Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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●月●日


第1話  ~序章~

 Prologue

 

 

 何があったのか?

 ぼんやりと靄がかかり、記憶の道に分け入ろうとしても先が見通せない。

 それだけでなくどうしようもなく体が重い。

 べったりと全身に汚泥が纏わりついて、その場に縛りつけようとしているかのようだった。

 服にはずっしりと雨が浸み込んで。

 その水滴が肌に張り付き広がって、体温を奪い去ろうとしている。

 

 ズルズル──―

 

 ゆっくりと、その重く冷たい体を引きずるようにして、前に進める。

 目的の場所は明確。

 やろうとしていることもはっきりしている。

 ああ、その筈だ。

 これから始まる戦いへの準備。

 この戦いに参加する魔術師であれば、当然の事。

 人外の力を有する英霊、サーヴァントと呼ばれる使い魔を召喚し、自分はマスターとなる。

 敵である他のマスターとサーヴァント達を駆逐して、聖杯と呼ばれる万能の願望器を手に入れ。

 自分自身の切なる望みを叶えるのだ。

 そう。

 大事な願い。

 

 「・・・・・・・・・願い?」

 

 それはなんだっただろうか?

 どうにもはっきりしない。

 あんなにも明確だった筈の目的が、こんなにもぼんやりしているなんて。

 自分は本当に疲れているのだと認識させられる。

 殆ど無意識で歩いても、目的地には到達した。

 そこにあった召喚の媒介となる道具を準備して、魔方陣を描く。

 召喚の呪文は簡単なものだ。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を・・・」

 

 淡々と必要な字句を並べていく。

 その最中、何か全く別の心配事がふわりと思い浮かんだ。

 お陰で詠唱が中断してしまったが、些細な問題に過ぎないだろう。

 

「・・・汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

 惰性のままに詠唱を終えると同時に、仄暗い空間に光が満ちる。

 

 ボウッ──―

 

 やがて、その光の中に人の形をしたシルエットが浮かび上がる。

 英霊の召喚に成功したのだ。

 そして。

 

「サーヴァント、【●●●●●】。召喚に応じて参上した・・・」

 

 お決まりの口上だった。

 だが、大事なのはその内容ではなかった。

 重要なのはその声、そしてその姿。

 光が徐々に薄れていく。

 答えは目の前にあった。

 

「・・・・・・ああ・・・・・・」

 

 なんということだろうか。

 自分の口から思わず、絶望的なため息が零れる。

 いや、単に自分自身に呆れ果てただけの、諦念を示す吐息に過ぎなかったか。

 そう。

 その姿を目にした自分はつくづくとこう思ってしまったのだ。

 またも・・・

 『・・・またしても自分は間違えてしまったのだ・・・・・・』と。

 

「それで・・・」

 

 当たり前のように、その英霊は問い掛けてくる。

 召喚されたサーヴァントとしては当然の流れ。

 当然の質問だ。

 ・・・だけれども・・・

 

「●●●が●●●のマスターか?」

 

 生憎と自分はその問いに対する答えを。

 持ちあわせてはいなかった。

 

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