クランタ娘 トラベルダービー   作:たいがー

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※1/27加筆
誤字報告ありがとうございます、修正しました。


0.始まり

『ロドス・アイランド』

 

テラの住人にとって知る人ぞ知るその名は、『感染者』と呼ばれる不治の病を患った人間に対するエキスパートが集う会社である。

 

それは『鉱石病(オリパシー)』から身を守り延命を施す治療から、感染者が起こす問題を専門に解決する武力介入まで、手段を問わず広い分野で世界を飛び回っている。

 

この日も、テラの大地ではロドスと雇用関係にあるオペレーター達が身を粉にして奮戦していた。

 

◇◆◇◆

 

龍門(ロンメン)郊外ーーー

 

木々が生い茂る豊かな渓谷に、突如大地を震わせる爆音が響き渡る。

 

緑溢れる自然には似つかわしくない、赤い炎がごうと音を立て巨木を倒し、飲み込んでいった。

 

「全員、無事か!」

 

爆風をモノともせず、右手の盾で衝撃を防ぎ切った金髪のクランタの女性が鋭い声をあげる。

 

「ニアールさん、私たちは大丈夫です!作戦続行に問題ありません!」

 

ニアールと呼ばれたクランタ人の背後には陣形を組み、衝撃に備えたオペレーター達がいた。

 

ニアールは前線で敵の攻撃を受け止める盾の役割を持っており、かつては畏怖と尊敬を込めて『耀騎士(ようきし)』と呼ばれた程の攻防一体の実力者だ。

 

「大丈夫、君たちのことは私が守る。だから恐れず前へと進むぞ!!」

 

ニアールの力強い掛け声と共に、温かい光が周囲を包む。

 

その光はオペレーター達の士気を向上させ、肉体を鼓舞し傷を癒していった。

 

彼女が操るアーツは光に作用し、対象を癒す力を持つ。

 

前線に立ちながらも治療行為ができる彼女は、ロドスにとって唯一無二と言っていい実力の持ち主である。

 

「お姉ちゃん、こっちも大丈夫!!」

 

立ち登る煙幕から現れたのは、こちらもクランタの女性。

 

ニアールとよく似た顔の彼女は、煌々と光を纏いながら煙を切り払った。

 

こちらはブレミシャイン、ニアールの実妹である。

 

彼女は半年ほど前にロドスと雇用関係を結び、オペレーターとして実力を磨いてきた。

 

ロドスに来た時はまだ騎士競技しか経験がなくまだ荒削りといえる腕だったが、日夜厳しい鍛錬を積み上げ今や名実ともにロドスのメインオペレーターとして姉と肩を並べる存在にまで登ってきた。

 

「ちくしょう、今のでもダメなのかよっ!!」

 

彼女達と対するボロ布に身を包んだ男は、憎々しげに声を漏らす。

 

彼が先ほど投げた源石爆弾は本来ならば周囲を丸ごと吹き飛ばすほどの自慢の一品だったのだが、ニアール姉妹のアーツの光によって押さえ込まれた爆弾は行き場をなくし、小さな面積の地面と木々を抉るだけにとどまった。

 

「もうやめるんだ、レユニオンの兵士よ!君の仲間は全て捕らえた、あとはもう君だけだ!もう投降してくれ!」

 

ニアールが投降を促す。それと同時に、後方に構えた部下に構えを下げるよう後ろ手でハンドサインを出した。

 

『レユニオン・ムーブメント』、1年前に龍門とウルサスで戦火を燃え上がらせた、感染者の武装集団である。

 

鉱石病を理由に不当な扱いや、虐待を受けた感染者達が怒りを胸に武器を掲げ、武力で報復を図りその勢力は再現なく大きくなっていった。

 

龍門で幾多の幹部が散り、ウルサスでレユニオンの頭領『タルラ』がついに討たれてからその勢いはかなり弱まったものの、反抗の兆しを信じ、未だに対抗を続ける残党は後をたたない。

 

「うるせぇ、*龍門スラング*!

