Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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1月28日 未明









第19話 ~3日前②~ 「Cross Range」

 E turn

 

 

 とんでもない力でギリギリと首を締め上げられ、朦朧としてくる。

 

 「・・・ぁ・・・ぅ・・・」

 

 相手(バゼット)の指をこじ開けようとするが、微動だにしない。

 ・・・どうすればいい?

 オレは打開策を見出そうと考えを巡らせようとしたが、頭の中は段々と靄がかかってきており、思考することも難しくなっていた。

 それでも、こんなところで終わるわけにはいかない。

 なんとしても繋ぎ止めろ・・・

 そうだ。

 【令呪】だ。

 使い方などは全く教わっていないが、これでキャスターを呼ぶことができないだろうか。声は出せないが、念じることでも効果があるかもしれない。

 そんな事を考えた時、

 

「む!?」

 

 驚きが含まれた声をバゼットが発すると同時に、オレの首を締めあげていた両手が開かれた。

 

「・・・・・・がはっ!」

 

 ドサッ

 

 死の拘束から解放されたオレは、重力に引かれるままアスファルトの上に落ちる。

 這いつくばるような姿勢のまま、ゼェゼェという荒い呼吸で、完全に供給を絶たれていた酸素を貪るように取り込む。

 事態はさっぱり把握できないが、九死に一生を得たようだ。

 

「っ!」

 

 そう遠くない先から微かに声が届いた。

 誰かが近付いてくる?

 まだ朦朧とした頭でそちらを見やると、夜闇の中、僅かな電灯の明かりに白く照らされて、一人の男の顔が浮かび上がった。

 その男は腰だめに拳を構えて、低い姿勢を保ってかなりの速さでこちらへと向かってくる。

 

「何者ですか!?」

 

 誰何の声を発しながらも、突如として現れた男を明らかに敵と認識したのだろう。

 

 ザッ

 

 バゼットは拳を構えると、接近してくるその男に向けて駆け出した。

 

「・・・あれは・・・」

 

 近付くと顔が露になった。

 その男はオレには見覚えがある。

 いや、見覚えがあるなんてもんじゃない。

 

「私の生徒に何をしている?」

 

 切迫した状況に似合わない落ち着いた声が届いてきた。暗い色のスーツ姿を着た男は淡々と眼前のバゼットに問う。

 

 ゴッ!

 

 バゼットは男の問い掛けには応じずに、真っ直ぐに間合いを詰めると閃光のような右拳を突き出した。

 普通の人間なら間違いなく顔面を砕かれて、その命を絶たれる。

 先程迄、彼女の強さを身を持って味わってきたオレには、確定した未来としてそれが想像できてしまう。

 一瞬後に目の当たりにするであろうその惨劇を、オレは成す術もなく見ていることしかできない。

 その筈だった。

 

 スゥ──―

 

 だが、その男、穂群原学園の社会科教師【葛木宗一郎】は、その拳を躱していた。

 淀みのない体捌き。

 自然で最小限の動きだった。

 

「あれを躱した!?」

 

 思わず驚きの声が漏れた。

 一般人があの攻撃を躱せるはずがない。

 だが、葛木の動きは尋常ではなかった。拳を躱した体勢から、水が流れるように自然な動きで左拳を繰り出す。

 

 ジャッ!

 

「なっ!?」

 

 バゼットは驚愕の声を上げながらも、葛木が振るってきた()()()()を紙一重で躱して、後退する。

 

「ふっ!」

 

 葛木は後退するバゼットを追うと、続け様に拳や蹴りを繰り出す。

 それらは鋭利かつ変幻自在だった。

 

 ドッ!ガッ!ゴッ!!

