秘密は甘く、恋は苦く   作:黒マメファナ

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ぜったいに、ぜったいにお前を許さない。


第二話:漆黒に染まる愛

 それは、なんでもない雑談だった。バイト先のスタジオで働いていると、そういえばさという雑な切り口で実質的なバイトたちの総まとめをしている月島まりなさんが話題を提供してきた。

 ──なんでも最近、不審者が出没しているらしい。春どころかもう秋に差し掛かるって言うのに不審者かぁ。

 

「この近辺にも怪しい男を見かけたって報告もあるし」

「え、俺ですか?」

「いやいや、違うって、キミに言ってもしょうがないかもしれないけど、一応バイトみんなに注意喚起してるから」

「わかりました」

 

 その時はあんまり大事には考えてなかった。そもそも俺は男だし、なんなら俺かもしれんなみたいに軽く考えていたけれど、スタジオに来てくれる常連さんと話す機会があって、結構大事というか、こういう女性ばっかりのコミュニティに突如として男性が害意を持ってやってくるという怖さを実感した。

 

「わ、私……追いかけられて」

「大丈夫だったのそれ?」

「す、すぐにCiRCLEに逃げてきたから……大丈夫、だと思います、たぶん」

「そっか」

 

 他にも見かけたとか、色々話を聞くに結構危ない人みたいだ。なんだかんだでバイト終わりには花音が迎えに来てくれてたんだけど、もしかしたら花音が追いかけられたりとか襲われたなんて思ったらちょっと胃が痛くなってしまった。千聖さんはほぼここに寄り付かないけど、花音は俺に会いたいって理由ですぐ顔出しに来るんだから。

 

「商店街でも対策取るって言ってたよ」

「そうなんだ」

「まぁ、ガールズバンドで賑やかになったんだから不審者対策は必須だよね〜」

「ホントそうなんですよ! しかもパスパレがアイドルとして知名度上がってきたから」

 

 自主練をしにきたひまりとリサともなんだかんだで不審者の話題に変わる。そうだよな、周囲にはガールズバンドを盛り上げようって小さなライブハウスもたくさんあるし、そんな感じの界隈で害意を持った男っていうのはそれだけでマジで恐怖であり脅威であるんだってことをここで感じていた。

 

「じゃあアタシは光博に守ってもらおうカナ?」

「私も、盾にします!」

「ちょっとまって」

 

 キミたち結構ヒドイこと言ってるからね? しかも俺、盾になるほど強くないんだけど。だって元々は花音によく見られたいがための運動しかしてないし、度胸もないクソチキン野郎だから相手によっては俺が真っ先に逃げるまであるからね。そう言うとひまりちゃんにゴミを見る目をされた。

 

「女の子を守るためなら傷つく覚悟もしてくれないと!」

「ひまり……それはさすがにむちゃくちゃでしょ」

 

 リサのツッコミも意に介さずひまりはぶーぶーと頬を膨らませて文句を言ってくる。生意気な後輩すぎる。でも通ってる学校じゃこんな生意気ながらかわいい感じの後輩キャラなんていないから、ちょっと憎めないところあるけど。そう言うとリサがアタシはアタシは? って迫ってくる。そもそも学校には後輩キャラどころか友達もいないけど。

 

「リサは、うーん、なんか……友達? っていうか……なんて言ったらいいんだろうね」

「なんでそんな歯切れ悪いの?」

 

 友達にしては相談、愚痴の回数がバカみたいに多いし、俺が贅沢者になった後も相談たくさんさせてくれるし、なんなら家事に関しては師匠だし。なんか曖昧というか役割が複数あって迷う感じのあれ。あと一瞬だけ親友ポジって言いかけてこれで親友ってどうなんだって思いとどまっただけで。

 

「別に、アタシは気にしないケドね?」

「リサ……」

「そっかそっか、それにしても友達いないのか」

「まぁ、いそうにないもんね」

 

 ひまりちゃんがなんかひどいこと言ってるけど、事実としていないからしょうがない。これって言った趣味もないし、部活をしてるわけじゃないし。そもそも、リサやひまりちゃんは千聖さんの紹介がなければきっと今でも他人だっただろうし、そもそもその千聖さんだって俺があの日、迷子の二人を見つけなきゃ他人のままどころか、俺はまだ実家からあのクソみたいなバイト先に通ってたんだろうなぁって思うよ。

 

「光博って元々一人暮らしじゃなかったんだ〜、知らなかった」

「うん、高校二年の途中でね」

「へ〜」

 

 花音に出逢って、再会して一目惚れをしてたってことに気付いてさ、千聖さんに傷つく覚悟もない男が他人への好意を語るなって怒られて、そうだよなと思って俺はバイトとか学校の成績とかでなんとか親を黙らせることに成功したんだよね。今も一応成績は維持できてるからまぁ干渉されずになんとか過ごしてるけどね。

