Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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1月30日 夜









第25話 ~前日②~ 「シュウマツ祝祭」

 

 E turn

 

 

「・・・あいつ、飛行機まで呼び出すことができるのか?一体どういう能力なんだ?」

 

 オレは夜空に浮かぶギルガメッシュを見上げながら、なかば呆れて呟いた。

 先ほどは虚空から剣を生み出していたが、今度は飛空艇が現れ、奴はその上の玉座に悠然と座っている。

 飛空艇と言っても、その外観は大型のグライダーのようでもあり、見ようによっては羽虫のようでもあり、鳥のようでもありといった風体で、それらが全て融合したような不思議な造形をしていた。

 その上に金色の王が乗っているという、どうにも現実味のない光景だ。

 

「武具だけではなく、この世全てのあらゆる財宝を保有する。それがあの最古の英霊の能力なのでしょうね」

 

 キャスターが推測を口にする。

 だとすれば、殆どどんな状況でも対応可能ということだ。規格外もいいところであり、そんな奴が思うがままにその力を解放していたらこの街がどれだけの被害を受けるかわからない。

 

「あの神父が危険視するのもよくわかるな・・・」

 

 神父の話ではあらゆる宝具の原型を所有すると言っていた。オレは勝手にそれは武器の類だと思い込んでいたが、そうとは限らないわけだ。

 

「さあ、セイバーよ。お前ならここまで至ることなど容易かろう。そこで群れている雑種どもなど見捨てて、我が元へと駆け昇るが良い」

 

 跳躍したギルガメッシュを受け止めるような形で出現したその機体は、今の高度は精々20mといったところだ。おそらく本来なら遥か高みを舞う事ができるだろう。

 あくまでも、奴はセイバーとの会話を楽しむためにその高度に留まっているに過ぎない。

 

「貴公と不毛な会話を続ける気は毛頭ない!!」

 

 外塀の上に立ち、上空の飛空艇を睨みつけるセイバーがそう叫ぶと、腰だめに不可視の剣を構えた。

 

風王鉄槌(ストライク・エアー)ッ!!」

 

 ゴウゥゥッッ!!!

 

 セイバーが両手を突き出すように振るうと、魔力により周囲の空気が圧縮されて突風となって吹き荒れ、大気が震えた。向かう先は離れた位置にいるオレまでその風圧が感じられ、その威力の凄まじさが伝わってきた。

 が、

 

「些か性急だな」

 

 ヴンッ!

 

 いかにも煩わしそうに王がその腕を振るうと、飛空艇の下に巨大な盾が出現した。

 

 ズァァァァァ・・・

 

 セイバーが放った竜巻のような突風は、その盾の前に霧散する。驚くべき防御力だった。

 

「はっ!!」

 

 だが、白銀に輝く少女の動きは止まらない。

 

 ザッ!

 

 先程の攻撃をギルガメッシュが防いでいる間に一旦横にずれるように動いた彼女は、すかさず上空に向けて跳躍していた。

 

「ぬっ!?」

 

 最初の攻撃が目晦ましとなり、僅かに反応が遅れたギルガメッシュの顔から、終始浮かんでいた笑みが消える。

 

「覚悟するがいい!英雄王っ!」

 

 つい先ほどまで不可視だった剣の刀身が、いつの間にか露わになっている。

 伝説に謳われる黄金の剣。

 その刀身は眩い光に覆われており、束の間オレの目はその神秘に目を奪われる。

 

 コウゥ―――

 

 飛空艇の間際まで跳躍したセイバーがその剣を振るう。

 凝縮された音と、そして眩い閃光が英雄王へと伸びていくと、

 

 カッッ―――

 

 何かを呑み込み、弾けた。

 

「やったのか!?」

 

 オレはその光が直接目に入らないよう、両手で遮りながらも、薄目を開けて様子を窺った。

 セイバーの放った強烈な斬撃は、間違いなく飛空艇を消滅させ、乗っていたギルガメッシュの眼前まで到達していた。魔力に関する知識の乏しいオレから見ても、凄まじい威力だったのがわかる。あれが直撃すれば一溜りもない筈だが、

 

「随分と手荒い歓迎ぶりだな、セイバーよ」

 