 

「くぅっ!?」

 

 バゼットはその攻撃を避け、腕でブロックしながら後退を続けた。戦闘マシーンとも言うべき強者が、反撃の糸口を見出せずに一方的に押し込まれていく。

 

「・・・読めない・・・」

 

 整った顔に焦燥の色を浮かべたバゼットの口からそんな呟きが漏れる。

 彼女の戸惑いはオレにもよくわかる。

 こうして少し離れたところから見ていても、葛木の動きや攻撃は変則的だ。右で攻撃するかと思えば、左。拳が来るかと思えば、脚。

 間近で見ていたら、何が起きているかさっぱりわからないのではないか。

 フェイントが上手いというだけでなく、そんな動きができるのかという不可思議な動きや、あるいは非合理的なように思われる動きも混ざっている。

 

「・・・それで・・・」

 

 凄まじい迄の動きで戦い続ける葛木だったが、学校で授業をしている時と同様にあくまでも無表情に、そして淡々と言葉を発する。

 

 ガヅッ!

 

 頭部を刈りにきた右上段蹴り。

 それを左腕で辛うじてブロックしたバゼットが大きく弾かれ、二人の間合いが開く。

 

「お前は何故、私の生徒を殺そうとしていたのだ?」

 

 葛木の目が大きく見開かれた。

 学校では見たことのない表情だった。

 

 スッ

 

 怒気を孕んだ表情のままに、葛木が音もなく駆け出す。

 開いた間合いを真っ直ぐに詰めるのではなく、弧を描くような軌道だ。

 

「あなたこそ一体何なのです!?」

 

 バッ

 

 何を思ったかバゼットはポケットからハンカチを取り出すと、接近してくる敵に向けて放った。

 それに対して、葛木は迷うことなく軽く左に動いて、そのハンカチを避けようとする。

 

ansaz(アンサズ)!」

 

 ボゥッ!

 

「ぬっ!?」

 

 一瞬で、葛木の横でひらひらと舞ったハンカチが発火したように中空に大きな炎が現れた。

 虚空が眩い光が充満し、葛木の左腕に炎が纏わりつく。

 

「葛木っ!」

 

 (ようや)くのことで、辛うじて声を出せるようになったオレの口から叫び声が発せられる。

 だが、呼ばれた当人は慌てなかった。

 即座に着ていた背広を脱ぐと、遠くへと放り投げる。

 

 ゴォォ・・・

 

 アスファルトに落ちたその背広は、すぐに全体に火が回り燃え盛った。一瞬でも判断が遅れれば、服ではなく葛木自身の全身が炎に包まれていただろう。

 

「どうやら尋常な事態ではないようだな」

 

 自分のスーツが瞬く間に消し炭となっていく様を横目で見ながら、ワイシャツ姿となった葛木は独白してバゼットの方に向き直った。

 流石にその声には戸惑いが含まれているようにも感じられる。

 ハンカチから巨大な炎を生み出すなんて芸当が常人にできるわけもないし、あれがただの手品でもないことは葛木もわかっているだろう。

 

「あなたも尋常な人間ではないでしょう?」

 

 炎の魔術による攻防の間に、間合いを広げて体勢を立て直したバゼットは、警戒を一層強めて葛木を見据えた。

 お互いに相手がこれまでの自身の常識の範疇から外れた存在だという事を認識しており、迂闊に動けないのかもしれない。

 

「葛木・・・先生・・・あんた一体・・・?」

 

 動けるようになったオレは、締め上げられた首の痛みに辟易しながら、何とか立ち上がる。 

 オレもまたこの事態に混乱させられていた。

 そもそも、オレを襲ってきたバゼットという女からして、意味不明な程に強かった。だが、彼女は聖杯戦争に参加している魔術師と考えれば、まだしもその強さにも納得がいく。

 しかし、一介の教師に過ぎない葛木が、そのとんでもない強さのバゼットと互角以上に渡り合っていることは、不可解を通り越して怪奇現象とすら言える。実は葛木が魔術師でしたと言われたほうがまだ納得がいくというものだ。

 だが、葛木が魔術を使っていないことは一目瞭然だ。完全に徒手空拳で戦っている。

 

「衛宮、私こそお前に問いたい。なぜこんな時間にここにいる?お前の家からはかなり離れているだろう」

 

 授業に遅刻した生徒を叱る時のような、あまりにも普段と変わらない口調だった。ここがまるで学校であるかのように錯覚させられる。それほどに、この場での葛木の存在は異質であり、一方でその態度は自然だった。

 

「あ・・・いや・・・それは・・・」

 

 オレは当然ながら返答に窮してしまう。

 何と答えればいいのだろうか?

