E turn
ザッ
近付いてきた二人のうちの学生服の男のほう・・・つまり慎二が心底驚いた風情で、問い掛けてきた。
「遠坂はともかくとして、衛宮がサーヴァントを連れているなんてどういうことなんだ?」
「・・・慎二・・・」
おそらく校舎に呪刻を敷設する作業が一段落したのだろう。
校庭に出たところで、オレ達の戦闘に気が付いたというところか。
慎二はオレの後ろで流血しながら倒れたままのキャスターをちらりと見る。
「しかも、そこのサーヴァントは、この前オレ達が殺そうとした女じゃないか。まさかあの時邪魔をしたのは、衛宮だったってことか?」
慎二の隣にいる長い髪の女、即ちライダーが、オレの言葉に微かに身じろぎした。
「瀕死の女性を助けたんだ。当然のことだろ」
「だけど、そいつはあの時、既に魔力がスカスカだった。サーヴァントである以上、魔力を補給してやらなきゃ死ぬだけだった筈だけど、衛宮に魔力なんてあるわけないし・・・」
慎二は少しだけ考え込むと、やがて何かに合点がいったように一人で頷いた。
「成程ね。衛宮も男だもんなあ」
その顔には、下卑た嗤いが浮かんでいた。
慎二の考えていることは容易に想像ができた。そして、それが全てではないにせよ、正解であることも否定はできなかった。
「何が言いたいんだ?」
「いやいや、それ自体は悪いことじゃない。大切な事だよな・・・それに、あの時は全然わかんなかったけど、改めてこうして見ると、なかなかのいい女じゃないか。だいぶ
「よせ。慎二」
慎二の口調には、キャスターへの侮蔑が含まれていた。聞き流すことはできなかった。
「まあ、それはいいさ。とは言え、衛宮はそいつからどこまで聞かされているんだ?きっと
そう言いながら、慎二は少しずつ遠坂の方へと近付いていく。
「これは選ばれた人間のみが参加できる儀式なのさ。例えばここにいる遠坂や、そして僕のようにね」
慎二の口からその言葉が発せられた時、遠坂は露骨に顔を顰めた。
「さて、そんなわけで、僕は聖杯戦争に巻き込まれた可哀そうな友達である衛宮を助けなくちゃいけないよね。それに、同じく遠坂のピンチも救わないと」
勝手に一人で話を進めていく慎二の言葉の意図するところを、オレは理解した。
「待て、慎二!」
「やれ、ライダー!そのサーヴァントを殺すんだ!」
慎二は、まだ意識の戻り切らないキャスターを指差して、傍らにいたライダーに命令した。
ダッ!!
無言でオレ達のやり取りを聞いているだけだったライダーが、慎二の指示が下されると同時に、オレに向けて駆け出した。
「くっ!?」
速い。
先程まで戦っていたセイバー以上だ。
オレは咄嗟に、双剣を構えた。
ズサッ!
だが、ライダーはオレの間合いに入るギリギリ手前のところで、跳び上がった。
最初からオレを攻撃するつもりはなかったのだろう。
その長身をしなやかに一回転させながら狙うのは、オレの後ろに倒れているキャスターだ。
咄嗟にオレは体を反転させながら、手にした剣を横薙ぎに振るった。
ガギィィン!!
ライダーの攻撃を妨害するために振るったオレの刃と、彼女の持つ杭のような先端の尖った短剣が、空中で激突した。
ライダーが慎二の指示どおり、オレではなくキャスターを直接攻撃すると予測していたため、フェイントに引っ掛かることなく、オレは対処することができていた。彼女の動きを見てから、後追いしていては間に合わなかっただろう。
「っ!?」
剣と剣がぶつかり合った反動により、空中にいた彼女は弾かれるようにしてキャスターを挟んで向こう側の地面に体を反転させながら、着地する。
キャスターに杭剣を振り下ろそうとして、オレに止められる形になったライダーは、かなり驚いたようだった。
「衛宮士郎、なぜ、あなたにこんな力が・・・いいえ・・・そんなことよりも・・・」
異様な眼帯に覆われていても間違いなく美しいとわかる顔に戸惑いの色を浮かべて、ライダーはそんな言葉を発する。
一方で、彼女の口からオレの名前が出てきたのは少し意外だった。
だが、彼女が慎二と行動を共にしていたと考えれば、不思議ではないか。
「馬鹿な・・・衛宮が、ライダーの動きについていった?」
慎二も戸惑っているのだろう。
今の攻防で、オレは慎二や遠坂達に背を向ける格好となってしまっていた。
危険な状況だが、今のところ後方からいきなり攻撃されそうな気配はない。
「は、そんな筈ないさ。ただのまぐれに決まってる。ライダー!先ずは邪魔な衛宮を始末しちまえ!」
慎二が容赦のない指示をライダーに与えた。
「・・・止むを得ませんね」
ザッ!
