Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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1月29日 昼








第22話 ~2日前②~ 「はらわたの中で」

E turn

 

 

「む、来たか」

 

 目の前に座る神父がそう声を発した。

 どうやら、声の主を呼びつけたのもこの神父という事なのだろう。入店してきた人物を確かめるために、オレも振り返った。

 

「こんなお店にお嬢様を入れるわけには参りませんね。場所を替えさせましょう」

 

 棘のある口調で独白しているのは、なんというか・・・外国人のメイドさん(?)だった。

 頭から足まで、体全体をすっぽりと覆うような作りの白いメイド服に身を包んでおり、透き通るような白い肌の整った顔だけが晒されている。

 

「リズ、お嬢様には車を降りていただく必要はありません」

 

 彼女は店の外にいる誰かに向かって、そう呼び掛けた。

 

「まったく、こんなお店を会談場所としてセッティングするなど、非常識というものです」

 

 口元にハンカチを当てながら、そのメイドさんがオレ達のテーブルへと近付いてくる。店内の空気を吸い込みたくもないと言わんばかりだ。

 流石にそこまで露骨な態度をとるのは、この店に失礼ではないかと気になって、オレは女性店員の様子を窺ったが、特に頓着してはいないようだった。

 

「言峰神父。そういうことですから、場所を替えます。なんでしたら我々の車の中でも良いでしょう。ここよりは遥かに快適です」

 

 彼女は、口調とは裏腹にゆったりとした動きでやって来ると、神父にそう告げた。

 

「どういうことなの?説明して欲しいわね」

 

 突然割り込んできたメイドさんを不快そうに一瞥したキャスターが、神父に問う。

 オレも同感だった。

 一体このメイドさんとはどういう関係なのだろうか?

 

「ああ、お前達にはまだ話していなかったな。私はイリヤスフィールにもここに来るように伝えていたのだ」

 

「イリヤスフィール?」

 

「ということは、こちらの女性はあのお嬢さんの関係者ということかしら?」

 

「気安くお嬢様の名前を呼び捨てにしないように」

 

 険しい目つきでオレは睨みつけられてしまった。

 要するに、『お嬢様』というのはイリヤスフィールのことで、このメイドさんは彼女の付き人みたいな存在なのだろう。

 

「そう邪険にするな。折角の機会なのだ。イリヤスフィール嬢も含めて、全員で麻婆三昧というのはどうかな?」

 

 一体この神父は、どこまでマイペースなのか。

 傍らに来たメイドさんが、不機嫌オーラを全開にしているのも意に介さず、性懲りもなくそんな発言をした。

 

「もうやめれ」

 

「あなた、本当に一回死んだほうがいいわよ」

 

「そのような戯言に付き合っている暇はありません。お嬢様をお待たせしているのです。早くこの店を出るように」

 

 と、メイドさんは神父の奇天烈な勧奨など完全に封殺して通告すると、間を置かずに出口へと向かった。

 

「むう。止むを得んか」

 

 心底残念そうに呟いて、神父が伝票を掴みながら腰を上げる。

 オレとキャスターもそれにならった。

 

「これは棚ぼたってやつだな」

 

「ええ。思いがけないチャンスが転がり込んできたみたいね」

 

 オレとキャスターはお互いに視線を交わした。

 唐突ではあったが、イリヤスフィールと直接話をする好機(チャンス)が訪れたのだ。

 

 

 

「な・・・なんなんだ・・・これは?」

 

【泰山】の店外に出ると、オレの視界の横いっぱいを白い車体が専有した。

 テレビでしか見たことのないような、ボディが恐ろしく長いセダンタイプの車が路上に停車していたのだ。その胴長なフォルムは、なんとなくダックスフンドを思わせる。

 

「オ客様。車。乗ル」

 

 先刻、店の中に入ってきたメイドさんと、ほぼ同じような服装をしたもう一人のメイドさんが、後部ドアの横に立ってオレ達に車内に入るよう促してきた。少したどたどしい口調である事と、胸がだいぶ服を押し出して強く主張しているのが大きく違うポイントだった。

 

「何をもたもたしている。このような狭い道で、車が止まっていること自体が店にも迷惑なのだ。早く乗るがいい」

 

 既に車中に座っている神父がこちらにオレ達に声を掛けてくる。

 

「それでは、遠慮なく上がらせてもらうわね。行きましょう、坊や」

 

「・・・は・・・はい」

 