タルラが死のうと俺たちは屈さねえぞ、スラムの俺たちを見下した上流層のゴミどもを全員ぶち殺すまではな!!」

 

レユニオンの残党兵は見せつけるように、地面に唾を吐き捨てた。

 

ニアールは長い間レユニオンとの戦いに身を投じてきたが、ブレミシャインは当時ロドスに加入してはいなかった。

 

そのためレユニオンとの確執を彼女は知らない。しかし彼女の目には、怒りの矛先をもはやどこに向ければいいかも分からず、それでもただその場で大きくなる彼の心の炎が見えた気がした。

 

知らず知らずのうちに憐憫の眼を向けてしまっていたのだろう。ブレミシャインの目線に気づいたレユニオンの残党兵が、怒りで顔を顰めた。

 

「ケッ、何も知らないヤツが俺を憐れむかよ!!クソが、みんな死んじまえぇぇぇ!!!」

 

怒りで我を失ったレユニオン兵が、半狂乱で四方八方にアーツをばら撒く。

 

ニアールは冷静にそれを盾で防ぎながら、思考を説得から制圧にスイッチさせた時、悪寒が全身を駆け抜けた。

 

 

黒、白、赤。

 

目まぐるしく変わる不気味な光がレユニオン兵の腰巾着から漏れ出ている。

 

乱射したアーツは攻撃を目的としたものではなく、腰の源石爆弾を起動させるためのブラフだった。

 

「バカなことはやめろ!自分諸共死ぬ気か!?」

 

ニアールが叫ぶ。

 

さっきまで自分を追い込んでいた筈の相手が焦る姿に、レユニオン兵は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「へへっ、そうさ。お前らも道連れよ。

これはアンタらの拠点に仕掛ける筈だったブツだから、さっきのとはわけが違うぜ。ここら一帯を消しとばす威力があるはずだ。

それも一つや二つじゃねぇ。あとは分かるな?」

 

最低の答えに、ニアールは柄にもなく舌打ちをつく。

 

最悪だ。せめて部下だけでも少しでも遠くへ逃さなければ。

 

すぐさま部下と妹に退却命令を出し、自身はアーツで極力被害を抑えようとしたその時、自分よりも先にブレミシャインが飛び出した。

 

「ダメぇぇぇぇ!!!」

 

レユニオン兵が反応すらできない速度で懐まで踏み込み、次の瞬間には源石爆弾をむしり取る。

 

そのまま爆弾に覆い被さるように蹲り、アーツで周りを包み始めた。

 

ブレミシャインの意図を理解したニアールが青ざめる。

 

「マリア!?やめるんだ!!そんなことをしたら…」

 

「私のことはいいから!!早くその人を連れて逃げて!!!」

 

ニアールの静止を遮るようにブレミシャインが叫ぶ。

 

「ッ…!」

 

一瞬の躊躇の後、ニアールは即座にレユニオン兵の首根っこを掴んで駆け出した。

 

クランタ族の全力疾走に耐えきれずにレユニオン兵は意識を失い、ニアールの目からは堰が切ったように涙が溢れ出す。

 

判断を間違った。こんなヤツに情けをかけなければよかった。あの行動を起こすべきは私だった。

 

喉元まで迫り上がった悪態を、寸前のところで飲み込む。

 

相手を責めるなど、自分を犠牲にしてまで私たちを救ったマリアの騎士道精神に泥を塗る行為だ。

 

自分だけは、せめて同じ騎士として最期までマリアの騎士道に報いなければならない。

 

涙を拭う暇もなく、ニアールは速度を上げる。そのまま転がるように退却する部隊にぶつかる勢いで合流し、即座に反転して盾を構えた。

 

「総員、私の後ろへ!爆風に備えろ!!!」

 

ニアールのアーツの展開が間に合った途端、辺りを閃光が包んだ。

 

次の瞬間、爆音と暴風が周囲を包み込む。

 

「マリア…マリアーーーっ!!!!!」

 

大地の揺れと轟音に、ニアールの叫びは誰に聞かれることもなくかき消された。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

拠点でニアール部隊の帰還を出迎えたアーミヤは、まず労いの言葉をかけようとして、ニアールの目を見て言葉を失った。

 

真っ直ぐで力強く物事を見据える筈の彼女の目は、力なく淀み下を向いていた。

 

同様に重たく口を閉ざす部隊の面々、そして欠けた人数。これが何を意味するかは明白だった。

 

「…ニアールさん。報告を、お願いします。」

 

アーミヤは、自分のこんな固い声を初めて聞いた。

 

「…レユニオン残党の掃討は完了、敵全員の身柄を拘束し拠点外のオペレーターに引き渡し留置してあります。

…それと、作戦中にマリア…。いえ、ブレミシャインが、爆発の被害を抑えるべく自身を犠牲にしました。」

 

