1回裏、柳大川越の攻撃。
1番は大島。
マウンドには光。
(光先輩は球威で押してくタイプじゃなくて、変幻自在の投球で逃げ切るタイプ…でも)
珠姫は初球、ど真ん中にストレートを要求する。
(え、ど真ん中にストレート!?)
(大丈夫です!腕振り切って行きましょう!)
自信ありげに右手を振り切る珠姫のジェスチャーに、光はコクンと頷いた。
(へぇ…振り切る動作…ストレートを振り切って…って意味スかね。先頭打者だけど、好球必打スけど、良いんスかね?)
光が投球動作に入る。
球が投げられた。
(…ッ、低…いや!ど真ん中スか!?)
ぶんっと空振り。
(ボール2個分も下を振ってしまったスね…これは伸び…どころか浮いてるスよ!?)
実際に浮き上がる訳では無い。
野球の硬球が浮き上がるには、向かい風5mの条件で50回転/s以上で160km/h以上という条件が重なった時のみである。
だが、人間の知覚上、放物線上に落下するコースを直線と思い込む習性があるため、揚力で放物線から外れるストレートに『伸び』を感じるのである。
ちなみに無重力状態で宇宙飛行士がキャッチボールをしたところ、脳の認識がおかしくなったのか捕球出来なかったらしい。
ただの錯覚。されど錯覚。
見えてなければ打てない。
(次も)
(またど真ん中!?)
だが…
(まだ上スか!)
カウント0-2。
(最後は…低めにチェンジアップを)
(うん)
光のチェンジアップは決して変化量は大きくない。いわゆる『落ちないチェンジ』である。だが、その球速差は遅すぎず速すぎずのちょうど良い『使いやすい』チェンジアップだった。
球速が遅すぎればカットされるし、速すぎれば打ち頃の球になる。
(ぐっ…タイミングがズラされ…)
タイミングもさることながら、コースもストレートを想定したバットの下を潜って行った。
「ストライク!バッターアウト!」
先頭打者大島は僅かに3球で空振り三振となった。
☆☆☆☆☆
今空振り三振となった柳大川越の1番、大島留々は古谷ガールズ出身の高校1年生である。
故に、美南ガールズ出身の珠姫を知っていた。仮にも同じ県内の全国区レベルのチームで、2年生ながらに正捕手を務めた名捕手を知らないわけがなかった。
(生意気なリードはそのままスか。ストライク先行で遊び球をあまり使わないリード。
多分、山崎のリードとあのピッチャーのタイプは相性が良いスよ…)
大島は2番の亀平に打席で感じたことを教えると、ベンチにどさっと座った。
(しかしあのピッチャー、どうも
ストレートの球筋からは球威は大したことないス。多分バッターから逃げるタイプの技巧派投手…変化球がチェンジだけなはずないスよ…
初回の2点、どうにも重い2点になりそうっス)
大島は珍しく真剣な瞳で2番亀平に投じる投手光を見つめるのだった。
光「わ、私臭い!?」
英詠「??」