Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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1月26日 夜







第13話 ~5日前④~ 「今、そこにある違和感」

 Interlude in

 

 

「わけわかんない展開になっちゃったじゃない。一体全体、何だって言うのよ・・・」

 

 遠坂凛は眼前の混沌とした状況を、自分が全くコントロールできていない現状に苛立ちを覚えていた。

 駆け出していったセイバーは校舎付近で衛宮士郎と再び剣を合わせており、弓道場の横ではキャスターとライダーがしのぎを削っている。

 自身のサーヴァントであるセイバーは、マスターである自分の言葉を殆ど無視して、執拗に衛宮士郎を狙っているように思えた。

 これは聖杯戦争。

 殺し合いの舞台。

 この戦いのために準備をしてきたし、言われるまでもなく覚悟も決まっている。敵のマスターを殺すことに躊躇はないつもりだ。

 だからと言って・・・

 

「そりゃ、衛宮君がマスターだって言うんなら、斃すしかないのもわかるわよ・・・」

 

 ここまでの動きを見れば、間違いなく衛宮士郎は魔術師であり、キャスターは彼のサーヴァントだ。両者は明らかにお互いを守るようにして戦っている。

 しかし、衛宮士郎に令呪はないようだ。彼は正式なマスターではないのではないか。

 であれば、経緯を知りたい。

 加えて、やはり悪質な結界を学園に張ろうとしているのが彼だとも思えなかった。親密な関係というわけではないが、それとなく目にする彼の普段の人助けを是とする行動とはどうにも合致しない。

 

「実際、さっきはまさに呪刻の前にいたから、ビンゴって思い込んじゃったわけなんだけど」

 

 先日の朝、偶然、衛宮士郎がストーブを直す場面に出くわしたことで、彼が魔術師ではないかと睨んだ。また、この学園に結界が張られつつあることも気付いていたので、彼と結界を結び付けて考え、その動きをマークしていたのだ。

 

「ん?」

 

 凛は、()()とあることに気付いた。

 考えてみれば、もう一人、怪しい人物がすぐ隣にいることを。

 

「ところで、間桐慎二君。この学校に張られつつある()()()()()は、あなたの力によるものかしら?」

 

 普段であれば、自分から話しかけるなど絶対に避けるところだが、そんなことは言っていられない。

 自分と同じく戦いの趨勢を見ていた間桐慎二に問い掛けた。その手には何らかの魔力を帯びた古びた本があるのが目に入る。

 

「え?」

 

 この男も、この状況には戸惑いを覚えていたのだろう。

 少し反応が鈍かったが、

 

「あ・・・ああ、勿論そうさ。あの結界はなかなかのもんだ。遠坂ならわかってくれるだろう?」

 

 実に他愛もなく誘導尋問に引っ掛かった。

 

「・・・そうかもね。あなたが、ライダーにやらせたの?」

 

 間桐慎二の回答に対する嫌悪感を押し殺して、なおも掘り下げて情報を引き出そうとする。

 この男が魔術を使えないことは以前からわかっている。だからこそ、マスターになり得ないと頭から決めつけてしまっていたのだが、現状ではライダーを使役しているのは間違いがなかった。

 

「ああ、なにせ僕はライダーのマスターだからね。あの女は僕の言う事なら何でも聞くんだ。凄いだろう」

 

「あ、そう」

 

 返答に感情が滲み出てしまう。

 あまりの不快さに我慢できずに、演技を忘れてしまった。

 

「遠坂のサーヴァントは、ただの人間に過ぎない衛宮なんかに苦戦しているみたいだね。でも安心しなよ、僕が遠坂を助けてやる。ライダーがキャスターを斃したら、すぐにセイバーに助太刀してやるよ」

 

 理解不能の分析と、謎の優越感を充満させて、そんな言葉を垂れ流していた。

 この男は友人である衛宮士郎を殺すことに、何の感情も抱いていないのだろうか?

 

「それは、楽しみね」

 

 結界を張ろうとしていた犯人を炙り出すという目的は果たした。

 不快な時間を終えるため、五感と思考から間桐慎二という存在を完全に消すことにして、凛は再び状況を確認する。

 見れば、セイバーは衛宮士郎を圧倒し始めていた。

 当たり前だ。

 本来、人間がサーヴァントに伍するなどあり得ない。

 今、この瞬間、まだ彼が生きていること自体が非現実的とすら言える。

 だが、現実にはまだ戦っている。

 戦えているのだ。

 彼はセイバーと全く同じ剣を投影して、それを使いこなして戦っているが、形勢としてはセイバーが押し込んでいる。それでも、神技とも言えるセイバーの剣技に、辛うじてではあるが対応できている。

 

「・・・いったい、彼はなんなの?」

 

 凛は瞠目するしかなかった。

 慎二の自白により、あの結界を張ろうとしていたのが、衛宮士郎達でないことはわかった。

 令呪を使ってでも、セイバーを止めるべきか?