束の間、逡巡する様子を見せたライダーだったが、慎二の声に従ってオレのほうへと駆け出した。
その動きに対応するため、オレも一歩踏み出す。
足元で倒れているキャスターを庇う必要があるため、前に出て迎撃するしかない。
シャッ!
先程とは違い、そのまま突っ込んできたライダーは右の杭剣を突き出してきた。
ギャリン!
殆ど体が勝手に反応する形で、その剣を左の黒剣で跳ね上げる。
だが、ライダーはオレの迎撃を予測していたように、跳ね上げられた体を回転させながら、今度は杭剣を上から振り下ろしてくる。
「く!?」
ジャッ!
上から降ってきたその剣を、反射的に体を捻って躱したが、胸のあたりの服が裂かれ、皮を削がれた。
「つぅっ・・・」
その痛みに思わず、顔を顰める。
だが、攻撃してきたライダーの体は勢い余ってオレの下にある。
チャンスだ!
オレは強引に体勢を整えて、彼女のうなじあたりを狙って右手の剣を振り下ろそうとする。
その瞬間、
ズン・・・
オレの胸の中に突然、形容し難く。
そして、とんでもなく大きく。
抗い難い違和感が滲み出てきた。
──―なんだ?──―
わからない。
ここにある筈のない何か。
この体の中にはない筈の何か。
何も憶えていない。
それなのに。
ただ、ひたすらに、どうしようもないほど決定的に。
──―
オレのどこか奥深くに刻まれた何かが、そう囁いた。
「ぐ!!」
その何かは正しい。
そう思えた。
オレは振り下ろそうとした剣に、咄嗟にブレーキをかけた。
その次の瞬間、
「はっ!」
ライダーが、気合いの籠った息を吐き出した。
ギンッ!!
「しまった!」
実際のところライダーは体勢を崩してなどいなかったのかもしれない。
背中を向けていたと思っていたら、一瞬で反転して、彼女はオレの手にあった白剣を杭剣で弾き飛ばしていた。
斜め上に躰を持ち上げられるような状態になり、仰け反りながら後退させられる。
「素晴らしい戦いぶりです。ただの人間とは思えない動きですが・・・勝負ありましたね」
ライダーは女性にしては低く、そして淡々とした声音で容赦なくオレを嬲ってくる。
オレは剣を振るうのを直前で止めたが、そんなこととは関係なしに、反撃されていたのではないだろうか。当然ながら彼女は、たった今、オレが攻撃を躊躇ったことなど気付いてなどいないだろう。
流れのままに後退するオレをライダーは追ってきた。
「く・・・」
投影していた剣の片割れを失ったオレにとっては、この状況は絶望的だった。間合いを詰めさせないように、後方へと跳び退りながら残った左手の黒剣を構えるしかない。
ライダーは、両手の杭剣を交差させるように構えて、鋭い動きでこちらへと駆けてくる。
彼女の攻撃を迎え撃つべく眼帯に覆われた白い顔を見据えた時、その後方に動く者がいることにオレは気が付いた。
「ライダーッ!避けるんだ!」
オレと同じ存在に、慎二も気付いたのだろう。闇夜の校庭に声が響いた。
「!?」
慎二の声に反応して、ライダーが咄嗟に横に跳んだ。
ドンッ!
