Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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1月26日 深夜










第15話 ~5日前⑥~ 「天を穿つ」

 Interlude in

 

 

 銀髪の少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが自身の居所である郊外の城に帰ろうとしていた矢先だった。

 

「──―■■■■■■──―!」

 

 バーサーカーの威嚇するような咆哮が、深夜の校庭に響き渡る。

 イリヤスフィールは、己がサーヴァントの様子を訝った。

 その声には明らかに何者かに対して敵意が含まれていたからだ。

 自分を抱えているバーサーカーの全身に殺気が走り、力が漲っていくのが感じされる。

 

「どうしたの、バーサーカー?」

 

 先程までこの校庭で争っていた間桐慎二とライダー、遠坂凛とセイバー、衛宮士郎とキャスターはもういない。その三組の聖杯戦争参加者達全員を纏めてすら、バーサーカーが警戒するほどの相手ではなかった。

 だが、今のバーサーカーは最大限の警戒を露わにしていた。

 

「何かが来る?」

 

 少女は、バーサーカーが睨みつける暗闇に目を凝らす。

 すると。

 

「ち・・・どうやら宴が終わってしまったようだな」

 

 心底忌々しそうに独白しながら闇夜の中から現れたのは、黒いジャケットに身を包んだ金髪の男だった。

 

「我に祭典の開催地を自動的に伝えるような機構(システム)くらいあって然るべきだな。綺礼のヤツめ。あの男、存外気が利かんからな」

 

 細かい内容はわからないが、かなり自分勝手な文句を言っているという雰囲気だけは、イリヤスフィールにも伝わってきた。

 

「そうは思わんか?アインツベルンの人形よ」

 

 傲然と、ただただ相手を見下す事だけを目的としたような豪烈な光を湛えて、金髪の男は目線を向けてきた。

 その眼光だけで、この男が尋常な者ではないことが、イリヤスフィールにはひしひしと感じられる。

 

「あなた、サーヴァントなの?でも・・・」

 

「くくく、愉快なので付き合ってやるか・・・そうだな、(オレ)はアーチャーということになるだろうなあ」

 

「・・・・・・あなた、受肉してるじゃない。本来、エーテル体で構成されるサーヴァントではなく、肉体を持った存在・・・なぜ・・・?」

 

 イリヤスフィールには、目の前の男が真っ当に召喚された英霊とは思えなかった。

 

「そんな事はどうでもいい。人形よ、質問に答えろ」

 

 金髪の男、英雄王【ギルガメッシュ】は、ちらりと少女を抱えている巨人に目線を送る。

 

「このデカブツはなんだ?バーサーカーか?」

 

「・・・・・・そうよ。見ればわかるでしょう?」

 

 半ば気圧されるようにして少女は肯定した。

 先程、衛宮士郎達には真名まであっさりと明かしたが、この男にはそうしたくなかった。

 

「ふん。かなりの力を持った英霊のようだがな」

 

 ギルガメッシュはつまらなそうに独り言ちて、前に進む。

 その動きに合わせるように、バーサーカーは無言で己が主を地面にゆっくりと降ろした。

 

「バーサーカー・・・・・・」

 

 少女は不安気な声を出しながら、男から遠ざかるように後退した。その声は、つい先刻まで三組のマスターとサーヴァントを圧倒していた時とは、全く違う響きを孕んでいた。

 イリヤスフィールと入れ替わるようにしてバーサーカーが前に出る。

 

「あのケルトの英雄のように我を興じさせねば、本祭を待つまでもなく、ここで退場させてしまうぞ。精々、我を楽しませるがいい」

 

 ギルガメッシュは己が宝具【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】を起動すると、あたかもその手に指揮棒(タクト)があるかのように、軽く右腕を上げた。

 その絶対の指令に呼応し、半円状にバーサーカーを取り囲むようにして、数十に及ぶ武具が展開される。

 

「な!?」

 

 イリヤスフィールは息を呑んだ。

 周囲に出現した凶器が、全て宝具に匹敵する魔力を帯びていることが感じられたからだ。

 凄まじい迄の圧迫感に、身体が押しつぶされそうだった。

 

「その堂々たる体躯、ハリボテでないことを証明するがいい」

 

 そう言って、ギルガメッシュは右腕を無造作に振り下ろした。

 

 ドドドドドドドドドドッ!

