だらだら会話イベント
窓からの差し込む明るい日差しによって柔らかな布団とベッドに挟まれていた少女は目を覚ました。
「んっ……」
起き上がり周囲を見渡す。そこは見覚えるのある部屋だった。なぜならそこは
いまいち覚醒しない頭を働かせつつも扉を開け寝巻のまま部屋の外へ出る。
「おはようございます、お嬢様」
廊下で擦れ違う使用人たちは皆笑顔で頭を下げ彼女に挨拶をする。そして食堂へ赴けば優しい笑みを浮かべ自分の名前を呼んでくれる両親の姿。その姿を見て少女は確信する。
――ああ、これは夢なんだ。
遥か昔、自分がまだ人間であり幸せだった時間の夢。
瞬間、視界が歪んでいることに気が付いた。いつの間にか目尻が熱くなり頬に水滴が垂れた。
――悲しいのか? それとも嬉しいのか?
まるでせき止められていたかのように止まることのない涙を流し少女は自問する。戻れるのなら戻りたい。しかし
答えが見つかるより先に視界が暗転し、少女の意識が現実へと覚醒する。
××××××
とある森の中、日が徐々に昇り始め生い茂る木々はその光を遮り影を作る。小動物たちが活動を始めあちらこちらから音が生まれエヴァンジェリンは目を覚ました。
「おはようお姫様。お元気そうで何より」
そして彼女が真っ先に見たのはクランの姿だった。チラリと目だけ彼女の方を見るとすぐに手に持っていた本へと戻した。
「んなっ!?」
そして気が付いた、自分が彼を見上げていることに。あろうことか彼女はクランに膝枕されていた。
わけがわからない状態に若干混乱しつつも身体にかけてあった布を放り投げ飛び起き距離を取り戦闘態勢を整える。しかしその直後彼女は頭部に衝撃を受けその場に座り込む。
「あぅ……」
「騒がしいです、少し落ち着いてください」
頭をさすり振り返るとフォーゼが背後に立ち拳を握っていた。いつもならこんなに接近を許すことのない彼女だが混乱しているせいか注意力がかなり散漫になっている。
「と言うか前隠したら?」
「え?」
クランの言葉にエヴァンジェリンは自分の身体を見る、そして唖然とした。あろうことか今の彼女の姿は裸だったのだ。寝ている時にかけられていた布は先の行動により布は自分の身体から離れ地べたに落ちていた。
「……きゃああああああああああああ」
顔が朱色に染まり思わず叫び声をあげ魔法を爆発させた。吸血鬼と言えども今まで異性に裸体を晒す事がほぼ無かった故仕方がなかっただろう。爆発によりエヴァンジェンリンを中心として周囲に氷の破片が飛び散り周囲の木々に突き刺さる。その音に驚いた為か近くの動物たちは一斉に離れていった。
一方爆心地にいたクラン達はそれを難なく防ぐ。それからしばらくエヴァンジェリンは話をするどころか暴れまわりフォーゼが放った魔法の糸によって絡め捕られ簀巻きにされることとなった。
××××××
「はいはい、いい加減話進めような」
自分たちの行動は正当防衛であって敵ではないという事を説明してなんとかエヴァンジェリンを落ち着かることに成功したクランは少々投槍気味に言う。彼の正面には着るものがないため布一枚を体に纏わせ胴部分を隠して正座させられたエヴァンジェリン、そして背後にはフォーゼが控えていた。
素足で地面に正座は結構痛そうだなーと思うクランだがフォーゼが敗者の立場をわからせるためと言ってこうなってしまった。
「別に私から話すことなど……」
「いきなり襲いかかってきた奴が何を言うか」
「むぅ……」
会話を拒むエヴァンジェリン。しかし自身の行動に非があり、先ほどの戦いで惨敗を喫した彼女は強くでれなかった。
「それで、何で襲ってきたんだ?」
「それは……お前らが私を追う魔法使いと間違えたからだ」
「自意識過剰です。余程後ろめたいことがあるんですね貴女は」
エヴァンジェリンの発言に憐みの視線を送るフォーゼ。
「んで、お前は何者なんだ? なぜ追われている」
「お前ばかり質問するな、私も聞きたいことがある! そもそもお前らは何なんだ! あんな戦い方、私は知らんぞ!」
「身の程を弁えろ吸血鬼、死にたいのか? 余計なことを話すな。貴様はマスターの質問に対してのみ答えるだけでいい」
「ひっ……」
「落ち着けフォーゼ、マジで話が進まん」
クランの質問を無視した事が気に食わなかったのか冷たい声を響かせるとフォーゼが殺気を濃く放つ。その殺気に当てられたエヴァンジェリンは縮こまり小さく震えた。クランはなぜ彼女がこんなに機嫌が悪いのかわからなかったが殺気を抑えようとしないフォーゼをなんとか宥める。
クランが知る由もない事だが実はフォーゼはエヴァンジェリンが膝枕をされたことに対して怒りを覚え逆恨みしているのだった。
