秘密は甘く、恋は苦く   作:黒マメファナ

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ここまで延々とメンタルがゼロ以下になってる男、浦部光博!



第三話:何が嘘かわからない

 翌日、復帰はなんとかできそうということでちゃんと千聖さんに連絡をしてから学校に向かった。といってもなんというか三学期のラストは消化試合的な勢いなんだけど。特進コースは今も三年生の準備期間ってことで忙しそうにしていた。こんなのほほんとしてていいのだろうかって焦りもなくはない。だって来年は、というかすぐに三年生だ。恋愛ごとにうつつを抜かす暇とかないんじゃないだろうか、みんなはもう俺より前にもっとずっと勉強してて、置いてかれてたりしてないだろうか。

 

「一日休んで、よかったのかな……俺」

「別に体調悪いなら休むでしょ、ふつーは」

「でも」

「いつもより二割増しで暗いけど、どしたの?」

 

 なんと、二割で済んでるらしい。普段からどんだけ暗いんだろうか俺は。駅の帰り道でばったり会って、なんか流れでファストフード店に入って、奢ってもらいながらそんなナチュラルにひどいことを言ってくるのは千聖さん経由で知り合ったひとつ下の女の子、上原ひまりちゃんだった。女子の流行なんかに敏感で、ファッションやらアクセサリーなんかを教えてくれた子でもある。同時にバイト先が花音と一緒ということで協力してくれた子でもあった。

 

「……もしかして、フラれた?」

「フラれて、ない」

「そう?」

 

 フラれてはない。そもそも告白してないし、いやもう片想いは敗北したけどさ。そういえば、千聖さんには自分からはあんまり言わずに内緒にしときなさいとか言われたけど、相手が相手だしひまりちゃんも知ってそうな予感はする。リサは、まぁ知らなくても無理はなさそうだけど。

 

「でも花音さん、最近すごく幸せそうだなぁって」

「……そ、そう」

「クリスマスにデートしたからついにかぁって思ってたのに、違ったか」

 

 まだひまりちゃんにエンカウントするの早かった気がする。共通の話題ってなるとどうしても花音の名前ばっかり出てきて、胃がキリキリしてしまう。特に冬休みから今日に至るまでの一ヶ月半、定期テストやらで交流がなかっただけに、余計に回避が難しい。そもそも知り合った経緯が千聖さんのお節介、もとい応援のためのメンバーだし。

 

「あ……光博くん」

「……か、花音」

 

 どこまで話そうか、というか話すのも結構胃にクるんだよなぁとか葛藤していると間が悪いのか、なんなのか、制服姿の花音がファストフード店に入ってきたところだった。気まずい。多分俺が勝手に気まずいだけかと思いきや、花音も気まずそうに視線を左右にさせていて、なんでかしらないけどほっとしたところだった。

 

「忘れ物だったっけ?」

「あ、うん」

「待ってろ、確かロッカーにあった」

「ありがと」

 

 店の奥から例のバイトリーダー、花音のカレシが出てきた。それを見て花音がくるりとこっちを向いてから、一昨日忘れ物しちゃってさとちょっと笑いながら俺とひまりの方へと近づいてくる。正直花音のドジと迷子癖は周知の事実であるため、こっちも少し気が抜けて笑ってしまう……表向きは。

 

「はは……まぁ、うん。相変わらずだな、花音は」

「一昨日って、バイト入ってましたっけ?」

「あ、えっとね、シフト出しに行った時にメモ帳忘れちゃってて」

「あー、なるほどです」

 

 そのまま花音は俺の隣に座って、奢らされたついでに頼んだポテトを一本ちょうだいと、やっぱり以前と変わらないテンションでねだってくる。戸惑いながらもうなずくと、更に驚くことに口を控えめに開けてくる。

 ──え、俺が運ぶの? なんかひまりちゃんの視線が痛いんだけど。そう思いながらも花音が動かないためおそるおそる一本つまんで花音の口まで運んだ。

 

「は、はい」

「……ん、ありがと」

 

 花音は本当に相変わらずだった。相変わらずなのが、逆に怖くて、意味がわからなくて。言葉も紡げないまま固まっているとさっきのバイトリーダーの声がして、花音が立ち上がってすごく明るい笑顔を放った。モヤっとする、苦しい。何がどうなってるのかさっぱりわからない。花音は、何がしたいんだ? 

