E turn
ジリリリリリリリリィィィィィィ!
けたたましく目覚まし時計が鳴動する。
喧しい。
この道具で目を覚ます事など稀になっていたが、今朝はどうにもならなかった。
容赦ない音の洪水が、ガンガンと頭の中に降り注いでくる。
「ぐ・・・!」
控えめに言って全身筋肉痛。
頭もボンヤリと霞がかかっているようだ。
それでも、意識を強く持ち、無理矢理手を伸ばして、騒音の主を沈黙させる。
「これで、静かに眠れるな」
と独り言ちて、自然に布団の中に沈没していく。
「って、そうじゃない!」
思わずそう叫ぶとオレはガバっと掛け布団を跳ね上げ、その勢いのままに上半身を起こした。
「がっ!?」
当たり前だが、激痛が走る。
「・・・・・・・・・・・!!!」
オレはその場で上半身を前屈みに折って、苦悶に耐えた。
ザッ
「おやよう、坊や・・・・・・大丈夫?」
障子戸をスライドさせて、顔を覗かせたのはキャスターだった。
彼女はいつもより少しだけ顔色が悪いようにも見えた。
帰って来てから、寝てないのだろうか?
昨晩この家に戻ってから、オレはあまりの疲労にいつ寝たのかも覚えていないくらいだ。それくらい厳しい戦闘だった。キャスターだってだいぶ消耗しただろうに。
そんな疑問が頭を掠めながらも、今のオレは自分自身の事で手いっぱいだった。
「こ・・・これくらい・・・大したことじゃない」
顔に脂汗が浮かんでいるのを自覚しながらも、オレは強がって見せる。
「そう。それなら、朝ご飯食べられる?準備しておいたわよ」
彼女はお盆を持った手で口元を隠して、目を細めた。その手の内側では、ニヤニヤと意地の悪い笑みが浮かんでいるのだろう。
「ああ、準備をして行くから、居間で待っていてくれ」
ここで待たれても、キャスターの側まで辿り着くのにどれだけの時間がかかるかわからない。
「ふふ、手を貸しましょうか?」
「大丈夫だって」
「はいはい。頑張って頂戴ね、男の子」
ひらひらと手を振って、彼女は廊下の奥へと戻って行った。
「だいぶ上手になったんじゃないか?」
キャスターが用意してくれた朝食は、レタスのサラダ、スクランブルエッグ、ウインナーにご飯と味噌汁。
無難なラインナップではあるが、オレの教えたことを彼女なりに丁寧に守ったことがよくわかる。
卵のとろけ具合は程良いし、味噌汁の風味は失われていない。
「ありがとう。ちょっと上から目線なのが、気に入らないけれど」
少し口を尖らせながらも、向かいに座るキャスターは満更でもなさそうに目を細めた。
彼女はいつもどおりの綺麗な姿勢で、上品に両手で湯呑みを持っている。
「それにしても、今日くらい学校休めばいいんじゃなくて?ご飯食べるのだって大変なくらいじゃない」
キャスターはかなり本気で諭してきた。
「なんか負けたような気がするから行く」
ちょっとムキになって、オレはそう応えた。
「壊れた弓道場の事も気になるし」
「それこそ、坊やが登校したからってどうなるものでもないじゃない」
ごもっともな指摘ではある。
「いや、だから壊した手前、その現場に行かないでしらばっくれるのは、余計罪悪感が増すじゃないか」
『正義の味方』として、あるまじき行為だとも言える。
まあ、『オレがやりました』って白状できるわけでもないのだが。
「なんとなく気付いてはいたけれど、坊や、自虐体質よね・・・」
卓に肘をついて、組んだ両手に形の良い顎を乗せたキャスターは、少しじっとりした目でオレを見詰めてきた。
特徴的な少し尖った耳が垂れる。
「そんなことはないぞ」
反射的に否定するが、それを補強する具体的な事例が提示できないのがもどかしい。
んん?
ということは、キャスターの指摘が正しいのか?
