※赤ローブの旦那→赤フードの旦那に訂正
第01話『狩り―Hunting―(前編)』
「よし、人狩り行こうか」
「はい?」
クランたちがエヴァンジェリンと共に旅を開始して数日経ったある昼。次の町へ向かう道中、いつものように森の中で野生動物を狩り食材を手に入れ調理するフォーゼ。そしてできた料理を焚火に火を燈しながら食していると、唐突にクランから発せられた言葉でエヴァンジェリンは食事を止め首を傾げた。
「何を言い出しているんだお前は」
「だから狩りだよ、山賊でも狩って金を稼ぐ」
「ああ、そういうことか」
エヴァンジェリンは今朝、収入がなくただひたすら支出のみが増えていくことを一人愚痴ったことを思い出した。お金も無限ではない、使えば減るし補給しないと増えない。しかし彼らには収入源がなくそしてクランとフォーゼは一文無しだった。結果的にエヴァンジェリンが宿や食事を払ったりしている。
だがあの二人に不満があるわけではない。持ちつ持たれつ、という関係はきちんと機能している。隠匿魔法のお陰で一緒に旅をしてから一度も〝正義の魔法使い〟を名乗る連中と接触したことがないし、どんなボロ宿もクランの手にかかれば上品な部屋へと書き換えられる。はっきり言ってこれ以上手強いパートナーはいないだろう。
なので彼女は金策を自分の仕事だと割り切っていた。しかしあっちへふらふらこっちへふらふらとまるで計画性の無い(一応北へ向かっているが特に目的地を決めている様子はない)旅をしている彼らは固定収入を得ることは難しい。そのことを考えて洩らした愚痴をクランに聞かれていたようだ。その結果がこれ。
「色々と突っ込むところがあると思うが、まずなぜ山賊狩りなんだ?」
「手っ取り早く金を稼げるから。どうせ悪人の巣窟だしあるところから奪えば早い」
これである。エヴァンジェリンは一緒に旅をしているうちにクランが相当ズレていることを知った、魔法の能力的にも常識的にも。異世界出身なのだから仕方のない事だろうと彼女は割り切っている。
「だいたい、そんな都合よく山賊が居るわけが」
「マスター、ここより西に5.2kmのところに山賊団の根城があるそうです」
「って居るのかよ!!」
事も無げに言うフォーゼの言葉にツッコミを入れるエヴァンジェリン。いつものことながらクランのことになると行動が迅速すぎる。
「流石はフォーゼ、敵の規模は?」
「およそ40から50人と予想されます。戦力的に考えて此方の敗率はありません」
それはそうだ、と二人の会話を聞きながら思うエヴァンジェリン。その程度であればまず自分一人でも問題ない。ただの人間の集団など恐れるに足りないのだから。
「襲撃を受けた村は食料と金品、そして若い女性や子供が奪われているようです。女性は山賊たちの慰み者になるようですね」
「ハッ、絵に描いた外道共じゃないか。なら殲滅しても問題なさそうだな」
賊の行動が気に障ったのかフォーゼの言葉に僅かに苛立ちを見せるエヴァンジェリン。その目は
「別に殺そうが捕えようがどっちでもいいけどさメインは奴らの金品だということを忘れるなよ。そこさえ押さえればあとはどうでもいい」
「フン、まあ弱い者イジメは好きじゃないから奴らには少し怖い思いをしてもらうさ。クックックックッ」
「山賊も運が悪いことで」
クランはノリノリのエヴァンジェリンを横目に食事のお代わりをフォーゼに要求する。そしてまだ見ぬ山賊たちに形だけ同情するのであった。
××××××
空に輝く月は満を見たし、月明かりが地上を照らす。山岳の一部を改造したそれはあった。
整備された道には
洞窟の最奥、無駄に装飾された椅子に座る大男――この山賊団の頭が座り左右に女たちをはべらしている。女たちは嫌そうな顔をしているも決して逆らうことはできず空になったコップに酒を注ぎ、時には男の太い腕で抱きつかれ身体を触られる。
「ガハハハハ、今日も大量だぜ。これも全部赤フードの旦那のお陰だ、感謝してるぜ」
「……ああ」
今日得た獲物たちに満足しているのだろう酒を片手に上機嫌な頭の声が響く。話し掛けられた赤いローブを着た人物はただ短く
山賊たちと赤フードの出逢いは突然だった。今でこそ立派な根城であるが当初はただテントがあるだけの寂しい場所、それに人数も十人程度の小規模であった。そこに赤フードが現れ協力体制を申し出てきた。山賊である自分たちに取引など馬鹿げていると思っていたがその力を目の当たりにした頭は二つ返事で承諾。
以降協力体制を敷いているが赤フードが求めるのは数人の女子供と何だかよくわからないゴミだけ。それ以外の全ては山賊たちの取り分となっていた。設けていた根城を改造までしてくれた赤フードに頭は感謝している。