 

「これでいいか?」

「うん、ごめんね」

「いいって」

「お疲れ様」

「おう」

 

 そんなやり取りを見送って、最後に俺とひまりちゃんに向かって手を振って花音はあっという間にファストフード店からいなくなった。息を忘れてて、ぷはっと吐き出してちょっとくらくらする頭を冷やすように息を吸い込んで吐き出してを繰り返して、外の空気を取り入れていく。

 

「……何があったの?」

「な、何が?」

「前だったらあれにデレってしてたのに、今日はうわマジか、みたいな顔だった」

「別に……」

「ふ〜ん?」

 

 ひまりちゃんが頬杖をついてジト目をしてくる。ただそこは迷探偵、もとい名探偵のひまりちゃん。俺のことをずっと観察していたようでちょっとだけ考え込むような表情をしてから、びっくりしたように目を大きく見開いた。ごめん千聖さん、ふつーにバレちゃったよ。俺って隠し事ダメダメなの忘れてた。

 

「え、マジ?」

「マジです……」

「いつから」

「知らないけど……たぶんクリスマス後くらい」

 

 もう限界とばかりに吐き出していく。吐き出すと、なんでこんなことになったのか、とかあの時の花音すごくニコニコしてたなとか考えて泣きそうになって、また情緒が破壊されてしまった。ヤバいメンタルしてる自信ある。なんかこう、こんな好きな子ひとりと結ばれなかっただけで感情のコントロールが利かなくなってるってことにまた、気分が沈んで、悪循環が起こってる。

 

「そっか、わかった」

「……わかったってなにが」

「せんぱーい」

「なんだよひまり」

 

 どんよりで悪いことばっかり延々と考えていると、ひまりちゃんが急に立ち上がりさっきのバイトリーダーに話しかけにいく。ひまりちゃんも常々カッコいい先輩だって言ってたっけ。まぁああいう陽キャイケメンに俺みたいな陰キャクソカスが敵うわけないんだよな、ぽっと告白して花音が靡くくらいいい感じの男だってわかるんだよな。また自己嫌悪に陥っていると、ひまりちゃんがとんでもない爆弾を落としていた。

 

「花音さんと付き合ってるってマジですか?」

「それ秘密にしとけよ。お前は口軽いんだから……」

「えー、気付かなかったあ、いつからです?」

 

 キミさぁとツッコミはできなかった。それは、確かに俺も気になっていた。ストーカーみたいでキモいから俺が調べることなんてできやしないけど、ひまりちゃんがこうして訊ねてくれるなら。そんな他力本願のまま答えを待っていると、あっさりと、俺にとって信じられない一言が返ってきた。

 

「だいたい付き合って()()()かな、まだオレが高校生の時に告ったんだよ」

「う、うわぁ、意外! 気付かなかった〜」

「これも誰にも言うなよ、何か奢ってやるから」

「はーい、じゃあじゃあポテトとコーラ持ち帰ります!」

「おっけー」

 

 は? ちょっと待て、意味分かんないどういうこと? 俺がまだ花音と出逢う前ってこと? 確か俺が花音に会ったのが二年になってすぐくらいだったはずだから、それより最高一年前から付き合ってるってこと? え、じゃあ千聖さんとかの今までのやりとりはなんだったの? 俺に対してのあれはなんでもない友だちの距離感だったってこと? は、え、待って、えどういうこと? 俺の片想いとか始まってすらなかったってこと? カレシいるのにも関わらず、デートしたりしてたのはなんだったの?

 

「……ごめん、帰ろ? 歩ける?」

「だいじょぶ……たぶん」

「うわ、顔真っ青だよ……」

 

 なんか、ふわふわ身体が浮いてるような気持ち悪さがある。今まで、ちゃんと失恋したことってなかった。誰かのことを好きだなぁと思っても、それは俺と関わるわけじゃなくて、ただ遠くから見守っていただけで、自分の手が届くなんて考えたこともなかった。でも、花音はそうじゃなくて。手を伸ばそうとして、何度も何度も、身の程を知れだとか、お前なんかが相手されるわけないだろって自分自身の声を振りほどいて頑張ってもがいてきて、ちょっとずつ前に進んでいたのに。

 ──嘲笑われてたのかな、遊ばれてたのかな。俺は、花音にとってなんだったんだ。

 

「……千聖さん、呼ぼっか?」

「いい、あの人……芸能人」

「だけど」

「いいから」

 