 オレはピカピカに磨き上げられた車体に、万が一にも触らないよう気を遣いながら、車に乗り込んだ。

 

「げ・・・」

 

 外観を目にした時点で驚かされたが、車内の様子もオレの知っている『車』の範疇から遥かに外れたものだった。

 

「何で後部座席なのにシートが向かい合ってるんだ・・・?」

 

 オレは完全に異界へと彷徨いこんだ錯覚に陥り、愕然とした。

 

「いいから早く座ってよ。お兄ちゃん」

 

 ニコニコと無邪気な笑みを受かべてそう告げてきたのは、先日の夜の学校で出会った銀髪の少女だった。

 バーサーカーのマスターにして、この戦争の御三家の一つアインツベルンの当主、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンだ。彼女は三辺あるシートの一辺に座っているキャスターの隣を指し示した。

 キャスターも、早くしろと言わんばかりにポンポンと自分の隣のスペースを叩いている。

 

「まあ、この国の一般的な学生がこの様な車に乗る事など殆どないからな。戸惑うのも無理はないだろう」

 

 オレの心情を察してフォローしてくれたのは、意外なことに言峰神父だった。この男は麻婆豆腐さえ絡まなければ、ある程度常識人のようだ。

 

「ああ・・・正直、わけがわからなくて混乱している」

 

 今日は混乱させられることばかりなんだが・・・

 

「これが、もしかして伝説にのみ記される幻の存在『リムジン』ってやつなのか・・・」

 

 なんとか黒革のシートに腰を降ろして呟くと、車内の様子を改めてぐるりと確認した。

 落ち着いて見ると、この後部スペースには三辺にシートが配置されていて、一辺はイリヤスフィールが座る最後部のシートがあり、残り二辺のうち一辺にオレとキャスターが、残りの一辺に神父が座っている。

 オレ達の目の前のカウンターには酒が並べられている。

 

「なかなか良い酒が揃っているな。さすがアインツベルンと言うべきか」

 

 神父がワインセラーから、無造作に一本の瓶とグラスを複数取り出す。他人の物をそんな勝手していいのだろうか?

 

「お前達も飲むかね?」

 

「先ずは、持ち主の意向を確認するべきでしょう?」

 

 と、キャスターが良識のある反応を見せて、右側のシートに座るイリヤスフィールの様子を窺った。

 

「どうぞ、ご自由に。ここにあるお酒は城に貯蔵する内のごく一部に過ぎないし、そもそも客人に振る舞うためのものでもあるしね」

 

 その手で優雅に承諾の意を示しながら、事も無げに銀髪の少女は応じた。

 

「そういう事なら、(わたくし)もワインをいただくわ。本当に久しぶり」

 

 キャスターは心底嬉しそうにグラスを手に取ると、ごく自然な様子で神父にワインを注いでもらう。

 

「坊やもどう?」

 

「そうだな。お前も酒ぐらい飲めるだろう?」

 

「飲めません。オレにはお構いなく」

 

 容易に禁忌に触れようとしてくる二人を無視して、オレは話を進めるように促す。

 

「それで、私をこうして呼びつけた用件を詳しく聞きたいわ。言峰神父」

 

 自身もグラスを手にしたイリヤスフィールが、自身の対面に位置する神父に尋ねた。彼女はワイングラスに入った発泡系の飲料口にしているが、あれはノンアルコールに違いない。

 

「そうだな。先日お前達が校庭で遭遇した金髪のサーヴァント。あれを他の聖杯戦争参加者と連携して、討伐して欲しい」

 

 グラスを眼前まで掲げて、そのガラスを透かすようにしながらイリヤスフィールに向けて神父は要望を口にした。

 オレや遠坂にした内容と同じだ。

 

「監督役としては、あれだけ強力なサーヴァントが無尽蔵に暴れ回れば、この戦いの秩序、神秘の秘匿が脅かされると憂いている、そんなところかしら?」

 

「話が早くて助かるな」

 

「横から口を挟んですまないが、その・・・バーサーカーは無事なのか?校舎の有り様を見た時、あんな攻撃を受けたらたとえどんなに強力なサーヴァントでも絶対に助からないと思ったんだが」

 

 オレは我慢できず、気になっていた事を口にした。

 

「大丈夫よ。だからこそ、この神父が私にこんな話を持ちかけてきてるんじゃない」

 

 イリヤスフィールは簡潔に答えた。これ以上の情報は与えないつもりだろう。

 