 冷たい声が虚空に響いた。

 それは当初からの一貫した傲然とした物言いではなかった。その声の元を見やると、英雄王は自身の両腕を交差させて顔を防護するような体勢で塀の上に立っていた。

 上空で飛空艇を破壊されたため、止むを得ず着地したのだろう。

 

「そして、褒めて遣わそう。天に舞う(オレ)の足を再び地に下したのだからな。凡百の塵芥が相手であれば、即刎頸に処すところだが、お前であれば寛大にもなるというものよ」

 

「流石に良い反応ですね。今のを躱すとは」

 

 そう応じたセイバーもまた、塀の上に立っている。

 この屋敷を囲む塀は一辺がかなりの長さがある。両者は一直線上に位置してはいるが、お互いの間合いはかなり離れていた。

 

「初撃への盾による防御も反応が早かった。如何に貴公の鎧が優れた防具だとしても、防ぎきれなかったでしょうが・・・」

 

 そう言いながらも、セイバーはその剣の切っ先を敵へと油断なく向けている。

 

「戦い方に迷いがない。前回の聖杯戦争よりも落ち着いているようだな」

 

 一方のギルガメッシュも真っ直ぐにセイバーを見据えて目を細めた。

 

「勿論です」

 

 ちらりとセイバーが、下方で戦況を黙って見ている事しかできないオレに視線を送る。

 

「良いマスターと巡り合えた。これは何にも勝る喜びです」

 

 なんだろうか?

 少し不可思議にも感じる言葉だった。

 正直、セイバーを召喚してからまだ僅かな時間しか経っていない。交わした言葉も限られている。供給できる魔力量は言わずもがなだ。セイバーはオレを評価してくれているようだが、何も思い当たる節がなかった。

 

「くくく。本来なら相手の事情など斟酌する迄もないが、我の花嫁となる女が万全だというのであれば、それに越したことはない。その状態のお前が我に屈服した時の絶望の表情と涙は、極上の味がするであろう」

 

「は?・・・花嫁だって・・・!?」

 

 オレはギルガメッシュの口から出てきた思いもよらない単語に驚いた。

 この男はセイバーに求婚(?)しているらしい。

 どうにも一方的な態度ではあるが。

 

「あの男は随分とセイバーにご執心のようね」

 

 キャスターが少し呆れ気味に呟いた。

 

「度重なる貴公の妄言には怒りを通り越して、いい加減疲れすら感じてきた。再開して早々ではあるが、今宵で全て終わりにしてくれよう」

 

 ジャギィ・・・

 

 その言葉とは裏腹に、セイバーが怒気を孕んだ剣気を全身から放ち、手にした剣を肩口に構え直した。

 

「つれないなあ、セイバーよ」

 

 そう応じながらも、金色の王はまたも虚空に窓を開きつつあった。

 

「とは言え、その頑なな態度が翻る様を愛でられるというのも、また一興。愉しみは増すばかりだな」

 

「な・・・!?」

 

「なんなの?・・・あれは・・・」

 

 そこから出現しつつあるものを見てオレもキャスターも戸惑いの声を漏らす。

 

「祝砲にはこれが最も相応しかろう」

 

 英雄王が虚空の宝物庫から取り出したのは、赤い螺旋状の()()だった。

 

「先日は狂った神代の英雄めに準備運動がてらにくれてやったが・・・まあ、所詮は前座。露払いのようなもの」

 

 ギルガメッシュが手にした()()には、一応、柄と刀身のような部位がある。

 そう言う意味では、辛うじて剣と表現してもいいのかもしれないが、そう口にするにはあまりにも特殊な形状であり、その刀身では薄紙一枚たりとも切れそうにない。

 

「今宵、お前に手向けるものこそが本物よ。見事に我が乖離剣を受け取るが良い」

 

 ただわかるのは、とてつもない代物であるということだ。

 しかし、そう感じられるだけ。

 剣の構造を把握する事だけがオレの特技と言っていい。

 ところが情けないことに、今、英雄王ギルガメッシュが手にした()()は、理解も解析も不可能なただただ()()()()としか表現できなかった。

 

「加減はしてやる。これに対抗できないような()()()であれば、お前とて騎士王の紛い物に過ぎん。我が寵愛を得るに値しなかった。ただそれだけのことよ」

 

