敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079   作:霧島 碧

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1-6 水汲み

 朝の光で目が覚める。これほどぐっすりと眠ることができたのは、基地を離れて以来のことだ。オレは起きると部屋を出た。

ディアが台所で食事を作っている。

 

「おはよう、早いんだな───」

 

「おはようございます。」

 

 ディアが笑顔であいさつをする。オレのレベルはそれなりに向上したようだ。

 

「あんたは客だ、もう少し寝てたっていいんだぞ」

 

 サハドが声をかける。

 

「いや、顔を洗ってくるよ───」

 

 家の外にある洗面台で顔を洗っていると、サミとナオがポリタンクをくくりつけた背負子を背負って歩いてきた。

 

「おはよう、クロウ兄ちゃん」「オハヨー」

 

 オレを見つけた2人が元気な声で言った。

 

「おはよう、どこへ行ってたんだ?」

 

「水汲みだよ」

 

 玄関前で、サミが重そうに背負子をおろすと、ポリタンクを縛ったロープを外しはじめる。

 

「水汲み?」

 

「このあたりは水道がダメになってるから───」

 

 オレはあっけに取られ、言葉につまる。

 

「どこまで汲みに行くんだ?」

 

「向こうの山の泉まで。

 

 行くときは歩いて30分ぐらい───」

 

「帰りは・・・・・?」

 

「1時間ぐらいかかるかな?」

 

『この水の入ったポリタンクを背負ってか・・・・』という言葉は、飲み込まれたまま口には出なかった。

 

「・・・・・もしかして、毎朝水汲みに行ってるのか?」

 

「うん!」

 

 今度はナオが元気よくクビを縦にふる。

ふたりの背負っているタンクは、20リットルに少し足りないぐらいだろうか。つまり、行きはともかく、帰りは約20キロ近い荷物を持って毎日数キロの道を歩いているということだ。ただ、サミの背負っているポリタンクが、目分量で8割以上入っているのに対し、ナオの背負っているタンクは、それよりも少ない6~7割程度ではある。

 オレは顔に汗をかく2人を見つめ、あきれた。

たしかに宇宙でも水は貴重品だ。だが宇宙船内での使用が厳しく制限されることを除けば、コロニーでも、グラナダでも水道は整備されている。多少の使用制限こそあれ、使えないなどということはめったに無かった。地球のコンウェル基地でもだ────

だが、そこまで考えて、コンウェル基地の水がどこから確保されていたのか知らない自分に気づく。あれは水道が敷設されていたのか?それとも近くの川か、地下水を引いていたのだろうか・・・・・

オレはまだ地球のことがよくわかっていなかった。

 

「この辺の水道は戦争で使い物ならん、

 連邦がジオンを追い払っても、復旧はいつになることやら・・・・・・」

 

 いつの間にか背後に立っていたサハドが無愛想な声で言う。

ジオンに対する皮肉がこめられていた────

 

「この水は?」

 

 オレは今まで顔を洗っていた水道を指差す。

 

「雨水を集めて貯めるタンクがある。

 それをろ過して使っているんだ────シャワールームもな。

 サミとナオが運んできた水も余れば加える。

 このところ雨も降らないんで、気をつけて使え・・・・・・・」

 

 そういえば、シャワールームを使うときもそんなことを言っていたな・・・・・

 

「なぜトラックで水を汲みに行かない?」

 

「貴重な燃料を使えるか。

 それに道が細くてトラックでは泉まで入れん」

 

 サハドは言い捨てて言葉を続ける。

 

「本当に水不足になればそうするが、

 水汲みはこいつらの仕事のひとつにすぎん」

 

 そう言ってサハドはオレに背をむけた。

地球は水と空気が豊富で、不自由などしないものだとオレは思い込んでいた。いや、オレだけでなくスペースノイドは、総じてそう思っていると言っていい。それは、水にも空気にも再生利用のための税金を負担しなければならないスペースノイドの、アースノイドに対する反感にもなっている。