 だが、彼とキャスターが繋がっていることも確かだ。

 間違いなく、聖杯戦争の競争相手なのだ。

 それを助けることはとても合理的とは言えない。

 実際のところ、彼女は迷っていた。

 すると。

 

 ゴゥッ!

 

「え?」

 

 突如として、背中に物凄い重圧を感じた。

 それと同時に、風。

 嵐の時に生ずるような、圧力を孕んだ突風が凜の体に後ろから吹き付けてきた。

 なんだ?

 かなりの質量を持つ何かが、跳んだのだ。

 直感に従って、凛は上空に目を向けた。

 真夜中に煌々と輝く月の光を、その『何か』が遮った。

 その着地点は・・・

 

「セイバーッ!上っ!!!」

 

 あれはマズい!

 凛は反射的に叫んでいた。

 

 

 Interlude out

 

 

 E turn

 

 

「セイバーッ!上っ!!!」

 

 悲鳴の様な遠坂の声が校庭に響いた。

 

「凛?」

 

 セイバーが遠坂の声に反応する。

 

「!?」

 

 ゾワッッ!

 

 とんでもないものが落ちてくる!

 

 ギンンッッ!

 

 セイバーもそれに気付いたのだろう。

 オレとヤツは打ち合った剣で、咄嗟にお互いを押し出すようにして、後方へと大きく飛んだ。

 

 ザァァァァ・・・

 

 既にセイバーに圧倒されていたオレは、空っぽになりかけだった最後の力をふり絞ったため、そのまま土のグラウンドをボロ切れのように滑っていくことになった。

 そして、

 

 ドゴォッッッッッッッ!!!

 

 顔を上げた瞬間、先程までオレ達がいた場所には巨大な黒い影が凄まじい勢いで落下してきた。

 隕石が直撃したのかと思ったほどだ。

 

 シュウウウ・・・

 

 もうもうと舞い上がる土煙の向こう。

 圧倒的な存在感を持つ灰色の塊があった。

 それは人の形をしていた。

 無惨に抉り取られた地面には、全身から異様な空気を発する巨人が仁王立ちになっていた。

 身の丈は2mを優に超えており、その手には岩石でできたような巨大な剣を持っている。

 

「ば・・・化け物・・・」

 

 オレは眼前の状況を頭で消化し切れず、感じたままの言葉を呟くしかなかった。

 

「サーヴァントか」

 

 一方、セイバーは突如として現れた異形の正体を正確に把握しているようだった。

 

「■■■■■■■■■──―!!!」

 

 ほんの束の間、静寂に包まれた空間に、突如として奇怪な音が響き渡った。

 それが巨人の口から発せられた、咆哮だと気付くのに僅かなりと時間を要した。

 耳をつんざくような獣の叫びだ。

 オレは思わず両耳を塞ぐ。

 

「くっ・・・」

 

 だが、早く立ち上がらないとマズい。

 三歩踏み込めば、化け物はあの岩塊のような剣をオレに振り下ろせる。

 あんなのを食らったら、一撃で挽肉になってしまう。

 頭ではわかっているが、既に限界を超えて酷使していた体は容易に動かない。

 

 ドンッ!!!

 

 だが、オレの焦りとは関係なく、化け物は想定外の動きを見せた。

 巨人がその巨体に似合わない鋭さで跳び上がり、オレやセイバーからは遠ざかっていったのだ。

 向かうその先にいるのは、

 

「キャスター!!!」

 

 キャスターとライダーがいる。

 二人ともつい先程まで戦っていた相手を忘れたかのように、突如として現れた巨人に目を奪われていた。

 

「くっ!?」

 

 ライダーは咄嗟に自分の剣を手放して、大きく横に跳んだ。

 彼女の剣は鎖を介して、キャスターが繋がっている。剣を持ったままでは、危険だと判断したのだろう。

 

 ゴゥゥン・・・

 

 巨人はライダーとキャスターの中間へと着地した。ライダーの鎖があっさりと千切れ飛び、地面が割れ、土煙が舞い上がる。

 

「な・・・なんなの・・・?」

 

