東京、府中ーー
美術館、国立天文台、そして東京競バ場があるこの場所は、時期を問わずいつも人の活気で溢れている。
ウマ娘の活躍を一目見たいと、レース観戦を目的にこの地を訪れる人も多い。
しかし今日は、いつもとは少し違う雰囲気が流れていた。
府中の森公園、住宅とビルに囲まれた中で比較的大きな緑地がある公園。
子供達の遊び場としてはもちろん、憩いの地として老若男女問わず様々な人に愛されてきた公園だが、その中でも特に人目を集める人物がいた。
呆然とした表情でベンチに腰掛けているウマ娘がいる。
髪は金髪、歳は20代前半だろうか。整った顔立ちだが空を仰ぐその表情から感情を窺い知ることはできない。
そして奇妙なことに白を基調とした甲冑を着込んでいる。勝負服なのだろうか?所々に大小の傷のようなものがあり、不思議とリアリティを感じるデザインである。
しかし、勝負服にしてはその剣と盾はどうなのだろうか?
確かに装飾として小さな短剣やマグナムのレプリカを勝負服に組み込むウマ娘もいるが、彼女の武装はそれを遥かに逸していた。
彼女が持っている剣と盾は装飾というにはあまりに大きく、細かな傷や汚れから明らかに使い込まれた形跡があった。
それは単なる装飾と一笑に付すにはあまりにも威圧感を放ち、彼女の格好と合わせ一際その場で異彩を放っていた。
そのため道ゆく人の多くは彼女を見てギョッとした後、チラチラと2度見3度見しながらその場を離れていく。
もし彼女が武装などしていなければ、様子を心配して声をかけようとする人も少なからずいただろう。
しかし、傷害沙汰など滅多に起きない日本では彼女の格好は異質であり、皆が疑念の方が勝り声をかけられずにいた。
ただ、もう30分以上もぼうっと空を見上げる彼女の様子は確かに心配である。いったい何が彼女をそのようにしてしまったのだろうか…。
◇◆◇◆
ブレミシャインは混乱の真っ只中にいた。
龍門郊外で任務に当たっていたはずの彼女はトラブルで気を失い、目が覚めた後は一先ず拠点へと撤退する判断を取る。
渓谷を抜ければロドスが設営した拠点があるはずなのだが、山を降りた先にあるのは住宅街だった。
郊外のはずなのにやけに整備された山を降る途中から薄々と違和感を感じていた彼女だったが、ここにきてようやく異常に気づく。
いつの間に自分は移動都市内に来てしまったのかと大いに混乱をすることになった。
訳もわからぬままとりあえず移動を続ける彼女だったが、よく見ると街並みも龍門のモノとは全く違う。
おまけに道ゆく人も彼女の知識では全く知らない種族だった。
どの人も一目で種族がわかるような角や耳、尻尾がなく、リーベリ族かと思いきや羽毛の類もない。
一応クランタの女性はちらほら見かけるのだが、種族がわからない人たちが大勢いるここはまるで異世界のようだった。
自分がどこにいるのかもわからぬまま気がついた時から歩きっぱなしだった彼女はすっかり滅入ってしまい、たまたま見つけた公園にふらふらと吸い込まれ腰を下ろしたっきり立てなくなってしまった。
通信機器も圏外でロドスとの連絡も取れず、八方塞がりで呆然と空を見上げていると、ふと声をかけられる。
「あのーすみません、ちょっとお話いいですか?」
「うひゃあ!?なな、なんでしょうか!?」
気を抜いている時に声をかけられたので、びっくりして変な声が出てしまった。
慌てて声の主に顔を向けると、青い帽子を被った二人組の男が立っている。
彼らもやはり角や尻尾はなく、種族は分からない。
「えーと、近隣住民から通報があったんですけどね。ウマ娘さんはどうしてそんな格好をしているんです?」
「えと…、ウマ娘、ですか…?」
ウマ娘?自分のことだろうか?ここではクランタをそう呼ぶのだろうか?
