アオハルの仲間ではなくライバルとしても絡められそうだったので。
ーーー
「すげえな、お前。どうやったんだ?」
「普通のことをしただけです。」
「普通にやったらぶっちぎりの16着になるって分かってんだろうが。」
「サーセン。」
『にんじんぷりん』のトレーナーが、アプリ『ハルウララがんばる!』の最新バージョン『ハルウララチャレンジ』をクリアしたと知り、エアシャカールが控え室にいたトレーナーを訪れ、トレーナーの緩い返しに呆れた様子で話を続ける。
「実際、お前も『チャレンジ』を学内限定でリリースした直後の様子は覚えてんだろ?あの状況を……」
「うん……というか、むしろあの状況は正直忘れたいような……」
「……オレもそれには同意する。これが、あの時の様子をまとめた報告書だ。」
シャカールがPC内のメモ帳を立ち上げ、『ハルウララチャレンジに挑んだ者達の様子』と記されたデータを開く。
『・スピードパワー最大のウララなら有馬記念も大丈夫だろうと思ったら半分位の数値のスペちゃん達に置いてかれた
・スタートから開始10秒のコース上でぽつんと一人ウララちゃんが手を伸ばして走っていた
・視界がぐにゃりとしたけど目をこすってみると現実だった
・目覚まし時計を持った挑戦者がスルーされ、目が覚めたら16着で目標を達成していた
・差し脚質でバ群に突っ込んで呑まれた。というか第1コーナー前から希望とかを強奪される
・スタートから数秒までの間に出遅れ掛かりに襲われた
・逃げで挑めばいけるだろうと思ったら、ことごとくセイちゃんにハナをとられた
・差しの1/3以上がブロック被害者。それでも差し適性Aが最適解という認識から「順調な時ほど危ない」
・「そんな難しいわけがない」と自信満々に挑んだメジロの令嬢やチームファーストのトレーナーが夜更かし気味になっていた
・「そもそも有馬記念を意識しなければムキになる必要はない」と割り切って挑んだ一流のウマ娘が敗北イベントを目の当たりにして「ウララさんを勝たせるまで諦めない」と涙目で宣言したのを周囲が全力で止めた
・当時流行っていた言葉は「過程や準備のせいじゃなくて…私が悪いのよ!ハルウララさんが有馬記念に勝てなかったのは私のせいだ!」という叫び。タブレットを手に持ち懺悔を行うから
・初回の挑戦からそもそも有馬記念に挑む為に必要になるJBCスプリントステークスに勝てない、勝っても有馬記念で16着になる確率が150%。前評判を得ていた有馬記念にばかり気を取られてJBCスプリントで負ける確率が50%の意味
・当初の有馬記念への挑戦による夜更かし気味発症者は1日平均120人、うち約20人が「にんじんぷりん」関係者
・エアシャカールが「コホン! シャカール、貴様~。私に攻略法を教えてくれないと申すのかっ!」と友人の代表および大勢のSP一同と共に詰め寄られ、友人一同も「エアシャカール」も全員戒告処分を食らった』
「……惨劇ってレベルじゃねえな、改めて見直すと。」
「1つのゲームが学園を、治安がヤバい都市のような無法地帯へと変えてしまうのか……」
文章を見直すと共に、口角をひきつらせながら二人は当時の様子を思い返していた。
「……というか、あの時何でオレまで説教の対象になってんだよ……納得いかねえ。」
「国際問題を引き起こしかけた当事者なんだからしゃーない。」
「ゲームで国際問題って……」
「逆に考えれば、国際レベルで人々が夢中になれる作品だった、ってことじゃね?」
「いや、意味分かんねえよ。」
トレーナーの良く分からない理論に溜め息をつきながら答えるシャカール。
少しの間、無言でディスプレイを見つめてから、トレーナーがふとシャカールに話しかける。
「結局のところ、あの時の混乱って『元々リリースされていた【ハルウララがんばる!】と同じ感覚で【ハルウララチャレンジ】に挑んだら返り討ちに遭った奴が続出した』ってことなんだよな。」
「まあな。」
シャカールが首を縦に振り、続ける。
「元々の方では適当にプレイしていても、ウララで有馬記念を勝てるようになっている。それを実際のお前やウララに近づけた途端、このザマだからなあ。」
「……というか、あの時のウララって、マジでこんなんだったか?」
トレーナーが『ハルウララチャレンジ』のオープニング画面を立ち上げ、初期設定に写された『長距離G・芝G』の文字を指差す。
「マジでこんなんだっただろ。少なくともお前と組むまでのウララじゃ、有馬やJBCスプリントはおろか、ダートでも重賞に勝つことすら夢物語ってレベルだったぞ?」
「うーむ……」
「正直、AやBを付けた能力もあの頃のウララには過大評価過ぎるくらいだ。ただ、流石にそこまで手を加えるとゲームそのものが成り立たなくなるからな。」
「……」
シャカールの言葉に黙り込むトレーナー。
「まあ、今言ったように、今回お前が散々苦戦したモンはあくまでゲームだ。現実とはちげえし、むしろお前らが現実で成し遂げたことをベースに作ったモンだからな。」
その証拠に……と、シャカールがふとニヤリと笑みを浮かべる。
「お前の場合、有馬の『連覇』の方が『制覇』よりも楽だったんじゃねえのか?」
「……!」
「やっぱりな。」
トレーナーが驚く様子を見て、期限良くシャカールが言葉を続ける。
