン17歳、それが彼女の名前だった。二人の兄弟は兄がサミ・ラティーフ13歳、弟がナオ・ラティーフ10歳。この3人がサハド・アディフとここで暮らしている。サハドは年齢50過ぎぐらいだろうか?オレには地球のこのあたりに住む人間の年齢は外見からは見当がつかなかった。
その兄弟は姿が見えず、ディアの方はさきほどからオレに目を向けようともしない。
「それにしてもディア、なんだってあんな時間にシャワーを使っていたんだ?」
気まずい空気を払うようにサハドが少女にたずねる。オレに対する気遣いなのかもしれない。
「あんなに早く帰ってくるとは思わなかったわ。
夜、シャワーを使うとサミが覗くのよ!」
ディアが、こちらを見ないまま不機嫌な声で答える。シャワールームで会った時とは印象がかなり違う、気の強そうな顔をした少女───照れているようにも見えた。これが彼女本来の姿なのだろうか───
「プ! なるほどねぇ・・・・・」
たしかにサミぐらいの歳ならば、ディアのようなおねえさんはあこがれかもしれない。
「気持ちは分かるよ」と軽口を叩くと、ディアが唇をへの字に曲げて振り向き、オレをにらみつけた───
座ったオレ達の前にディアが料理を並べていく───これがこの土地の習慣なのだろう。湯気を立てる料理は質素ではあったが、荒野をさまよい軍用
「それではいただこう」
サハドが言った。
「彼女は?」
「ディアはあとで食べる」
「サミとナオもか?」
「連中はメシ抜きだ。
仕事をサボり、勝手なことをしてあんたとトラブルを起こした」
その言葉に、またディアがきつい顔でオレをにらみつける───
やれやれ、オレの第一印象は最悪のようだ・・・・・オレは黙って食事を口に運びはじめた。
「ここよ、ベッドは用意しておいたわ」
オレは家の中のせまい一室をあてがわれた。案内したディアに訊ねる。
「サミとナオはどこにいるんだ?」
「二人はこの家じゃなくて、ジャンクヤードに置かれたコンテナを部屋として使っているわ。
どうして?」
不審気な声───
「何でもないちょっと気になっただけだ。
───ディア、今日は悪かったな。おやすみ」
今日のオレは子供相手に謝ってばかりだ。ディアはそれにこたえず、黙ってオレに背を向けドアをしめた。
「ハァ・・・・・
嫌われたもんだ───」
オレは一人になった部屋でため息をつくと、ベッドに腰をおろす。ベッドは簡単なパイプフレームにマットを敷いただけのものだ。オレは、自分の持ってきたバッグを床に置き、中を探り始めた・・・・・
夜が更けてから、オレは物音を立てないように家から出ると、ジャンクヤードを歩きはじめた──
山と詰まれたジャンクの中をすこし歩くと、小さな明かりが見えた。闇に目を凝らすとたしかにコンテナに取り付けられた窓のようだ。
『あれがサミとナオの部屋か?』
オレは足元に注意しながらコンテナのドアに向かって歩を進める。近づいたコンテナの窓から漏れる光は小さい、もう寝ているのだろうか?
