神喰いは狩人たり得るか   作:E.star

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添〜削推〜敲繰〜り返〜し〜♪ そ〜の〜結果亀〜更〜新〜♪(丼並感)


1.見知らぬ大地

 暖かい木漏れ日の差す林を一匹の丸々とした鳥が、長く伸びた首を伸縮させながら呑気に歩いていた。

 

 ガーグァ、それがこの鳥の名前である。

 

 頭部に平なクチバシと特徴的な黄色いトサカを持ち、つぶらな瞳をくりくりと動かして好物の雷光虫や木の実を探す様は、憎めない愛らしさがあった。

 

 このガーグァは河原に住む他の仲間と比べてちょっぴり勇敢だ。決して、危機管理能力が欠如しているわけではない。

 

 彼は、食べ物が自分の住処である河原よりも、この林の方に多くある事を何となく本能で理解していたのだ。

 ガーグァは用心深い性格なので住処を離れる事はそう多くないが、彼は他の仲間たちと違ってちょっぴり勇敢なので冒険できるのだ。

 

 いっぱい食べ物を見つけて、仲間に自慢してやろう

 

 ───などとは流石に考えていないが……とにかく、彼は食欲を満たすためにこの林へやって来たのだ。

 

 ふと、歩みを進めるガーグァの視界に何かが映った。

 外敵か、警戒したガーグァは動きを止めてそれ凝視する。決して、外敵に遭遇して頭が真っ白になったわけではない。

 

 しかし、いくら待てどもそれはピクリともせず、ガーグァに害を及ぼすような動きを見せない。

 ガーグァの警戒心は次第に好奇心へと変わり、勇敢にも視界に映った何かに向かって接近していった。

 

 

 

 

 木々の枝葉の隙間から点々と注がれる陽の光は、目を瞑ったまま仰向けに倒れているメグミを照らしていた。

 メグミの指が僅かに動くと、それは乾いた土のようにザラついた感触を捉える。

 

 ここは……どこ……? 

 

 ハッキリとしない意識の中、メグミは最後に見た光景を思い起こす。

 

 私は……私は、確かカリギュラと一緒に奈落に……

 

 メグミは少しづつ思い出す。

 半宙返り状態でカリギュラから空中に放り出されたために、天と地が反転したような自身の視界。

 眼下に広がる、全てを呑み込むような深い暗闇。

 そして、背に神機(バスターブレード)が突き刺さったまま自身と共に落ちてゆくカリギュラ。

 一連の出来事がコマ撮りのように想起される。

 

 そして、メグミは気付く。

 

 脇腹が痛く……ない……? 

 

 意識を失うまで感じていた脇腹の痛みが、まるで嘘だったかのように引いていたのだ。

 いくらオラクル細胞に適合して自然治癒力が増したといえど──オラクル細胞との適合率によって個人差はあるが──骨折程の重傷まで行くと短い時間ではそう簡単に癒えない事は、彼女の過去の経験から理解していた。

 

 そうか、私、もう───

 

 死んでしまった。

 

 メグミに、後悔の波が押し寄せる。

 

 あの時自分がもっと注意を払っていれば───

 無線機を捨てる前にしっかり別れの言葉を伝えていたら───

 

 しかし、全ては後のまつり。

 

 メグミにとって新人達が無事に保護されたのは不幸中の幸いだったものの、彼女は彼らが『自分達を庇ったせいでメグミを死なせてしまった』と思い詰めてしまわないかと一抹の不安を覚えた。

 

 新人達は何も悪くない、カリギュラの接近に気が付けなかった自分の責任だ。

 

 今となってはその言葉を伝えられないけれど……と、メグミは自身の無力感に苛まれる。

 

 ───でも、守れたのかな、一応

 

 瞼を閉じたままのメグミの脳裏に過ぎるのは、懸命に生きる居住区の人達と、彼女と共に戦線を潜り抜けてきた支部の仲間の姿。

 

 いくらカリギュラといえど、神機が突き刺さったままの状態であの高さから墜落すれば、無事では済まないはず。

 おおかた生きてはいるだろうが、あの深さから這い上がるのは相当時間がかかるはずだ。

 その間に、支部はカリギュラに対し他所の支部に救援を要請したり、設備を補強したりと何らかの対策を講じているだろう。

 

 メグミがそんな事を考えていると、ふと、離れた場所から踏みしめるような足音が聞こえた。

 彼女には、それが自分に向かってゆったりと、しかし確実に近づいて来ているのが分かった。

 