「そもそも、弓道場を本格的に壊したのは、あのバーサーカーじゃない。坊やは何も悪くないわ」
「オレ達の戦いが原因なんだから、オレにも責任があるだろ?」
「はあ・・・・・・」
キャスターは目を閉じると、本格的に深い溜め息をついた。
「まあ、いいわ。そんなところがあなたの美徳でもあるわよね」
そう言うと、彼女はおもむろに腰を上げた。
「薬を持ってきてあげるから、それを飲みなさい。痛みが和らぐわ。今のままじゃ、学校に着く頃には、お昼を過ぎてしまうわよ」
「・・・うう・・・ありがとうございます」
オレは、廊下へと向かう彼女の背中に深々と頭を下げた。
「・・・・・・弓道場がどうのなんてレベルじゃなくなっちゃったなあ・・・・・・」
オレは途方に暮れていた。
周囲にいる当学園の生徒達も同様だろう。
キャスターの調合してくれた薬のお陰で、だいぶ痛みがマシになったオレは無事、学校に辿り着いた。
その筈だった。
だが、オレが辿り着けたのは、『学校があった敷地』までだった。
「とんでもないことになったな・・・衛宮」
そう声を掛けられて後ろを振り向くと、一成がいた。
その目も口も、限界に挑戦するかのように大きく真ん丸に見開かれていた。
通常であれば、まずお目に掛かれない間の抜けた表情だが、今回ばかりは無理もないだろう。
なにせ、
「学校がなくなってしまったな」
という一成の言葉が全てを物語っていた。
「そうだな」
気の利いた言葉も浮かばず、淡々と返事をするしかなかった。
オレ達の目の前には、本来ある筈の校舎がなかった。
昨日まで・・・というか昨夜まで確かにここに学び舎があった事をオレは知っている。
朝食時にキャスターと話したとおり、オレは弓道場が半壊していることについて、学校中が大騒ぎになっていることを覚悟して登校してきた。
しかし、実際にはそんな覚悟は不要だったわけだ。
大騒ぎになると言うよりも、みんな呆然としている。
人間、あまりにもわけのわからないものを目の当たりにすると、騒ぐということすら忘れるようだった。
「授業はどうなるんだ?」
「おお・・・あっちで、先生が指示しているようだぞ」
オレは一成の視線を追う。
「不測の事態が発生し、本日は臨時休校となった。部活動も全て中止だ。各自、速やかに自宅に戻るように」
そう言って、途方に暮れる生徒達に指示を出しているのは、社会科の教師である葛木宗一郎だった。
この状況下においても、いつもとほとんど変わらない口調で淡々と、そして落ち着いているその姿を見ると、不思議と目の前の異常事態が異常ではないような錯覚を覚えた。
まあ、どうしたってその背後に校舎がないという事実は覆い隠しようがないが。
「宗一郎兄はやはり大層な御仁だ。あの人の言葉でみんなが自然と落ち着いていくのがよくわかる」
一成の言葉どおり、生徒達は事態を飲み込めなくても、ここでやれることがないということを認識させられて、大人しく家路についていた。
「明日以降の指示については、緊急連絡網を通じて伝達される。保護者の方にしっかりとその旨伝えること」
オレと一成が話している間にも、葛木の指示は続いていた。
実際問題として、この状況では何もやれることがない。
校舎が消えたという事象について、聖杯戦争と無関係なわけがない。
昨夜オレ達が立ち去った後、僅かな時間かもしれないがイリヤスフィールとバーサーカーだけがここに残っていた筈だ。
彼女達が関係していると考えるべきだろう。
考えながら何気なく周囲を見回すと、生徒達の人混みから少し離れた位置に、昨夜と同じ赤いコートを見つけた。
遠坂だ。
彼女は険しい目をして、校舎のあった空間をじっと見詰めていた。
が、しばらくすると、自分自身を見ていたオレの視線に気づいたようだった。
「げ、遠坂・・・」
隣の一成が、呟いた。
遠坂がこちらへと向かってきたのだ。
「おはよう、衛宮君。それに生徒会長」
彼女は、昨夜の戦いの事などおくびにも出さず、普段の学校生活と同様の態度で挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう遠坂」
オレも、遠坂に普通の挨拶を返した。
隣には一成がいるのだ。
聖杯戦争の事など微塵も悟られるわけにはいかない。
「衛宮君、少しだけ話があるの。いいかしら?」
近付いてきた遠坂が、オレに移動するよう促した。
