葎凛抄『シロツメクサの甲子園』   作:風早 海月

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第7話

 

 

 

 

1回裏、柳大川越の攻撃。

 

1番は大島。

 

マウンドには光。

 

(光先輩は球威で押してくタイプじゃなくて、変幻自在の投球で逃げ切るタイプ…でも)

 

珠姫は初球、ど真ん中にストレートを要求する。

 

(え、ど真ん中にストレート!?)

(大丈夫です!腕振り切って行きましょう!)

 

自信ありげに右手を振り切る珠姫のジェスチャーに、光はコクンと頷いた。

 

(へぇ…振り切る動作…ストレートを振り切って…って意味スかね。先頭打者だけど、好球必打スけど、良いんスかね?)

 

光が投球動作に入る。

球が投げられた。

 

(…ッ、低…いや!ど真ん中スか!?)

 

ぶんっと空振り。

 

(ボール2個分も下を振ってしまったスね…これは伸び…どころか浮いてるスよ!?)

 

実際に浮き上がる訳では無い。

野球の硬球が浮き上がるには、向かい風5mの条件で50回転/s以上で160km/h以上という条件が重なった時のみである。

だが、人間の知覚上、放物線上に落下するコースを直線と思い込む習性があるため、揚力で放物線から外れるストレートに『伸び』を感じるのである。

ちなみに無重力状態で宇宙飛行士がキャッチボールをしたところ、脳の認識がおかしくなったのか捕球出来なかったらしい。

 

ただの錯覚。されど錯覚。

見えてなければ打てない。

 

(次も)

(またど真ん中!?)

 

だが…

 

(まだ上スか!)

 

カウント0-2。

 

(最後は…低めにチェンジアップを)

(うん)

 

光のチェンジアップは決して変化量は大きくない。いわゆる『落ちないチェンジ』である。だが、その球速差は遅すぎず速すぎずのちょうど良い『使いやすい』チェンジアップだった。

球速が遅すぎればカットされるし、速すぎれば打ち頃の球になる。

 

(ぐっ…タイミングがズラされ…)

 

タイミングもさることながら、コースもストレートを想定したバットの下を潜って行った。

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

先頭打者大島は僅かに3球で空振り三振となった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

今空振り三振となった柳大川越の1番、大島留々は古谷ガールズ出身の高校1年生である。

 

故に、美南ガールズ出身の珠姫を知っていた。仮にも同じ県内の全国区レベルのチームで、2年生ながらに正捕手を務めた名捕手を知らないわけがなかった。

 

(生意気なリードはそのままスか。ストライク先行で遊び球をあまり使わないリード。

多分、山崎のリードとあのピッチャーのタイプは相性が良いスよ…)

 

大島は2番の亀平に打席で感じたことを教えると、ベンチにどさっと座った。

 

(しかしあのピッチャー、どうも()()()スね……

ストレートの球筋からは球威は大したことないス。多分バッターから逃げるタイプの技巧派投手…変化球がチェンジだけなはずないスよ…

初回の2点、どうにも重い2点になりそうっス)

 

大島は珍しく真剣な瞳で2番亀平に投じる投手光を見つめるのだった。

 

 

 

 

 







光「わ、私臭い!?」
英詠「??」
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