なんかめちゃくちゃ長くなったので一部中編に付け足してきました……
部屋を出たエヴァンジェリンはすぐにクランへと連絡を取った。
≪クラン、聞こえるか?≫
≪どうしたエヴァ。トラブルか?≫
≪連れ去られた子供を見つけた、一人だ。そいつの安全確保を頼む。私の後を着いてくれば赤い扉があるからその中だ≫
≪お優しいこって。まあ了解。他にはいなかったのか?≫
≪いや、居ない。攫われた女はもちろん山賊すらまだ見ていない≫
その言葉を聞いたクランが僅かに沈黙する。それはそうだろう、根城に入ったというのにまだ誰とも出会っていないのだから。
≪……間違いなく罠だろうな。気をつけろよ≫
≪わかっている、一応奥まで進む≫
念話を終え放っていた使い魔へと意識を集中するとある扉の前から進めなくなっていることに気が付いた。
「あそこか……」
そこまでのルートを確認して一気に翔ける。地を踏み跳び、壁を蹴り進み、最短ルートで目的へ向かう。魔力で強化された体により人間の出し得る最大速を
「ここが臭の元か……」
扉は強力な魔法で封じられているが臭いに敏感なエヴァンジェリンは気付く、それは自分がよく知っている臭い。彼女は呪文を唱えると扉を力技で
そこに広がっていたのは血の海であり、死体の山だった。殺すことそのものが目的だったのだろう、男が女が刺され斬られバラされ皆絶命している。
「なかなか刺激的じゃないか」
普通の人間ならこれほどまでの死体を見ることはないだろう。しかし彼女は違う、見慣れてしまっている。そのことを自覚し自嘲気味に笑う。
「さて、このパーティーの主催者はどこだろうな」
彼女は遺体の一部を手に取るとまだ温かく死んでからまだそれ程時間が経っていない事を理解した。ならば当然近くにいるはずだろうと部屋を周囲を見渡す。そして壁に不自然な穴が開いていることに気が付いた。
「鬼ごっこのつもりか? なら本物の鬼ごっこといこうじゃないか」
吸血鬼の自分と鬼ごっことはシャレが聞いている、とエヴァンジェリは口を吊り上げ笑う。しかしその目は獲物を追う獣の目だった。
後を追うべく翔け出した彼女は気が付かない、もう一つ別な隠し扉があったことを。
××××××
「ひぃ、ひぃ」
御頭は全力で走っていた。後ろを振り返る余裕などなくただひたすら前へ。少しでも立ち止まれば奴が来る、殺される、その脅迫概念が普段よりもより一層足を速めた。
曲がりくねった道を曲がり、段差を昇り、そしてついに外へと出た。目の前には平地がありその先には木々が生い茂っている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
御頭は外へ出てすぐ呼吸を整える為に立ち止まる。体は重く足は棒の様だがまだ逃げなければならない、相手はただの人間ではないのだから。急いで森に入り姿を
「鬼ごっこの相手は貴様か、人間」
だが突如、背後から掛けられた声に御頭は体を硬直さ振り返る。そこには通路からゆっくりと現れる人影があった。
もう来た、すぐそこまで来ていると御頭は頭では分かっているが逃げ出そうとするにも足が震え動かない。そして震えているのは足だけではないことを感じた。
ゆっくりと一歩一歩確実に近付いてくるそれは死の宣告だっただろう。何と身体を動かそうとする御頭であったが動いた足は
「し、死にたくない……」
漸く発せた言葉は掠れた声の命乞いだった。
「フン、別に貴様の命などいらん」
御頭は聞きなれない声に顔を上げると、そこに居たのは赤フードの旦那ではなく黒いローブの見たことのない金髪の美しい女性――エヴァンジェリンだった。
「だ、誰だ!」
「貴様
御頭の問いかけを一蹴するするエヴァンジェリン。御頭にを見下したまま彼女は続ける。
「おい、〝赤フードの旦那〟とかいう奴はどこだ」
「た、助けてくれ! 殺される!」
赤フード、という単語に反応したのだろう。御頭は酷く取乱し
「
話にならないと魔眼を使用して情報を得ようとした時、それに気が付いた。掴まれたローブの端を切り御頭の元から離れ横へと跳躍する。
「グッ……ハッ……」
御頭の背後から放たれた魔法の矢は彼の喉と心臓を貫きエヴァンジェリンが立っていた場所を通過する。もしあのままいたら無事では済まなかっただろう。
