秘密は甘く、恋は苦く   作:黒マメファナ

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評価(スイカ)バーが赤くなりました。流れ出る力をもってこれからも執筆します。

ここから学年がひとつあがります。やっと。


第七話:新しい春が来た

 俺にもついに高校生最後の春が来た。進路とかふわふわしすぎててもう不安でいっぱいなんだけど、とりあえず冬枯れのメンタルはこの桜のようなメンタル……とまではいかずともなんとか春の朝みたいな、寒いんだけど太陽が暖かいみたいなメンタルにはなってきた。ちょっとプラスかなくらい。

 

「光博」

「あ、千聖さん」

 

 そのプラスメンタルの原因、寒い空気に当たる太陽のような存在、それが白鷺千聖さんだった。千聖でいいわよって言われてたけどなんとなく、彼女を呼び捨てにするのは恐れ多いというか、なんか居心地が悪くて千聖さんのままだった。まぁそっちの方が冬から、そしてそれ以前から変化がないから都合いいんだけど。

 

「そっか、羽丘は色変わるんだ」

「そうなんだよね、ネクタイはいいんだけどスカートまで買わなくちゃいけないのはなんか無駄じゃない? リサさんも思いませんか?」

「あはは、確かに」

「ウチは三年で色使い回しだからなぁ」

 

 いつもの羽沢珈琲店で四人席に座る。ウチもブレザーのネクタイは学年で色が違うんだけど、羽丘みたいに学年ごとに色が変わってくんじゃなくて三年間同じ色で、前の代の卒業生と次の年の新入生が同じみたいな感じなんだよね。そういう話をリサやひまりちゃんとしていると千聖さんが不思議そうな顔でこっちを見ていた。

 

「そもそもその慣習がよくわからないわね」

「確かに、花咲川はないもんね」

「ええ」

 

 席順としては窓際に俺、隣が千聖さん、向かいがひまりちゃんでその隣がリサって感じだ。なんやかんやで三年生になってもこの四人の時間は多そうだなぁという感想があった。芸能人、商店街で割と人気のバンド、実力派バンドというこの辺だとみんな顔と名前が一致するようなメンバーなのが俺としては肩身が狭いわけだけど。

 

「どうしたの千聖さん?」

 

 ひまりちゃんとしゃべっているとふと、隣にいる千聖さんに手を握られる何かあったのかと思ってそっちを見ると、千聖さんはなんだか複雑な顔をしていた。リサが妙にニヤニヤしてるのも気になるところだけど。

 

「ほら、ちゃんと言わないと伝わんないってさ」

「リサちゃん……もう」

「なに?」

「春休み、終わってしまったから……」

「ん?」

「うわ、それはニブすぎ」

 

 なんときょとんとしていたはずのひまりちゃんに貶されてちょっとショックを受ける。そりゃ、俺は察しが悪い、ニブいって散々千聖さんにも言われてるけど。俺にイケメンムーブは求めないでほしい。ただでさえ、それで失敗して失恋してるみたいなんだから。ただ優しいリサが助け舟を出してくれた。

 

「春休み、ずっと一緒にいたんでしょ?」

「うん……え、あー」

「なんでうっすいリアクションなの」

「そういえば、今日からあんまり一緒にいられないのかってことに今更気付いた」

「……あなたは本当に」

 

 呆れ顔をされるけど、これは言い訳させてほしい。春休み前あたりから一緒にいることが当たり前になりすぎてて、そういえば今日からそうなのか、そもそもここだと堂々としてるけど、本来は秘密の恋人なわけで、大っぴらに一緒にいることもできないし。そう考えると寂しいな。

 

「いつでも来ていいからね、千聖さん。というか来て」

「光博……ええ」

「はいはい、ごちそうさま」

「まさかここまでバカップルになるなんて思いませんでした」

 

 そんなこと言われても知らないし。バイト先のスタジオももうリニューアルされたし、千聖さんはこれからますますアイドルと女優の両立で忙しくなるから。今までみたいに千聖さんと一緒にいられない。というか千聖さんくらいの大きさの抱きまくらとか欲しくなってきちゃいそうだ。肌触りはこの際求めないから。

 

「結局、花音さんのこともよくわかりませんでしたし」

「だよね」

 

 ひまりちゃんが調べたところによるとどうやらバイトリーダーさんのおうちが厳しい? のかよくわからないけどおおっぴらに付き合うわけにもいかなくて内緒にしてたらしい。それが大学一年生の夏休み、つまり去年の夏休みだね。この時期に一人暮らしと自由を勝ち取ったのだとか。というかそのために時間ギリギリまでバイトしてたっぽい。

