E turn
透明のドアが自動で開き、オレとキャスターは連れ立って広く明るい空間へと足を踏み入れる。
「平日でもそれなりに賑わっているな」
中央が吹き抜けになっているモダンな構造のショッピングモール【ヴェルデ】は、若者向けのデートスポットとしてだけでなく、ファミリー層、ご年配の方々迄冬木市および近隣住民の全員の憩いの場と言っても過言ではない。
ここに来れば一通りのアイテムが揃う。逆に言えばここで手に入らない場合、冬木ではどこでも手に入らない物となる可能性も高い。
で、キャスターが今回、何を目的にここに来たかというと・・・
「お裁縫の道具が欲しいのよ」
と、思いがけず慎ましいアイテムを欲していたのだった。
「・・・そ・・・そうなのか。魔術の実験に使うアブナイ薬品とか買いに来たのかと思っていた」
「そんな物ここに売っているわけがないでしょう」
と、冷静に窘められる。
では、土蔵にある怪しげな液体や草花は一体どこで手に入れているのだろうか?
「そもそも、キャスターはここに来たことがあるのか?」
「以前は新都側に工房があったから、一度だけ来たことがあるわ。私だって、折角現界したのだから少しは現代の世界がどんな風になっているか色々と知りたいもの」
「まあ、その気持ちはわかる気がする」
一度死んでしまったとして、その後、違う国、違う時代に生まれ変わったとしたら、きっと自分の生きた世界とどこがどう違うか知りたくて仕方ないだろう。留まっていられる時間が有限だとすれば尚更だ。
「それで、何を作ろうとしているんだ?」
「服をカスタマイズしたいのよ。この時代の服は整っているしデザインも悪くないけれど、ちょっと個性に欠けているというか、もう一捻り欲しいのよね」
「そうなのか」
今のキャスターのファッションも充分に似合っていると思うが、本人は物足りないのだろう。この辺の感性というか、センスについては欠片も自信がないので、オレはノーコメントに徹したほうが無難と判断する。
「ちなみに坊やの服は、本格的にダメだわ」
「すいません」
オレ愛用の【し●むら】カットソーは、彼女的には完全に不合格だったようだ。着用者であるオレ自身とすれば、安くて丈夫なので不満はないのだが。
「後であなたの服も買いに行きましょう」
などと言いながら、手芸用品店のある3階に辿り着く。
元々、目を付けていたのだろう。彼女は案内板を確認する様子もない。
「あら?」
その道すがら、彼女は別の店の前で足を止めた。
「ここは・・・」
主要顧客層が、子供または男性であるため、平日の今日は比較的店内は閑散としている。
「・・・船・・・ね」
「これってボトルシップってやつかな?」
彼女の興味を引いたのは、ショーケースの中に飾られたボトルシップのようだった。大きめのウイスキーの瓶に、精巧な作りの帆船模型が入っている。
帆船の造作の見事さにも目を奪われるが、何よりもどうやってこの瓶の中にこの模型を入れたのかが不思議で仕方がない。どう考えても、模型の大きさに対して入口となる飲み口の部分が狭すぎるのだ。
「これが帆船なのね・・・ガレー船とは帆の形が全然違うし、精巧で綺麗」
どうやらキャスターの興味を惹きつけたのは、単純に船の模型そのものだったようだ。もっと突き詰めれば『帆船』に目を奪われたらしかった。
「ガレー船?」
彼女の口から出てきた『ガレー船』という単語が記憶の片隅に引っかかった。最近、どこかで目にしたような気がする。
「キャスターは帆船を見るのは初めてなのか?」
と尋ねるが、オレだって本物の帆船なんて見たことはない。あくまでも、物語や教科書の中で出てくる絵などを見たことがある程度だ。
ただ、少し彼女の出自の推測に役に立ちそうな話題のような気がした。
「そうね。
「キャスターもそういう船に乗って航海したことがあるのか?」
「・・・ええ、そうね・・・色々な事があったわ・・・本当に・・・」
彼女の水色の瞳は、目の前の帆船を通り抜けて遥か遠くに映る景色を見ているようだった。
「ご免なさいね。私の買い物に付き合わせてしまっているのに、余計な寄り道をしてしまって」
キャスターはその目を閉じて、かぶりを振った。
「いや、いいんだ。こんな機会はそうそうないんだから、キャスターの好きにするといいさ」
「ありがとう、坊や」
彼女はふわりと穏やかな笑みを浮かべた。
「でも、実際にはそういうわけにはいかないわよね」
と続けて、彼女は再び歩き始めた。
その後を追うようにして、オレは隣に並ぶ。
「ああ、そうか・・・」
ふと、オレは思い出した事があって、小さく呟いた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
『ガレー船』という単語は、図書室で借りた【誰でもわかるギリシャ神話】の中で出てきたのだ。ということは、彼女は古代ギリシャに
だが、本格的な帆船が活躍したのは大航海時代の筈だ。であれば、基本的にはそれ以前の時代はオールで漕ぐ船が主流だったのではないか。
そう考えると、帆船が主流になったのはせいぜいここ数百年ということになる。この情報だけでは左程絞り込めそうもなかった。
もう少し調べてみようか。
戦略的にオレはキャスターの正体を知らないほうがいいという事は理解していたが、彼女がどんな時代に生きていたかくらいは知っておきたかった。
素朴な好奇心というのは、なかなか抑えられないものだ。
ん?