普段からは想像もつかないような、覇気のないニアールの言葉がしんとした拠点内に響く。

 

か細い声よりも、途中で彼女の唇の割れた音がやけに目立って聞こえた。

 

ニアール部隊を一目見た時点で覚悟はしていた。覚悟していたのに、ニアールの口から発せられた報告にアーミヤは目の前が真っ暗になりかけた。

 

どうにか自身がたたらを踏むことだけは耐え抜いたが、今のニアールの心をほぐすような、気の利いた言葉などとても思い付かなかった。

 

「…その、大変な任務。本当にご苦労様でした…。

今は、しっかり体を休めてください。」

 

やっと発した言葉は、月並みなものしか出てこない。

 

本当にアーミヤの声が聞こえているかもわからないような様子で、ニアールはノロノロとその場を離れていった。

 

そんなニアールの後ろ姿を見て部下のオペレーター達は何かを言いかけるも、結局言葉を発することはなく一人、また一人と各々の部屋へ戻っていく。

 

アーミヤもやるせない気持ちをどうにか胸の奥に押し込み、自身も職務に取り掛かろうとした時、携帯に着信が入った。

 

『アーミヤ、私だ』

 

声の主はロドスの医療の中枢であるケルシーである。

 

『今から三時間後、私もそちらの拠点に向かう。ドクターの執務室にニアールを連れて集合してくれ。』

 

「!、ケルシー先生、それは一体…。」

 

ケルシーが現在の状況をどれだけ見通しているかはアーミヤにもわからない。

 

しかし、ロドスを最初期から支え続けてきた賢者の出した選択肢だ。

 

アーミヤは一縷の望みをかけて、ケルシーの指示に従うことにした。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

3時間後、ドクターの執務室にドクター、アーミヤ、ケルシー、ニアールが集う。

 

一人で泣き腫らしたのか、ニアールの目元は繰り返し擦った跡で赤くなり見ていられない状態だった。

 

心療担当のオペレーターがケアを試みても心ここに在らずといった様子で、上手く効果をなさなかった現状ではケルシーが最後の望みだった。

 

「ニアール。まずは今回の作戦、本当にご苦労様だった。」

 

ケルシーの声にも少し反応したが、目線は下から動かず何かを言いかけた唇が少し動いて終わる。

 

今のニアールに余計な言葉をかけても意味はないと判断し、ケルシーは余計な話を省き本題に入ることにした。

 

「結論から言おう。今ここに君を呼んだのはこれを伝えるためだ。ブレミシャインの死はまだ確定していない。」

 

ニアールの顔が上がる。しかし驚きや喜びといった色は微塵もその表情にはなく、そこには怒りがあった。

 

「…下手な慰めはよしてください、ケルシー先生。

妹は私の目の前で、爆発の中に姿を消しました。あの後どんなに周囲を探し回っても、あの子の装備一つすら見つからなかったんですよ!?

それをどうやったら生きているなんて言えるんですか!!!」

 

最後は絶叫とも言える悲痛な声で、ニアールは叫んだ。

 

ケルシーに当たるのは間違っている。ニアール自身も分かっていたはずだった。

 

しかしどこに向ければいいかわからない怒りの矛先は、ニアールから正常な判断を奪っていた。

 

「周囲を捜索したならば、君も違和感に気づいているはずだ。なぜあれだけの規模の爆発でありながら、一切の火の手が上がらなかった?

発光だけで破壊を起こさない源石爆弾など、おかしいと思わないか?」

 

そう、何かがおかしいことはニアールも分かっていた。

 

自分たちが最初に塞いだげんせき爆弾は、確かに熱を伴う爆発で周囲の破壊を起こしていた。

 

それと比べマリアが塞いだ爆発は範囲こそ大きかったものの、不可思議なことにどこも爆発を受けたような痕がなく自然がそのままの状態で残っていたのだ。

 

「しかし、どれだけマリアを探しても見つからなかったことに変わりはありません。あの子だけが消えたとでも言うんですか?」

 

ハッ、とバカにするような声をニアールが漏らす。

 

普段ならばケルシー相手にそんな失礼な態度をオペレーターが取った場合は、アーミヤ自身が何よりも厳しく注意するのだが、ニアールがそんな態度を取ったことに驚愕し、アーミヤは何も言えなかった。

