秘密は甘く、恋は苦く   作:黒マメファナ

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あーゆー、すまいりー?

幕間的な意味合いが強いです。


第十四話:太陽の魔法

 引っ越すってなると、めんどくさいのがウチの両親だった。そもそも過干渉というか、俺なんかに期待かけすぎのよくわからん親なんだよな。自分が行けなかったいい高校に入ってほしい。自分が青春時代に手を伸ばせなかったフェスに出てほしい。俺にそんな才能なんてないし、そんな情熱もない。勉強はそれこそ将来のためになるからってまぁ頑張ってきたけど、音楽なんて結局、俺にとっては趣味でしかないわけで。機材とか詳しくてもオタクの域を出ないわけだからね。

 ──話が逸れたけど、とにかくこの両親、高校こそ志望校に入れなかったけど、なんやかんやでいいとこの大学で古典音楽の専門家やってるお偉い教授やってる父と何がガールズやねんって思うけどガールズバンドブームに乗っかって現在もバリバリ現役で活動してるそこそこのバンドのギターやってる母のどっちもが過干渉とかいう笑えなく暖かい家庭に生まれたのが俺ってわけ。

 

「……そうだったのね」

「ね、あのスタジオもご両親の関係だもんね」

「そう、オーナーが親父の部下? よくわかんないけど舎弟みたいなんだよな」

「なんで花音は知ってるのよ」

「ふえぇ……えっと、企業秘密?」

「はぁ……まぁいいわ、とにかくその両親の許可がないと引っ越しなんて許されないわけね」

「だね」

 

 家だと色んな問題が起きるので雨の中俺と花音と千聖さんはバイト先であるライブハウス「CiRCLE」のロビーで駄弁っていた。二人は練習、俺はバイトのシフト出しにという目的でだけどね。

 そんなこんなで狭いし寝るのも大変だしどったんばったんするとお隣にまで音が筒抜けだから引っ越しは二人とも賛成だったわけだけど。事情を説明するのはナシだし、そもそも俺、実は恋愛禁止されてるんだよな昔から。異性との関わりは学校生活やらに絶対悪影響を及ぼすからって。実体験ですかね。

 

「まぁ恋愛関係で学校休んだのだからあながち否定はできないわね」

「それな……言ってて悲しくなってきた」

「ふえぇ……ご、ごめんね光博くん」

「花音のせいじゃないから、うん」

 

 とまぁそうなるとやっぱり厄介なんだよなうちの親、なんなら四月くらいにも花音と仲良くしてるのを何故か知ってて、それについて小一時間問い詰められたし、なんか女の髪の毛が落ちてて、例の女の子を家に上げたんだなとか言って母親から説教あったんだよな。あのキレイなストレートの髪は千聖さんだなぁと思いながら聞いてたけど。

 

「あー」

「なあに花音、心当たりがあるの?」

「もしかしてウチの親に会った?」

「ううん、やっぱり監視されてたんだなぁと思って」

 

 監視ってまた怖い言い方だけど、もう大丈夫じゃないかなと言われた。大丈夫なのか、ホントにか? 俺めっちゃ怖くなってきたんだけど。とにかく、両親とかいうドデカイハードルを越えなきゃあの家で俺が床に寝転がる回数が増えちゃうし、料理作るのも現在一苦労なんだよな。ちょっとお値段張ってもいいから広いマンション借りなきゃなんだよな。

 

「あとお風呂狭いのはなんとかしてほしいわね」

「だね、温度の調整もあんまりできないし」

「……俺んちだからね」

 

 とまぁ文句もありつつ打開策もないため愚痴大会になり始めていた。そんな時、花音の視線が入り口の方を向いてちょっとまずい、みたいな顔をしたのがわかった。隣の千聖さんもそれに気付いて同じ方向を見て、それから何かを察したかのように頬杖をついた。なんだろうと思い振り返ると、そこには雨の日であることを忘れるほどの太陽が輝いていた。

 

「あら! こんにちは!」

「ええ、こんにちは」

「ふえぇ……こ、こころちゃん」

「こころちゃん……って」

 

 その名前にその子は眩い光のような笑顔を見せた。なに、なんなの光の化身? そう思いながらも名前は知っていた。というか有名人だ。ガールズバンド的にも有名人、政治とか社交界的な意味合いでも有名人、なんなら多分その名字だけならこの国のみならず海外でも知ってる人の方が多いんじゃなかろうか。

 

「──弦巻、さん」

「こんにちは! あなたは確かCiRCLEの新しい店員さんよね?」

「あ、うんそうです、浦部光博です」

「浦部光博、覚えたわ!」

 