 

「あんたこそ何でここに?」

 

 オレは苦し紛れに、さらに問いを被せた。

 

「質問に質問で返すのは感心しないが、私自身もそうなっているな。教師としては模範を示すべきか」

 

 相変わらず淡々と独白するが、この間もバゼットに対して意識は向けられているようだ。

 

「単純な話だ。私は柳洞寺に住まわせてもらっている。帰宅がこんな時間になってしまったのは、先日の事件もあって、遠出と残務が重なったというだけの話だ」

 

「・・・そうだったのか」

 

 その言葉には合点がいった。

 確かに一成と葛木は普段から親し気だった。生徒会長と教師という公の立場だけではなく、私的にも接する機会が多いからこそだったのだろう。

 

「で、なんでそんな出鱈目に強いんだ?」

 

 本当に知りたいのはこっちの質問だ。

 

「多少、武術の心得があるということだ」

 

 あっさりとそんな返事が返ってきた。

 いやいやそんなレベルじゃないだろう、と思わずツッコミをいれたくなるが、どうやらこれ以上聞き出すのは難しそうだ。

 

「さあ、こちらは答えたぞ。今度は、お前の番だ」

 

 相も変らぬ教師の目で、再び葛木が問う。

 聖杯戦争の事など話せるわけもないが、ある程度、真摯に答える必要があるだろう。

 

「・・・大切な知人を探していた。だが、すまない。助けてもらっておいてなんだが、これ以上は言えないんだ」

 

 出せる情報は限られている。ならば、態度で示すしかない。

 

「そうか。ならいい」

 

「へ?」

 

 あまりにあっさりと追及が終わったので、オレは思わず間の抜けた声を出してしまった。

 

「お前がそう言うのなら、余程の事なのだろう」

 

 それだけを告げると、葛木はオレに振り分けられていた意識を対峙する(バゼット)に集中させた。

 オレもそれに倣う。

 とにかく、葛木と協力してこの窮地を脱しなくてはいけない。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

 オレは双剣を投影した。

 葛木は信じられない程に強い。

 だが、それは格闘家としての範疇だろう。

 バゼットは魔術師だ。先程、炎の魔術を使ったようにあくまでも一般人である葛木からすれば、常識外の攻撃を受けた時に対抗できるとは限らない。

 加勢する必要がある。

 

「二対一ですか。少々厄介ですね」

 

 バゼットが拳を構える。

 

「お前にも改めて聞こう。何故衛宮を殺そうとした?」

 

 葛木は自然体の姿勢のまま再び問いを投げた。

 

「それは彼が敵だか・・・」

 

 ドンッ・・・

 

 答えようとしたバゼットの言葉は途中で遮られた。

 石造りの階段の上で、何かが弾けた音が聞こえたのだ。

 この場にいるオレ、葛木、バゼット三人の意識がその音がした方向に向けられた。

 

 

 

 ズザザザザザザ・・・・・・

 

 何かが滑り落ちてくる。

 

「何だ?」

 

 街灯の光は階段にまでは及んでいない。月明かりのみを頼りに上方へと目を凝らすと、見慣れた紫色のローブが転がるようにして落ちてくるのがわかった。

 それは、今、オレがここにいる理由そのものだ。

 

「キャスターッ!」

 

 三人の中で階段に最も近いのはオレだ。

 真っ先に階段を駆け上がる。

 

「ぁぅっ!」

 

 小さく悲鳴を上げたキャスターが階段の途中で引っ掛かるようにして止まった。

 

「大丈夫か?」

 

 うつ伏せに倒れたキャスターの体を抱き起こしてこちらを向かせる。

 フードが外れて、彼女の白く端正な顔が露わになった。

 

「・・・ぼ・・・坊や?何でここに?」

 

 痛みに顔を顰めながら、キャスターが薄目を開いた。

 

「それはこっちのセリフだ。何があった?」

 

 キャスターのローブはかなりボロボロになっており、顔にも複数の傷が付けられていた。

 上から転がり落ちてきたことだけが原因ではないだろう。

 

「気を付けて!ライダーが来るわ!」

 

 そう言うや否や、キャスターはオレを横へと突き飛ばした。

 

 ゴッ!!