ちょっと待て。そう言えば・・・
「やべ。そろそろ本を返さないといけないな」
貸出期間は2週間だった筈だ。もう期限を過ぎてしまっているのではないだろうか。
「ほんと、どんなお料理を作っても素晴らしいわね」
卓を挟んだ向かい側では、キャスターが口元に手をあてて目を丸くしている。
「ええ。そう言ってもらえるのは大変嬉しいんですがね・・・」
彼女の前には二人で作ったミートパイが置かれているのだが。さらにワインボトルとワイングラスがその隣には並んでいる。
【ヴェルデ】内にある輸入食品店で購入したもので、それだけで今食べているミートパイが20食分は作れる。
当然ながら、お代は全てオレ持ちだ。
「なんか、初めの頃に比べると遠慮がなくなってきたような・・・」
「どうしたのよ、坊や?あなたも飲む?お酌してあげるわよ」
と、少しだけ顔を赤らめた彼女がワインボトルを持ち上げる。
その持ち方は瓶の底に片手を添え、もう片方の手でボトルのボディを支えており、優雅である。
こういう所作は一貫して上品だ。
「苦手だということにしてください」
オレは、辟易して断る。
「勿体ないわねえ。折角お酒に合う料理を作ってくれたのに、自分では味わえないなんて」
と、口を尖らせてはいるが、今日の彼女は総じて上機嫌だ。
理由は特にわからない。【泰山】では神父の罠(?)にかかったり、イリヤスフィールとの交渉が不首尾に終わったりと、必ずしもいい日ではなかったように思うのだが。
結局あの後は、予定どおり【ヴェルデ】内の手芸品店でキャスター用の裁縫道具を購入した後、キャスターの見立てでオレの服一式を選び、
『これも後で私がアレンジしてあげるわね』
と、悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
後生だから無難に仕立てて欲しいものだ。あまり奇抜なデザインにされても困る。
「よくはわからないけど、やっぱり赤ワインなら洋食系の肉料理かなって思っただけなんだけどな。白ワインなら、魚料理にしていたかもな」
「次はそうしてもらおうかしら。きっと、洋食系の魚料理を作っても凄く美味しいんでしょうねえ」
「あまり、ハードルを上げられても困るんだけどな」
「私が生前食べていた料理はもっとシンプルで大味だったけど、坊やのは深みがあって繊細。最高よ」
「多分、現代の調味料が優れているんだと思うんだけど。いずれにせよミートパイを食べるのは初めてなのかな?」
「私の時代にも似たようなお料理はあったわよ。でも、どちらかと言うと魚介類を食べることの方が多かったかしら」
「そうなのか」
ショッピングの際の会話も踏まえると、やはり海洋民族だったということだろうか。
依然としてキャスターの出自は気になったが、今はこれからの事を相談したかった。このままだと、彼女が本格的に酔っ払ってしまうような気がする。
「ところでこれからの事について話したいな・・・今日は色々と情報は得られたけど、イリヤスフィール達との共闘の道が実質的に絶たれてしまったのは痛かったな」
「そうね。でも坊や自身、望み薄という事も感じていたじゃない。そう言う意味では仕方ないわよね」
「『望み薄』と『望みが絶たれた』では、かなりの差だと思うけどな」
確かにオレは校庭で出会った時の態度から、イリヤスフィールはそもそもオレ自身に対して特殊な敵意があるように感じていた。
今日は神父の話とイリヤスフィールの反応で確定したという事でもある。
「まあ、その点はかなり残念だけど、今日は色々な情報が得られたからな。少し整理しようか」
「ええ」
「先ず、今時点で現界している英霊は6人いる。
「そのギルガメッシュがあの校舎を消した張本人で、その時にバーサーカーを退けているわ。間違いなく最強の存在と言えるでしょうね」
「あとは、遠坂のサーヴァントがセイバーではなく、本当はアーチャーということもわかったな」
「あの英霊がセイバーという事には、少し疑念があったから腑に落ちる話ではあるけれど」
「そうだな」
「マスターとの組み合わせもかなりわかっているわね」