視線の先には、半壊している弓道場がある。
あの辺りで話そうということなのだろう。
「ああ、オレも丁度、遠坂と話したいと思っていたところだ」
そう言って、頷いた。
「お前ら・・・どういう・・・」
「この前のストーブの一件で、少しだけお互いの距離が縮まったのよ。ご免なさいね、大事な話だから」
遠坂のダメ押しのような言葉を受けて、一成は無言で引き下がった。
「一成、すまないな」
憮然とする一成にそう詫びて、オレと遠坂は生徒達から離れて弓道場の裏側に移動した。
幸い、周囲には誰もいない。
「正直、つい半日前に殺そうしたり、『私達は完全に敵同士』みたいな宣言していながら、何なのって感じだろうけど・・・そこは謝らせてもらうわ」
遠坂にしては珍しく、歯切れが悪い口調でそう前置きをした。
「オレは別に気にしていないぞ。寧ろ、遠坂と話す機会ができるのは大歓迎だ」
「そう言ってもらえると、話しやすいわ」
少し硬かった彼女の表情が和らいだ。
「これはどういうこと?私達がこの場を去ってから、何があったの?衛宮君」
遠坂の認識からすれば、昨夜、ここに最後に残ったのは、オレ達とイリヤスフィール達だ。こういう質問になるのは、当然だった。
「見てのとおり、オレも途方に暮れているところだ」
「つまり、あなたが関与しているわけじゃないってことね?」
「ああ。遠坂達がこの場を立ち去ってから、オレ達もそれ程時間を置かずに帰ったからな。弓道場が壊れてるからそれで大騒ぎになっているだろうなって、ビクビクしながら登校してきたところだ」
傍らの瓦礫と化している弓道場の射場に視線を送りながら、ありのままを伝えた。
校舎が消えたことに比べれば、この有り様が可愛く思えるくらいだ。実際、多くの生徒達も弓道場の惨状など気付いていないようだった。
「ほんと、いったい何が起きたんだろうな?あのバーサーカーでも、こんなことができるとは思えないんだけどな。とんでもないパワーだったから、何度も校舎をぶっ叩いていれば、壊し尽くすことは可能かもしれないけど」
「そうね」
「なにせ、消えていたからな」
「ええ、そこなのよね」
そう。
多少の瓦礫はあるが、校舎は壊されていたのではなく、
「もう少し的確な表現をするなら、『切り取られていた』って感じだけどな」
校舎は全てが消失したというわけではなく、三分の一ほどは残っていた。ちょうど、パウンドケーキを真ん中からナイフでカットして、持っていかれたみたいな状態だ。
「瓦礫の山にでもなっていたら、バーサーカーの仕業だとすんなり思えたんだけどね」
「サーヴァントの切り札、【宝具】だっけ?それを使ったのかな?」
「ほぼ間違いないでしょうね。逆に、通常攻撃でこんなことができるのだとしたら、そんなヤツに勝てるわけがない。速攻で白旗揚げるしかないわよ」
「確かにお手上げではあるな」
だとしても、オレは諦めるつもりはないが。
「状況としては、オレ達がここを立ち去った後に、バーサーカーと他のサーヴァントが戦ったってことだな。バーサーカー達が校庭を離れた後に、別の2体のサーヴァントがここで出会って戦いが起きた可能性は低いし」
「偶然にしては過ぎるわよね」
「こんな宝具を使えそうなのは、ランサーか、アーチャーあたりかな。勿論、バーサーカーの宝具ってことも考えられるけどな」
キャスターから聞いている限りでは、アサシンのサーヴァントにこんな大掛かりな宝具が使えるとは思えなかった。
「そうね・・・」
遠坂は何事か考え込んでいるようだったが、
「綺礼!?」
オレの後方に目をやった彼女は、驚いた。
オレも後ろを振り返ると、神父服に身を包んだかなり長身の男が、こちらへと近付いてくるのがわかった。
年齢は30代半ばくらいだろうか。
背筋をしっかりと伸ばしており、落ち着いていて、かつ重厚な雰囲気が漂っている。
「途方もない惨事になってしまったな、凛。私としても極めて頭が痛いところだが」
神父服の男は、その雰囲気をさらに増幅させるかように、よく通る独特の低音で、そう遠坂に話し掛けた。
「で、こちらの少年は?」
神父服の男は訝し気にオレに視線を送ってきた。
「私と同学年の衛宮士郎君よ」
「ほう・・・・・・衛宮・・・士郎・・・か」
オレの名前に心当たりがあるかのような反応を微かに見せた。