 

「え、光博さんって……」

「あれ、ひまり知らなかった? 学校もそれなりに頭イイトコだもんね」

「うそ……性格だけなんだ、ダメなの」

「まぁその性格がダメだからこうなってるんだけど」

 

 リサがなにやら無言で頷いていた。まぁ性格がダメなことくらいわかってるしそもそも成績で両親を黙らせてるとか言ったけど別に学年主席ってわけじゃなくて、こうケアレスミスが多いからね。もっとできる以上、誰かに鼻高々にしゃべることでもないんだよなぁ。後、だからって特に自分として進路が漠然としてるのもあんまり学校のことしゃべらない理由かもしれない。

 

「へ〜、だから最初は家事とかも微妙だったんだ」

「うん、やったことないことだらけで、リサいなかったらヤバかったよ」

「てか、リサさんはおうち行ったんですか?」

「夏休みにちょいちょい行ったよ」

「どんな感じでした?」

「お、気になる〜?」

「そりゃあもう」

 

 なんで人の家でそう盛り上がれるのかわからないけど、また二人が盛り上がり始めていた。なんだか俺んちに行くみたいな話の流れになっている気がするけど、千聖さんは今日のお仕事終わったら自宅だって言ってたし花音も今日はハロハピの練習してそのまま家帰るって言ってたから俺としては別に構わないけど。

 

「だってさ、ひまり」

「じゃあ、行きたい! 私んちから近いから外観は知ってたんだけど、気になってたんだよね」

「決まり、移動するか」

「おっけ〜」

 

 こうなるともし、この三人で不審者に遭遇したら俺が盾になるのか、嫌だなあとか思いながら道を歩く。もしもナイフとか持ってたらどうしようとか考えて怖くなって左右をしきりに見渡すのは逆に俺が不審者になってるみたいだった。こうなるとちょっとまた別の不安が増してしまうね。花音は迷子になりやすいから大丈夫かなとか、千聖さんはまぁマネージャーさんの送り迎えがあるからよっぽど大丈夫だと思うけど。特に俺んち来る時はリスク回避のために間違いなく車だから。

 

「こんなに家広いのに一人暮らしだとなんか寂しくない?」

「一人の時はちょっとさみしくなるかな」

「だよね」

「まぁほぼ、花音か千聖さんのどっちかが家にいるけど」

 

 千聖さんの方は家族とも会って、正式にお付き合いを認められたみたいな感じで、おかげですぐ入り浸ってるよ。しかも基本的にソファでぐでっとしてたと思ったらご飯作っていると傍にやってきてじっと手元を見てきたり、背中にくっついてきたりするかわいい生物に早変わりする。マジで、これは俺にとっても花音にとっても未知の白鷺千聖さんだった。

 

「うわ〜、なんか予想できないなぁ、ソレ」

「ホントですよね、千聖さんといえばクールで、にこやか、みたいな感じなのに!」

「花音の方はどうなの?」

「花音は……」

 

 なんというか、あの子はあの子で不思議な生物なので。家事する時は基本的には手伝ってくれるし、甘えてくる時はかわいらしい感じなんだけど。何かのスイッチが入ると急にわがままになるんだよね、なんとなくかわいいなぁと思える時もあるけど疲れてる時とかは非常にめんどくさい。何がって突如IQが下がって幼児退行し始めるのがよりめんどくさい。

 

「それも、予想外……バイトの時の花音さんのイメージ全破壊された……」

「まぁ恋人の前なんてそんなもんなんじゃない?」

「リサさんは変わんなさそうですね」

「どうだろうね、アタシも案外甘えたがりだから」

 

 甘えん坊なリサっていうのは想像できないけど、きっと千聖さんや花音みたいな本当に気を許した相手にしか見せない素顔みたいなのがあるのかもしれない。ひまりちゃんはなんというかあんまり変わんなさそうだね。俺もたぶんあんまり変わってはないと思う。というか変わってたらどうしよう。

 そんな雑談混じりに三人で餃子を手作りしていく。花音とハンバーグを作ったことで得た知見だけど割とこういうの楽しいんだよね。まぁその知見を得た後のことを忘れてしまえばね。そんなことを考えていると結構乱暴に玄関が開けられる音がした。

 

「え、泥棒?」

「いや花音か千聖のどっちかでしょ」

「俺、見てくる」

 

 白くなった手も洗わずに、なるべく何にも触れずに玄関の様子を見るとそこにはすごく焦った表情の花音がいた。ついでに後ろにはこころと、奥沢美咲さんも一緒にいた。ちょ、ちょっとまって、なんで奥沢さんがここにいらっしゃるんですか? というか俺との関係って秘密だったんじゃ。

 

「あーえと、すみません花音さんが迷子になってたもんで」

「……あたしと美咲が道案内したわ!」

「か、花音……」

「ふえぇ、今は……それより、大変なの……!」

 