「おや、気が付かれたか。致命傷を与えられる自信があったが」
「ハッ、ならばもっと魔力を抑え隠すんだな。尤も、そうしたら威力が弱くなって私を倒せないが」
木の影から姿を現したのは赤いローブを纏った人物、フードを深く被っている為その顔は見えない。特徴的に見てもこいつが山賊の言っていた〝赤フードの旦那〟だろうとエヴァンジェリンは当たりを付ける。
「お前が〝赤フードの旦那〟か?」
「その通りだ、お美しいお嬢さん。まあその呼び方は山賊どもが勝手に呼んでいるだ」
ふふ、と赤フードは小さく笑う。エヴァンジェリンは警戒しつつも先程から気になっていた疑問を投げかける。
「根城で山賊どもを皆殺しにしたのは貴様か。何故殺した?」
「別に生きていても仕方のない下種な連中だろ。誰も困らない」
それは真実だろう、エヴァンジェリンにしても彼らに同情するような優しさは持ち合わせていない。しかしそれだけが理由ではないと思えた。なぜ今のタイミングで皆殺しにしたのか、そして相手が素直に答えるとも思えない。
「まあそんな些細なことどうでもいいだろお美しい魔法使い? 始めよう」
「私は強いぞ、尻尾を巻いて逃げるならいまのうちだが?」
「それは楽しみ」
お互い笑っているだろうがそれは表面上だけだった。向かい合う二人を遮るものは何もない。ピリピリした空気が辺りを満たし一触即発の邪険な状態になる。
そして――
「ブラッド バラッド ブラインド! 魔法の射手 火の17矢!」
「リク・ラク ラ・ラック ライラック! 魔法の射手 氷の17矢!」
二人は同時に詠唱を完了させ、互いに魔法をぶつけ合い相殺した。その衝撃により周囲には風が生まれ辺りを凪ぐ。
「チッ、火の魔法か」
相手の魔法が火と知ると思わず舌打ちした。火属性は魔法の中でも特に破壊的な威力を持つ為、力押しとなった場合押し負けてしまう危険がある。
(だがその程度だ)
今のエヴァンジェリンは満月と言うこともあり普段よりも力が強くなっている、まず負けることはないだろう。以前のエヴァンジェリンこのまま自ら攻勢に出て力押しに持っていっただろう。
しかし今は違う、クランとの出会いが彼女を変えた。
「ブラッド バラッド ブラインド 火の精霊 17柱 集い来りて 敵を討て 魔法の射手 さあまだ行くぞ! 連弾・火の17矢!」
「リク・ラク ラ・ラック ライラック 氷の精霊 17頭 集い来りて 敵を切り裂け 魔法の射手 連弾・氷の17矢!」
相手の詠唱に合わせる形でエヴァンジェリンは魔法を放つ。跳んでくる火の矢を自身の氷の矢で防ぎ相殺する。そして
「氷の矢!」
エヴァンジェリンから放たれたのは一本の氷の矢だったが、それは先ほどのより一回り大きい程度のものだった。赤フード目掛けて飛んでいく。
「何かと思えばこの程度で……」
やれやれと失望を濃くする赤フードは同じく無詠唱で魔法の矢を放ち迎撃し次の魔法を詠唱しようとしたが。
「……っ!」
相殺したと思った氷の矢から鉄の杭が飛んできた。
「くっ……」
驚き障壁を展開し弾く、そしてできる一瞬の隙。魔法使い同士の戦いでそれは致命的だった。
そして赤フードは気付いた、エヴァンジェリン強力な魔法を放とうとしていることに。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック! 来たれ氷精 闇の精 闇を従え 吹雪け 常夜の氷雪 喰らえ!」
「残念ながら喰らわない。束縛せよ」
「っ!! 捕縛結界!?」
突如、平地全域に魔法陣が現れその中から伸びてきた触手がエヴァンジェリンを絡め取る。
「先程のは驚いた、なかなかユニークな戦い方だ」
先の焦りはとうに消え冷静さを取り戻した赤フードは饒舌に語り始める。
「そもそも戦いは始まる前から私の勝ちだった、ここに
「フン、なら最初から使えばいいものを」
「あなたの実力を見たかったからだ、お嬢さん。尤もその必要もなかったようだが」
「よくしゃべるじゃないか。弱い犬ほどよく吠えるという奴か?」
「……これを喰らってもその減らず口を叩けるか見物だな」
先の言葉が赤フードのプライドを傷つけたのだろう。一層の魔力を込め詠唱を開始する。
