塾講師がTS異世界転移したけど教え子たちしかロボを動かせない 作:星野純三
わたしは兄さんの計画に反対した。
船を丸裸にして、四機のカニロボでティラノサウルスの巣を攻めるというのは、いくらなんでも無謀すぎる。
いくら巣にとびきり巨大なティラノサウルスがいても、だ。
「船は近くの森に隠すから大丈夫だ。これだけ森のなかの魔力が高ければティラノサウルスも気づかないよ」
と兄は言う。
ティラノサウルスは魔力を辿ってわたしたちや耳長の村を襲っていたのだ、という話だ。
そしてこの周囲の魔力濃度は、耳長の村の五倍、荒野の十五倍。
「本当にティラノサウルスが魔力に引き寄せられるかどうか、まだわからないよ、兄さん」
「それも作戦に組み入れる。ミナちゃんのカニロボのハードポイントにブースターをつけて移動させて、ティラノサウルスがおびき出されれば……」
そうか、船と同じでカニロボも魔力を放出する。
カニロボにブースターをつければ、いっそう濃厚な魔力が出るだろう。
それこそ、この周囲の魔力よりずっと濃厚に違いない。
「その隙に、ハルカちゃんとアキネちゃんの機体でデカティラノを強襲する。デカティラノ本体は倒す必要がない。そばの機械、きっとあれが諸々の原因だ。あの機械だけを破壊して離脱する」
「で、わたしはミナちゃんの護衛、と。……船の護衛にまわっちゃ駄目かな」
「ミナちゃんの機体の武装は狙撃特化になる。万一、ティラノサウルスに接近されたら危険すぎる」
ぐうの音も出ない正論。
ハルカちゃんとアキネちゃんは小学六年生の双子で、カニロボの射撃武器を使うのが苦手。
そのかわり、接近戦ではわたしでも勝てないくらい上手な子たちだ。
あの双子、格闘ゲームとか得意だしスポーツも得意だし、とにかく直感的に身体を動かすことに関してはすごいんだよね。
ちなみにミナちゃんはそのへん、とてもどんくさいというか身体の扱いがうまくないというか、平坦な道で転ぶ才能があるというか……。
まあ、そうだね、ミナちゃんの護衛はいるよね。
わたしはおおきなため息をつく。
兄さんをじっとみつめる。
女性になって、なんかすっごく美人になって、おっぱいもわたしよりおおきくなった兄さんが、少し困ったような顔でわたしを見つめ返す。
さらさらの銀の髪、ルビーのような紅の双眸。
でも兄さんの面影がある顔だ。
仕草なんて、もう完全にいつもの兄さんだ。
うう、ずるいよ兄さん、そんな顔をするの。
断れないじゃない。
「わかった。でも、少しでも危なくなったら連絡して。すぐ助けに行くから」
結局、いつだって。
わたしが折れることになるのだ。
→〇←
作戦の序盤は、予定通りに進んだ。
わたしの機体は、ミナちゃんの機体のそばにくっついて森のなかを移動する。
どちらも背中のハードポイントにブースターを二基くっつけているから、いつもより少し動きが鈍いのが気になる。
カニロボは銀色の甲殻型装甲をまとったロボットだ。
四足歩行で、さらに二本の手がハサミになっている。
全長は六メートルくらいで、十メートルくらいあるティラノサウルスよりだいぶ小柄。
でもカニロボのハサミはティラノサウルスを簡単にバラバラにしてしまう。
ハサミのつけ根から出す虹色のビームはティラノサウルスの翼を簡単に貫く。
ちゃんと操作できれば、わたしたちの方が圧倒的に強いはずだ。
上空で少し大きめの鳥に擬態したドローンが三機、舞っている。
兄さんが船から操作しているやつだ。
そのドローンが舞いかたを変えた。
「来るよ、ミナちゃん」
「はい、わかりました!」
ミナちゃんのカニロボが、ブースターで加速する。
上空の鳥ドローンたちが退避した。
入れ替わりに、ティラノサウルスが四体、青空を背に急降下してくる。
ミナちゃんのカニロボがハサミを上に向ける。
ハサミから放たれた虹色のビームがティラノサウルスの一体の翼を焼き切る。
そいつは苦痛の咆哮をあげて、あらぬ方角へ落下していく。
「あっちの高台に行きます!」
「あ、待ってってば!」
ミナちゃんの機体が近くの小高い丘を目指す。
森の木々で射線が切れることを嫌がったのだろう。
だからって身を隠す場所のないところに行くのは無謀だってば!