質問がよく分からず怪訝な顔をするブレミシャインに、警官は矢継ぎ早に捲し立てる。
「その剣と盾って勝負服の装飾ですか?随分と精巧ですねぇ、ちょっと確認させてもらってもいいですか?」
勝負服?なんのことだろう。この甲冑のことだろうか?よく分からぬままブレミシャインはゴソゴソと武具を外す。
構いませんが、危ないので気をつけてくださいね。と言ったブレミシャインの一言で、警官二人の目の色が変わる。
剣を半分ほど抜き刃先を軽くチョンチョンと触ると、二人の警官は何やら手帳のようなものを取り出した。
「申し訳ないのですが、署まで御同行願えますか?」
任意で同行を促す割には威圧的で、まるで一切の反論を許さないような態度にブレミシャインもようやく警戒心を露わにする。
二人の警官もブレミシャインの雰囲気が変わったことに気付き、ゆっくりと感づかれぬように腰の獲物に手を添えた。
公園を利用していた一般人でも何やらよくない空気を肌で感じ取ったその時だった、公園外から予期せぬ声が突如響き渡る。
「ひったくりーーー!!!誰か、誰かソイツを捕まえてーーー!!!」
明らかに非常事態とわかる叫びに、警官二人が弾かれたように顔を悲鳴のした方へ向けた。
その瞬間、ブレミシャインが目にも止まらぬ速さで地面を踏み込む。
そのまま一呼吸の間に警官から剣と盾を奪い返すと小さく「ごめんね」と呟き、
『ドォンッ』
と雷鳴のような轟音で大地を蹴り、瞬く間に姿を消した。
「は……?」
余りに一瞬で非現実的な展開に警官達は呆けたような声を出し、互いに顔を見合わせた。
さっきまで甲冑を着たウマ娘がいた場所には、つま先まで深く踏み込んだような跡があり、クレーターのように抉れ、周りにヒビが走るソレを見て警官達は青ざめる。
いくらコンクリートではないとはいえ、ここまで地面を踏み抜くことができるウマ娘などいるのだろうか?
警官二人はすっかり萎縮してしまい、轟音を聞いて様子を見に来た住民に声をかけられるまでその場を離れることができなかった。
◇◆◇◆
「はちみ〜はちみ〜はっちっみ〜、はちみ〜を舐め〜ると〜…」
陽気な歌を歌いながら、一人のウマ娘が上機嫌に歩いている。
小柄な体躯にポニーテールに纏めた茶髪、前髪の白い流星が特徴的な彼女はトウカイテイオー。
テイオーは今日の買い物のお目当てだった『1日100品限定!超ロイヤルハニードリンク』を啜りながら、府中の森公園を散策していた。
「んん〜、やっぱり『ロイヤル』は一味違うねぇ!」
残り少ないドリンクを衝動のままに一気に飲み干し、少しジジくさいセリフを吐く。
ちょっともったいない気もするが、この口いっぱいに広がる高級な蜂蜜の香りにテイオーは天にも昇る心地だった。
「ふぅ、これで今週のトレーニングも頑張れる…、およよ?」
無くなってしまったドリンクに少し寂しさを覚えながら容器をゴミ箱に捨てたその時、テイオーの視界に一人のウマ娘が目に入った。
普通の街中だというのに、何故か甲冑のようなデザインの勝負服を着たウマ娘が警官に問い詰められている。
不安そうな顔で受け答えをしているようだが、警官の顔が晴れる様子はない。
((なんでこんな街中で勝負服なんか…、嬉しすぎて着たまま家を飛び出しちゃったのかな?))
うむむ、とテイオーは木の影に隠れながら様子を伺う。
テイオー自身、初めて自分の勝負服を目にした時はそれはそれは嬉しくて、一日中着たままで終いには同室のマヤノトップガンに笑われたものだ。
それとおんなじような感じだろう、と勝手にテイオーは解釈する。
((勝負服を着て浮かれたくらいで警察に問い詰められるなんて、ちょっと可哀想だよね。))
どんどんテイオーの中で勝手な設定が膨らみマリアの被害者像が組み上がっていくが、残念ながらそこにツッコミを入れるものはいない。
助け舟を入れてやろう、と考えたテイオーはまず警官を彼女から離してあげることにした。
たった今考えた『無敵のテイオー様によるかっこいい救出プラン』を実行するべく、急いで公園外に出る。
そして大きく息を吸い込み、
「ひったくりーーー!!!誰か、誰かソイツを捕まえてーーー!!!」
と、できる限りの大声量で叫んだ。
こうすれば警官達は明らかに非常事態と分かるこちらを優先して、先にこっちに来るだろう。
それまでにテイオーはその場を離れ、ダッシュで公園内に取り残されたウマ娘と接触。そしてそのままダッシュで公園から脱出。
まさに完璧なプランだ。自身の天才さに惚れ惚れとし、テイオーは思わずニヤける頬を押さえる。
「おっと、いけないいけない。」
だが今は自分に自惚れている時間はない。助け(嘘)を出し終わった今、テイオーは急いでこの場を離れ、あの甲冑のウマ娘と接触しなければいけないのだ。
ちょっと急がないとね、と深くかがみ込み足に力を溜める。
そのまま一気に駆け出そうとした時、公園内から何かが爆ぜるような音がした。
「ん?一体なんの…」
『何の音だろう』と言いかけたその時、
ガシャンッ
という鎧が擦れる音と共に、目の前に甲冑のウマ娘が着地する。
「え…?」
現状が理解できず、テイオーが固まる。
だってさっき公園内にいたじゃないか。なんで僕が助ける前に、もう目の前にいるんだ?