「まだ殺さない。ブラッド バラッド ブラインド! 来たれ火精 風の精 炎の纏いて吹けよ灼熱の風 炎の渦巻!」
紡がれた魔法により炎が大蛇のように渦を巻き天に昇る。そして大蛇はエヴァンジェリンを喰らおうと空から落ちてきた。
「ガハッ!!」
大地に衝撃が走る。捕縛結界により障壁を張ることができずエヴァンジェリンは直撃を受けた。殺しこそしなかったものの服は焼け焦げ体も重症を負っただろう。一部地面は焼け焦げ結界は所々破れその機能を失いエヴァンジェリンを拘束していた触手は消え彼女は地面へと伏した。
「死んではいないだろ。さてこれを連れて最後の儀式を……」
倒れたエヴァンジェリンを連れて行こうと近付き手に触れようとしたその時、瀕死だったはずのエヴァンジェリンは飛び起き赤フードの喉元へ鉄の杭を突きつける。
「なかなか、強力な魔法じゃないか。正直驚いたよ」
「……タフだな、あなたは」
赤フードは内心驚きを隠せなかった。いくら殺さないように加減したとはいえ上位に入る攻撃魔法だ。それを受けてすぐ立ち上がり反撃してくるのは悪夢である。
「さてもう手はないだろ? とりあえず顔を見せてもらおう」
「…………」
観念したようにフードを
「女、だったのか」
「ああ、声は魔法で変えられるからな。あとは顔を見せなければ誰も気にしないだろ?」
女はふふ、と小さく笑う。少し意外だったがエヴァンジェリンのすることは変わらない鉄の杭を突きつけたまま問い掛ける。
「さて大人しく捕まるか、ここで死ぬか。 どちらがいい?」
「どちらでもないな」
「何?」
未だ余裕を崩さない赤フードに違和感を覚えるエヴァンジェリン。赤フードは先程からそれを感じていた。あの根城は赤フードにとっての城でありその中の動きは手に取るようにわかる。そして動きは遅いが確実に此方へと向かって来ていた。そしてそれはやってきた。
「お姉さん!」
「な!? さっきの」
突如聴こえた子供の声にエヴァンジェリンは振り返った。その隙に赤フードは彼女を吹き飛ばしすぐに詠唱を始める。
「ブラッド バラッド ブラインド! 魔法の射手 火の17矢!」
その狙いはエヴァンジェリン――ではなく、子供だった。
「くっ!!」
魔法の射手と子供の間に割って入る。詠唱が間に合わないことを悟ったエヴァンジェリンは障壁を張るが何本か防ぎきれず通してしまった。そして貫通したその矢が腹部と肺を貫き綺麗な鮮血を辺りへ飛ばした。
「ぐっ……」
倒れ込むエヴァンジェリン、殺してしまったことに舌打ちする赤フードとその様子を見て唖然としている少年。
「まさか魔法で殺してしまうとは……失敗した」
「ああ……ああ……」
目の前で自分を庇うために殺されたのがショックだったのだろう、少年はその場に座り込み動けなくなった。
「君のお陰で助かったが、同時に失敗した。ご家族の元へ送ってあげます、さようなら」
女性はフードを被り直すとローブから剣を取りだし少年へと近付き振り上げる。そして。
「な……に……?」
「よう、元気か?」
突然闖入者――クランが現れその剣は彼の手に持つ鎖によって防がれた。そして少年はその場で倒れ気絶した。
××××××
――エヴァンジェリンが戦闘を開始した頃クランたちは隠匿魔法を使いつつ彼女から指示された部屋に来ていた。
「なかなかどうして、懐かしいことをする奴がいるんだろうな」
クランは赤い扉の中を見てそんな言葉を洩らした、正確にはその中央に描かれた魔法陣を見て、だ。
「武器の概念化ですか。呪いに近いものを感じます」
後ろにいるフォーゼが検分する。描かれた魔法陣を〝アルハザードの書〟で検索していたがクランは既に知っていたようなので途中で打ち切った。
「そんな生易しいものじゃない。恐らく〝死〟そのものが定着した武器を作り出そうとしてたんだろう」
概念武器。それは武器事態に概念を宿し攻撃の際はその概念を使用する。理に存在するものへ決して抗うことができない絶対のルールを押し付ける理不尽な武器。
通常、それは長い歴史と英雄譚によって作り上げられるものである。しかしこの部屋の主は独自の理論でそれを作ろうと試みているようだ。
