だらだら会話イベント。展開が遅いのはお察し
人生は理不尽だ。自分に関わる事なのにいつも
いつの世も決めるのは
その日は少年にとっていつも通りのはずだった。朝起きて母と姉の手伝い水を汲みに河原へ行く。日中は近所のお爺さんの農地の手伝いをして夕方に帰る。幾日も積み重ねてきた自分の日常。それが唐突に崩れた。
荒くれ者の集団は村へ押し寄せ作物は奪われ金品は略奪され家は焼かれ多くの大人や老人たちはその体を二度と動かすことはなかった。拒否権などなく自分を含む多くの者が連れて行かれた。そして家族は殺された、少年の目の前で
力が欲しいと少年は願った。今更力があったところで過去は何も変わらない、楽しく幸せだった日常は戻ってこない。それでも、だからこそ――。
「あっ……」
掠れた声を上げ少年は目を覚ます。そして瞳の先に映ったのはのは知らない天井だった。まだ
(そうだ、僕はあの時……)
自分を助けてくれた女性、その人の忠告を無視して後を追い掛けた。そして大量の屍を目の当たりにし吐き気を抑えながらも通路を進みその先で。
(あの人は、死んでしまった)
自分を優しく撫でてくれた女性が家族を殺した奴に貫かれた、自分のせいで。そして殺されかけたところへ知らない人に助けられて――
「
少年はビクリ、と体を震わせて声のする方へ向く。そこには見覚えのある人物が居た。自分を助けてくれた人が無表情に立っていた。
××××××
〝カンパニー〟設立にあたってエヴァンジェリンとフォーゼが物件を探しに行ってる間、クランは特に何をするわけでもなく部屋のソファーに座り呆けていた。
時折思い出したかのようにテーブルに置いてある紅茶を啜るも入れてからだいぶ時間が経っていた為すっかり冷めてしまい味も落ちていた。
(当面はエヴァの〝カンパニー計画〟を実行していくとしてあとすべき事は……)
ふとあの時の赤フードの女のことを思い出す。エヴァンジェリンにああ言った手前すぐに見つけ出すはずだったのだが使い魔の目から逃れているらしく情報が一切入ってこない。完全に見失ってしまった。高度な隠匿魔法を駆使しているか結界の中に引籠っているのだろう。
(まあエヴァは今〝カンパニー〟のことで頭が一杯なはずだし気にしてないだろ)
などとクランはエヴァンジェリンに対して誤魔化す気満々であった。彼としても赤フードの女が行っていた上位変換の術式は止めたいと思っている。アルハザードでも既に実験されていたことではあるのだがあれでは非常に効率が悪い。たかだか一つの概念武器を作るのにあの様子では数百人以上の人間の命が必要だろう。
他人の命を使うなど許さん、などという正義の味方を気取るつもりはない。クランは自分の外側で起きていることにいちいち干渉するほどお人よしではないと思っている。ただノーリスクで行おうとしているのが気に入らない。安全第一、などと言う言葉は魔法を、力を求める者には尤も遠い言葉である。
(気に入らない、それだけで潰す理由は十分だ)
目的らしい目的を見つけて少しばかり上機嫌になったクラン。
「あっ……」
声が聞こえた。今この部屋に居るのは自分とベッドで眠っている少年だけ。ならば目覚めたのだろう、とクランはソファーから立ち上がりベッドの傍まで近づいた。
「漸くお目覚めか、寝坊助」
予想より遅い目覚めに呆れつつも軽く声を掛ける。少年は体を震わせたかと思うと顔をクランへと向け、虚ろな瞳で見た。
××××××
少年はクランを見ると暴れたりすることなくベッドから体を上半身だけ起こした。
「気絶する前のことは覚えているな?」
「……はい」
ベッドに腰掛け詰問するクラン。少年は顔を下を向きながらもそれに答える。
「そうか、ならいい。さて今後のことだがお前の村はどこだ?」
「村は……もう無くなりました」
あの日、少年が攫われた日に村は村としての機能を失った。生きている人は居るだろうがもう生活ができる状態ではない。
「そうか……ならば親戚の
ふるふると少年は首を横に振る。父親が亡くなってから母親と姉の三人で協力して生きてきたのだ。他に家族と呼べる存在を少年は知らない。
「お前の境遇は
クランは淡々した物言いでこれで話は終わりと立ち上がり背を向けて離れようとする。しかし少年の言葉によって止められた。
「待ってください! あいつ……母さんと姉さんを殺した奴は何者なんですか!」
「さあな」