刹那の後、一瞬前まで彼女がいた足元の地面を、黒い閃光が抉っていた。
シュウゥゥ・・・
巻き上がった土煙が、僅かに視界を悪くする。
「
ライダーに攻撃を仕掛けたのはキャスターだった。
セイバーの攻撃で受けた傷が嘘だったかのように、服に着いた土を払いながら、彼女は立ち上がった。
「かなりの深傷だった筈ですが?」
どうやら今のキャスターの言葉に対して、憤りを感じたらしい
ライダーが、苛立ちを含んだ声で問い掛けた。
実のところ、オレもライダーと同じ思いだ。先程のダメージはかなりのものだった。オレとライダーの戦闘中に意識が完全に戻ったにしても、この短時間で回復するとは思っていなかった。
「仮にも
「治癒の魔術ですか」
ライダーが推測を口にするが、キャスターは何も応えなかった。おそらく正解なのだろう。
「それにしても助かったわ、坊や。あなたが時間を稼いでくれなければ、間違いなく殺されていたもの」
キャスターがライダーの動きを警戒しながらも、オレに礼を言った。
「まさか、あれ程・・・サーヴァントと渡り合えるとは思ってなかったけれど」
「オレ自身が一番びっくりしているんだけどな・・・」
確かにキャスターと出会い、彼女から魔術の手解きを受ける事で飛躍的に成長したとは感じていた。
武器の投影はかなりスムーズになったし、強化の魔術も安定した。さらに今はキャスターの強化魔術がオレの体には付与されているから圧倒的に身体能力も高まっている。
だが、剣技は別物だ。
セイバーやライダーの攻撃に、自分がついていけたなんて今でも信じられない。
まあ、ギリギリのところでついていけたって感じだったが。
「あなたに遠距離から攻撃されるのは、厄介極まりないですね」
ライダーがそう呟いて、杭剣を構える。
彼女はキャスターに対峙するつもりのようだ。
一連の攻防の中で、それぞれの位置としては、キャスターが弓道場付近、ライダーが校舎を背にし、オレは弓道場からも校舎からも少し離れた校庭にいる。
三者で二等辺三角形を作っているような状態だ。
遠坂、セイバー、慎二の三人もキャスターと同様に弓道場近くにいて、彼女らからはオレが一番遠い位置にいる。いずれもライダーとオレの戦いは静観していたが、この後、どう動くか。
とは言え、オレは最も警戒しなくちゃいけないのは、今戦っていたライダーではなく、あのセイバーだと直感していた。
あいつの殺意は本物だ。
無意識のうちに、オレはあいつの動向を注視するために、視線を向けた。
偶然だったのかもしれないが、ヤツの顔もこちらを向く。
オレとヤツの視線が絡む。
ヤツの目が嗤う。
ヤバい。
視線を向けたのは間違いだった。
そんな意味のない後悔をした瞬間、
ザッ!
赤い外套の男は、両手に双剣を構えてオレの方へと駆け出した。
「え?セイバー?」
己がサーヴァントの突然の行動に、遠坂が戸惑う。
「
オレは迎撃すべく、空いていた右手に白剣を投影する。
「くっ・・・」
またしても魔力がごっそりと搾り取られるのを感じるが、今は弱音を吐くわけにはいかない。
今のオレがイメージできる最強の武器。
それはこの剣以外にないのだ。
「とっとと終わらせてやろう」
向かって来る赤い外套の男の顔には、やる気満々の笑みが浮かぶ。
「あなたもしつこいわよ!」
オレの危機を察知したキャスターが、セイバーの突進を食い止めようと、光弾を放とうとする。
だが、その行動を妨げる者がいる。
ジャリリリィィィ!
ライダーが杭剣に繋がれた鎖をキャスターに向けて放った。
「ほんと邪魔な女ねっ!」
キャスターが悪態をついてその鎖を躱すが、動きを止められてしまう。
決してセイバーと連動した動きではない筈だが、キャスターがセイバーに対して攻撃する姿勢を見せたことが、ライダーにとってはつけ入る隙と考えたのだろう。
ザッ!
ライダーがキャスターへと接近する。
結果として、オレとセイバー、キャスターとライダーの戦いが始まることになった。
C turn
「なんてこと・・・」
初手で、形勢が不利になってしまった。
セイバーが再び少年に攻撃を仕掛けてきたので、私はそれを止めるために、彼に向けて魔術を放とうとした。
だが、これがライダーに好機を与えることになってしまい、接近を許してしまったのだ。
最初に会った時から感じていたが、彼女のサーヴァントとしての力量は左程でもない。
距離をとって、魔術で押していけば私が勝てる相手だ。
だが、一度間合いを詰められてしまえば、攻撃に対処しながら小規模な魔術で立ち回らなくてはいけなくなり、圧倒的な不利に陥ってしまう。
今の状態がまさにそれだった。
スピードでは明らかに上のライダーに、完全に纏わりつかれてしまっていた。
向こうでは、坊やがセイバーと必死に戦っているのが見える。
気になって仕方がない。
健闘しているようだが、早く加勢しなければ、と焦る。
しかし、
ジャッ!