 そして、一旦リビングに三人を通して俺はリサとひまりちゃんに餃子作りを任せることにした。千聖さんの分も残しておこうと必要数の倍買っておいてよかった。こころがおいしそうねとか言い出したし、このまま足らないから食べさせないよって言うのも流石に非情すぎるだろうし。

 

「で、何があったの?」

「……千聖ちゃんの、マネージャーさんから」

「連絡先交換してたんだ……」

「うん、千聖ちゃん関連で連絡しなきゃいけないこともあるかもって」

 

 マネージャーさん有能だなぁ。前から千聖さんの秘密を知ってて協力している人なだけはある。それで、そんなマネージャーさんから花音に来た連絡は、その場にいる全員を驚かせるには十分すぎる破壊力を持っていた。

 ──端的に言うと事務所の方に白鷺さんと浦部さんの関係がバレました。リーク元も一般人で結構まずいことになってるっぽいです。私も謹慎になりそうなので白鷺さんの事情は松原さんを通してご家族に訊ねるか弦巻さん経由で調べてください。そんな文章に俺も動揺してしまう。

 

「こ、これ……どういう?」

「わかんないよお……ふえぇ、ど、どうしたら……」

「──はい、一旦落ち着こうね〜。美咲、悪いけど餃子作り代わってもらっていい?」

「あ、はい……」

「詳しい事情は千聖の家族に訊ねるかこころ経由で調べてって書いてあるんだし、とりあえずそっちが先じゃないカナ?」

「そ、そうだね」

「まぁ、ここはちょーどこころいるしね?」

「ええ、でもどうやって調べればいいのかしら?」

 

 するとどこからともなく、音もなく黒いスーツの女性がタブレットを置いてくれた。そこには今回のあらましが書かれており、って情報収集早すぎない? 忍者もびっくりの速度ですね。それを花音と俺、リサがじっくりと眺める。始まりは昨日未明に一通の脅迫文と写真が送られてきたそうだ。

 

「それがこれね〜」

「でも一般人、ってことはパパラッチじゃないのかな……?」

 

 それは俺んちから千聖さんが車に乗り込む姿、車から降りて家に入っていく姿。そして花音や俺、それとリサが出入りする姿が写真に納められていた。それと同時に新聞の切り抜き……手法が古いなイチイチ、切り抜きで『白鷺千聖はファンを裏切り、女を取り替えるクソ男の家に出入りする悪女だ。芸能界を引退しなければ彼女を殺し、事務所に火をつける』と記されていたようだ。でも何が恐ろしいかって添付資料としてこの脅迫文を送りつけた写真を撮った男の詳細な情報が載っていることである。

 

「あれ……これって」

「誰か知ってるのひまりちゃん?」

「え、確かこれ、モカが言ってた不審者ですよ!」

「マジか……」

 

 なるほど、最近この辺をチョロチョロしていたのも、俺のバイト先に向かってる女の子追っかけ回してたのも、全部これ千聖さんのストーカーみたいなもんだったってことか。ふんふん、でもこれでなんで千聖さんが活動自粛で謹慎になってるの? これを脅迫とかの容疑で捕まえれば解決しない? 確か前に千聖さんが言ってたけど契約的に恋愛禁止されてたわけじゃないよね? 

 

「それもタブレットに書いてあるみたいだよ」

「……どれどれ」

 

 どうやら事務所としてはことを大きくしたくないから、千聖さんをとりあえず謹慎という形で静まるのを待って、俺に矛先を向ける腹積もりらしい。責任を取って金銭を請求してくるおそれがある……なんで? これおかしくないですかね? あれぇ、なんでこのストーカーを野放しにしておくの? お金要求すべきはそっちに損害出そうとしている男の方じゃないですかね? 

 

「今見たけど、SNSでも喚いてるよ」

「……証拠を載せないところ当たりは一応、悪いことしてる自覚はあるんだな」

「確かにね、これ、もっといい方法幾らでもあると思うんだケドな〜」

 

 匿名のSNSでは論拠を載せずに白鷺千聖は男の家に出入りしている。その男は他の女も連れ込んでいるクソ男である。みたいに連投してる。ごめん、怖かったから俺が訴訟するのもありかもしれんなこれ。なんならこれも両親が仕組んだ罠とかだったらわかりやすくてよかったのに。いやウチの両親ならちゃんと探偵雇って追い詰めるだろうし。

 ──ただ、これは微風の旋風なんかではなく、めんどくさい方向へと大きくなる大嵐であることは、まだ俺も、誰も予想はできていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ということで、二章の始まりはそんなリーク(普通に犯罪行為)から始まります。
もし好きなアイドル、声優が男の家に出入りしてるのを目撃しても殺害予告とかはしないようにしましょう。捕まります(0敗)
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