「心配しなくていいわ、綺礼。彼も関係者よ。ちょっと複雑だけれど、少なくともこの戦いの事は一通り知っている魔術師だから」
「そうか。では、このまま話しても特に問題はないのだな?」
「ええ。ちょうど、私も彼と今回の件で情報交換をしていたところだから」
「遠坂。すまないが、オレにもわかるように説明してくれないか?」
遠坂はこちらにあまり頓着せずに話を進めていたが、こっちは突然現れたこの男が何者なのか気になって仕方が無かった。
「ああ、ご免なさい。こいつは、言峰綺礼。冬木教会の
「『
「あんたのほうこそ、後半の情報は余計よ」
「これを説明しておかないと、お前とこうして親しく話す理由がわからないだろう。監督役は基本的には中立の立場だ。本来、みだりに聖杯戦争関係者との接触は避けるべきなのだからな」
「別に親しくなんてないわ。誤解を招く表現は止してよね」
さっきから遠坂はこの神父の事を、『こいつ』だの、『あんた』だの言いたい放題だ。昨日の時点でだいぶ気付いていたが、『学校一の優等生』の振る舞いはあくまでも外面だけの事だったということを思い知らされていた。
「それであんたは、監督役としてこのとんでもない事件現場の有り様を直に確認しにきたってとこなのか?」
オレも監督役という存在くらいはキャスターから聞いている。
ライダーの結界のことについて気付いた時に真っ先に考えた対処が、監督役に連絡する事だった。
「そのとおりだ。聖杯戦争について、可能な限り一般社会に影響しないよう秘匿するのが私の仕事だからな。だが、これ程までに大規模な事態が起きてしまうと、処置に苦慮するな」
神父は大きく溜息をついて、苦々し気な表情になった。
「正直、頭が痛いところだ。そもそも、開戦前だというのに他にも事案が起きている」
「この前見た双子館での戦闘の件かしら」
「いや、あれは殆ど一般社会に影響を及ぼしてはいない。元々、俗世と隔離された建物だからな」
二人はオレにはわからない出来事について、話している。
「新都でガス漏れ事故が何件か起きているだろう。私が情報操作を行った結果でそういう報道にはなっているが、あれもサーヴァントの仕業だ」
「ああ、昏睡者がかなりの人数出ているってあれね」
「それならオレもニュースで何度か観たな」
「もっとも今回の件と比べれば、まだ、穏便なものだがな」
「そうね。でも今回、人的被害が出なかったのは奇跡に等しいわね」
「確かにな」
「建物の損傷・・・正確には消失状況から推測するに、放たれた一撃は地面と平行ではなく、斜め上方向に向けられたのだろう。そのため、校舎は一階の上部から切り取られたような形になっている」
「ああ、だから周囲の低層住宅に被害が出なかったわけね」
「逆に言えば、地面と平行に撃たれていたら、犠牲者がどれだけ出たかわからないってことか・・・・・・」
想像するとオレはゾッとした。
この威力では間違いなく3桁の人死にが出るだろう。
10年前に起きたあの大火災に匹敵する被害だ。
「でも、そういう意味では曲がりなりにも分別があったってことかしら?」
遠坂が眉間に皺を寄せて、悩まし気に疑問を口にする。
深夜の学校に人が残っている可能性は極めて少ない。最低限、一般人を殺さないだけの配慮はしたと考えられなくはないが。
「さてな。単なる偶然かもしれん」
神父は頭を振った。
「確かに材料が少な過ぎるわよね。でも、色々考えると、イリヤスフィールや、あのバーサーカーによるものという可能性は低いかしら」
「そうだな。少なくとも、あの子は正式な開戦前に事を起こすつもりはなかったようだからな」
「ええ。アインツベルンのマスターって立場があるから、聖杯戦争は俗世になるべく影響しないようにするっていう基本スタンスは守ると思うわ」
「お前の言うとおりだろう、凛。そして、今の話からすると、お前達はイリヤスフィール達に昨夜会っているのだな?」
「ああ、そう言えばその件をあなたにはまだ話していなかったわね」
途中から話に加わってきた神父は、昨夜の一件についてまだ知らない。
遠坂は、かいつまんで昨夜の戦いの件を説明した。
「・・・成程。バーサーカーと何者かがここで戦った公算が高いわけか」
遠坂から一通りの話を聞いた神父は、少し目を瞑り考え込む様子を見せた。
「・・・凛。これは、監督役としての言葉と思って聞いて欲しい」
「何よ?今さら改まって」