慌てて追いかけた。
こっちもブースターで加速。
シートに身体が押しつけられる。
カニロボの操縦席は狭いけど、シートはふかふかだ。
たぶん、こういう加速にパイロットが耐えられるように、という配慮なんだろう。
おかげで、この加速にもなんとか耐えられる。
カニロボが浮き上がる。
跳躍で木々を飛び越え、丘の上に着地。
周囲の草が、土砂ごと舞い上がる。
ミナちゃんの機体が反転するや否や、ひときわ太いビームを放った。
後部モニタに視線をやれば、こちらを追いかけてきたティラノサウルスの一体の頭部にビームが命中している。
そのティラノサウルスの頭部が消滅して、勢いを失い森に落ちていく。
前面のモニタではミナちゃんのカニロボのブースターが灰色の煙を出していた。
あー、壊れちゃったかー。
こっちの状態は、と手前のパネルに指を走らせる。
あ、ブースターの片方が脱落してる。
今の機動は無茶だったね、うん、覚えた。
とりあえず自分の機体のブースターを切り離す。
ロケットみたいな二本のブースターがハードポイントから外れ、ごとりと地面に落ちる。
ミナちゃんもすぐわたしにならって、同じことをした。
さて、残るティラノサウルスは二体……。
と思ったら、この高台からだとよく見えるねえ……。
わたしたちに向かって飛んでくる、追加で十体以上のティラノサウルスの群れが。
「全部来たかな?」
「二体倒して、今見えるのが十四体です。まだ谷に少し残っているでしょう」
「それくらいなら、双子に任せちゃって大丈夫か」
わたしたちは自分たちのできることをするしかない。
ミナちゃんといっしょに、カニロボのビームをひたすら連射する。
でもわたしのビームはあんまり当たらなくて、ミナちゃんのビームは着実に一発で一体ずつ落としていく。
ひ、人としてのスペックの差を感じる……。
ミナちゃん、なんでそんな射撃が得意なの。
「ねえミナちゃん、今度からのび太ちゃんって呼んでいい?」
「こんな時になに言ってるんですか!?」
射撃音に混じって、悲鳴みたいな声が拡声器から聞こえてくる。
うん、ミナちゃんの悲鳴を聞いて、少し落ち着いた。
わたしはミナちゃんより少し前に出て、急降下してきたティラノサウルスの頭をハサミで受け止め、勢いを殺さずえいやっ、と後ろにぶん投げる。
そのティラノサウルスは空中で回転しながら森に落ちていく。
頭から地面に落下したから、きっと再起不能だろう。
よしっ、わたしはわたしにできることをしよう。
幸い、残りのティラノサウルスはだいぶ少なくなって……。
と、そのときだった。
ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。
なんか、やばい。
「ミナちゃん!」
わたしはとっさに、ミナちゃんの機体に体当たりした。
ミナちゃんの放ったビームが狙いを逸れて、ティラノサウルスの一体が命拾いする。
でも、今はそんなの構わない。
ミナちゃんが抗議の声をあげる。
無視。
そのままミナちゃんの機体を抱えて加速、丘から跳躍する。
直後、谷の方でなにかが光った。
虹色のめちゃくちゃ太いビームが、ほんの少し前までいた丘をまるごと薙ぎ払っていた。
デカティラノの口からビームだ。
あれを浴びたら、きっとヤバかった。
このカニロボでも耐えられなかっただろう。
空中で、わたしはほっと息を吐く。
危機一髪だった、とモニタを一瞥する。
ミナちゃんの機体もろとも落下しながら周囲の状況を確認して……。
あっ、と声が出る。
それは拡声器でミナちゃんにも伝わったのか、彼女のカニロボが少しびくんとした。
でもそんなこと気にしてはいられなかった。
デカティラノの極太ビームで森の木々が広範囲にわたってなぎ倒されていた。
それによって、わたしたちの船が、兄さんの乗っているランドシップが、丸裸の状態になっていた。
ビームはかろうじてランドシップから外れた様子だったが……。
「ティラノサウルスが、船の方に!」
ミナちゃんが悲鳴のようにそう叫ぶ。
見れば、たしかにティラノサウルスたちは翼をはためかせ、方向転換してランドシップの方へ向かっていた。
え、なんであっちに行くの!?
あ、そうか。
ビームが薙ぎ払ったせいで、周囲の魔力が一時的に消えたのか。
だからランドシップの魔力がティラノサウルスから丸見えになった。
わたしの頭のなかで、知らないはずの魔力に関する法則が駆け巡る。
ひどい頭痛を覚えた。
嘘、わたしこんなの知らない、わたしの頭のなか、どうなっちゃったの……?
いや、そんなことはどうでもいい。
兄さんが危ないんだ。
「行ってください!」
ミナちゃんの機体が空中で方向転換する。
二本のハサミが、わたしの機体を力強く打ち出す。
わたしの機体は、宙髙くランドシップの方へ跳んだ。