「遠坂とアーチャー・・・・・・桜とライダー、イリヤスフィールとバーサーカーが確定なわけだが」
「坊やを襲ったバゼットという魔術師がランサーのマスターなんじゃないかしら?その時にはサーヴァントは姿を現さなかったみたいだけど」
「可能性は高いな。でも、ギルガメッシュのマスターという線も残っているかな・・・いや・・・」
「ギルガメッシュは聖杯の魔力を浴びて現界し続けているという話だから、そもそもマスターが不要になっている可能性もあるわね」
「それにバゼットはぱっと見、
「そうね。そのバゼットは、あの神父を敵視していたのでしょう?」
「ああ。でも殆ど会話が成立しなかったから、理由は全くわからなかった」
あの時の事を思い出すだけでも疲れる相手だった。
「とは言え、他の三組と比べればまだ、共闘の目はあるか・・・」
なにせオレ達二人は揃いも揃って嫌われ者だ。
先ず遠坂ペアの場合、遠坂はキャスターを、
次にイリヤスフィールは、裏切り者である衛宮切嗣の子としてオレを殺す気満々だ。
「・・・そして最後に・・・桜は多分、オレとキャスターの両方を恨んでいるんだろうな・・・」
この三陣営とは共に戦うなどという可能性は皆無に等しい。
それに比べれば、バゼットとランサー組(仮)は、致命的に断絶した関係とまでは言えないだろう。
「いずれにせよ、どの陣営にも今すぐに襲われるっていう感じではなかったから焦る必要はないわ。次の策を考える方が大事よ」
「次の策か。つまり新たなサーヴァントの召喚だな」
「ええ」
そう言うと、キャスターは口をつけていたワイングラスを置くと、立ち上がってこちら側にゆっくりとやって来た。
「坊やももう気付いていると思うけれど・・・狙いはセイバーよ」
オレの傍らに座ると少し体を密着させてきた。
そして、その手をオレの膝に置く。
「わわ・・・どうしたんだ、キャスター」
既に何度も経験しているが、なかなか慣れない。
女性特有の仄かな香りが漂ってくる気がしてドギマギする。
加えて、今は彼女が飲んでいたワインの香り、端的にはアルコールの匂いなのかもしれないが、それも混ざって余計に頭がくらくらする。
「朝、言ったわよね。坊やの体には礼装が埋め込まれているって」
「そう言えば・・・」
神父からの電話で遮られてしまったが、確かにキャスターはオレには概念礼装が埋め込まれていると言い掛けていた。
「神父の話では、あなたのお父さんはセイバーのマスターだった。それも高名なアーサー王をサーヴァントとして使役していたと」
彼女はオレの胸に右手を伸ばして、ゆっくりと撫でる。
その感触に震えて自然と鳥肌が立つのを感じる。
「あなた自身が関与した魔術師は、お父さんだけ。つまり、あなたの中にある礼装は間違いなくお父さんが残したものよ」
細くしなやかな指がオレの体の中にあるという魔術礼装をなぞるかのように、つつ・・・とゆっくり這う。
その感触の心地良さに酔いながら、彼女の言わんとするところがわかってきた。
「・・・アーサー王に関連するアイテムがオレの中にある。キャスターはそう言いたいんだな?」
「ふふ。流石ね、坊や」
キャスターが微笑んだ。
「切嗣と同じようにアーサー王を召喚できるかもしれないのか」
だとすれば、強いに決まっている。
実際に前回、最後まで勝ち残ったというのだから。
「同じ英霊が続けて召喚されるのはおそらく稀でしょうから、確実とは言えないと思うわ。けれど、当人ではなかったとしても、アーサー王に所縁の円卓の騎士が召喚できれば、充分に強力よ」
「そうだな。そのセイバーをキャスターやオレがサポートすれば・・・」
「他陣営との共闘が覚束なくても、充分に勝ち残る算段ができるわ」
酒の力も相俟っていつもより少し紅潮した美しい顔がオレの正面にある。
きっと勝機を見出した事が嬉しくて、今日の彼女は機嫌が良かったのではないか。
ぼんやりした頭の片隅でそんな事を考えつつも、オレの意識は眼前に迫ってくる彼女の陶然とした瞳に吸い込まれていく。
「明日の夜、召喚するわよ。でも・・・」
しな垂れかかってきた彼女の柔らかい体に包まれる。
「・・・先ずは前祝いといきましょう・・・私の・・・」
なんだろうか・・・?