 

「すごい人だね」

「先輩は、そういう人だからね、誰かとは大違い」

「へぇ、やっぱ最初から光博に勝ち目はなかったってこと?」

「そうね、相手が悪すぎたわね」

「みんな好き放題言うね」

 

 でもそれを笑い話で済ませられるようになったのは、千聖さんがいてくれたおかげだ。前までだったらその情報だけで胃がキリキリしてただろうけど。ただ、この場にいる全員がこの一連の顛末の全てに納得したわけじゃない。じゃあどうして花音はあんだけ俺への距離を詰めてたのってこともある。秘密にしなきゃいけない状況をなんとかしたかったら夏で終わればよかった。情が湧いたにしてはあまりにもクリスマスより後の状況が俺に優しくなさすぎる。

 

「ま、可能性としては秘密で抑え込まれてた現状打破に光博の恋を利用して一歩踏み出させたけど、そもそも隠す必要のない光博に靡いてて、ヘタレ過ぎて飽きたってとこ?」

「俺それだったらもう花音のこと純粋な目で見れない」

「私も、花音のことを……そんな子だとは思えないけれど」

「もしくは、実は先輩がとんでもないクズで花音さんを束縛してて、助けを求めてたとか」

「けどバレて逆戻り的なことか」

 

 色んな可能性は出てくるけど、まだピースが足りてないってところか。でも俺が千聖さんと付き合い始めたことで、この話題はいつしか忘れられることになるだろう。そう思っていた。それにもうきっと俺のことなんか興味もないだろうとか勝手に思っていた。千聖さんが保険に保険を掛けてリサとひまりちゃん以外に関係を明かさないでと言われてたことの意味を俺はわかってなくて、油断していた。

 

「いらっしゃ……い」

「光博くんこんにちは」

「あ……うん」

 

 まさかバイト先にやってくるとは思わなかった。お互い一人というのも久しぶりな気がした。あの家での気まずいシーン以来、ってあの時のことはちゃんと謝っておきなさいよって千聖さんに言われてるんだった。直接会って話すことなんてもうないやろとか言って楽天的に考えてたけど、俺のバイト先、花音の近くなんだよなぁ。

 

「キレイになったんだね」

「昨今流行だからね、ガールズバンド」

「みたいだね」

「みたいって、花音もその流行で語られる一人だけど」

 

『ハロー、ハッピーワールド!』といえば、その流行、なんだっけ。そうそう大ガールズバンド時代の先駆けみたいな存在であり、リサの所属している『Roselia』やひまりちゃんの『Afterglow』なんかも名前が上がる。そっかぁとのほほんとした笑顔をしてくるのは、俺の知ってる花音のまんまで、でもこれだけは言っておかないと、と現在接客中なのも忘れて頭を下げた。

 

「ごめん!」

「ふぇえ……? 急に、どうしちゃったの……?」

「どうしちゃったのっていうリアクションはちょっと違うような……じゃなくて、この前体調不良の時、家に来てくれてたのに酷いこと言ったの、謝れてなかったから」

「ううん、きっと……私は、怒られて当然のことしたから」

 

 花音は変わらない。花が咲くようなキレイな笑顔で微笑んでくれる。俺が大切にしたい、ってずっと想い続けていた今は届かない花。千聖さんがいる身で、すごく申し訳ないんだけどやっぱりまだ引きずってるから、言わば昔の恋心が蘇ってくるようで。胸がズキズキする。なんで、こんな顔ができるんだろう。なんで、まだその顔ができるんだろう。

 

「花音は」

「うん」

「……カレシいるんだよね?」

「うん」

「俺と、そのデートした時とか、カレシがいたんだよね?」

「え、()()()

「へ?」

 

 脳内がフリーズする。どういうこと? でも一年半以上前、花音がまだ高校一年生の夏頃にお付き合いしたんじゃないの? 俺、ひまりからそういう情報をもらってるんだけど、証拠というか当時の様子を教えてくれた主婦さんとかいらっしゃるらしいんですけどそれとは矛盾しませんか? 