「ま、当然だよな。『お前が実際にやったこと』になぞらえれば、余程のことがなければクリアできるようになっているんだからな。」
「……いや、結構その『余程のこと』が起こった記憶があるんだけど……」
「それはお前が単にゲームに慣れてなかっただけだろ。とりあえずクリアしちまったんだから、そういうことにしておけ。」
そういう意味では……と、シャカールがトレーナーに続ける。
「まずは、『シニア級の有馬記念に勝利した』時の様子を教えてもらう。『クラシック級とシニア級の有馬記念を連覇した』時の話は、また今度にしておく。……ちょっと手伝え。」
ーーー
分かったけど……と、トレーナーが言おうとしたところで、シャカールがPCに接続可能なWEBカメラと集音マイクを取り出す。
「え、何?何か収録でも始めるの?」
「あ?お前、『ファースト』のトレーナーから聞いてねえのかよ?」
「いや、この後例によって合同で集まるとだけ……」
「……まあ良いか。そろそろ集まるだろうしな。」
「え、誰が?」
トレーナーが言うと同時に、
「失礼しまーす!」
最初に元気良く入ってきたのがハルウララ。
続いて、
「お邪魔しまーす。」「失礼いたします。」
続いたのはセイウンスカイとメジロマックイーン。
「失礼。」
最後に入ってきたのはチーム『ファースト』の樫本理子トレーナー。
ーーー
「このメンバーでこれから収録を行う。」
「しゅーろく?何だか凄いねえ!」
シャカールの言葉に、興味津々という具合で反応するウララ。
その一方で、
「……どういう繋がりだ?このメンバーは。」
トレーナーが疑問を口にする。
「合同で集まる、って言ってた割には……」
「お前は今から『にんじんぷりんのメンバーがいない』と言う。」
「にんじんぷりんのメンバーがいない…… ハッ!?」
「こいつは見事に釣られてくれたねえ、トレーナーさん。」
「 」
心底嬉しそうな表情で、セイウンスカイが固まるトレーナーに話し掛ける。
「おおー!セイちゃん凄いねえ!えすぱーなの?」
「ふふん、まあねー。」
「……あながち、間違っちゃいねえんだよなあ。」
ウララの称賛に胸を張るスカイの傍ら、シャカールが肯定する。
「いや、今日集まった連中は全員超能力者みたいなもんだ。『こいつを有馬に勝たせちまうよう仕向けた』って能力に関しては、な。」
「ああ、なるほど……」
トレーナーがシャカールの言葉に納得の相づちを打つ。
シャカールとウララ、そしてトレーナー以外は、それぞれ所属するチームが異なる。
チーム『ファースト』を率いる樫本トレーナーは勿論、『ジ・エイペックス』のスカイと『テイテーツ』のマックイーンも、それぞれのチームで『にんじんぷりん』と凌ぎを削っただけでなく……
「お前らが教えたもんな?ウララに、長距離や芝での走り方を。」
「まあねー。」
「あの時は、別段教えたという意識はありませんでしたが……」
シャカールの問い掛けに答えるスカイとマックイーン。
「いずれにせよ、こいつらとの練習がウララに才能を与えちまったのは間違いない。」
「……エアシャカールさんの仰ることが事実ならば、ハルウララさんは本来有馬記念で結果を出せる能力を持ち合わせていなかった、ということになりますが……」
「そうだって言ってるじゃねえか。」
樫本の疑問に即答するシャカール。
「少なくとも、どれだけ才能や指導力のある奴と練習しても、この辺りの『才能』は元々持ち合わせているモンが変わることはねえ。なあ、トレーナー?」
「……ああ。」
「では、一体どのような……」「えっとね、女神様に力を貰ったんだ!」
納得できない、という様子の樫本に、当事者のウララが応える。
「何か、女神様の前でお祈りしたら、突然力がパーン!ってわいてきたことがあってね!いつもセイちゃんやマックちゃんと一緒に練習していた時の感じが、何だか流れ込んできたみたいだったんだよ!」
「……正直、信じられねえけど信じるしかねえんだよ、この話をな。」
「女神様……女神像ですか。」
「女神像の前で祈ったウマ娘が、不思議な力を得た……という案件は、これまでも報告が挙がってますからね。」
「ロジックで証明はできねえが、こればっかりは結果としてのデータが証明しちまっているようなもんだ。」
まあ、あまり前置きが長くなるのもな、とシャカールが改めて状況を説明する。
「今からオレ達『にんじんぷりん』のトレーナーに、ここで『ハルウララチャレンジ』を実際にやってもらう。」
「へ?俺が?」
「お前が。で、ウララ達ゲストはこのマイクの前で適当に喋ってくれ。マックイーン、お前らは音声のみの収録だから手鏡とか出さなくても大丈夫だ。」
「……え、このカメラの向きだと……」
「『大丈夫』だ。……アンタは気になるなら自分で確認しとけ。」
「……ああ、分かりました。」
樫本の突っ込みに、含みのある笑顔で応えるシャカール。
それを見て察した樫本は、『彼女はそういう役割も兼ねているのか……後で関係者に怒られなければ良いが。』と思いつつ、収録の準備を手伝うのだった。
当初はゲームの様子の解説・実況パートと実際のウララやトレーナーの歩んだストーリーを二元的に進められればと思いましたが、俺には無理でした。
とりあえずなるべくサクッと『シニア級有馬勝利→クラシック級&シニア級有馬連覇』を書いて、その後メインストーリーみたいのを書ければ、と。