「では部屋に戻る」
「おう、次も頼むぜ」
踵を返し部屋を出ていく赤フードに酒を掲げて見送る頭。赤フードは用事がなければいつも自分の部屋に篭り続ける。
「お、御頭。あいつ大丈夫なんスか? なんかあいつ不気味っスよ」
「おめぇーまだそんなこと言ってんのかよ。確かに不気味ではあるがお互い得してるからいいじゃねーか」
赤フードの姿がなくなったことを確認すると若い男の山賊が頭へ近付く。多くの団員が思っていることだが不気味なのだ、存在が。部屋に篭っている間何をしているかは誰も知らないし、女子供だけを連れ去ってることもそれ拍車をかける。
それを御頭に相談したこともあるのだが
『大方、自分の部屋で楽んでるんだろーよ。変わった性癖を持ってるイカレた野郎なんざ珍しくねーだろ』
と言う具合に対して取り合おうとしない。実際は頭も少し不気味に思っているのだがそれ以上に恩恵が多いため気にしないようにしているのだった。甘い汁が吸えるというのにわざわざ手放す必要はない、と。
「いつまでもも辛気クセェ顔してねーで女でも犯してくればいいじゃねーか。そうすりゃすぐどうでもよくなるからよ」
ガハハハ、と下品な笑い声を上げて若い山賊の背中を叩く。そう言われては仕方がないので若い山賊は引き下がり捕えた女たちが居る牢へと向かった。
欲望に忠実に生きている連中の集まり、それがこの山賊団であった。
××××××
赤フードが自分の部屋の入口、真っ赤な扉に入りすぐに閉める。その音に反応してそれぞれの三つの牢に入れられた三人は赤フードを見た。先ほどの襲撃で手に入れた女子供だ。その目は恐怖に染まり身体を震わせている。
赤フードはゆっくりとした足取り近付き牢の前に立ち三人を吟味する。三人ともどことなく似た雰囲気を
「ど、どうか子供達には手を出さないでください」
女の顔は恐怖からか真っ青になっている。話すだけでも辛いだろうにそれをこらえ必死に訴える。
「どうか、どうかお願いします。私はどうなってもかまわないので」
女は縋る様な眼で赤フードを見つめていた。
この部屋は異常だった。周囲に血が飛び散り部屋の中心には同じく血で描かれたものと思われる魔法陣があり一本の剣が刺さっている。僅かだが異臭も漂う。この部屋の主がまともではないことは誰の目にも明らかだった。
赤フードが杖を持ち振う。それだけで牢の鍵が開き女は見えない何かに引きずられる形で魔法陣へと運ばれた。
「母さん!」
「お母さん!」
子供達が牢から手を伸ばし叫び声をあげる。しかしその声を聞き助けてくれる人など誰もいない。この部屋の音は決して外に漏れることはなく、例え聞こえたとしても外にいるのは皆山賊なのだから。
「ああ、神よ……」
何かに押さえつけられるよう身動きができず地面にへばり付く女はただ救いを祈る、祈るしかできなかった。
しかしその祈りは届くことはなかった。赤フードは剣を引き抜きその女の心臓を貫き、そして女は絶命した。
「「いやああああああああああ」」
女は動かなくなり子供達の絶叫が響く。流れ出した血は生きているかのように魔法陣の上を流れ色を濃くする。魔法陣を満たした血は突き立てられた剣へと集まり赤黒い光を放つ。剣が全ての血を吸い取ると遺体は消滅した。
――足りない、まだ足りない。
赤フードは再び杖を振う。今度は先の女の娘が同じように牢が開き引きずり出される。抵抗しようと必死に牢にしがみつき叫び声を上げるも引かれる力に逆らうことは出来ずやがては手を離し魔法陣の上へと止まる。
「いや……助けて……神様……」
「姉ちゃん! 姉ちゃん!」
剣を抜きとり再び心臓へ一撃。先と同じように血は流れ剣へ収束し、遺体は消えた。
「あ……ああ……」
その様子をただ見ることしかできなかった少年は声を上げることができずにいた。
――まだ足りない。まだまだまだまだ。
そして最後の一人を手に掛けようと杖を振り上げたとき、突然赤フードはその動きを止めた。
「……これは」
根城の周囲を取り囲むように張っていた結界に何者かが侵入した気配があった。迷い込んだわけではなく明確な目的を持ち此方へ向かってくる。
――これはちょうどいい獲物が来た。
口元を吊り上げ赤フードは不敵な笑みを浮かべる。突き立てた剣を自分のローブの中へとしまい部屋の外へと出て行った。残された少年は自分がまだ死なずに済んだことと家族が二人も目の前で殺されたことの相反する感情をどうすることもできずただ泣き叫んだ。
いい具合にイっちゃってる人が出てきました。山賊や赤フードの旦那はオリキャラです