葎凛抄『シロツメクサの甲子園』   作:風早 海月

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第12話

 

 

 

5回の裏、柳大川越の攻撃は9番大野から。

 

打力という意味では、2年次はエースの座を朝倉に奪われながらも、センター背番号8番のスタメンを勝ち取っていた大野は上位打線に入ることもあった。侮ってはいけない打者である。

 

故に、珠姫はしっかり抑えるリードを組み立てた。

 

 

打順…ラインナップ。それは、チームの選手事情、指揮官の采配や好み、相手関係、その他様々な理由で組み上げる。

 

大野が9番打者をしているのは、柳大川越の監督が投球に集中して欲しいと思ったからであって、現在のチームでも最低でも5または6番打者が一般的には適正だろう。

 

だが、こうも見逃しされてはリードする珠姫も混乱するというもの。

 

実際は投手交代にぼーっとしてただけだが。

 

 

2-2からの直球。僅かに高く浮いてしまった球を大野が反射的に打つ。

投球というのは、どんなにコントロールの良い投手であっても9分割や4分割を最初から最後まで完全にコントロールするのは不可能に近い。

 

「白菊、下がれー!」

「ハイ!」

 

大野の打球は白菊が捕球する前に落ち、フェンス際まで飛んだ。

 

「白菊ちゃん!ボール3つ!」

 

白菊の肩は、肩のみ見れば超高校級だ。

まぁ、まだ技術は全然なのでレーザービームというよりは砲撃と言えるような送球だが。

 

(際どいタイミング…!でも、負け投手じゃ終われないのよ!)

 

三塁への送球と、打者走者大野が飛び込んでくるのは同時だ。

 

 

「セーフ!」

「しゃぁ!見たか朝倉ー!」

 

 

無死三塁のピンチ。

ここで柳大川越は上位打線、1番大島に繋がる。

 

先のイニングと異なり自ら招いたピンチに、詠深は揺れる。

 

(確かにヨミちゃんの直球は初戦負けにはもったいないレベルの直球だけど…高校野球の県トップレベルの上位打線に通用する球ではない…だから、あの球をいかに使うか…)

 

珠姫は初球、あの球を要求する。

 

だが…

 

(甘いっ…)

 

変化が甘く、あの魔球とはレベルが違う、ただの縦スラがど真ん中に入ってきた。

 

1年で柳大川越のリードオフガールを任される大島にそれが通用するわけもなく…

 

金属バットらしいカキィン!という快音1発。

綺麗にセンター前へ。

 

「負け投手はおさらばよ!」

 

三塁ランナー大野はホームイン。大島も一塁はセーフ。二塁も狙おうとしたが、怜に牽制されてそれは叶わず。

 

 

 

無死一塁で2番が送って一死二塁へ。

 

一打勝ち越しの場面で、柳大川越は3番山本。

 

やはりあの球のキレが良くなく、レフト方向へ大きなフライが飛ぶ。

 

「ゴー!」

 

大島の足と、バックホーム…その競走が始まった。

 

稜がカットして本塁へ。

 

珠姫が捕球して、大島をタッチ…

 

「セーフ!」

 

出来なかった。

 

そもそも稜の送球が少しズレて本塁から少し離れて捕球せざるを得なかったためだ。エラーこそつかないレベルの話だが、これは稜の送球ミスだ。

 

 

5回裏二死。ここで柳大川越はとうとう新越谷に勝ち越した。

 

 

 

「タイム」

 

珠姫は詠深の手を掴んだ。

 

「…ヨミちゃん、何かあったのかな?」

「さぁ?」

 

手に汗を握る光が心配そうに見守る。

 

「…ちょっと素振り行ってくる」

 

英詠は自分の仕事の時が近いことを感じた。

 

 

キレを取り戻した詠深は4番浅井に仕事をさせずに三振に討ち取った。

 

 

 

 

 

6回の表。新越谷の攻撃…なのだが。

去年の夏のエース、朝倉が登板したことで状況は一変。

 

「朝倉さん、すごい。キャプテン、理沙先輩、稜ちゃんが何も出来ないなんて…稜ちゃんに至っては三球三振…」

「その後は初心者2人に武田さんですが…」

 

 

守備についている新越谷。

6回の裏に、柳大川越は代打攻勢…というより1年生に出番を譲る形での代打が打席に立っていた。

 

そのレベルであれば詠深のキレさえあれば大きな失点には繋がらない信頼を寄せていた芳乃は、すぐに最終回の戦術を練る。

 

「…打撃練習の結果としては、長打力は白菊ちゃんとヨミちゃんで、ミート力と選球眼なら息吹ちゃん…将来的な可能性も考えれば白菊ちゃんと息吹ちゃんには朝倉さんの球を見て欲しいんだよね…」

 

芳乃はため息をつきながら最終回へと切り替えた。

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