今までとは違う、弱冠怒気の混じった言葉だったがクランは興味なさそうに短く言い放つ。そのことが癪に障ったのだろう。少年はクランを睨み付け声を荒げる。
「
「お前が何を考えているか予想が付くがそれは勘違いだ。赤フードと出会いお前を助けることになったのは偶然。金目の物欲しさに山賊を襲撃したらあいつが居てお前が居た。お互いに名前も知りもしない、他人同士だ」
「……所在もわからないんですか?」
「知らん」
尤も今は知らないが何れは見つけ出す気でいるが、とクランは心の中で付け足す。
「じゃあ、僕に修行をつけてください!」
「……はぁ?」
あまりにも突拍子もない、予想外な少年の言葉にクランは一瞬ポカンとしたがすぐに顔を
「あいつ……赤フードとか言う奴と貴方は互角以上に渡り合えるのでしょ? なら!」
「復讐の為に、か?」
「……ッ……」
図星を突かれ少年は言葉に詰まる。その様子に溜息を吐きつつもクランは続ける。
「復讐したいのなら勝手にしろ、別に止めはしない。復讐は何も生まない、とかそっちの方が後で辛くなる、などとご高説を垂れ悦に浸る性分はない」
クランはそこで一呼吸置きただ、と付け加える。
「それはお前が自分の力で勝手にやり遂げることだ。他人に頼るのは筋違いじゃねえのか? 俺がお前を手伝う義理もない」
「それは……あそこで殺された金髪のお姉さん、あの人は貴方の仲間ですよね? 仲間の仇を討つのに手が必要ではないんですか?」
「……」
年の割によく頭が回るものだ、とクランは感心しつつもどうするか悩んでいた。馬鹿正直に真実を話す義理は無いからもう眠らせて記憶を一部改ざんし施設にぶち込もうかとも。しかし唐突に開いた扉がその思考を中断させた。彼女たちが帰ってきたようだ。
「ほう、面白いことになってるじゃないか」
少年は聞き覚えのある声に目を見開き思わず振り向く。そこには少年と大して年の変わらない金色の長い髪の女の子、エヴァンジェリンが立っていた。
××××××
「つまり私は別に死んでなどいない、といことだ。わかったか少年」
ソファーに腰掛けフォーゼが淹れた紅茶を飲みながら説明を終えるエヴァンジェリン。ベッドから起きた少年も彼女の対面に座っている。クランはエヴァンジェリンへと丸投げしてベッドに体を投げその隣にフォーゼが付く。
エヴァンジェリンは大雑把にだが魔法に関することを説明した、自分たちの身の上は伏せた上で。
「魔法……ですか」
少年は未だ信じられないといった様子ではあるが昨夜起きたことは紛れもない事実だった為受け入れるしかなかった。目の前で死んだと思った人が生きていたこともそれに拍車をかける。尤も本来は少し違うのだが少年は知る由もない。
≪別にそこまで詳しく話す必要はないだろ。どうするつもりだ?≫
≪安心しろ、ちゃんと考えはある≫
少年に聞かれないように念話で会話する二人。不安がないわけではないがまあ大丈夫だろうとクランはこの件をエヴァンジェリンに一任した。
「修行の件だが……手を貸さないでやらないこともない」
「本当ですか!」
「……おい」
少年は思わず喜ぶも、クランはあからさまに不機嫌となった。
「まあ聞け、試験をクリアできたら修行をつけてやる。並の魔法使いなら殺せる程度になれるほどのな」
エヴァンジェリンは口元を吊り上げ禍々しい笑みを浮かべる。見た目にそぐわぬその表情に少年は小さく震えたが決して目を逸らす事はなかった。
「試験内容はそうだな……鬼ごっこといこうか」
エヴァンジェリンが提示したのは至極単純なものだった。少年が逃げエヴァンジェリンが追う。勿論普通の鬼ごっことはまったく別物ではある。
少年の、逃げる側の勝利条件は十五分間逃げ切る、もしくは鬼を捕まえる事。そして敗北条件は気を失うか、行動不能になる、それか降参するかだ。
「敗北した場合は記憶の一部改ざん、そして孤児院に入ることになるだろう。それでもやるか?」
「……記憶の改ざんと言うのはどこを改ざんするんですか?」
「お前が山賊に襲われた辺りから今までのものを弄る。勿論、お前の復讐心も消えるだろうな」
「ッ……やります!」
少年は少し悩む素振りを見せるもすぐに答えを出した。
「わかった、では開始は今日の深夜だ。心の準備をしておけ」
ククク、と笑うエヴァンジェリン。ハードルは決して高くはないが低くもない。相手がただの人間でありそしてエヴァンジェリンは吸血鬼だ、両者には絶対的な壁がある。何だか楽しそうだなーと他人事のように思うクランであった。
次回、リアル鬼ごっこ。少年は時の涙を見る(