 キャスターが呆然と呟く。

 ライダーに追い詰められていたキャスターは、結果的に危機を逃れる形になった。

 だが、ライダー以上の新たな脅威が目の前に現れたというだけに過ぎない。

 

「く・・・」

 

 このままでは、キャスターが危ない。

 何が目的なのかはわからないが、間違いなくアレは危険な相手だ。近くにいるライダーとキャスターのどちらを狙うかはわからないが、キャスターはかなり消耗している。

 

 ザッ

 

 オレはボロボロになっている体を無理矢理動かして、巨人のほうに向かって駆け出した。

 その時だった。

 

「こんばんわ。聖杯戦争のマスター達」

 

 この場の張り詰めた空気に似つかわしくない、軽やかな声が響いた。

 オレも含めたその場の全員が、吸い寄せられるように声の方向に顔を向ける。

 

「私は、イリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

 遠坂と慎二の後方。

 そこには紫色のコートにくるまれた銀髪の少女がいた。

 人形のような白い肌と、人形ではないことを示すように赤くキラキラとした光を湛えた瞳が印象的だ。

 

「以後、お見知りおきを、と言いたいところだけれど、今回の参加者はみんなお行儀が悪いわね。聖杯戦争はまだ始まっていないのに、こんなにも大勢が我慢できずに戦いを始めちゃっているなんて」

 

 小柄な少女はその場の全員を、ゆっくりと眺めていく。

 その瞳は危険な輝きを孕んでおり、顔には嘲るような微笑みが浮かんでいた。

 

「あなたが、今回のアインツベルンのマスターなのね」

 

 少女と巨人が支配するこの場の空気に抗うように、遠坂が問いを投げる。

 

「そうよ。初めまして。今代の遠坂家の当主、遠坂凛」

 

 少女は朗らかに答え、そして質問を返す。

 

「あの巨人はあなたのサーヴァントってわけね?」

 

 一方の、遠坂は張り詰めた表情のままだ。

 二人の態度の違いは、そのままお互いの余裕度の違いを示しているかのようだ。

 

「ええ。アレは私のサーヴァント、バーサーカー。古代ギリシャにおける最高の英雄、ヘラクレスよ」

 

「何ですって!?」

 

「あのヘラクレスなのか?」

 

 遠坂も、オレも同時に声を上げた。

 声こそ出さなくても、この場にいる他の物、全員が息を呑んだようだ。

 あの巨人が有名なヘラクレスであるという事。そして銀髪の少女が事も無げにそれを明かした事。その両方に驚いたのだろう。

 キャスターの話では、英霊は敵に対して真名を明かさないのが鉄則の筈だからだ。

 

「そう。あなた達が束になっても叶わない絶対の存在よ」

 

 少女は後ろ手を組んでくるりとその場で一回転した。その様は妖精がダンスを楽しんでいるかのようだ。

 

「でも、さっき言ったとおり聖杯戦争はまだ始まっていないわ。だから、今日のところは見逃してあげる。淑女(レディ)である私はあなた達のような、()()()()()真似はしないのよ」

 

 だけど、と少女は続ける。

 

「これ以上、野蛮な行いを続けるなら、容赦はしないわ。今日、この街までやってきたのはそこのお兄ちゃんに会うためだったけどね」

 

「え?オレ?」

 

 思いもよらない言葉に戸惑った。

 この少女がオレに何の用があると言うのだろうか?

 

「うふふ」

 

 だが。少女ははぐらかすような、笑みを浮かべるだけだった。

 

「バーサーカー、あなたの力を見せつけてあげなさい。ここにいる全ての者が、これ以上愚かな考えを起こさないようにね」

 

「──―■■■■■■■■■■■──―!!」

 

 少女の声に呼応して、暫くの間、沈黙を保っていた巨人が咆哮した。

 

 ゴゥッ!

 

 先ほども見せたように、その巨体に似合わぬスピードで跳び上がった巨人、即ちバーサーカーは、手にした斧のような剣を大きく振りかぶった。

 着地点は弓道場の屋根だ。

 キャスター、ライダー、遠坂、そして慎二の4人は、弓道場に比較的近い位置にいたが、バーサーカーの様子を見て、反射的にそこから遠ざかった。

 

 ドゴオォォォォォォォォォォォォンン!!