 

「えっとね……あの、怒らないって約束してくれる……?」

「……怒る要素あるの?」

「うん」

「うん、って」

 

 とはいえ花音のこの顔にとことんデレッデレだった俺はあんまり断ったり怒ったりできなくなってしまう。メンタルが千聖さんのおかげで回復できてるのが、こんな形で悪い出目を出すなんて思わんかった。マイナスメンタルだったら怒る怒らない以前に耳塞いでたかもしれない。その方がいいのか悪いのか、わかんないけど。

 

「そもそも、俺は花音に怒れないから」

「でも、前は」

「前はメンタルボロボロだったんだよ」

「そ、そっか……えっと、確かにカレと()()にお付き合いしたのは、その時期だったよ」

「最初……」

 

 その言葉に花音は頷く。最初、最初ってことは、つまり……最初ってことか。ちょっとまって俺の穴だらけの脳みそじゃ意味がわからんのだけど、最初ってことはあれか、えっと二度目があるってことでいいのか? 二度目ってなに? やばい今絶対煙出るくらいファンが回転してる感覚がする。

 

「一回ね、お別れしちゃったの……色々あって」

「え?」

「クリスマスにまたお付き合い始めたんだけど」

「……まじか」

 

 クリスマスね、はいはい。つまり朝を迎えて俺と別れた後に付き合ったと。メンタルに結構なダメージ受けたよ今。そんな傷だらけにされた挙げ句にいつまでしゃべってるのという視線を浴びて俺は慌てて仕事に戻ってしまう。肝心な話を聞く前に、ああそうだゆっくり聞けるかだけ最後に訊ねていく。

 

「続き、後で聞かせてくれる?」

「うん、バイト終わるまで、待ってるから」

「わかった」

 

 手を振ってスタジオに入っていく花音を見送ると、まぁまぁなんてテンプレなんでしょうとため息を吐きたくなるリアクションが後ろから聞こえてくる。それを発するのはウチの両親とも何かと気に入られてる年上の兄貴分でもある幼馴染がなるほどなぁとか頷きながらニヤニヤ顔で肩を叩いてきた。

 

「なんだよ、かわいいカノジョだな」

「違う」

「へぇ、友達?」

「まぁ」

「ふ〜ん」

 

 こいつ、嫌い。なんでかってこいつ俺の好きを取り上げることに喜ぶを覚えるクソド変態だから。まず小学生低学年の時に好きだった近所のこいつと同じ年の女子を数年後、俺が小四くらいの時にわざわざ俺んちに二人で遊びに来た上で人んちでヨロシクヤッてたクズ野郎。挙げ句好きじゃなくなった頃に貸してやるとか意味不明なこと言い始めた。いらん。その後も中学生の時に話しかけてくれてちょっと好きだなって思った子もこいつの性欲の餌食になった。

 それ以外にも好きな食べ物は真っ先に食べてくるし俺のお気に入りのポケモンを知るなり対戦でソイツのメタばっかり持ち込んでくるし、このバイト先だって俺がバイトしたいって言ったら親使って無理やりここで働かせてきてる。まぁ時給いいし、いいんだけど千聖さんには二度と近づかないようにって言ってある。

 

「アソビはやめたんじゃなくて?」

「やめたんじゃなくてオレからアプローチはかけないだけ、それでも抱かれたいってセフレはいっぱいいるからな」

「あっそ」

「童貞くんには気がすすまない話だったな、悪いな」

 

 言わせておけばいい。というかこのバイト辞めたい、絶対なんかの理由つけて辞めてやる。つかハタチ過ぎてまでさ、特定のカノジョ作らずに飽きずにセックスセックスってキモいんだよな。あのバイトリーダーさんを見習ってほしい。多分あの人めちゃくちゃ人格者だと思うから。NTRはよくないとか言ったけど本気でそれをしてくるこのカス幼馴染とちゃんと花音のことを好きっぽいバイトリーダーだと雲泥じゃ済まない差がある。

 

「んじゃあオレ、さっきの子の部屋行ってくるわ〜」

「アプローチ掛けないんじゃないの」

「いやいや、偶にはそういう勘みたいなのを研ぎ澄ませとかないと」

 

 一生鈍らせておいてほしい。そう思いつつ花音にもそろそろこのスタジオはやめた方がいいことを伝えるとするか。さすがにレイプとかはしないよなあの男でも。それはちょっと心配だったけど数分後にちょっと苛立ち気味にセフレに電話してたからフラれたらしい。いい気味だと思う。ざまぁみろ。すっとした。そうやって性欲に溺れるからロクでもない男になってしまうんだよバーカ。つか今ので辞める算段がついたのが一番でかかった。そろそろ俺も両親が言うことと違うことをやってみる時がきたのかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モブ
・幼馴染
 バンドマンでありスタジオのオーナーの息子。スタジオをヤリ部屋と考えているタチの人間であり浦部くんがセックスにマイナスイメージを持っていた原因のうちの100% クソカスだが外面はいい。25歳

☆9みっつ! ありがとうごさいます! 毎日投稿頑張りますのでよろしくお願いします!

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