しかし、地球すべてがそういうわけでもないという事に、オレはやっと気づきはじめていた。

 

 

 広間に4人で座り、朝食を食べている途中にサハドが言った。

 

「今日はカナールの街に行ってくる、作業は中止だ。

 オマエ達はヤードの片づけをしておけ・・・・・・」

 

「え、ホント!?」

 

 サボれると知ったサミがうれしそうな顔で言う。ナオもうれしそうだ。

 

「ジオンと連絡をつけられそうな知り合いに声をかけておく」

 

「すまんが、よろしく頼むぜ」

 

「ああ、とっとと出て行ってもらわにゃならんからな」

 

 あいかわらずの仏頂面でサハドがこたえる。ずいぶんな言い草にオレは肩をすくめる。

 

「このあたりに、住んでいる人間はいないのか?」

 

「ああ、昨日通ってきた集落も今は誰も住んでいない」

 

「それなら裏の山に登ってみてもかまわないか?」

 

「───? 

 登っても何もないし、面白いものも見えないぞ」

 

 何を言い出すのかと、サハドが不審げな表情でオレを見る。

 

「ああ、かまわん。

 コロニーには山なんて無いから、ちょっと興味があるだけだ」

 

「山がないの?」

 

 サミが聞いた。

 

「ああ山もないし、海もない、大きな川も」

 

 オレはサミに頷いた。

 

「わざわざ人工のコロニー内に、そんなものを作る理由などないからな」

 

 オレは単純に説明した。

 

「山を作っているコロニーもあるにはあるが、

 大抵のコロニーには低い丘程度の起伏しかない」

 

 サミとナオが、身を乗り出してオレの話を聞いている。そんなに宇宙の生活に興味があるのだろうか?チラと目をやると、ディアも興味深げな顔をオレに向けている。オレは多少詳しく説明をすることになった。

 

「いいか、円筒形のスペースコロニーを考えてみろ。

 コロニーの中に山を作るってことは、山の内部を空洞にするとしても、

 とんでもない量の土やら、岩やらを調達しなけりゃならない。

 持ってくるとすれば、月か、小惑星か───どちらにしても費用が掛かりすぎる。

 もし費用をかけて山を作ったとしても、その場所には遠心力で大きな重量がかかる。

 それだけで、コロニーの構造には負担がかかるんだ。

 それだけじゃない。

 スペースコロニーは回転による遠心力で内部重力を作り出している。

 1か所に大きな重量がかかると、コロニーの回転軸がブレることになる。

 ジオンのような密閉型コロニーなら、バランスをとるために反対側にも

 同じ質量の山をもう1か所───都合2か所に作らなければならん。

 だが、ミラーで光を採り入れる開放型コロニーは、居住エリアの反対側は採光窓だから、

 山を作るとするなら全3か所に作らねばバランスがとれない」

 

「なるほどな」

 

 いつの間にか、サミ、ナオ、ディアだけでなく、サハドまでがオレの話に聞き入って、相槌を打った。スペースコロニーのことを知識としては知っていても、そこで実際に暮らしているスペースノイドから話を聞いたことは4人ともないのかもしれない。

 

「オレの育ったコロニーでは、公園に小さな丘があるぐらいだったな。

 その丘の内部は空洞で、中には公園の木々を管理する水再生プラントがあったらしい」

 

「やれやれ、なんで人間はそんなややこしい場所に住むことになったのやら」

 

 サハドが実感のこもった言葉を発しながら首を振り、オレは苦笑する。

増えすぎた人間が、生きる場所を宇宙に求めた歴史は、だれでも知っている。だから、サハドはそんな説明を欲しているわけではない。大方『宇宙人の考えることはわからん』とでも思っているのだろう。

 

「クロウ兄ちゃん!

 裏山に登るなら山を右回りに行ったところに登り口があるから───」

 

 こちらの説明がひと段落ついたところで、ナオが勢い込んで、裏山をいかにして登るかについての説明をはじめた。

 

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