 私を連れて行くつもりか……さて、神が来るか悪魔が来るか───

 

 ……もっとも、メグミにとってはどちらにも悪い印象しかなかった。

 

 だが……

 

 

「グァーコ」

「は?」

 

 

 あまりにも素っ頓狂な鳴き声をあげながら、それはやってきた。

 メグミの口から思わず間の抜けた声が漏れると共に、弾けるように瞼を開く。

 すると彼女の目は、視界の端から自身を覗き込む鳥頭を捉えた。

 

 それは平たいクチバシと変な形の黄色いトサカ、つぶらな瞳に何とも言えない愛嬌を持っていた。

 

 メグミは恐る恐る目線を横にそらすと、それはずんぐりと丸い体に柔らかそうな羽毛を蓄えていて、彼女の世界では希少な存在である動物らしい風貌をしていた。

 しかし、彼女にとってこんな生物は映像や写真はおろか、文献ですら見た事がなかった。

 

 たこ焼きから鳥の脚とガチョウの首でも生やしたかのような姿を見て、彼女は呆気に取られてしまった。

 

「グァッ、グァッ」

 

 ガーグァはそんな様子のメグミをよそに、彼女のチャームポイント─自称─である頭髪の赤いエクステを(ついば)みはじめる。

 

「いたッ、いッたい! そこ引っ張んな!」

 

 唐突に髪を引っ張られた痛みでメグミは反射的に上半身を起こし、エクステとアイボリーな頭髪を啄むガーグァと取っ組み合いになってしまう。

 ガーグァは彼女のエクステ部分を木の実とでも勘違いしているのだろう。夢中になっている彼は、メグミが目を覚ましたことに気がついていない様子。

 

「や、やめろッ! やめろってこのッ……オイ!」

 

 押しても引いても止まらないガーグァの啄みに、メグミはなりふり構わず彼の丸々とした胴体に手のひらを押し付ける。

 彼女はガーグァを軽く突き飛ばすだけのつもりだったようだが、その身体は存外軽く、勢い余って彼の体は宙を舞った。

 

 

「あっ」

「クエッ⁉︎」

 

 

 そしてその時、ガーグァは思い出した。

 大昔。己の先祖はかつて、今のこの翼では届かない空の世界で生きていたという事に。

 ガーグァの瞳に映るは大空を羽ばたく、在りし過去の同族。

 黄昏時の夕陽を背に、眼下に広がる雄大な大地の果てへ向かう姿。

 

 ───嗚呼、ご先祖さま。己は今、空を───

 

 

 ガーグァは感極まって目尻から涙を零し、太古の雄姿に思いを馳せながら、退化した小さな翼を懸命に動かす。

 

 

 

 だがそんな翼では当然飛ぶことなどできるわけがないので、彼はそのまま地面に尻餅をつくような形で落下した。

 そして、その衝撃で今までの追憶は綺麗サッパリ忘れ去った。

 

「ガァ⁉︎ ガァーコ、グァーコ───キェェェ」

 

 尻の痛みに驚いき、メグミの存在に気が付いたガーグァは、翼をばたつかせながら彼女に威嚇するような鳴き声をあげる。

 メグミはそれを見て一瞬身構えたものの、次の瞬間にはガーグァは彼女に背を向けて慌ただしく逃げ去っていった。

 

「何なの……」

 

 一人林に取り残されたメグミ。

 風が微かに奏でる枝葉の音は、ガーグァとの攻防でボサボサ頭となったメグミの後ろ姿に微妙な哀愁を漂わせた。

 

 

 

 

 メグミは周囲を見渡す。

 先程までガーグァにかかりっきりだった為に気がつかなかった一帯の景色は、どこを向いても生き生きと生い茂る草木に埋め尽くされていて、手を(かざ)して空を見上げてみれば、枝葉の隙間から見えるのは淡い青に染まった空。そして、そこかしこから聴こえる野鳥の囀り。

 

 それは、今まで死と灰に塗れた世界で生きてきた彼女にとって、記録映像でしか見聞きできないような、アラガミ出現前では当たり前のように存在していた、ありのままの自然の姿だった。

 

 変な明晰夢(めいせきむ)でも見てるのかと混乱したメグミだったが、そういえば……と、彼女はとある地域の噂についての記憶を掘り起こす。

 

 ──聖域──

 

 そこは、かつての地球の環境を再生させたような景観をしていて、オラクル細胞が不活性化する……つまり、アラガミや神機は当然として、それを用いたあらゆるモノが正常に作動しなくなる、という場所である。

 