「くっ!」
こちらも余裕は全くない。
突き出されてきたライダーの杭剣を、展開した防御壁の魔術で辛うじて逸らす。
これにより体勢を僅かに崩したライダーに向けて手をかざして、突風を発生させた。
「吹き飛びなさい!」
バンッ!
「!?」
一度、風に押し飛ばされたライダーだが、
「そう簡単に距離はとらせません」
そう言いながら、すぐに体勢を整えて着地すると、
ジャリリリ・・・
横に動きながら、両手の鎖を投じてきた。
2本の鎖は、弧を描くようにして、私の方へと延びてくる。
あれに捕らえられたら一巻の終わりだ。
加えて、ライダー自身も杭剣を構えてこちらへと向かってくる。
鎖とライダーどちらに対処すべきか。
ザッ!
私は鎖をバックステップでやり過ごしながら、
「お逝きなさい!」
眼前に展開した三つの魔方陣から、三条の閃光をライダー目掛けて放つ。
ドドドンッ!
「くぅっ!?」
ライダーは剣を盾にして、防いだようだったが、突進を止めることはできた。
今のうちにもっと距離をとらなければ。
私は漸く作り出すことに成功した貴重な時間を使って、浮遊の魔術で宙へと飛び上がろうとした。
だが、
ジャリイィィ!
3m程浮かびあがったところで、私の足首には銀色の鎖が絡みついてきた。
「え!?」
ドシャァァ・・・
「きゃうっ!」
その鎖によって私は引き戻されてしまった。
地面に叩きつけられた顔にべったりと校庭の土がこびりつく。
先程躱したと思い込んでいた鎖は、まだライダーのコントロール下にあったのだ。
「今度こそ本当にお終いにさせてもらいます」
剣に繋がった鎖で私の体を引き寄せながら、ライダーが間合いを詰めてくる。
「このっ!」
絶体絶命だ。
足を絡め捕られ、地面に倒れた状態のまま、反撃するしかない。
ヴゥン・・・
効果は薄いとわかっていながらも、光弾を放つべく、私は眼前に魔方陣を展開した。
E turn
弓道場付近では、キャスターとライダーが戦い始めていた。
気にはなるが、オレのほうにはセイバーが駆けてくる。
今はキャスターを信じて、自分の事に集中するしかない。
「前に出るんだ」
受けるだけでは、ジリ貧になる。
オレは、セイバーの方へと駆け出した。
最初の攻防では、セイバーには油断と戸惑いがあった筈だ。
ただの人間が自分に対抗できるわけはないと。
だが、ライダーとの攻防も見ていたあいつは、ある程度はオレがサーヴァントと闘えるということがわかっている。
もう、油断してくれたりはしないだろう。
「
ヴン・・・
これは賭けではあったが、イケるという確信もあった。
オレは、手にした双剣を強化したのだ。
「なんだと!?」
もう少しで接敵することになるセイバーが驚く。
オレの持つ白と黒の剣は、強化したことによりやや大振りなものとなっていた。
「ぐ・・・」
だが、消費した魔力はかなりのものだ。剣を強化したことで、オレの魔力はほぼスッカラカンになったのを感じた。
これ以上は、魔術は使えない。
この剣で決着をつけるしかない。
オレは剣の柄をきつく握りこんだ。
「はぁぁぁ!!」
眼前に迫ってきたセイバーに、キャスターの魔術で強化されている腕を使って逆袈裟で白剣を叩きつける。
全身全霊の一刀。
ガギィィィン!!
オレの白剣とヤツの黒剣が激突する。
オレのほうが押し勝ち、ヤツの黒剣が左手ごと大きく弾かれていた。
武器を強化した分、オレの剣の力が勝ったのだ。
「ぬぅぅぅ!?」
目論見どおり、初手で相手の体勢を崩すことに成功した。
オレは続け様に左手の黒剣で、セイバーの胴を薙ぎにいく。
ガッ!
ヤツは白剣で受け止めるが、それだけで精一杯になっていた。
「つぁぁぁぁぁ!」
攻めどころだ。
オレは間断なく両手の剣を振るい続けた。
ガンッ!ギン!ガツッ!!
オレは前に進み、セイバーを徐々に押し込んでいく。
戦いの場が、少しずつ移動して弓道場に近付いていく形になっている。
セイバーの向こうでは、キャスターとライダーが戦い続けており、遠坂と慎二が何事かを話しているのが視界に入る。
早くセイバーとの戦いを終え、キャスターの援護をしなければいけない。
そんな考えが脳裏を過った時、
「なかなかやるな、と言ってやっても良いのだがな」
オレの眼前で、ヤツの浅黒い精悍な顔に、嘲るような笑みが浮かんだ。
「貴様を褒めるのは、胸糞悪い」
なんだ?