 

 宙空に浮いた武具が、その切っ先の直線状にいる灰色の巨人目掛けて、次々と射出されていく。

 

「──―■■■■■■■■■■■■──―!!!」

 

 迎え撃つバーサーカーの怒号が闇夜に響き渡るとともに、その鍛え上げられた巨躯から猛々しい闘気が立ち昇る。

 

 

 

 ガギン!ドンッッ!ガゴッ!ギィィィンッ!ドゴッ!ズゥゥン・・・

 

 王の蔵から放出される数多の武具と、ギリシャ神話最高の英雄が振るう豪剣。

 重厚な武器と武器が次々とぶつかり合い、深夜の穂群原学園のグラウンドに耳をつんざくような轟音が響き渡る。

 

「──―■■■■■■■■■■■■──―!」

 

「ほう・・・無粋な見た目どおり、頑丈さに関しては折り紙つきというわけか。それにバーサーカーだというのに、剣捌きもかなりものだ。喧しい声が些か興を削がれるがな」

 

 闇夜の空間に浮かぶ無数の渦巻く窓。

 そこから次々と出現する、剣、槍、鉾、斧などのあらゆる武器。

 これらが僅かな時間差をおいて、間断なく射出され、灰色の巨人を強襲していた。

 

「頑張って!バーサーカーッッ!!」

 

 本来なら激励である筈の銀髪の少女の甲高い声が、悲鳴のような響きを伴って闇夜を切り裂く。

 

 ガンッッ!ギャン!ガアァン!

 

 岩石で出来ているように見える巨大な斧剣を片手で風車のように振り回して、次々と襲い来る刃を撃ち落とし、叩き返し、砕いていくバーサーカー。

 

 ドゴンン!

 

 しかし、全てを迎撃することは能わずに、時には自身の体に直接被弾する。

 その鋼のような体は、凄まじい勢いで飛来した剣を時として弾き返すこともある程だ。

 しかし、3本、4本、5本と時間の経過と共に、分厚い肉体に突き立つ刃は増えていく。

 

「──―■■■■■■──―!!」

 

 それでも、巨人の動きは止まらない。

 自身の背後にいる少女に、雨霰と降り注ぐ凶器を一つも届かせまいとするように、猛々しく斧剣を振るい続けていた。

 

「ふむ。剣技も強靭さも大したものだが、芸には欠ける。このままでは、我は退屈してしまうぞ・・・・・・とは言え、真名を直接聞くのは無粋というものか」

 

 ギルガメッシュは顎に手を当てて、束の間考え込む素振りを見せた。

 

「おい、人形。そろそろこいつに宝具を使うように指示を出すが良い」

 

 傲然と言い放つ。

 

「な!?」

 

 相手の言葉にイリヤスフィールは、戸惑った。

 

「どうした?万物の王たる我が許可しているのだ。応じないのは不敬に当たるぞ」

 

 ギルガメッシュは、あくまでも自身の理屈と都合のみを押し付ける。

 

「そもそも、宝具は敵に言われて使うものじゃないわ」

 

「だが、この状況では貴様のサーヴァントに万に一つも勝ち目がないことくらいわかるだろう。宝具を使えば、僅かにせよ勝機が訪れるかもしれんぞ。砂粒一つほどの勝機かもしれんがな」

 

 男の言葉は事実だ。

 こうして会話をしている間にも、武具は間断なく射出され続けており、バーサーカーの巨躯には10本を超える刃が突き立ち、全身から止めどなく流血していた。満身創痍としか言いようのない状態ではあったが、それでも英雄は雄々しく戦い続けている。

 

「く・・・」

 

 その様子を眼前にしながらも、イリヤスフィールには打つ手がなかった。なぜなら、己がサーヴァントの宝具は、相手に対する攻撃として使う性質のものではないからだ。

 

「この期に及んでも使わないつもりとは、これはとんだ期待外れか?いや、違うな。使えんのか」

 

 イリヤスフィールが一向に指示を出す素振りを見せないことを訝りながらも、ギルガメッシュはそう独白し、

 

 ズズ・・・

 

 背後の窓から一本の長剣を出現させた。

 

「これまで見たところ、我が宝物でも貴様には傷を負わせることができないものもあったな。一定以上の魔力または威力を有する武具でないと傷つけられんということか」

 

「──―■■■──―!!」

 

 その間にもバーサーカーに向けられた弾幕は緩んでいない。

 

「では、これならどうだ?後世では、竜殺しの魔剣として名高い一刀だ。存分に味わうがいい」

 

 ゴッ!