オレはドアを軽くノックし、小さく声をかけた。
「サミ、ナオ───いるか?」
応答がない、少し間をおいてオレは言った。
「入るぞ───」
ドアを開き中に入ると、驚きに目を開き、身体をフリーズさせた3人の視線がオレを出迎えた。
そう、3人────サミ、ナオ、そしてディアだった。
小さなランプが天井につるされている。3人は向き合って床に座り、中央には料理を盛った皿がいくつか置かれている。
「・・・・ング・・・」
サミとナオは口の中に食べ物をほおばったまま口をきくこともできない。
「───な、なんの用!?」
ディアが腰を上げ、問い詰めるように口を開くが、言葉に勢いがない。
オレは状況を理解した。メシ抜きのサミとナオのために、ディアがこっそり食事を運んできてやっていたようだ───
「食事中におじゃましたかな?」
オレの言葉に、ディアは露骨に『まずい』という顔をした。
「───あ、あの・・
これは・・・その・・・・」
両手をおろおろと動かしうろたえるディア───その姿は歳相応のかわいらしい女の子だった。
オレはニヤリと笑うと、ちょっと意地悪な質問を投げかけた。
「サハドが持って行けと言ったのか?」
「う゛───」
ディアが言葉につまる、うまい言い訳を思いつかなかったのだろう。彼女はやにわに立ち上がり、オレに頭を下げた───
「お、お願いっ!サハドさんには黙っていて!」
切羽詰った声だった。
「ディアねーちゃんは俺たちに自分の分を分けてくれただけなんだ」
「・・・うぁ・・」
サミがディアをかばい、ナオが泣きそうな顔でオレを見ている。
「プッ!あははっ───」
オレはその様子に噴き出した───
「───心配するな、言いつけやしない」
こらえようとするが、3人のとまどった顔が愉快で笑いが止まらない。クックックッとオレは笑い続ける───
「無駄になっちまったな───」
オレは脇に抱えた紙包みを持ち上げて見つめる。
「まあいい───
ほら、腹が減ったときに食え。」
オレはその包みをナオの前に差し出す。ナオが小さな両手でそれを受取り、ガサガサと包みを開け顔を輝かせた。
「にいちゃん───レーションだよ」
紙包みの中から、
「おお!」横からのぞきこんで声を上げるサミ。
「──え?」
驚いたディアが包みとオレを交互に見つめる。
「オレのせいでメシ抜きじゃ、寝覚めが悪いんで持ってきたんだが───」
床に置かれた食事に顔を向ける。
「よけいなことをしたもんだ。
オレはディアに首を向ける。
「あんたの料理、うまかったぜ」
「───あ、あの・・・私・・・・・」
喜ぶサミとナオの横で、ディアは何を言っていいのかわからないという表情をしている。
「にーちゃん、ありがとう!」
「ありがとー!」
サミが満面に笑みを浮かべ礼を口にすると、ナオが間髪を置かずそれに続く。
「まだ、痛むか?」
オレは頭に絆創膏を貼り付けたサミの顔をのぞきこむ。
「これぐらい、だいじょうぶさぁ───」
笑いながらおおいばりで胸をそらすサジ。
「頼もしいぜ───」
そう言って、オレは笑いながら握りこぶしでサジの胸を軽く叩いた。
ひとしきり笑いあうオレたちを、ディアはホッとしたように見つめていた。
「じゃあな、明日も作業なんだろう? さっさと寝ろよ」
「「うん!」」
サミとナオが口をそろえる。
背を向けたオレにディアの声がかかる───
「あっ、あの───ギーケイさんっ!」
オレは足を止め、振り返る。
「クロウでいい───」
「───クロウ・・・さん
ご、ごめんなさい、わたし・・・
あ、ありがとうっ!」
ディアが頭を下げる。
「───気にするな、おやすみ」
オレは軽く笑んで手をあげる・・・・
「おやすみなさい・・・・」
ディアがこたえ、サミとナオが元気良く手を振りながら続く。
「「クロウにいちゃん、おやすみー!」」
コンテナのドアを閉め、歩き出す。
部屋で言ってもらえなかったセリフを言ってもらえたのだから、とりあえず最悪の第一印象を雪ぐことはできたようだった。
『おやすみなさい・・・』といった時のディアの恥ずかしそうな顔は、オレをニヤつかせるのに充分だった。
「またたく星か───」
星空を見上げてつぶやく。 地球の大気の底で見る星は、宇宙で見る星の数と比較して、驚くほど少ない───だが、ゆらぐ大気でまたたく星は、宇宙で見る冷たい輝きよりも美しいと思う。
暗闇で誰も見ていないのをいいことに、オレはそのニヤニヤを顔に貼り付けたままジャンクヤードを歩いていった───
ヒロイン登場です。
当初考えていたキャラは、もっとおとなしい女の子のはずでしたが、書いてみたらツンデレになってました・・・・・orz
なお、クロウの年齢ですが、20代前半から半ばぐらいとしか決めていません。
次回「水汲み」