「上位存在への昇格、か。もし完成すれば〝死〟を振りまく厄介な武器になるな。尤もまだ途中のようだが」
さてどうするか、と思ったところで子供の姿がないことに気が付いた。エヴァンジェリンの話ではこの部屋に子供がいたらしいが辿り着いた時には既に居なかった。そのことをエヴァンジェリンに報告しようとしたが念話が繋がらない。
「エヴァの奴、ヤバイ状態なのか? ちょっと手を貸しに行くか。フォーゼはこのまま宝物庫にいってとれるだけの宝を取ってきてくれ。それが目的だしな」
「了解しました、マスター。お気をつけて」
クランは部屋から出る際にクランは指を鳴らした。たったそれだけで部屋に描かれていた魔法陣は燃え上がり消失した。そして二人はそれぞれの目的の為に翔け出す。
××××××
「ちっ!」
赤フードは予想外の出来事に舌打ちをすると距離を取った。闖入者が現れたこともそうだがこの〝剣〟で相手の武器を壊せなかったことも予想外だったからだ。
「なぜこの鎖を殺せなかったのか、って考えてるんだろ?」
「!? あなたは……」
何者なのだ、と呟く赤フード。図星をつかれて驚いている。クランは
「おいエヴァ、いつまで寝てんだ。起きろ」
「……なんだ、私の手伝いなどいらないだろ」
呼びかけられて仕方なく起き上がるエヴァンジェリン。風穴が空いたはず腹部と肺はいつの間にか塞がっていたがその顔は見るからに不機嫌でムスッとしていた。
「何不機嫌になってんだ。そんなに楽しい事でもあったのか?」
「誰のせいだ、誰の! 子供を確保しろと言っておいただろ。なんでちゃんと捕まえておかないんだ!」
部屋行った時にはいなかったんだから仕方ないだろ、と愚痴るクラン。
「フフフ、アハハハハハハハ!」
突如笑い声を上げる赤フード。その笑い声は狂ったものではなくどこか歓喜に満ちたものだった。
「ああ、そうか。そうなのか。お美しいお嬢さん。あなたがあのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、〝
「そうだが、それが貴様と何の関係がある」
「いえ失敬。私はあなたに憧れていたものでついつい取乱してしまった」
「憧れ、だと?」
自分が裏の世界では名が知れている事は知っている、何せ賞金首なのだから。しかし憧れを抱くような酔狂な魔法使いはいないはずだ。
「はい、私はあなたを尊敬し憧れている。
「貴様!!」
その言葉に殺気立ち怒鳴り声をあげるエヴァンジェリン。彼女にしてみればその情報は誤りであり一番触れられたくない過去であった。しかしそんなことを気にせず赤フードは上機嫌になっていた。
「フフフ、今日はいい日だ。多くのイレギュラーがあったが憧れの先駆者にも逢えたし満足した。もうこの辺りでお開きによう」
「此方は二人だ、逃がすと思うのか?」
「ええ、逃がしてもらいます――炸裂」
赤フードの一言に轟音が響く、振り返ると後ろの根城が爆発し崩れ出したのだ。土砂が流れ辺りは土煙で視界が遮られる。
クランは傍の少年を担ぎ上げ土砂を
「ま、待て貴様!!」
逃走する赤フードを追おうとエヴァンジェリン駆け出そうとするもクランに腕を掴まれ阻止された。
「邪魔をするなクラン!」
「落ち着けエヴァ。ここまで用意周到な奴が逃走ルートを確保してないわけないだろ。追ったところで逃げられる」
「だが!」
「だから落ち着け。必ずチャンスは訪れる。今は我慢しろ」
「くっ……」
クランの説得に応じエヴァンジェリンは追うのを諦めた。その視線の先には既に赤フードの姿は無い。
しかし、とクランは言葉を続けた。
「フォーゼ、まだ中に居るんだけど……大丈夫かな」
「んなっ!?」
絶句するエヴァンジェリン。もしあの中に居たのなら土砂にのまれ最悪窒息死するだろう。しかしクランが心配していたのはフォーゼの事ではなく宝の方だったのはエヴァンジェリンは知る由もなかった。
数分後、フォーゼは多少土埃で汚れながらも何事もなかったかのように袋詰めにした大量の宝を持って現れた。
次回からしばらくはほのぼーの予定
Q.なんで赤フードさん子供殺さなかったの?
A.あそこに置いておけば正義の魔法使いさんが放っておけずに助けると思ったから。つまり時間稼ぎ。そのあと魔法使いと一緒に殺す予定だった。