 

 王の意思により解き放たれた長剣は、その肩口を通り過ぎると、凄まじい速度で標的へと襲い掛かった。

 巨人は自身に降り注ぐ武具を相手に依然として剣を振るい続けており、飛来したその一刀に気付いた時には既に手遅れになっていた。

 

 ドンッッッッッッ!!!

 

「──―■■■──―!!!」

 

「バーサーカーッッ!!!」

 

 放たれた剣は狙い違わず、灰色の巨人の分厚い左胸を貫いていた。

 

 ズゥゥンンン・・・

 

 不沈艦にも見えた巨人と言えど、霊格を貫かれてはどうしようもない。

 膝を折り、ゆっくりと全身が前のめりになっていき、遂には地に堕ちた。最後に受けた長剣も含めて、10を超える武器がその躰には突き立っており、夥しい量の血で全身を赤く染めあげていた。

 

「うん?これで本当にお終いか?」

 

 ギルガメッシュは、腑に落ちない表情を浮かべた。

 自身の本能がこの英霊はこんなものではない、と告げていたのだ。

 

「だが、こうなってしまっては・・・」

 

 どうしようもなかろう、と呟きながら、ゆっくりと金色の王は歩みを進める。

 崩れ落ちた巨人の亡骸へと向かう途上、何気なくそのマスターである銀髪の少女へと目を向ける。

 

「・・・・・・」

 

 無言で立ち尽くす少女の赤い瞳には、強い光が宿っていた。

 ギルガメッシュはその光は敗者が持ちえるものではないことを、よく知っていた。

 彼はその歩みを止める。

 

「バーサーカーは負けない」

 

 傍らの少女の微かな呟きが、はっきりと王の耳に届く。

 

「何?」

 

 すると、ギルガメッシュの眼前で倒れていた巨人の全身から、黒い炎のような揺らめきが纏わりつき始めた。

 

 ボォォォォォォ

 

「これは・・・」

 

 そして、ズタズタにされていた肉体が瞬く間に修復されていく。

 

 ガッ!

 

 さらに、両腕でグラウンドの土を抉るようにして掴みながら、その体躯を持ち上げていくと、

 

「──―■■■■■■■■■■──―!!!」

 

 復活した巨人の雄叫びが大気を切り裂いた。

 その咆哮と共に、仁王立ちになった全身から、黒炎が凄まじい勢いで爆ぜる。

 

「ほう、これはまた突拍子もない芸当だな。切ろうが焼こうが傷一つ負わないという英雄は数あれど、よもや本当に死の淵から蘇る者がいようとは」

 

 眼前で起きた奇跡にも等しい光景に驚嘆しながらも、ギルガメッシュの顔には当初から変わらない傲然とした笑みが浮かんでいた。

 

「やっちゃえ!バーサーカーッッッ!!!」

 

「──―■■■──―!!!」

 

 マスターの指示に呼応したバーサーカーは、一気に間合いを詰めると、眼前の敵目掛けて手にした斧剣を振り下ろした。

 

 ガァァァンンンッ!!

 

「ふん」

 

 だが、その攻撃は途中で妨げられ、敵の体を破壊するには至らなかった。

 目の前に大きな盾が出現し、防がれたのだ。

 

「だがな。攻撃手段が、馬鹿力でその石くれを振り回す事しかできないとうことでは、我にその刃が届くことは未来永劫ないぞ」

 

 ポケットに手を突っ込んだ姿勢のままで盾を出現させ、巨人の攻撃を防いだギルガメッシュは悠然と告げる。

 

「さてと・・・それで、貴様は何度復活できるのだろうなあ?」

 

 ギルガメッシュの発した声は、圧倒的に優位な立場にいる者が、無抵抗の相手を踏みしだく時の愉悦の成分が充満している。

 既に、中空には半円状どころかドーム状に、数えきれないほどの砲門が開かれていた。

 目標物は、その中心にいる灰色の巨人だ。

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドン!!