オレは確かに押している。
ヤツは防戦一方だ。
だが、手応えが軽い。
・・・というか、薄い?
攻撃しどおしで体力も奪われてきた。
ギンッッ!ガツン!ガイィィン!!
ヤツの言葉に惑わされないようにと意識しながら、オレは休まずに切りつけていく。
それなのに、何とも言えない違和感が膨らんでいく。
誘導されている?
オレは、隙があるように思える箇所を攻撃している。
だが、それはヤツが敢えて作り出したものだとしたら・・・
その考えに至りながらも、オレは流れのまま、吸い込まれるように黒剣を突き出していた。
スッ──―
これまで全ての攻撃を剣で受けてきたセイバーが、初めて体を捻って躱した。
「どうやら、気が付いたようだが・・・」
ドゴォッ!
右の脇腹に激痛が走り、
「ぐぁぁぁぁぁ!!!!!」
堪らずに絶叫しながら、オレは左へと大きく吹っ飛ばされた。
ズシャアアアァァァ・・・
校庭の土を削るようにして、かなりの距離をオレの体は滑ってから、止まる。
早く立ち上がらないと。
地面に這いつくばることになったオレは顔を上げるが、すぐに猛烈な吐き気が込み上げてきた。
「うげぇぇぇ・・・」
喉から溢れてきた汚物を、その場にぶちまける。
消化しきれていなかったシチューの具が目に入ったが、それを無視してなんとかセイバーへと目を向けながら、なんとか立ち上がる。
「無様だな、小僧」
セイバーはゆっくりとこちらへと歩みを進めてきていた。
さっきのオレへの攻撃は左足での蹴りだったのだろう。オレの剣を躱しながら体を回転させて放ってきたものと推測できた。
「強化していながら、こちらの干将と莫邪を砕くことができないようでは、私には勝てん」
かんしょう?ばくや?
それが、あの2本の剣の銘なのか。
絶体絶命の状況にもかかわらず、オレはヤツの言葉のそんなところに気を取られた。
「
オレの詠唱と全く同じフレーズを、眼前の男は紡ぐ。
すると、その手にある双剣が強化された。
オレの強化と同様に剣が一回り大振りになっただけでなく、羽のような装飾が現れていた。
「それが、本物ってことか・・・」
先程のオレが強化した剣よりも、遥かに洗練されていた。
格の違い・・・いや、練度の違いか。
オレは自分がヤツの劣化版に過ぎない、ということが痛烈にわかってしまった。
「お前はここでくたばれ、衛宮士郎」
静かに、しかし剥き出しの殺意が叩きつけられる。
ダラリと両手にぶら下げられていた剣が持ち上がり、オレの眼前に突き付けられた。
「・・・そんなわけにはいかない・・・」
出会ってから、ごく僅かな時間しか経っていないが、オレはこの男が何であるかについて、わかってしまったような気がしていた。
だが、コイツがここまで露骨にオレを殺そうとする理由は、わからない。
そして、わけもわからず、殺されるなんて真っ平ご免だ。
なにより、ここでオレが斃れれば、キャスターも殺される。
それが嫌だ。
「どんなに見苦しくても足掻いてやる」
力の入らない腕をなんとか持ち上げる。
オレは眼前の男に向けて双剣を構え、そして、その目を睨みつける。
「ふん、往生際が悪いな」
蔑むような・・・と思ったが、何某か微妙な成分が混ざった声音だった。
オレとヤツは完全にお互いの間合いに入っている。
キィ・・・
オレとヤツの白い剣同士が僅かに触れた。
「はああぁぁぁっ!」
「がああぁぁぁっ!」
ガィィィィンッ!
オレは襲い来るヤツの黒剣に対して、白い剣を振り被ってぶつけ、
ギィィィィンッ!
続いて襲い来る白剣に、黒い剣をぶつける。
本能の赴くまま、そしてこの両手の剣が導くままに。
全力で。
ひたすらに。
この場を生き伸びる!
ただ、それだけの思いだけを抱いて。
オレにできることは、死に物狂いでこの剣を振るうことだけだった。
年度末のバタバタで、あまりしっかりと見直しができませんでした・・・