ふわふわする。
いつもどおりのような気もするし、そうでない気もする。
「・・・私だけの坊や・・・」
「・・・キャスター・・・」
操られるようにして肯定の言葉を紡いだオレの口は、彼女の唇によって塞がれた。
もう何度目になるだろう?
彼女と出会ったあの夜以来、幾度となく味わってきた艶めかしい感触。
それは抗いようもなく、心地いい。
やがて、オレは甘美な睡魔に襲われていった。
Interlude in
コツン・・・
冬木教会内の一室。
ギルガメッシュが持つロックグラスに浮かぶ丸氷がその杯の壁面に当たり、小さく音を奏でた。英雄王は暫くの間、氷を弄ぶようにコロコロとグラスの中で転がしていた。
やがてグラスに僅かに残った琥珀色の液体を飲み干すと、次を求めてテーブルの上に置かれたウイスキーのボトルに手を伸ばす。
「やはり酒はいい。いや、この国の品がいいというべきか」
「そうだな。私も大概の国の酒は口にしてきたが、総じてこの国の酒の水準は高いと言えるだろう。惜しむらくは、国内で消費されることが多い事か。もっと海外に売り込んでも良いと思うのだがな」
ソファに座るギルガメッシュとは対照的に窓際に立ち、夜空を見上げながら言峰綺礼は応じた。
英雄王と同様にオンザロックではあるが、グラスの中の液体は無色透明だ。
「ふん。それでオリジナルを崩すようなことにならなければ良いがな。まあ、外に出ることで更なる進化を遂げるほうに期待するほうが建設的か」
「いずれにせよ、酒がなければお前が10年もの間、大人しくしていることもできなかったろうな」
「当たらずとも遠からずと言ったところだな。何せ、我の時代には酒はせいぜいビールとワインくらいしかなかった。蒸留の技術はあったが、残念ながら酒を造るためには用いられなかったのでな」
「確か【シカル】というのがビールの原型だったという話だな」
「ああ。しかし、現代の酒は無尽蔵と言ってもいいくらいに多種多様だ。そのうえ、この国では多くの酒が実際に入手可能だからな」
「手に入らないものは、私が海外迄直接買いに行かされることもあったがな」
神父は軽く嘆息した。
「だが、結局のところ最終的に行き着いたのは、この国の酒よ。日本酒、焼酎、泡盛」
「泡盛のルーツは東南アジアにあるぞ」
「そして、このウイスキーだ。繊細にして複雑。単純なインパクトだけなら外来品のほうがあるがな」
神父の反応などお構いなしに英雄王は自説を披露し続けた。
「概ね正しい見解だろう。細かいことを言い出せばキリがない」
「とは言えこの世界を眺めるのも決して悪くはないが、我も些か刺激に飢えた」
ギルガメッシュはソファの背もたれに悠然と背中を預けながら、目を細める。
「わかっている」
「で、全部揃うのはいつになるのだ?綺礼よ。ランサーとバーサーカー相手に無聊を慰められたのは悪くはないが、準備運動はそろそろ仕舞いといきたいのだがな」
英雄王は再び杯を傾けながら、窓際に立つ言峰綺礼に問うた。
「安心しろ。もう直だ、ギルガメッシュよ。10年もの歳月を辛抱できたお前だ。あと数日待つことなど容易かろう」
「物事には時宜というものがある。要は平時か戦時かということだ。既に我の意識は切り替わっている。まあ、戦というよりは祝祭だがな」
「待つ時間というのも、祭りの一部だと考えればいいだろう。これまでは、いつ始まるか分からなかったわけだが、今はあと数日で始まるのは確実なのだ。全く状況は異なるだろう」