そんなテイオーの混乱は知る由もなく、マリアはテイオーの身を案じていた。
「大丈夫?怪我してない…?もう大丈夫だからね。」
と屈んでテイオーの目線に合わせて優しく声をかけ、テイオーの頭を撫でる。
騎士は、どんな些細なことでも悪ならば見逃さない。
そして、騎士はいつだって虐げられる者を護る責務がある。
今となっては腐敗し、嘗ての騎士のあり方など誰もが忘れてしまったカジミエージュの騎士道はまだマリアの中に残っていた。
「もう安心してね!キミの荷物を奪った悪いヤツは、お姉ちゃんがちゃーんと捕まえてあげるから!」
茶目っけを出すようにパチっとウインクをしたマリアに、テイオーは暫し呆気に取られる。
助けるつもりが、いつの間にか逆に助けられる側になってしまっていた。
微塵もテイオーを疑う素振りを見せないマリアに、テイオーは一周回って申し訳なさが湧いてくる。
「えと、ごめんなさい!実は今の嘘なんです。」
ギュッと目を瞑り、ペコリと頭を下げる。
昔ウソをついてそれがバレてしまった時、母にひどく叱られお尻を叩かれた記憶が蘇る。
まさかこんな優しそうな人がそんなことをしないかと思うが…、と思いつつも、テイオーは無意識に手でお尻を庇った。
そんなテイオーを見てマリアは一瞬キョトンとしたが、すぐに笑みを浮かべ、
「大丈夫だよ、ちゃんと謝れて偉いね」
とテイオーの頭を再び撫でた。
頭を撫でられるのってちょっと気持ちいいな、とテイオーの考えが当初の目的からずれ始めた時、周囲の喧騒で我に帰る。
気づけば、テイオーが出した叫び声とマリアの踏み込みの音でかなり人が集まってきているようだった。
「あーと、ここだとお姉さんもちょっと居心地悪いよね。場所変えよっか?」
予想外のことはあったが、ともあれ彼女と合流はできた。あとはこの場を離れるだけだ。
マリアもテイオーの誘いを特に断る理由もないので、二つ返事で了承する。
「ちょっと走るよ!言っておくけどボク、結構早いからね。」
テイオーが大胆不敵にニヤリと笑う。
図らずも言外に『ついてこれるか?』と言うような含みになってしまい、それに気付いたマリアも競争とくればクランタの血が滾る。
「じゃあお姉さんも、ちょっと頑張っちゃおうかな」
マリアが腰を落とし、テイオーがポケットから1枚のコインを出す。
それを親指に乗せ、キンッと弾いた。
空高く舞い上がったコインが、金属音を響かせ地面に落ちる。
その瞬間、2人のウマ娘は同時に駆けた。
((あれ?ひょっとしてボク、とんでもない人と勝負しちゃってる??))
そういえばこの人、フィクションかってくらい一瞬で動いてたよね。
駆け出してからテイオーの頭によぎる疑問。
いくら身体能力に優れるウマ娘といえど、そこまでの芸当が可能なのだろうか?
しかしテイオーは、その思考に蓋をした。
今はそんなことなど考えなくていい、雑念は足を遅くする。
勝負をするからには勝つ。
だって自分は、帝王なのだから。
見切り発車で始めた2次小説ですが、妄想を文章にするのってこんなにも大変なんだなと頭を抱えてます。
しかもちゃんとした文章になってる自信がない!ヨヨヨ〜…。
作ってみて改めて、世の中の作家ってすごいな〜って感じました。
まだまだ至らぬ点が多い作品ですが、気力が続く限りは投稿を続けるつもりなのでどうかよろしくお願いします。