 

 巨人の振り下ろした剣は、弓道場の屋根をぶち抜き、その余波は射場全体を半壊させた。

 大半の屋根瓦が粉々に砕け、バラバラと飛び散っていく。

 とんでもない破壊力だった。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 慎二が恐怖に満ちた悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込んだ。 

 飛び散った構造物の欠片が、弓道場付近にいた4人は元より、かなり離れているオレにもかなりの勢いで降り注いでくる。

 慎二のように腰を抜かしたりはしないが、思わず戦慄した。このサーヴァントに比べれば、先程迄必死に戦っていたセイバーもライダーも、可愛いものだと思えてくるほど圧倒的だった。

 

「さあ、これ以上バーサーカーを怒らせたくなかったら、早くこの場を立ち去りなさい」

 

 銀髪の少女はなおも歌うように軽やかに警告する。

 だが、それは逆らえば即、死に繋がる残酷な旋律だ。

 

「ららら・・・ライダー!!」

 

 完全に腰を抜かして、動けなくなっている慎二が、慌てふためいて自身のサーヴァントに呼びかけた。

 

「撤退しましょう。慎二」

 

 主人と違って、冷静さを保っていたライダーが落ち着いた声で応じると、慎二の傍へと駆け付けた。

 

「失礼します」

 

 ライダーはそう言うと、地べたに座り込んだままの慎二を小脇に抱え上げた。

 

 ザ・・・

 

「は・・・早く!早くあの化け物から逃げるんだ!このノロマ!!」

 

 慎二はライダーに罵声を浴びせるが、彼女は意に介していないようだった。

 そのまま、一片の無駄な動きもなく、走り去っていく。

 

「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃっ・・・!」

 

 薄紫色の髪が靡いてあっという間に闇の中へと消え、錯乱したような慎二の声が遠ざかっていった。

 

「凛、あなたはどうするのかしら?」

 

 ライダーと慎二が逃げ去るのを満足そうに見届けながら、少女が遠坂とセイバーを交互に見て、問い掛けてきた。

 

「ここであれと戦うのは早計だな、マスター」

 

 セイバーが遠坂と目を合わせて、首を振った。

 

「まあ、そもそも結界を張ろうとしていた犯人はわかったわけだしね」

 

 セイバーに言われるまでもなく、遠坂もここで何の準備もなく、あの化け物と戦うつもりはなかっただろう。

 

「今日のところはこれくらいで退いてあげるわ」

 

 遠坂は精一杯、勝気な態度を崩さずにしているようだったが、完全に敗者の捨てゼリフを口にした。

 

「それじゃあね、衛宮君。一旦、休戦よ」

 

 遠坂がオレの方を向いた。

 いつの間にか、セイバーが彼女の傍らに立っている。

 

「衛宮君の戦い振りには驚かされたわ。凄いのね、あなた」

 

「オレ自身もびっくりしているんだけどな」

 

 更に付け加えるなら、遠坂が魔術師だったという事もオレにとっては衝撃的だった。

 だが、覆しようのない事実であることもよくわかった。

 魔術による攻撃、サーヴァントの存在、そして、先程の銀髪の少女の口から出てきた『今代の遠坂家の当主』という表現。

 どうやら、彼女はこの戦いの主要な参加者であるようだった。

 

「あと、結界を張ろうとしたのがあなたと思い込んでしまったことは謝るわ」

 

「あれ?オレが犯人じゃないことをわかってくれたのか?」

 

 どうやら、オレがセイバーと戦っている間に、誤解が解けていたらしい。

 

「ええ。あの馬鹿慎二があっさり認めたわ」

 

「そうだったのか」

 

 先程の慌てぶりからすると、当面は慎二がライダーにあの結界を張らせるようなことはないだろう。

 

「でも、聖杯戦争が正式に始まった時にあなたが今と同じ立場だったなら、殺し合うしかないわ」

 

 少し柔らかくなっていた遠坂の口調が、冷たいものに変わっていた。

 

「そうならない方策を考えるさ」

 

 オレはキャスターを守ると決めたが、遠坂だけではなく、慎二とも殺し合うなんて御免だ。

 

「その魔女と縁を切らない限りは無理だな」

 

 セイバーが、オレの傍らにやってきたキャスターにちらりと目線を送る。

 

「それはできない」

 

「では、開戦と同時に貴様はお終いだな」

 

 純粋にこちらの神経を逆撫でる事だけを目的とした嘲けるような笑みだった。

 

「セイバー、それ以上挑発しなくていいわ」

 

 遠坂がヤツを窘めて、退去を促すように首を振る。

 

「ふん、そうだな。こんな小僧に余計な言葉を費やしてしまったな」

 