「ふん。まあそういうことにしてやろうか」
「だが、ギルガメッシュよ。お前にとっては、願ってもみない僥倖が訪れるかもしれないぞ」
「随分と持って回った言い方をするな。あまり期待させると、後が危険だぞ」
「確かにお前相手には危ういかもしれんがな。まあ、それなりに信憑性のある話だ」
「続けてみるがいい」
「衛宮切嗣という名前を覚えているか?」
「エミヤキリツグだと?誰だそれは?」
「前回の聖杯戦争参加者だ」
「おいおい冗談も程々にするがいい、綺礼よ。この我がいちいち愚にもつかない雑種の名を覚えていると思うか?」
「ただのマスターであればな」
「ん?・・・・・・ああ、そうか。セイバーのマスターの名がそうだったか。それに確かお前が固執していた相手だったか」
ギルガメッシュは合点がいったということを示すかのように、持っていたグラスを高く掲げた。
「で、その男がどうしたというのだ?」
「今回のマスター、いや、まだマスター候補と言うべきなのか難しいところだが、衛宮士郎という少年がいる」
「衛宮・・・ああ、衛宮切嗣の縁者というわけだな」
「そのとおりだ。養子ではあるがな」
「成程な。お前の言いたい事がわかったぞ」
英雄王はニヤリと笑みを浮かべた。
「まだ、セイバーは召喚されていなかったな」
「そのとおりだ。あの少年は【セイバー】を召喚する事になるやもしれん。しかも、裏ではキャスターも関与している。強力なサーヴァントを従えたいと考えているだろう」
「ふむ。願ってもない事だが、あまり過度には期待しないでおこう」
英雄王はグラスを傾け、中の液体を飲み干した。
そのグラスをテーブルに置くと、立ち上がる。
「だが、楽しみが増えたのも事実だな。お前の言うとおり、確かにこの時間は得難いものだ」
「ふ」
神父も同様にグラスを空にする。
「それにしても綺礼よ。無精者のお前にしては、随分と忙しなく動き回っているようだな」
「開戦直前なのだ。止むを得まい」
「それだけなら、良いがな」
英雄王はその目を細めた。
「正直、懸念していることもある」
「ほう、それは?」
「正体不明の黒い影がこの街を徘徊している」
「影だと?」
「どうやら手当たり次第に食事をしているようだな。今のところ、この戦いとの因果関係は明らかではないが」
「ふん。見当は既についているのであろう。相変わらず回りくどい奴だな」
ギルガメッシュはドアノブに手を掛けて扉を開けた。
「用心するがいい、ギルガメッシュよ。あれの本当の好物はお前達サーヴァントに他ならない」
「不確定要素か。それもまた面白い」
金色の王は軽く笑みを浮かべて、ドアの向こうへと消えていく。
部屋に一人残った綺礼は自身のグラスを軽く洗うと、球体を象る新しい氷を入れた。
「古来より他人の忠告を傾聴するのは、王たる者に不可欠な資質の一つだ。こればかりは洋の東西を問わん・・・」
そう呟いた神父は、先程迄英雄王が飲んでいたウイスキーのボトルから酒を注いでいく。
琥珀色の液体が透明なグラスへとゆっくりと溜まっていくと、
キンッ
氷にひびが入る。
「いかに秀でた王であろうとな」
一人きりとなった部屋で、無表情のままに言峰綺礼はそう呟いた。
Interlude out
付け焼刃ではありますが、本作を書く過程でキャスターやギル様の生きた時代にはどんな料理やお酒があったのかを調べたりします。
ワインもビールもその原型はギルガメッシュ叙事詩の時点であったようで、人類の酒に対する貪欲さを感じます。