 ゴゥゥゥゥゥゥゥ・・・

 

 金色の王がゆっくりとその剣を振り上げると、そこを中心にして大気が渦巻き、重い音を発する。空間そのものがその場に留まる事ができず、さながらブラックホールに引き摺り込まれていくかのように赤い剣へと収束していく。

 

「どうすれば・・・」

 

 あれを解放されれば、対峙しているオレ達だけではなく、この付近全てが吹っ飛ぶだろう。しかし、オレもキャスターもこの状況に圧倒され、戦慄して殆ど動くことすらできなくなっていた。

 だが、彼女・・・銀色の少女だけは違った。

 

「止むを得ませんね」

 

 騎士王(アーサー王)が落ち着いた口調で独白した。

 

「マスター、宝具を使います。それ以外に対抗する術はないでしょう。負担をお掛けしますがご容赦を」

 

 そして、彼女は塀の上からそうオレに告げてきた。

 両手に構えられた黄金の剣。

 伝説に謳われる聖剣エクスカリバー。

 その全力をもって対抗するということだ。

 先程、飛空艇を破壊した攻撃も充分に凄まじいものだったが、あれ以上の一撃が可能なのだろう。

 

「やってくれ、セイバー。お前に全てを託す」

 

 彼女を信じる。

 ただそれだけだ。

 他にオレにできることなどない。

 召喚してから、まだほんの僅かな時間しか経っていない。しかし、彼女が極めて優秀な英霊であることは充分にわかった。そして何よりオレを信頼してくれていることも。

 

「はい、全力をもってあなたをお守りします。シロウ」

 

 彼女は、力強くオレの言葉に頷いた。

 

「ゆくぞ、英雄王!我が聖剣の一撃を以て、貴公の誇る神域の宝具を打ち砕いて見せよう!!」

 

 気魄の籠った口上とともに、セイバーは聖剣を肩口に振り上げ、いわゆる八相の構えとなり、

 

 ――――――ィィィィィィンンンンンン――――――

 

 剣は眩い金色の光を発し始め、刀身に魔力が充填されていく。

 

「よいぞ、セイバー。全力で足掻いて見せるがいい!他の誰でもない。この我が許す!!」

 

 全身から闘気と、そして歓喜を溢れさせて、セイバーと対峙する英雄王ギルガメッシュが高らかに告げる。

 

「さあ、我が裁定を受け、全身全霊を以って自身を証明せよ!!!」

 

「その輝きで全てを守れ。聖剣よ!」

 

「――――――天地乖離す(エヌマ)――――――」

 

「――――――約束された(エクス)――――――」

 

 人類最古の英雄ギルガメッシュと、円卓の騎士たちを束ねた騎士王アーサー。歴史にその名を燦然と刻む二人の英雄が、お互いの神具を解き放つ。

 

「――――――開闢の星(エリシュ)!!!」

 

「――――――勝利の剣(カリバー)ッッッ!!!」

 

 赤と金の刀身が同時に振り下ろされた。

 それは、あたかも世界の終末に至るための(フラッグ)が上がったかのようでもあった。

 

 ゴォォォォォォォォォ

 

 英雄王が放った赤と黒の奔流。

 そして、騎士王が放った金色の閃光。

 正面衝突したそれらは、破壊的な力を極限まで凝縮させて虚空でせめぎ合った。

 

「素晴らしいぞ、セイバーよ」

 

「くぅぅぅっっっ!?」

 

 二人は各々の武具を振り下ろした状態で、エネルギーの奔流を放ち続ける。

 だが、依然として歓喜の笑みを貼り付かせる英雄王に対して、苦悶の表情を浮かべる騎士王。

 優劣は明らかだった。

 

 ズシャァァァァァァァァ――――――

 

「くぁぁぁっっっ!」

 

 セイバーがその赤と黒の渦へと呑み込まれていくのが見えた。

 

「セイバーッッッ!!!」

 

「坊やっ!」

 

 オレは反射的にセイバーに駆け寄ろうとしたが、キャスターに制止された。

 そして、

 

 ドンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!