 眉唾な話だけど……でも、もしそれが事実だとして、今見ているこの景色も聖域の一部である……というのなら納得がいく。

 

 そう思ったメグミだったがしかし、ここで彼女は疑問を抱く。

 

 確か、その場所は極東と呼ばれる地域にあったはず。

 そもそも、あの大穴が聖域に繋がるなんて物理的に不可能では? と。

 

 他にもツッコミどころを感じていたメグミだったが、考えるだけ無駄なような気がしたため一旦保留する事にし、周辺の探索をしようと歩き出した。

 

 未知の場所、神機は手元に無い……なるべく慎重に行動しよう。

 

 彼女は周囲を警戒しながら、ガーグァが走り去っていった方角とは別の方向へ足を進めていった。

 

 

 

 交差する低木の枝と、鮮やかな色に染まった茂みを掻き分けながら進んでいたメグミが辿り着いたのは、大きく円状に広がる開けた空間だった。

 それは、雑木林の中にポッカリと空いた穴のようであった。

 その穴を飾るように数本の木々と切り株、朽ちた倒木が散りばめられており、地面には暖色の落ち葉が絨毯のように敷き詰められていた。

 

「ちょっと休もうかな」

 

 口からそう言葉が溢れたが、メグミは別に疲れていたわけではなかった。

 しかし、周辺の落ち着いた雰囲気が彼女をそういった気分にさせたのだ。

 

 メグミは程よい大きさの切り株に腰掛けると、無意識的に空を見上げ息を吐く。

 

 澄んだ青、濁りのない雲、ここからならハッキリと見える。

 彼女は不意に頬を叩く。すると、ヒリリとした痛みが伝わった。

 

「やっぱり、夢じゃなさそう……」

 

 そう言って、メグミは膝下に目線を落とす。

 そこにあるのは絹のように滑らかで白い肌をした手と、手首に接着された無機質な腕輪。

 手錠のように括り付けられたそれは神機使いの証でもあり、ある種の呪いといっても差し支えないモノである。

 

「こんな色してたっけ……?」

 

 メグミの目に映った腕輪の色は錆びた金属のように燻った赤茶色。

 本来の腕輪は、鮮やかな赤色を基調としていたものであり、このような色ではなかったはずだと彼女は疑問符を浮かべた。

 

「……ま、気の所為か。塗装が劣化してるだけ……かな」

 

 大抵の人間は()()()()()()()()()()の変化に敏感だったりするが、メグミは自身の事となると途端に無頓着になる人間だった。

 

 

 

「さーて……どうしよっかな」

 

 食糧(レーション)は無い、野営をする為の道具もない。腰のベルトに着けていた水筒の中に水がたっぷりと残っているのは幸いだったが、それが無くなるのも時間の問題だ。

 

 だがメグミにとって一番の問題は、偏食因子の投与が断たれたという事だ。

 GE、もとい神機使いは、定期的に偏食因子という物質を接種しなければ体内のオラクル細胞が暴走してアラガミ化してしまう。それだけは阻止しなくてはならないのだ。

 

 とはいえ現状、偏食因子に関してはどうにもできないので、取り敢えず食料と火を起こせそうなモノでも集めようかと考えたメグミは、立ち上がって辺りを見回しそれらしいモノに目星を付ける。

 

 そこら辺に生えてるキノコだって、きっと食べられる種類があるはず。

 向こうの切り株の近くに生えてるキノコだって、表面が青くても案外いけるかもしれない。

 

 そう思ったメグミは、おもむろに青いキノコ……"アオキノコ"に近寄って行った。

 

 ───その時だった

 

 ガチャリ、と何かが作動する音が聞こえたと思った瞬間、彼女の足下の地面がスプーンで掬われたかのように陥没。

 それはまさしく落とし穴と呼ぶに相応しい。

 

「なッ……罠ァ⁉︎」

 

 背中で滑走しながら底まで落ちてしまったメグミ。見上げると、地表までは彼女二人分程の高さがあり、存外深い。

 明らかに人の所業、一体どこのどいつだとメグミが考えていると、その犯人はすぐに現れた。

 

「ミャッハー! かかったのミャ!」




これまでに上手いこと描写できなかったメグミさんの外見箇条書き
ヘアスタイル:GE3より、1の前髪をぱっつんにした感じ。イメージに一番近いのはパニグレのSナナミさん。
エクステ:同上、タイプ3
衣装:同上、ラリマーラギット。ただし靴はスニーカー。
目の形:キリッとしてる。

時間軸:2RBエンディング後

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