今回の序章は、ゲーム内の登場キャラが次回以降実際にゲームをプレイする理由付け。
「……だあー!6着かよ!」
「残念だったねー。」
チーム『にんじんぷりん』の控室に、トレーナーの叫び声が響き渡る。
それにニコニコしながら応えるのがチームの『エース』でもあり、『顔』でもあるハルウララ。
「でも、凄いよね!最初の頃は何回やっても15着と大差の16着だったのに。これならもう少しで入着も果たせそうだよ!」
「確かに……少しずつではあるけれど、前には進めているのかな。」
「絶対そうだよ!」
望むような結果にはならなかったものの、徐々に目標には近づけていることに手応えを感じて励まし合う二人。
そこへ、
「失礼します。って、あなた達……また『それ』ですか……」
「この後、私達と合同でトレーニングをする予定だけど……大丈夫?」
チーム『ファースト』の樫本理子トレーナーと、チームのエースであるリトルココンが入室し、部屋の様子に溜め息を吐く。
ーーー
『にんじんぷりん』のトレーナーが手に持っているのは、ゲームアプリ『ハルウララがんばる!』である。
事の発端は、ゲームアプリのタイトルにもなっているハルウララが、この年末から年度末にかけて達成した数々の偉業に遡る。
彼女が果たしたもの、それは『有馬記念連覇』、『アオハル杯優勝』、そして『URAファイナルズ優勝』という不世出の大記録である。
トレセン学園に入学したての頃からいつも笑顔を絶やさず、レースに出ても勝ち負け関係無く明るく振る舞い、皆を元気付ける。
一方で肝心のレースの実力は……となると、時々入着することもあるが、基本的には枠外の結果に終わることが多い。だけど、どんな結果になっても決して下を向くことなく、レースで競ったら相手を称え、応援してくれた人々に笑顔で感謝。
そんな、学園内でも『記録よりも記憶』という印象が持たれていたハルウララの運命を、URAファイナルズとアオハル杯の開催、そしてそれに伴って結成されたチームが一変させる。
一見知的だが頼り無さそうなトレーナーと、彼女をチームに誘った仲間達、アオハル杯のプレシーズンを戦う中で加わったチームメイト、そして今ここに訪れたチーム『ファースト』を始めとするライバル達が、気付けばハルウララを『前人未到の大記録を打ち立てた、最強のウマ娘』へと上り詰めさせていたのだった。
ーーー
「時間は……良かった、まだ予定前ですね。」
「『良かった』ではないでしょう。そのゲームに熱中するあまり遅刻だなんて、皆に示しが付かないじゃありませんか。」
「あはは、面目無いです。」
私達がここに来なかったらどうするつもりだったんですか……と頭に手をやりつつ呟く樫本。
「……ここに来るまでのトレーナー、ちょっと嬉しそうでしたけどね。」
「んなっ……!?」
「あ!樫本さん顔真っ赤だよ!」
そんな樫本の様子を見ながら、リトルココンが一言。
顔を赤らめる樫本に、ハルウララが無邪気に追い討ちをかける。
「って、何でそちらのトレーナーまで赤くなってるんですか……」
「いやあ……ははは……あいてっ!」
「もとはといえばあなたが……!」
一緒になって照れる『にんじんぷりん』のトレーナー。
その頭に、手にしたノートを丸めて一発入れながら樫本がお説教を行う。
「あれだけの結果を残しておきながら、そのだらしなさは一体何です!仮にも私達に勝利しておいて……」
「……トレーナーが面倒を見すぎるから、そちらのトレーナーさんがますますダメになっていくんじゃ……」
「駄目だよ!私達のトレーナーはみんなのものなんだから!」
「べ、別にそういうつもりでは……」
視線を下げながら小声で樫本が呟く。
「……そろそろマジでレース場に移動しねえと不味いぞ。」