 弦巻こころ。あらゆる分野において名前を聞かぬことはない弦巻グループ代表の一人娘にして噂によるとその中でも稀代の天才。その太陽の如き笑顔に照らされれば立ち所に人は笑顔になるのだとか、うんそれは絶対に誇張だろうけど、実際に最近のグループの活動の領域が広がった一因には彼女の功績、なんて噂もあるらしい。

 

「それより花音! 一ヶ月も練習お休みしていて心配したのよ!」

「ふえぇ……えっと」

「やっぱり、サボってたのね」

「……なるほど」

 

 花音は暴走すると周囲見えなくなるタイプなんだなぁというのが伝わってくる。まぁ元々一緒に歩いていても興味のある方向にふらふらっと歩いていく傾向にあるし。だから迷子になるんだよな多分。

 そして誤魔化そうと言葉を探してるところ悪いけどさすがに俺も事情を説明せずに逃げられないと思うよ。ほら千聖さんが呆れ顔して私から言うわよみたいな仕草してるよ。

 

「う……」

「花音が一月もハロハピを蔑ろにしたのはそこの光博が全部悪いのよ」

「俺ぇ?」

「間違ってないじゃない。誰を束縛するためだったかしら?」

「俺です」

 

 飼われたのは、俺です! と言わんばかりに肯定する。きょとんとした彼女に対して遂に諦めたように花音が事情を説明していく。一応俺や千聖さんが補足説明を加えはするけど、まぁこれでほぼ偏りなく情報が伝わっただろう。弦巻さんはそれを受け止めて俺に対してどんなクズを見るような目をするのだろうか。普段から笑顔マシマシのあどけない美少女に冷たい目をされる性癖は残念ながら持ち合わせていないけどね。

 

「よくわからないけれど、花音や千聖は、それで笑顔になれるのね?」

「ええ、そうね」

「うん、本当に将来まで笑顔かどうかは……わからないけど」

「大事なのは今、笑顔かどうかだわ!」

「俺は?」

「光博は、笑顔じゃないの? あたしにはとーっても笑顔に見えるわ!」

 

 うん、まぁ確かに二人と過ごすのはすごくほっとする。ようやく千聖さんからもらう気持ちに向き合えるようになったし、千聖さんが哀れみでも逃げ道としての機能でもなく純粋に本心から俺を求めてるんだなって理解することができた。それに花音も、まだちょっとぞわってしちゃう時もあるんだけど、もう怖い感じはしなくなっていた。それに、本能をさらけ出した先にある好きって気持ちっていうのもちょっとは理解できるようになってきた。

 

「そう、俺は今、ちゃんと笑えてると思う」

「ええ……ところで、それならどうしてさっきまでお腹が痛そうな顔をしていたのかしら?」

「ん? さっき、ああさっきは……」

 

 その言葉で現実に戻される。そういや愚痴に逃げてたけどホントにどうするの。うちの両親説得して引っ越すなんて至難の業だってわかってるんだけど、だからってウダウダ言ってても何も解決しないんだよね。

 まぁここまでしゃべったしまぁいいだろうってことで訊ねられたことに対して答えた。

 

「ならあたしが一緒にお願いしてあげるわ! 花音や千聖が笑顔になるためだもの!」

「え、えっと?」

「こころちゃん、ごめんね……任せちゃって」

「気にすることないわ!」

 

 えっと弦巻さんは一体何を言ってるのだろうか、と思っていた翌日の話だった。今度は俺の家にやってきてそれじゃあ行くわよと手を引かれて、俺はまさかの両親と向かい合った。その際の出来事はまぁ特に俺も記憶に残しておく価値もないため割愛するが、とにかく難攻不落だったはずの両親という牙城はあっさりと彼女の前に陥落したのだった。

 

「お礼なんていいのよ?」

「いやいや、ありがとうって気持ちをあげたかったから」

「なら、あたしもどういたしましての気持ちをあげるわね!」

「……うん」

 

 そのままお昼を奢って、帰ってきて。なんというか、こころには勝てないというか敵わないというか。あながち噂も間違いじゃないと思ってしまう力が彼女にはあった。後でリサに報告するとまぁこころだからねと流された。そういう扱いなんだなあの子って。

 物件まで紹介してもらって、この辺は千聖さんと花音が決めたんだけど。でも俺はその家を見上げてツッコミを入れてしまった。

 