 

 何かが落ちてきた。

 そう思った瞬間には、つい先ほどまでオレとキャスターがいた石段が砕け散っていた。

 そして、視界が薄紫色の何かで埋め尽くされる。

 

「ほんとしつこい女ねっ!」

 

 キャスターが悪態をつく。

 何かが落ちてきたと思ったが、実際にはライダーが飛び掛かってきたのだ。

 石段を砕いたのは彼女の杭剣であり、オレの視界を覆ったのは大きく広がった彼女の長い髪だった。

 

「あなたの方こそ本当にしぶといですね」

 

 先日と変わらない淡々とした物言い。

 

「キャスター!強化を!」

 

「もう終わったわ」

 

 既に準備をしていたのだろう。

 オレの要求とほぼ同時に、全身に強化の魔術が施され、力が漲るのを感じる。

 

「はっ!」

 

 キャスターの魔術が発動するのとほぼ同時にライダーは右回し蹴りを放ってきた。

 狭い石段の上で動き辛い筈だが、そんなことは微塵も感じさせない鋭い動きだ。

 

 ドゴッ!!

 

「なっ!?」

 

 重いっ!?

 咄嗟に左の黒剣でその蹴りを受けたのだが、威力が重過ぎて踏ん張り切れなかった。

 

「きゃあっ!」

 

 キャスターの悲鳴が上がる。

 

 ザザザ・・・

 

 右側には登りの石段がある。

 左からの蹴りで弾かれたオレは一旦、その石段にぶつかり、さらにオレのすぐ後ろにいたキャスターともつれるように転がり落ちていった。

 

 ドドッ

 

「ぐっ!」

 

「あうっ!」

 

 オレとキャスターはそのまま一番下まで転がっていき、アスファルトの路面に重なり落ちた。痛みに意識を割かれそうになるが、それを無視してオレは即座に双剣を手にして立ち上がる。

 ライダーが追撃してくるのだ。

 

 タッ

 

 大きく、そして鮮やかに跳躍したライダーがオレの目の前に軽やかに着地すると、両手の杭剣をオレに向けて突き出してくる。

 オレはその攻撃を食い止めるために双剣を交差させた。

 

 ギギィィンンッ!

 

 2本の杭剣の先端が双剣の腹に激突する。

 

「づぅっっ!」

 

 これも重い!

 オレは強化された腕でなんとかライダーがかけてくる圧力を食い止め、同じく強化された脚で踏ん張るが、じりじりと押し込まれていく。

 

「衛宮士郎。なぜ今になって姿を現したのですか?」

 

 お互いの額が付きそうなほどに接近し、せめぎ合う中、ライダーが問いを発した。

 オレを詰っているのか?

 異様な眼帯をしていて表情はわからないが、僅かに感情の揺らぎがあるように感じられた。

 

「ぐぅ・・・」

 

 そんな質問をされても、答えるだけの余裕がオレには全くない。

 体中の筋肉がブチブチとはち切れそうになっているのを感じる。完全に押し負けている。

 先日、相対した時にはここまでの差はなかった筈だ。

 マズい。

 踏み止まれない。

 

 ブァァッ

 

 だが、突如として風が巻いて横合いから何かが突進してきた。

 

「!?」

 

 ライダーもそれに気付いて反応する。

 

「貴様も衛宮を殺すつもりなのか?」

 

 空気を引き裂いて接近してきたのは、葛木だった。

 

 ドンッッ!!