 

しかしケルシーはニアールの冗談を意に介さず話を進める。

 

「そうだ、ニアール。信じられないかもしれないだろうが、これが『消滅』ではなく『転移』というのはありえない話ではない。」

 

『本来ならば権限を持つものしか閲覧できないんだが』とぼやきながら、ケルシーが資料を配る。

 

そこには数名の人物のリストと詳細が記載されていた。

 

「彼らはレインボー・シックス小隊。ロドスと雇用関係を結んでいる傭兵集団だ。

彼らはテラのどの種族とも異なる肉体を持つ正真正銘の異界人であり、彼らも元の世界で大きな爆発に巻き込まれ、気づいた時にはこの世界にいたらしい。」

 

本当にそんなことがあるのだろうか…?

 

ニアールは完全にその話を信じきれず、疑念の眼差しをケルシーに向ける。

 

「私自身、この仮説を正しいと唱えることはできない。これは仮定と仮定を結びつけた時に現れただけの、あくまでも不確定な答えの一例にすぎない。

しかし、それは不可能だと切って捨てることができる答えも、我々は持ち合わせていないのだ。」

 

「ニアール、君のアーツは妹のマリアとよく似ていると言っていたな。

君のアーツで当時の状況を再現して解析すれば、それが生物だけを消し去る生滅反応なのか、時空の歪みを引き起こす反応なのか検証ができる。

後者だった場合は、君の妹が生きていることに希望が持てると言えるだろう。」

 

「マリアが、生きているかもしれない…。」

 

ニアールの目に僅かだが光が戻る。それが限りなく低い可能性だとしても、今は妹が生きているという願望にニアールは縋っていたかった。

 

蜘蛛の糸にも縋るような現状に、ドクターは気づかれないようにため息を吐いてガシガシと頭を掻く。

 

希望を捨てないことは大事だが、これが本当にただの消滅だった場合はどうすればいい?

 

もし一縷の望みすら絶たれてしまった場合、ニアールの現状が今より悪くなるのは想像に固くない。

 

実験の結論が確定する前に、少しでも彼女の精神状態を安定させなければならない。

 

ドクターは自身の過去を覚えていない。しかし、自分がチェルノボーグから救出された時にはニアールが助けてくれた。

 

今はオペレータとしてドクターの指揮下にあるものの、彼女は恩人と言っても差し支えない、大切な人だ。

 

そんな彼女が希望を失い、自暴自棄になってしまうことだけは避けたい。

 

ドクターは実験にひとまず同意しつつも、最悪の状況が起きた場合の対応を頭の片隅で巡らせることにした。

 

しかし、今やるべきことは一つ、『ブレミシャインの救出』

 

前代未聞の作戦に向けて、ロドス・アイランドが動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

「うぅ、もう食べられないよ…」

 

なんともベタな寝言を漏らす。微睡の中自分が何を言ったのかもよくわからないまま、マリアは二度寝を決行しようとした。

 

しかし、おかしい。なぜ自分は鎧も脱がずに寝ているのだろうか?それになぜ体の節々が痛むのだろう?これはまるで戦闘後のような…

 

ここで飛び起きる。混乱する頭のまま、マリアは周囲を見渡した。

 

周囲はまばらな木々に囲まれており、暖かな日の光が気持ちいい。

 

安らかな自然が彼女の混乱を少しずつ解していく。

ひとまず悪い状況ではなさそうなことに、マリアは胸を撫で下ろした。

 

なぜあれだけの爆発で自分は無事なのか、それに周囲も自然が残っているのか、不可解なことはまだいくらかあるが、まずは拠点への撤退を第一に考える。

 

まあ生きているんだ、なんとかなるさ。

 

持ち前の楽観視でマリアは思考を打ち切り、行動を下山に移す。

 

眺めのいい自然に囲まれ機嫌のいい彼女は、そのまま軽い足取りでその場を後にした。

 

彼女はまだ気づいていない。ここがもうテラではないことに。

 




原作をウマ娘にしてますが、0話にウマ娘要素はないです。

ウマ娘要素が顔を出すのは次回からなのでご了承ください。

逆に次回以降ブレミシャイン以外のアークナイツ要素は1割くらいになるので、そこもご理解ください。

モチベが続く限りはなるべく投稿を心がけますのでよろしくお願いします。
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