「あはは、いつもの雰囲気なところ悪いけれど、みんなを待たせちゃ駄目ですよー、と。」
そこに現れたのがエアシャカールとナイスネイチャ。
「おお、マジだ!ごめんごめん。」
「感謝します。……って、『いつもの雰囲気』というのは……」
「気にすんな。仮に気にしたところで、手遅れだ。」
「二人とも、いつも呼びに来てくれてありがとう!」
「どこぞのお姫様の自由気ままっぷりに比べりゃ大したことねえよ。それに……」
エアシャカールが、トレーナーの持つ携帯を指差して続ける。
「オレ達も『そいつ』の開発に関わった手前、変に責任負わされるのは勘弁願いたいからな。」
ーーー
ハルウララの偉業達成後、これを記録に残さなければ!と即座に動いたのが、彼女を日頃から支え続けた商店街のご一行……だけではなかった。
学園の広報部などは勿論、各レースの主催者・共催者達も一斉に動き、グッズ関連は勿論のこと、何か彼女の偉業をファンの皆に伝えられないか……と様々な案が出された。
そこで生まれたのがゲームアプリ『ハルウララがんばる!』である。
ハルウララのトゥインクル・シリーズを中心とした道のりを、ゲームを通じて体感しよう!という内容であった。
彼女になりきって偉業の達成に挑む楽しさや達成感は勿論のこと、学園の内外を問わずに引き出された彼女の魅力を存分に落とし込んだ内容に、ゲームはリリース直後から爆発的なヒットを治めた。
ーーー
「まあ、お茶の間にも受け入れられるような適度な難易度だったことも、大ヒットの要因だったわけですが。」
「何を突然話していらっしゃいますの?」
合同練習中、レース場で準備運動をしながら、セイウンスカイが放った一言に困惑するメジロマックイーン。
「いやー、『にんじんぷりん』のトレーナーさんってば、今日も『ハルウララチャレンジ』に挑んでたんでしょ?」
「ああ……なるほど。」
アプリが大ヒットした傍ら、学園内には「フン……アイツらのしでかしたことは、こんな程度のレベルじゃあねえぞ?」と、笑みを浮かべる者達がいた。
『にんじんぷりん』でハルウララと共にアオハル杯を勝利した、エアシャカール達である。
「あいつらになりきって『破った壁』を少しでも体験したけりゃ、それこそ相応の『理不尽』や『運命の気まぐれ』に向き合って貰わねえとなあ」と声を上げ、開発元に掛け合って既存のものを遥かに上回る難易度のものを、エアシャカールに至ってはプログラミングにも関わりながら完成させた。
それが冒頭でトレーナーがプレイしていた『ハルウララがんばる!』の最新テスト版、『ハルウララチャレンジ』である。
テスト版ということで、当初は学内の関係者限定でプレイさせてみたところ……難しいを通り越して『極悪』とも言えるその難易度に身悶える者が続出。
スカイのように「あー、こりゃ無理だわ。誰かがクリアするのに任せましょー。」と早々に諦めた者は、むしろ賢明な部類であり……
ーーー
「一体何が原因なんですのおおお!」
「落ち着けマックイーン。闇雲にプレイしても無理なように設定されていることに気付け。」
「そういうこった。」
食堂での一幕。
何度トライしても上手くいかず、熱くなるメジロの令嬢にアドバイスを送るトレーナーと、その様子を半笑いで見つめるエアシャカール。
「で、その事に気付いた聡明なトレーナー様は、何かクリアに向けた筋道でも見つけたか?」
「いや、まだ暫くは手探りが続きそうだ……しかし、これは又とんでもないものを作ったな。チームや学園の皆一旦プレイを止めさせた方が良いんじゃないか?」
「……あー、確かにな。変に熱中してレース影響出されても困るからなあ……」
「現に……マックイーン、最近ちゃんと食事とってるか?」
「はぁ?当然ですわ!むしろスイーツを食べる暇がありませんわよ!」