 

 その右の手刀がライダーの左脇腹に直撃していた。

 

「なっ!?」

 

「なにっ!?」

 

 ライダーと、そして葛木。

 感情が表に出ることが殆どないと思われる二人だが、どちらも驚いていた。

 

「つあっ!」

 

 オレは横薙ぎにライダーに向けて右の白剣を振るった。葛木の乱入で、ライダーのオレに対する圧力が刹那緩まったのだ。この好機を逃すわけにはいかない。

 

「くっ!」

 

 フワッ

 

 ライダーは左にあった石段の上部へと一跳びして着地した。

 何はともあれ、彼女との距離が大きく開き、一息つくことができた。

 

「助かったよ、葛木」

 

 オレはライダーの動きに注意を払いながらも、傍らに立つ葛木に礼を言った。

 これで葛木に二度救われたことになる。

 

「だけど、バゼットはどうしたんだ?」

 

 葛木はバゼットと対峙していたの筈だ。

 

「バゼット?・・・ああ、先程の女なら、既にここから離脱した」

 

「そうか」

 

 サーヴァントが二人現れた時点でこの場に見切りをつけたということだろう。

 

「それにしてもなんなのだ、あの女は?」

 

 葛木は階段の上に位置するライダーに注意を払いながらも、自身の右手を見つめてオレに聞いてきた。

 

「私は確実に心臓を抉った筈だった」

 

「・・・えっと・・・教師にあるまじき過激な発言だな」

 

 葛木が只者でないことは先程迄のバゼットとの戦いで実感していたが、こうも簡単に殺す殺さないレベルの話をするとは。

 本格的にアブナイ世界の人間だったんだろうな。

 

「オレもあまりよく状況をわかっていないんだが・・・」

 

「彼女には普通の攻撃が効かないわ」

 

 オレの後ろで倒れていたキャスターがローブについた汚れを払いながら、よろよろと身を起こした。

 

「ごめんなさい、坊や。また、助けられちゃったわね」

 

 はあ、と彼女は溜息をついた。

 

「上で何が起きていたんだ?できれば事情を説明して欲しいんだが・・・」

 

 と言いながらも、オレは階段の上に杭剣を構えて立っているライダーに視線を送る。

 

「私の方も色々と聞きたいところだけれど」

 

 と、キャスターはキャスターで葛木のほうをチラリと見る。

 あなたは誰なの?と聞きたいのだろう。

 

「・・・・・・」

 

 葛木はキャスターを一瞥しただけで何も言わずに目を逸らし、オレと同じく上方のライダーに意識を向ける。

 

「ライダーが強くなっていないか?」

 

 最優先事項は、どうやってあのライダーを退けるかだ。

 そして、彼女の力は前回対峙した時よりも明らかに増していた。

 

「そのとおりよ」

 

「一体、何があった・・・・・・」

 

 その時、オレはライダーのさらに上方から石段を降りてくる人影に気付いた。

 闇の中に滲んだ一つのシルエット。

 最初にはっきりと見えたのは女性ものの白とピンクを基調としたスニーカー。それを履いた脚が一段ずつ階段を降り、次第にその全身が露わになっていく。

 

「・・・っ!?」

 

 オレは息を呑んだ。

 

「あの女、まだ仕留められないの?ライダー」

 

 冷淡な、少女の声。

 だが、それは確かにオレが知っている声だ。

 聞き覚えがあるなんてもんじゃない。

 1年半前から、毎日のように、そして家族のようにオレのすぐ傍らにあった声。

 

「・・・・・・さ・・・・・・桜・・・・・・」

 

 オレはこれ以上ないくらいに、自分の目と口が大きく開くのを自覚した。

 

「え?」

 

 彼女の動きもまた停止する。

 

「・・・・・・・・・せ・・・・・・・・・先輩?」

 

「・・・桜・・・」

 

 ライダーもまた、近付いてきた桜にどう反応したら良いかわからなくなっているかのようだった。

 

「・・・桜・・・なぜ・・・?」

 

「彼女がライダーの本当のマスターなのよ、坊や」

 

 そう告げるキャスターの声はひどく現実感が無くて。

 機能不全に陥った耳はその言葉を受け止めることができなかった。

 

 

 












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