 

 50を超える武具が射出された。

 これまでの攻撃の際、それぞれの武器は僅かではあるが時間差を設けて放たれていた。

 が、今度は違った。

 それらは()()に解き放たれたのだ。

 

「──―■■■■■■■■■■■──―!!」

 

 バーサーカーは雄叫びを上げながら、手にした斧剣を凄まじい速度で振るい、そのうちの10余りを撃ち落とす。

 しかし、焼け石に水だ。

 撃ち落とせなかった武器のうち、残りのうちの半分はその頑強な肉体の鎧によって弾き返したが、さらに残りの半分が鋼の肉体をも食い破り、深々と突き立っていった。

 

 シュゥゥゥゥゥゥ・・・

 

 武器達に抉られた大地から上がる土煙と、灰色の巨人から噴出する血煙が、混ざり合ってその周囲に立ちこめる。

 もはや、バーサーカーの体は原型を留めておらず、数多の刃を受けたその様はハリネズミのようだった。足ももがれたため、その巨躯は地に転がっている。

 

「さて、どうなる?」

 

 興味津々という面持ちで、王はその様子に目を凝らす。

 

「ああ・・・・・・」

 

 一方で、銀髪の少女は口元を両手で覆う。

 

「これでもまだ蘇ってくるようであれば、手向けてやるものがあるぞ。我が財宝による串刺しの刑をひたすらに繰り返すのでは、些か(おもむき)に欠けるのでな」

 

 眼前に転がる巨大な肉塊に語り掛けながら、ギルガメッシュは中空から新たな武具を取り出し始めた。

 

 ズズ・・・

 

 姿を現したそれは、『剣』と呼ぶにはあまりにも奇怪な造形を成していた。

 本来刀身がある部分には、赤い螺旋状の機構が存在しており、薄紙を切ることもできそうにない。

 

「な・・・何なの?それは・・・」

 

 イリヤスフィールはその剣の正体など知る由もなかったが、それがどうしようもない程に危険な物であることだけは感じていた。

 

「この乖離剣、【エア】に貴様の体を供物として捧げ、10年ぶりの祭典に相応しい祝砲を上げるとしよう」

 

 その間にも、先程と同様に巨人の身を黒い炎が包みこんでいき、そして、その炎が肉体に変換されるようにして、元の形を取り戻していく。

 

「──―■■■■■■■■──―!!」

 

 

 再び生命を得た巨人が猛り狂う獣のように、四肢を地面に張り付かせたまま、夜空に向けて咆哮を上げる。

 

「・・・だめ・・・バーサーカー・・・」

 

 その様を少女は頼もしく思うと同時に、今は絶望的な状況であることを痛いほどに感じていた。

 

「くくく。だが、貴様の命とて無限ではあるまい。でなければ、人形がそのような表情をする筈がないからな」

 

 ギルガメッシュは手にした秘蔵の剣、【乖離剣(エア)】をゆっくりと振り上げる。

 

「喜べ、不撓不屈の英雄よ。汝は認められた」

 

 ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

 金色の王の重厚に響く言葉に同調するように、螺旋状の機構が回転を始めた。

 

「見事にこの天地を割く超常の一振りに耐えて、我を瞠目させるが良い」

 

「・・・いやぁ・・・やめてぇ・・・」

 

 少女の目に涙の雫が浮かぶ。

 イリヤスフィールは、自分の視界内にある全ての空間そのものが凝縮され、その剣に吸い込まれていくような錯覚を覚えた。そして、その剣が発する重圧の前に、体は微塵も動かなくなってしまう。

 

 ドンッ!

 

 バーサーカーが跳躍した。

 少女の騎士たる灰色の巨人は、ひるむことなどあり得ない。

 

「──―■■■■■■■■■■■■■■■■──―!!!」

 

 その手に持つ斧剣を大きく振り上げて、今にも絶望の剣を振り下ろそうとしている敵に向かって。

 その敵は、自身が守るべき小さく儚い主を害そうとする存在だ。

 

「なるほどな。では、その忠義に応えてやろう」

 

 その行動に何かを感じたか、ギルガメッシュが呟いた。

 

天地乖離す開闢の星(エヌマエリシュ)!」

 

 裁定を下すように、王がその腕を振るう。

 断罪される対象は、空を駆ける万夫不当の大英雄。

 そして、裁きの巻き添えになるのはその周囲の闇夜と、後方に聳える人工の建造物。

 それが、たとえ限られた領域に過ぎなかったとしても。

 

 コウッ────────────────────────────────────────

 

 この時、世界は切り取られた。

 

 

 Interlude out

 











自分の表現力の問題なのは重々承知していますが、ギル様とバーサーカーの戦闘はどうしても大味になってしまいますね・・・
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