葎凛抄『シロツメクサの甲子園』   作:風早 海月

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第10話

 

 

 

 

3回の裏、一死二三塁。

エラー2つと安打1つで1点を返された新越谷は、なおもピンチを背負っていた。

 

(光先輩のコントロール低下を意識しすぎて珠姫ちゃんの配球が読まれてる…?まだ継投には早い…どうする…どうしたら…)

 

「タイムお願いします」

「タイム!」

 

理沙がタイムをかけて、ベンチに戻ってきた。

 

「芳乃ちゃん、迷ってる?」

「え…はい…すみません」

「亀平さんは敬遠して満塁策にしましょう?」

「…でも」

「策ならあるわ」

 

理沙は少し困り顔になる。

 

「あまり経験はないけど…ね」

 

 

 

 

「守備位置の変更、お願いします。サードの藤原がピッチャー、レフトの川口がサード、ピッチャーの川原がレフトに、それぞれ入ります」

「ピッチャーが藤原さん、サードが川口さん、レフトが川原さんですね」

 

新越谷は継投策に入った。

 

クラブチームで右のワンポイントやバッピとして投手も経験した理沙を火消しに使う。

 

2番亀平を相手に、4球連続でボール球を放り、一死満塁となる。

 

 

「全部明らかにボール球だけど…重そうな球ね」

「今度バッピ頼めるかいな!?」

 

守備変更のため、マウンドでの投球練習の他には肩を作っていなかった理沙。右対左になる亀平を敬遠して、その敬遠球を投球練習にした。

満塁策と投球練習とを両立させた…クラブチーム仕込みのリリーフ策だ。

 

理沙の投手としての適性を表すとするなら、先発△の中継ぎ△の抑え×といった感じだろうか。

今のところリリーフが適しているという訳では無いものの、クラブチームでは試合を作るレベルには達していなかったために、リリーフとバッピという感じだった。

 

それに対して、柳大川越打線は『振れてない』打線だ。唯一の長打力と言えば4番の浅井くらいか。

だからこそ、理沙の重い球は今回の火消しにはちょうど良かった。

 

 

3番の山本に渾身のストレートを投げ込む。

球威に押されて打球はポテポテのピッチャーゴロに。

 

三塁のランナーである大野はピッチャーであり、足もそこまで速くはない。落ち着いてキャッチャー珠姫に送球して、ホームでフォースアウト。次いでファーストに送球して希が一塁を踏みながらキャッチ。一塁もアウトでゲッツー。

 

「1-2-3!」

「ナイスゲッツー!」

 

ゲッツーに直接関わった理沙・珠姫・希は、確実にゲッツーを取って勢いを取り戻すという意識が共有できていたからこそ、己の起こすべき行動を判断した。

逆に臨時でサードに入っている初心者の息吹や、まだ若干状況判断の弱い稜がプレーに直接関わっていたら、ゲッツー崩れや野選となっていた可能性すらある。

 

それほどまでに正確なコンビネーションだった。

 

何を置いても理沙の『内野手としての年少時からの経験』は他のピッチャーにはあまり無いものであることは武器である。

 

 

 

 

4回の表、新越谷の攻撃。

 

打順は5番、理沙。

6球粘るも、最後はショートライナーで倒れる。

6番稜はサードフライに倒れ、7番息吹はなんと11球粘って四球で出塁。

 

 

二死一塁で8番白菊。

 

「白菊!打てー!」

「ホームランだー!」

「はい!いきます!」

 

ここで白菊はブンブン丸の本領発揮。

初球から振っていき、ボールの上っ面を叩いた。高いバウンドで、余裕の一塁セーフ。

 

 

二死一二塁の場面。

9番の光が打席に入る。

 

(こいつは長打力のあるバッターだ。慎重に勝負だ)

(わかってるってーのっ!)

 

柳大川越のシフトは僅差の終盤によくある『シングルヒット絶対失点しないシフト』を敷いていた。外野は若干前に、ファーストとサードはライン際に。

それは、投手への信頼だ。長打は絶対に打たせないという信頼が、その守備シフトを選択させた。

そして、それは功を奏する。

 

光は普段ならセンター前ヒットだったであろう当たりを打つも、前進気味のセンターがワンバウンドで捕球してすぐにファースト送球。一塁アウトでチェンジ。

 

(そんな…今の場面は英詠ちゃんを使うべきだった…?でもまだ4回なのに、穴だらけの守備にさらに穴を…?)

 

そして、指揮官の投手への信頼の差が趨勢を分けた。

 

 

 

 

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