「……あの、一軒家ですよねこれ」

「そうね、どうしても花音と私の意見が合わなくて、こころちゃんの仲介じゃなかったら予算に収まらなかったわ」

「大変だったねえ」

「大変だったねえ……で済ましていい問題じゃないよ」

 

 商店街近く、つまり俺のバイト先からも花咲川からも、そして駅からもそれほど離れていないすごく距離的にちょうどいい場所にある住宅街にある二階建ての一軒家を示され、俺は固まった。あの、マンションの高層に住めちゃったりするかもとか期待はしていた。うん割とね、こころが仲介してくれるならって邪な気持ちは確かにあったよ、それは認める。

 ──その欲望をあっさり飛び越えるのなんなの? てかあなたたちは住まないよね? 

 

「あら、私はほぼ第二の家扱いするわよ?」

「まぁ、千聖さんはいいけど」

「……私はだめなの?」

 

 花音に上目遣いでそんな顔されたらダメって言えないクソ男、それが俺である。千聖さんはね、なんか俺んちと俺に安らぎ求めてるところあるし、芸能界って大変なんだなぁとか思って過ごしていた過去があるからまぁいいとしても。花音は、ああもうわかったよ好きにしろって気持ちになってきた。それに、花音だけのけものにするとまたケダモノになってしまいかねないので。

 

「うん、ちゃーんと首輪つけてくれなきゃ……ね?」

「花音、目が変態のそれよ」

「えー、千聖ちゃんが光博くんに迫ってる時よりは大丈夫だよ」

 

 二人がまたなんかロクでもない言い争いを始めたので俺は止めに入る。俺からすると二人揃ってなんだかんだで大変なんよ。片や普段のふわふわ感はそのまま、お腹が減ると制御するのが大変なくらいの獰猛な肉食クラゲ系で、片や普段は済ましてるけどその実はちょっと構わなくなると不安そうにすり寄ってくるけどやっぱり肉食のわんこ系なんだよな。

 

「……私はもう、光博に首輪をつけられているもの」

「そんな記憶はないです」

「私も、早く首輪ほしいなぁ」

「あの、語弊が……」

 

 語弊がすごいけど、まぁもういいや。ツッコミ入れるのも諦めて引っ越しもあっという間に済ませた。俺は二人がなによりも先に求めたもの、三人で寝れるベッドに一人で寝転がった。見慣れない天井が、いつの日か見慣れた天井になるまで、俺は後何回ここで寝起きするのだろうか。

 

「あら、もう寝転がってるなんて……構ってくれる気になったのかしら?」

「千聖さん」

「ふえぇ……抜け駆けはダメだよ〜」

「花音」

 

 いつの日か横を見ると彼女たちがいる景色が、当たり前になる日は来るのだろうか……いやそれは来てほしくはないな。当たり前であってはほしくない。この二人が俺を好きって言ってくれることが当たり前でありたくはないよね。特別なことだって思いたい。だって、このまま三人で、なんてあるわけがないんだから。

 ──それが千聖さんなのか花音なのかわからないけれど、俺はいつか選択する日がくる。二人ともなんて宙ぶらりんな結論は二人とも求めてないから。

 

「あ、雨……また降ってきちゃったね」

「本当ね」

「マジか、二人とも傘は?」

「持ってないわね」

 

 ところで結局、二人はどのくらいの頻度で俺んちに泊まる気なんだろう。一応言っておくけど両親がちょいちょい来るのもいつも通りだし、事情を全て知ったこころとは二人を連れ込んでいくのはさすがに秘密にしておこうって決めたからバレたら非常にまずいんだからね。いやもう多分女の子を連れ込んでることなんてバレてるんだけど、さすがに現行犯はロクなことにならないからね。

 

「そうね、私たちの新しい秘密ね」

「もう、いつかちゃんと光博くんの両親にも挨拶したいのになぁ」

「……二人ともなんでちょっと楽しそうなんですかね」

「光博と共有する秘密が好きだからよ」

「光博くんとする恋愛が好きだから」

 

 二人は、似てないようで似てるんだろうなぁと思った。そうやってまた二人で顔を見合わせて笑ってるところを思わず、俺はスマホのカメラで撮影した。うん、なんかいい画じゃない? 少し恥ずかしそうにした花音と怒ったような顔をした千聖さんに見せると二人は優しい顔で同意してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




両親の情報
覚える必要なし。ただ幼馴染が花音に関わるなと迫った理由でもある。

弦巻こころ
いつもの万能の神にして太陽神。この世界線では商業神としての側面が強く、交渉といった謀の神としての側面ももってる。


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