「だいたい、あんたが執拗に衛宮君に突っかかるから事がややこしくなったんじゃない」

 

「そうだったか?私はサーヴァントとして当然のことをしたまでだ。凛だって戦うつもりだったろう」

 

「そりゃそうだけど・・・・・・まあ、いいわ。行きましょう」

 

「ああ」

 

 そう言うと、二人は並んで校門のほうへと歩いていく。

 凛とした遠坂の背中とヤツの広く頑健な背中。どちらも赤い服を纏った二つの背中は・・・何と言うか、お似合いだった。

 

「坊や、先に手当てだけはしましょう」

 

 なんとなく遠坂達に目を奪われていたオレに、隣のキャスターがそう言って、魔術で治療をしてくれた。

 セイバーとの戦闘で、オレは無数の傷を負っていた。全身を苛んでいた痛みが、彼女の治療で嘘のように消えていく。

 彼女の魔術は本当に凄いものだ。

 

「助かる」

 

 オレは、瞠目しながらも率直にお礼を言う。

 

「・・・不思議ね・・・・・・」

 

 オレがキャスターの治療を受けているのを見ていた銀髪の少女がポツリと呟いた。

 

「え?」

 

 この少女とバーサーカーの乱入で、絶体絶命だったオレ達は助かった。だが、ここを離れるまで本当に助かったとは言い切れない。彼女の気紛れ一つでオレ達は、簡単に殺されるだろう。

 少女の声を聞いて、そんなことを思い出したオレは戦慄した。

 

「ううん。なんか違うなって、少し思っただけ」

 

 だが、銀髪の少女はフルフルと首を振った。

 その仕草にはつい先程迄、殺すだの、殺さないだのという物騒な言葉を口にしていた残酷なマスターの面影はなく、ただの無垢な少女のものにしか見えなかった。

 

「とにもかくにも礼を言わせてくれ。キミのお陰で助かった」

 

 どんな意図があったにせよ、助けられたのは事実だ。

 オレは、そう言って頭を下げた。

 

「うふふ。私にそんなつもりがなかった事は、承知の上で言っているのね。いいわ、アインツベルンの当主として、その言葉はそのまま受領しましょう」

 

 少女は鷹揚に頷いた。

 今度は、気品のある貴族のような振舞いだった。それは、決して格好だけの付け焼刃のようなものではなく、しっかりとした教育を受けた者が身に着けている風格みたいなものが感じられた。

 こういうのを、板についていると言うのだろう。

 

「え、えっとこの場合は・・・恐悦至極です・・・って返せばいいのかな?」

 

 オレはどう返せばいいのかわからず、間の抜けた事を言ってしまった。この銀髪の少女が見せる多面性に戸惑うばかりだ。

 

「なにそれ?」

 

 少女はクスリと笑った。

 

「行きましょう、坊や。傷は治療したけれど、体力も魔力も限界の筈よ」

 

 キャスターは長居しないほうがいいと判断しているのだろう。早く退去するよう声を掛けてきた。

 そして、自分の肩に掴まるよう促してくる。

 

「そうだな。正直、キツい」

 

 遠慮せずに、キャスターの肩を借りることにした。

 強がりも限界を迎え始めていた。

 

「それじゃあね、お兄ちゃん。次はちゃんと殺してあげるからね」

 

 銀髪の少女は、結局は物騒な別れの挨拶を投げてきた。

 

「それは、勘弁して欲しい」

 

 オレはうんざりしながら、そうとだけ返すと少女に背を向けた。

 これが聖杯戦争参加者の在り方なのか。

 遠坂も、慎二も、この少女も、相手を殺すという選択肢を当たり前のものとして、口にする。

 

「目立たない程度に浮遊して、帰りましょう」

 

 肩を貸してくれているキャスターが、オレの胴の脇に手を回しながらそう告げてきた。

 ふわりと体が軽くなり、オレ達の体はゆっくりと宙に浮いていく。

 

「おお・・・」

 

 地面に足が着いていないという新鮮な感覚にオレは、少しドキドキした。

 

「・・・でもやっぱり、似合わないわね・・・」

 

 そんな呟きがポツリと背中から聞こえてきた気がした。

 振り返ったオレは、少女、そして、バーサーカーに視線を送った後、半壊した弓道場の有り様を改めて見て途方に暮れた。

 

「弓道場・・・どうするんだろうか・・・」

 

 明日になったら、学校は大騒ぎになるだろう。

 










本作における主人公サイドの初戦がやっと終わりました。前作に比べて進行が遅いのを如実に感じます・・・
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