「そうなのか」

 

 あれに耐えられるとは思えないので、直撃を避けたと考えるのが妥当だろうか。

 

「それで、敢えてこの二人と私を引き合わせたのは何か意図があるのかしら?」

 

 イリヤスフィールはオレとキャスターに対して視線を送った。

 

「他意はない。たまたま先程の中華料理店で彼らにもこの件を伝えようと思っていたのでな。一石二鳥と考えたに過ぎん」

 

「そう」

 

 イリヤスフィールは左程疑問に思わなかったようで、納得した様子だった。

 

「それなら、遠坂にも声を掛けても良かったんじゃないか?それに・・・・・・間桐にも・・・・・・」

 

 自分が口にしたにもかかわらず、最後は思い切り歯切れが悪くなってしまった。桜がライダーのマスターだったという事をまだ、オレが受け止めきれていない証拠だ。

 

「遠坂とアインツベルン・・・御三家同士で手を組むというのは少し難しいかもしれんのでな。それに凛はお前達との共闘を拒んでいた。話が拗れる要因にもなりかねん」

 

「話はわかったわ。私もあのサーヴァントの脅威を身をもって知った。通常ならこの提案は充分に検討に値するものよ」

 

「ほう、『通常なら』とな?では、そこから外れる要素があるということだな?」

 

「このお兄ちゃんが、衛宮士郎であること。それが大問題だわ」

 

 銀髪の少女は冷ややかな目をオレに向けてきた。

 

「知っているのでしょう?衛宮切嗣は、前回の聖杯戦争でアインツベルンを裏切った。衛宮を名を冠するマスターと手を組むことなど許されないわ」

 

「そうか。アインツベルンの恨みはかなりの深いのだな」

 

「ええ。聖杯戦争に勝つ事が第一の目的に決まっているけど、衛宮士郎を殺す事も大事な目的なの」

 

「!?」

 

 面と向かっての殺しの予告に、オレはたじろいだ。

 

「どうやら交渉の余地はないみたいね」

 

 隣で様子を窺っていたキャスターが、落ち着いた口調で結論を下す。

 

「残念だが、そのようだな。だが、他のマスターとなら協力する余地はあるだろう?」

 

 神父がイリヤスフィールに確認する。

 

「そうね。あのサーヴァントが脅威であることは確かだし」

 

「では、いずれ凛と引き合わせる場も設けるとしよう」

 

「そうね。難しいかもしれないけど、監督役が間に入れば円滑に進むかもしれないわね」

 

「どうやら、オレ達は蚊帳の外になるようだな」

 

「すまんな。予想以上にお前は嫌われていたようだ」

 

 神父があっさりと無神経な発言をした。

 だが、イリヤスフィールとの共闘が難しい事は、校庭での別れ際での態度から元々予想していた。その上、切嗣がアインツベルンを裏切ったという事実があるのでは、かなり分の悪い交渉だったのだ。

 

「折角だから少しでも情報が欲しいわね。イレギュラーのアーチャーがいるということは、この聖杯戦争ではアーチャーが二人にいるということかしら?」

 

 キャスターは、イリヤスフィールとの共闘の目がない事をあっさりと受け入れて、別方面の情報を収集するつもりのようだ。

 

「そういうことになるだろう」

 

「単刀直入に聞くけれど、今回の戦いでまだ召喚されていないクラスを教えて貰えないかしら?」

 

「ふむ。結果的にとは言え、お前達には、余計な時間を取らせてしまったからな。現状の不利を考慮して多少なりと教えてやってもいいが」

 

 チラリと神父はイリヤスフィールのほうを見た。

 

「なんなら、ここで車から降ろしましょうか?私がいない方が話し易いでしょう?」

 

 神父の理屈からいくと、負い目のあるオレ達には聞かせてもいいが、そうではないイリヤスフィールについてどうしたらいいか逡巡したのだ。それに対してイリヤスフィールは気遣いを見せたのだが、

 

「いや、まあよかろう。イリヤスフィール嬢もこちらの話を無下にしたわけでもないしな。誠意を示すべきだな」

 

 なかなか監督役というのもバランスを取るのに腐心するようだ。

 

「私の知る限り、残っているのはセイバーとアサシンだ」

 

「何だって?」

 

 オレは思わず、驚きの声を発した。

 

「そう」

 

「あら」

 

 キャスターとイリヤスフィールは左程でもない。

 なんとなく悔しい。

 なんかオレだけ仲間外れみたいだな。

 