「まあもう攻撃の意志はないんだろう? ならそれでいいだろ」
「マスターが言うのであれば私は構いません」
やれやれ、とクランはため息をついた。フォーゼに悪気はない、
そのうち何とかしなければと思うも、とりあえず今は目先の事に思考を戻す。
「それで、さっきの質問の答えは?」
「エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。見ての通り〝
「義務は無いが必要がある。お前が危険人物だったら排除しておくに越したことはないだろ?」
「っ……」
「ああ、嘘を吐いてもいいが此方にはすぐわかる。自殺志願者でないなら正直に話すことをお勧めする」
エヴァンジェリンは不老不死の吸血鬼なので死ぬことはないが絶対というわけではない。そしてクランの言葉に対してそれが嘘ではないことを悟ったエヴァンジェリンは自分の過去を話し出す。
自分が元は人間でありある日突然〝真祖の吸血鬼〟になったこと。そして自分をそんな身体にした奴を見つけ出して殺したこと。いつしか〝悪の魔法使い〟と呼ばれ〝正義の魔法使い〟に狙われるようになったこと。自分の全てではないにしろ嘘偽り無くほとんど話した。
それを聞いたクランは「そうか」とだけ答えた。
実はクランはエヴァンジェリンの過去について既に知っていた。彼女が寝ている最中に彼女の記憶を全て流し見たからだ。尤も本人の許可なく勝手に見る行為は褒められた行為ではないためこうやって自分から話させたのだ。
「どうだ? 〝悪の魔法使い〟の私を殺すか? それとも教会にでも突き出すか?」
好きにしろ、と彼女は言った。自分ではクランには敵わないことがわかっていたし、過去を話しているうちに自分が生きる理由がわからなくなったことに気が付いて自暴自棄になっていた。
「別にそんなことはしないしお前が〝悪の魔法使い〟だとも思わん」
「えっ……?」
「俺は復讐を否定しない。したければすればいい、尤も俺に迷惑がかかる場合は別だが。それにお前は正当防衛以外で殺しはしてないのだろ? なら俺にとっては無害だ。他者を殺そうとするものは自分が殺されることも考慮しなければならない。身の程を
「マスター、先ほど攻撃された以上無害とは言い切れません」
フォーゼからのツッコミに細かいことを気にするな、と苦笑するクラン。その二人の姿を不思議そうに見つめるエヴァンジェリン。
「まあそういうわけだ、話を聞いた限り俺たちはお前をどうする気もないから安心しろ」
予想外な答えに思考が追い付かないエヴァンジェリン。今まで出会った人間の多くは自分の正体を知ると恐れ逃げ出すか殺そうとするかのどちらかだった。
(ああ、そうだったな……)
しかし全員が全員そうだったわけではないことを彼女は思い出した。
(自分は生きたいのだろうか? 生きていていのだろうか?)
「それで、俺らは北西の町を目指すけどお前はどうする?」
クランの問いかけにエヴァンジェリンは現実へと引き戻された。
「……別にどうもしない、今までと変わらん」
「なら一緒に来るか? このセカイにまだ慣れなくてな。年長者が居ると助かる」
またまた予想外なことに彼女は唖然とした。後半は何を言っているのかよくわからなかったが前半は理解できた。
「わ、私はお尋ね者だぞ!?」
「たいした問題じゃない。それに一緒に行動するなら高度な隠匿の魔法ってやる、雑魚とやり合わなくて済むぞ」
どうする?とクランに問われエヴァンジェリンは黙った。
仮にも最悪の出逢いをした仲なのにクランはそのことを気にした様子がない。フォーゼの方は度々彼女に対して敵意を出しているが悪意は感じなかった。
「い、隠匿の魔法に興味があるからそれを覚えるまで一緒に行ってやる」
「はいはい。まあ簡単な奴だからすぐ覚えられるだろう」
投槍な態度で歩き出そうとするクラン。そしてエヴァンジェリンはドタバタしていたため忘れていたことを思い出し呼び止めた。
「おい! 自己紹介くらいしたらどうだ」
「ああ、言ってなかったっけ?」
言ってない!と強く否定するエヴァンジェリン。
「俺の名前はロード・クラン、クランでいい。こいつはフォーゼだ。まあよろしくな」
「マスターの邪魔をしないようにしてください、それ以外ならどうでもいいです」
ちゃんと挨拶をしろよ、と突っ込むクランにそっぽを向いたままのフォーゼになんだか可笑しくなり、久しく忘れていた感情を思い出しエヴァンジェリンは笑った。
うちのエヴァにゃんはツンデレちょろかわいい
主人公の名前であるロード・クランは本名ではなく役職名みたいなもんです。そういやキャラ紹介ちゃんとしてなかったなそのうち出そう