「このサーヴァントを斃して欲しいのだ。いや、元よりお前の事だ。この聖杯戦争に勝つつもりで参加している以上、全てのサーヴァントを斃すつもりでいただろう」
「当たり前じゃない。たとえどんなとんでもない力を持った敵だろうと、私は勝つわ」
「わかっている。だから、私の言葉は無駄なのかもしれない。だが、この校舎を消したサーヴァントが途方もない力を持っていることはお前も充分にわかっているのだろう?驚異的とすら言えるほどに」
「・・・それは・・・・・・わかっているわよ」
遠坂の表情が硬くなる。
「そんなサーヴァントがルールを逸脱した行動を取っている。これは由々しき事態だ。この土地の管理者としても見過ごすことはできまい?」
「これ以上の狼藉を抑えろってこと?」
「お前に指示などできんことは百も承知だ。だが、私としては他の聖杯戦争参加者にも呼び掛けるつもりだ」
「いくら監督役の言葉でも、そんなリスクを取るのかしら?」
「だが、バラバラにこの相手に挑んでは、各個撃破されてお終いと考える者もいるだろう。それに、タダでとは言わん」
「ボーナスがあるってこと?」
「そうだな。直接斃した参加者には令呪を2画。間接的に支援した場合でも令呪を1画与えることにする。お前はいらないと言うかもしれないが」
そんな事が可能なのか。
オレには無いが、令呪ってのは強力な魔力リソースでもあると聞いている。一時的にならサーヴァントを強化することも可能って話だから、欲しがるマスターもいるだろう。
「成程ね。私と共闘して手柄をあげれば、監督役から令呪が与えられるってわけね」
「さしあたり、その少年はどうなのだ?見たところ、令呪は無いようだが」
「どうかしら?少なくとも私は彼と手を組むつもりはないわ」
遠坂はバッサリと答える。
「なぜだ?同級生なのだろう?親し気に話していたようだが」
「彼自身は問題ないわ。でも、従えているサーヴァントがね・・・・・・信用できないわ」
暫くの間、遠坂と神父の会話を傍らで聞いていただけのオレだったが、遠坂のこの言葉に思わず反論することにした。
「彼女の事をそんなに知っているわけじゃないだろう?」
「ただの勘よ」
元々、遠坂と手を組むのは難しいとは考えていたが、それがはっきりとしたわけだ。
「まあいい。他の参加者と共闘するかはお前の自由だ」
「ええ。勝手にやらせてもらうわ」
そう言って、遠坂は話はこれでお終いということを示すように赤いコートを翻す。
そして、校門の方へと足早に向かって行った。
「ふ。凛らしいと言えば、らしいのだがな」
彼女の後姿を見送った神父はそう独り言ちた。
「ん?あれは・・・・・・」
神父が訝し気な声を出す。
その視界に何かを捉えたようだった。
「誰だ?」
釣られて同じ方向に目を向けたオレは、依然として校舎の前で呆然とする生徒達の近くに、明らかに異質な存在を見つけた。
学生服に身を包んだ生徒達とは全く違う、スーツを着込んだ人物。
「女なのか?」
多くの男子生徒並みの身長で髪が短く、スーツも男物だったため一瞬わからなかったが、体型から女性と知れた。その立ち姿は堂々としており、遠目に見ても常人離れしているように思われた。
彼女の鋭い眼差しはこちらに向けられており、オレは自分が睨まれているかのように感じられた。
「・・・それでは私もこれで失礼するぞ・・・衛宮士郎。健闘を祈ろう」
その視線を意に介さず、神父は少し笑みを浮かべてそう告げると、オレの前から立ち去って行った。
こちらに向けられていた赤毛の女性の視線は、神父の動きを追っていき、オレからは外れていった。
その目は、依然として睨んでいるようにも感じられたが、どことなく複雑な光も孕んでいるようにも思えた。
「あの人も、きっと聖杯戦争の参加者なんだろうな」
先生でも生徒でも警察官でもなく、ましてや、ただの野次馬でもない。
あんな立ち姿の一般人がいるわけがない。
いずれ、戦う事になる相手かもしれなかった。
だが、今はそんなことよりも、
「ここにいても仕方ないよな。帰って今日は寝よう」
無理矢理登校したが、体力も魔力も空っぽだ。
校舎が無くなったのは寧ろ幸運だと開き直り、一刻も早く眠りたかった。
普段であれば綺礼みたいなのが学内をうろついていたら注目の的になるでしょうが、異常事態につき、さほど目立っていないということで。
ようやくサブタイトルつきました。