「……これは……」
「ああ。流石に不味いな……」
トレーナーとシャカールが頭を抱える。
マックイーンが本来スイーツよりも優先してしまうほどのゲーム。となれば、生活リズムを崩して熱中してしまう者が他にも少なくないのではないか……との結論に至る。
「学園のみんなは一旦プレイを止めさせた方が良いな。俺は引き続きクリアを目指してみる。」
「……つってもよ、どうやってコイツらにストップかけるんだ?」
「それならアタシに任せて!」
トレーナーの提案に疑問を呈したシャカール、そこに突如現れたのがマーベラスサンデー。
「みんなのゲームを止めさせれば良いんだよね?」
「ああ。だが……」
「そう簡単にいくか?」
「じゃあ、早速マックイーンさんを止めてくるね!」
トレーナーとシャカールの問いに、明るい様子で応えるサンデー。
おもむろにゲーム続けるマックイーンの前に立ち、
「マックイーンさん、」
「何かしら?」
「こんな げーむに まじになっちゃって どうするの」
「 」
真顔でマックイーンに語りかけるサンデー。
絶句するマックイーン。そしてトレーナーとシャカールも一緒になって呆気にとられていた。
ーーー
「あの『マーベラス空間』が無ければ、今頃どうなっていたか……」
「ウン、ソウダネー。」
しみじみと振り返るマックイーンに、直接手を下されなかったスカイがどこか他人事の様子で応える。
サンデーによる荒療治は功を奏し、たちまち学園内でゲーム依存を発症しかけていた者達が正気に戻ることに成功した。
そして、正気に戻った者達は皆、「あれは間違いなく『マーベラス空間』だった」と口を揃えるのだった。
結局、『ハルウララチャレンジ』は『にんじんぷりん』のトレーナーだけが引き続き行うこととなり、日々トレーナーは悪戦苦闘していたのであった。
「何やら私達も結構な強敵として登場するみたいだからね、あれ。」
「……改めて聞かされると、妙な感じがしますわね。」
元々リリースされた作品の時点で、『にんじんぷりん』を始めとする学園のウマ娘達は、実名で作中にハルウララのチームメイトや対戦相手として登場していた。
「巷じゃスペちゃんやグラスちゃんなんかは、有馬記念で最強の敵として登場するせいで、言われのない風評被害が起こっていたりするみたいだけどねー。」
「その『最強の敵』にはオマエも入ってるんだけどな。」
「アーキコエナーイ」
エアシャカールの指摘を、目を糸状にして受け流すセイウンスカイ。
学園内でも、ある時『このグラスとかいう鬼畜はヒトの皮を被った悪魔デース!』と絶叫したウマ娘をどこまでも追いかけるウマ娘の姿や、『スペシャルウィークさん!少しは手加減してください!』と嘆願されて困惑するウマ娘の姿が見られた模様。
ーーー
「やったぞ!遂に俺は……やり遂げたぞおおお!」
そんなこんなで、長期に渡る苦節の期間を経て、『にんじんぷりん』のトレーナーの絶叫が控室に響き渡るのだった。
なお、その数日後には「遂に俺は有馬記念連覇を達成したぞおおお!」の叫びが響くことになるのであった。
このウララちゃんの戦績。
ジュニア級
・メイクデビュー 1着
クラシック級
・ユニコーンステークス(G3) 1着
・菊花賞(G1) 3着
・チャンピオンズカップ(G1) 1着
・有馬記念(G1) 1着
シニア級
・根岸ステークス(G3) 2着
・フェブラリーステークス(G1) 1着
・エルムステークス(G3) 1着
・JBCスプリント(G1) 1着
・有馬記念(G1) 1着
アオハル杯 優勝
URAファイナルズ 優勝
ちなみに最初に有馬記念を勝利した方は、ジュニア級で菊花賞・チャンピオンズカップ・有馬を走らずみやこステークスを走っています。