「ちょっと待ってくれ。じゃあ、あのセイバーは何なんだ?」

 

「セイバー?お前はセイバーと出会っているのか?」

 

 オレの言葉に対して、神父は問い質してきた。

 

「いや、遠坂のサーヴァントはセイバーだって言ってたぞ」

 

 と言いながら、オレは先日、キャスターがあれは本当にセイバーなのか、という疑義を呈していた事を思い出した。

 

「・・・ほう。そうなのか」

 

 神父は純粋に驚いた様子だ。

 

「いや、つまりそれが違ったってことか・・・」

 

 隣のキャスターの様子を窺うと、彼女は軽くこくりと頷いた。

 彼女の疑いが正しかったという事だろう。

 

「あいつは、弓も使っていたな」

 

「そうね、多分アーチャーなんじゃないかしら」

 

「剣技にも長けていたから、セイバーと言われればそうかと思いこんじまうもんな」

 

「ええ。劇的な効果があるわけではないけど、相手を多少なりとも混乱させることができるわね」

 

「だからクラスを偽っていたってことか」

 

「そんなところでしょうね」

 

「ふむ。まさか、そんな事になっていたとはな。凛らしくない小細工ではあるな」

 

 などと言いながらも、神父は顎に手を当てながらニヤニヤとおかしな笑みを浮かべていた。

 

「確かにあまり遠坂らしくはない気がするな」

 

 とは言え、オレもそれ程遠坂と深い付き合いがあるわけではないが。

 

「・・・セイバー・・・いいえ、今となってはアーチャーね。アーチャーのほうの発案かもしれないわね」

 

「まあ、そっちのほうがしっくりくるな」

 

 赤い外套の男(あいつ)のいけ好かない顔を思い出しながら、オレは頷いた。さっぱりとした性格の遠坂ではなく、陰湿そうなあの男の策なのだろう。

 

「さて、申し訳ないがそろそろ仕事に戻らなければならんな」

 

 神父が傍らに置かれたアンティーク調(なのか、本物なのかオレにはわかるわけもないが・・・)の時計に目をやった。

 

「わかったわ。教会に向かえばいいのね?」

 

 そう言って、イリヤスフィールが運転席に伝えようとすると、神父はそれを止めた。

 

「いや、【ヴェルデ】という商業施設の近くまで送ってもらえれば助かる」

 

「買い物があるのかしら?であれば、それが終わるまで待ってから教会まで送ってもいいけど」

 

「正確にはその付近のチャペルで仕事なのだ。結婚式の司式のな」

 

「は?・・・あんたの前で永遠の愛の誓いをするのか・・・」

 

 オレは唖然とした。

 

「そんなわけで気遣いには感謝するが、それなりの時間を要する。待って貰うのは遠慮させていただこう」

 

「わかったわ」

 

 イリヤスフィールは淡々と神父の言葉を受け入れた。

 ちょっと待ってくれ。

 オレはその話、簡単には受け入れられませんよ。

 

「あんた、そんなバイトもしているのか?」

 

「バイトとは聞き捨てならんな。私は(れっき)とした本職の聖職者だぞ。確かに、一般的なチャペル式の挙式では本物の牧師や神父ではなく、単なる外国人のアルバイトが務める事も多いようだが」

 

「坊やが気にしているのは、どちらかと言うとあなたの人格面だと思うのだけれど・・・」

 

「それこそ心外と言うものだな。先ず、昨日今日の付き合いでしかないお前達に私の人格をとやかく言われる筋合いはない」

 

「いや、もう充分に堪能しましたが・・・」

 

「そうねえ」

 

 オレもキャスターも呆れながら突っ込んだが、当然この男の耳には入らない。

 

「さらに言うなら、司式に人格の良し悪しなど関与せんだろう。台本どおりのセリフで厳かに、かつ形式的に進めればそれで事足りるのだからな。進行役の人柄が介在する場面など微塵もない」

 

 そりゃ、突き詰めれば世の中そんなもんだけど・・・

 もう少しオブラートに包めよ。

 

「最初の頃は、プランナー側が『敢えてたどたどしい日本語で話してくれ』などと要求してきたが、私の声質だと寧ろ明朗な口調のほうが、雰囲気が出るという事にすぐに気付いてくれた」

 

「まあ、あんたの声がそれっぽいのは認めるけどな」

 