 今の俺が千聖さんに優しくされるのは正直ほっとするよりも苦しくなる。申し訳なくて、情けなくって、泣きそうになってしまうから。それに、今までの千聖さんの矢印とか云々がなんだったのかって責めそうで。きっと知らないんだろうけど、千聖さんだって驚いて動揺してしまいそうだけど、俺は声を荒げるだろうと思うと、会いたくない。そもそもそれをしそうだってわかってるのに止められないって確定してるのもクソすぎるけど。

 

「ひまりちゃん」

「なに?」

「俺とあの人、どっちが男として上?」

「先輩」

「……だよな」

「でも」

「ん?」

「少なくとも花音さんは……光博のこと、好きだったと思う」

「ない、絶対に」

「なんで」

 

 だって、そうだったとしたら花音が最低な二股ってことになるじゃん。カレシいるのに俺のこと好きになったやつだって。花音はそんな子じゃない。いつだってふわふわってしてて、女の子って感じで、笑顔がかわいくて、そんな男漁りとかするようなビッチじゃない。ずっと関わってきたんだから、それくらいはわかる。

 

「わかんないよ、女の子って」

「やめて」

「うん、言い過ぎたごめん」

 

 ひまりは、それからはずっと無言でいつもの喫茶店、羽沢珈琲店まで俺を引っ張っていってくれた。看板娘の羽沢つぐみちゃんは俺の明らかに体調悪そうな、血の気の引いた顔を見てぎょっとしてからひまりちゃんに事情を説明されていた。コーヒーの香りが落ち着くかもって、とりあえず座らせてもらった。

 

「よかったね、私が暇で!」

「……かな」

「そこは、ツッコミ入れるところっ」

「ごめん」

 

 ホントに、ひまりちゃんにも申し訳ない。偶然、俺と出会ったばかりにこんな面倒なことに巻き込んでしまった。たったそれだけのことでみじめで最低な気分になる。もう誰かに相談とか、愚痴とか零すのも嫌だ。千聖さんはもちろんひまりちゃんにも、俺なんかと一緒にいて時間を使わせるとか、あまつさえ関係を疑われたり、からかわれたりしてるの見たら、死にたくなる。

 

「おや〜、ひーちゃんと〜? あれ、そちらは〜もしや〜? もしかして……カ」

「──モカ、やめときな」

「リサさ〜ん、びっ……くりしたなぁ〜」

「ひまり、そっちの体調は?」

「この通り、病人です」

 

 机に突っ伏してコーヒーの匂いにちょっとだけ癒やされていると聞き慣れた声がして、顔を窓からそっちに向けると全体的に派手めなギャルっぽい人が、また誰かさんと同じで犬でもあやすように頭を撫でてくる。優しい手は、俺を惨めに、だけど胸に溜まった黒いモヤモヤを吐き出させる。

 

「……花音が、花音が……」

「カレシさんに内緒って言われてたんですけど、流石にこれは報告した方がいいかと思いまして」

「ひまり、ナイス判断! これは、キツそうだね〜」

「わざわざ来て……?」

「お節介だからねっ☆」

 

 彼女は今井リサ、ひまりの高校の先輩で、俺と同級生で、花音への片想いを応援してくれるメンバーの中で千聖さんがムチでひまりがなんだろう……横から口出し? だとするならリサはアメの役割だった。マメだし、俺がどんなクソムーブかましても怒らないし、電話要請すると下手すると二時間くらいずーっと話聞いてくれるし。マジで見た目がギャルなんだけど、中身が聖母の如き慈悲を持って、正直甘えすぎてたなぁと振り返って自己嫌悪に陥る人だった。

 

「千聖にも連絡したから」

「……え、や、でもそれは」

「ん? この状態で、この状況で、ゼータク言ってられるのカナ〜?」

「あ……ハイ」

 

 ただなんか怒ってるような気がする。なんで、相談してた間はあんなに優しかったのに! 千聖さんとリサのアメとムチの役割が反転している気がする。後で死にたくなるだろうけど、ちょっとだけ千聖さんにされたあの優しさを期待していました。そうしたらひまりが頭をぽんぽんと二回、優しく叩いてくれた。なんなんだよキミたちはさぁ。

 

 

 

 




浦部(のメンタル)、爆殺!

・サブヒロインズ(ひまり、リサ)
 浦部くん初恋成就のため千聖さんによってリンク召喚された二人。同時に彼には一生縁がないはずだった女友達でもある。ひまりは会うたびに奢らされる後輩、リサは慈愛の女神。メンヘラすぎて最長で二時間電話したことがある。もちろん土下座した。

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