砲煙くすぶる戦場のただ中に、黄金が転がっている。それは一人の少女だった。
土にまみれてなお美しい金の髪の、持ち主もまた宝石のような可憐さを放っている。
だが、その美貌に相応しくない軍服の、腕から先がない。あるいはこの情景を見た者は、こんな戦場に女子がいるはずもなく、少女は実は人形で、ミロのヴィーナスのような美術品なのではないかと疑ったかもしれない。それほどに周辺とは不釣り合いで、泥中でも褪せることのない輝きを保っていた。
だがそれももうすぐ消える。少女の欠けた腕からは、とめどなく赤い命が流れていた。ぬかるんだ土に染み込む血は、あと数分で致死量に到達するだろう。
「しょう、さ……」
少女がうめく。ショック死してもおかしくない重傷だが、理外の頑強さで上官を探すだけの意識を守っている。それでも瀕死であり、もはや思い人を助けに走る能力は無い。強さは苦痛を長引かせるのに役立つだけだった。
少女が死の淵にあって思うのは、後悔でも怒りでもなく、疑問。最後にあの人が残した言葉の意味が分からないこと。それだけが無念だった。
立ち上がろうにも腕が無い。助けてくれる友軍もいない。血は流れ続ける。戦場では珍しくもない、終わりの光景だった。
「大丈夫かね!きみ!」
しわがれた、よく通る声が少女の全身に響く。美しいとは言えないが、人の耳に残る、実用本位の、兵士の声だ。
「に、」
逃げて。と言おうとした。彼女は守られることに慣れていなかった。数十万の戦士が激突するこの戦場で、彼女は誰よりも強かったから。
だが、意思を伝える力はもう残されていなかった。失血が危険な領域に達していたこともあるが、彼女の世界そのものであった人からの言葉が、彼女の心を苛んでいた。
無論、そんな心の動きを察するはずもなく、兵士は少女の元へ駆け寄る。
「ひどいな。腕が消えてる」
肩の付け根にきつく包帯が巻かれる。傷の保護ではなく、とにかく血を止めるためのものだ。普通は塹壕まで引きずっていくのだが、その時間も惜しいと判断したのだろう。
冷静というより命知らずだった。すぐ横で砲弾が炸裂しているのだ。いつ砲撃に巻き込まれて木っ端微塵になってもおかしくない。狙撃手にとっては、負傷兵に近づく兵士は最もいい的になる。塹壕の外にはあらゆる危険が吹き荒れていた。
だが砲弾は来ない。男は負傷の状態を見て、的確に対処している。勇者に神がほほ笑んだのか、止血が終わるまで、二人の近くに銃弾一つかすめることはなかった。
「よし、大丈夫だ!幸い他に傷はないぞ!安心したまえ、すぐに病院に着くとも。私は衛生兵ではないが、ものを運ぶことには慣れているからな!」
驚くべき男だった。これまで彼女にとって、自分の上官以外は背景に過ぎなかった。倒すべき者と、守るべき者。そのどちらかでしかなかった。
自分を助けたこの奇妙な兵士は、そのどちらでもない。それに、今まで見たことの無い格好をしていた。鉄兜に歩兵銃。そして肩に下げた大きなバック。正確には後方で何かをしている兵士に、似た軍装の者がいたが、注視したことは無かった。
「あな、たは……」
「ん?私かね。まあ郵便屋みたいなものさ。そら!行くぞ!少しでいい、足を動かしてくれ!」
汗にまみれて、ぜいぜいと息を切らしながら、男は走る。少女からしてみれば、本来自分が発揮できる力の半分ほどもない、非力な人間。それでも彼は必死にあがき、命令されたわけでもないのに自分を助けようとしていた。
なぜ、そんなことを。あなたは、なにを思って。
それは、愛というものに関係あるのですか?
そう尋ねようとしたが、少女の意識は川底の泥のように沈んでいく。
兵士たちの叫びが遠くに聞こえた。
「伝令兵!伝令兵はおるか!伝令!」
「おります!ここにおります!第16歩兵連隊所属、アドルフ・●●●●!」
マジでヤバいので文句は甘んじて受け入れます。書いてみたくなったんです。
叱られたら消します。