「残った唯一の問題は私自身、眼前で他者の接吻を見せられるのが不快な事だけだったが、それも鷹揚に頷きながら目を閉じていれば不自然でないという事に最近気付いたのだ。それからは、まずまず割の良い仕事となっている」

 

「もし将来、式をやることになっても、言峰綺礼という神父だけは絶対に使わないようにオーダーしよう」

 

「同感だわ」

 

「わけがわからんな」

 

 万人に祝福されるべき結婚式で、一番近くにいる他人が人の幸せを喜べないような輩であることを受け入れられるわけないだろう。

 

「着いたわよ」

 

 そうこうしているうちに、車は【ヴェルデ】に到着したようだ。

 

「オレ達は、家まで送ってもらえるのかな?」

 

「勿論よ」

 

 と、イリヤスフィールは頷いたが、

 

「私達もここで降りるわ」

 

 と、キャスターが遮った。

 

「ここで買い物をしたいのよ。悪いのだけれど、坊やもご一緒してもらえるかしら?」

 

「そういう事なら」

 

 オレに反論する理由などなかった。

 開戦前、日中という状況下でも、何があるかわからない。お互いに極力、単独行動は避けるべきだろう。

 

「それじゃあ、三人ともここまでね」

 

 イリヤスフィールがそう言うのと、ドアが開くのが同時だった。

 光が抑制されていた車中と違って、太陽の光が差し込んできて少し眩しく感じる。

 

「オ客様。オ疲レ様デシタ」

 

 車に乗る時と同様、たどたどしい言葉使いのほうのメイドさんがドアを開けてくれた。

 

「時間がないので、私はこれで失礼しよう」

 

 それだけを言って、神父は足早に歩み去って行った。

 どこにあるかはわからないが、結婚式場に向かったのだろう。

 ん?

 そう言えばあいつは酒を飲んでいなかったか?いいのか?

 そんな疑念が頭の中を渦巻いたが、

 

「またね、お兄ちゃん。次こそは本当に殺してあげるからね」

 

 神父が去っていくのを横目に、イリヤスフィールが物騒な言葉をあくまでもにこやかに投げ掛けてきた。

 だが、オレはそんなのご免だ。

 殺されるのも、殺すのも。

 

「イリヤスフィール。切嗣・・・つまりオレの親父がアインツベルンの期待を裏切ったという事は、さっき神父に教えられて初めて知った」

 

「キリツグからは何も聞かされていなかったの?」

 

「ああ。親父は自分の事は殆ど話さなかったからな。魔術にしたって殆ど教えてくれなかった。切嗣の行為はアインツベルンにとって、そしてイリヤスフィールにとって、そんなにも許し難いものなのか?」

 

「私達アインツベルン千年の宿願を実現するための手段が聖杯なの。前回、それを託されながら、フイにしたのがキリツグ」

 

「千年・・・」

 

 途方もない数字だった。

 

「そんな男がこの日本で子供を持ち、そしてその子は()()()()と生きている。許される筈がないわよね」

 

 少女の赤い目が細まり、昏く光る。

 そのままくるりと後ろを向いて、車に戻ろうとする。

 

「イリヤスフィール。オレはまたお前と話したい。今度は戦いのための話じゃなくてだ」

 

 こんな幼い少女と命のやり取りをするなんてオレには耐えられない。少しでも彼女との会話の中で、その背景や理由をオレは知り、そして争いを止める方法を模索したかった。

 

「ふふ。聖杯戦争は夜にするもの。だから、明るいうちならいいわよ。私も色んなお話はしたいもの」

 

 殆どダメ元だったが、意外な程にあっさりと承諾された。

 

「でも、その時にはお兄ちゃん一人で来てね」

 

 ちらりとキャスターを見て、少女は条件を付けた。

 

「そうでなければ、バーサーカーを連れて来るからね」

 

 少女は挑発するような表情をキャスターに見せた。

 

「行きましょう、坊や」

 

 キャスターはイリヤスフィールの態度には反応を示すことなく、多数の人々が出入りする複合商業施設【ヴェルデ】の入り口へと歩き始めた。

 

「それじゃあ、またな」

 

 オレは少し慌ててキャスターの後を追いながら、振り返ってイリヤスフィールに手を振った。

 

「バイバイ。お兄ちゃん」

 

 イリヤスフィールも手を振り返してくれた。

 











関連作品で出てくるアインツベルンの車は決してリムジンなどではないですが、本作では会談の場とするため、リムジン仕様にしてみました。

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