 

「ぐぁぁぁぁっ!」

 

「ああぁぁっ!」

 

 目の前で何かが弾けた。

 吹き荒れた魔力の嵐に、オレもキャスターも吹き飛ばされ、砕け散った塀瓦の雨が銃弾となって降り注ぐ。

 咄嗟にオレはキャスターを抱えて、地面に這いつくばるしかなかった。

 

 ──―──―──―──―──―──―──―──―──―──―──―──―──―──―──―──―

 

「ぐ・・・」

 

 荒れ狂う暴風が突如として収まった。

 

「があぁぁ!?」

 

 背中、腕、肩、太もも、身体中ありとあらゆる部位が鋭利な熱い刃物で切られたような痛みを覚えて、オレは思わず苦悶の声を発した。

 薄っすらと目を開いていくと、視界が赤く染まっているのがわかった。

 頭にも傷を負ったのだろう。

 もはやどこが痛いのかわからない。

 

 カランッ

 

 それでも、なんとか上体を起こしていくと、身体の上に載っていたと思しき瓦が一枚落ちた。

 

「・・・・・・ぼ・・・坊や・・・」

 

 オレの足元のほうから、声がした。

 

「良かった・・・なんとか無事のようね」

 

 首を捻って声の方向を確認すると、オレと同じようにうつ伏せになり、キャスターが顔だけを持ち上げてこちらを見ていた。

 

「・・・キャスター、大丈夫か?」

 

「ええ・・・大丈夫よ」

 

 キャスターがそう言って立ち上がる。

 オレが庇う形になったので、彼女は殆ど傷を負っていないようだった。

 

「守りの障壁を張ったんだけど、簡単に破られてしまったわ」

 

 セイバーとギルガメッシュの宝具が衝突した時、咄嗟に彼女が防御壁をオレ達の前に張ってくれたようだったが、食い止めきれなかったわけだ。

 

「あんなのどうしようもないだろ」

 

 あの瞬間、この空間に渦巻いた膨大な魔力を思えば、正直、死ななかっただけで幸運だ。

 

「すぐにあなたの手当てをしなくちゃ」

 

「それよりも、セイバーを・・・」

 

 体のありとあらゆる箇所を襲っていた先程迄の痛みは、不思議と和らいでいるようだ。

その事を訝りながらも、キャスターに支えられてなんとか立ち上がったオレは、セイバーの姿を求めて視線を彷徨わせる。

 

「褒めて遣わすぞ、セイバーよ。起き抜けには少々手荒な評定となったが、先ずは合格だな」

 

 少し喜悦の感情を含みながらも、悠然とした声が闇夜に響き渡る。

 凄まじいまでの破壊の奔流のぶつかり合い。

 そして、結果としてもたらされた余波。それらを全く意に介さず、そして実際にその位置、その傲然とした姿勢は何も変わらない。

 英雄王ギルガメッシュは、宝具を放つ前と同様に塀の上に立ち、黄金の甲冑に傷一つ負うことなく腕を組んでいた。

 

「以前に見た一振りよりは冴えていたのではないか。そう言えば、あの時のお前は令呪で強制的に聖剣を使わされていたからな。気魄の伴わぬ腑抜けた一撃と、我の裁定を受けるための一撃では、物が違うのは道理というところか」

 

「ぐ・・・」

 

 ガララララ・・・・・・

 

「セイバーッ!!」

 

 オレの視界の隅で倒れた庭木と塀瓦の中から、セイバーが起き上がった。

 彼女もなんとか無事だったようだ。

 とは言え、纏っていた鎧のあちこちが砕け、傷だらけになった彼女はその剣を杖のように自身の支えにして、辛うじて立っている状態だ。

 

「我は満足した。今宵の仕儀はここまでとしよう」

 

「・・・あう・・・・・・ま・・・待て・・・アーチャー・・・・・・」

 

 セイバーがボロボロの体であるにも関わらず、その剣を必死にギルガメッシュに向ける。

 だが、向けられたほうは微塵も意に介さなかった。

 

 

「本祭までにしっかりと身支度を整えておくがいい、セイバーよ。この我に相応しい花嫁となるためにな。そこな雑種どもにはドレスの裾持ちでもさせるが良かろう」

 

 そう告げて、金色の王はくるりと背を向ける。

 やがて、その背中が震え始め、クツクツと声が漏れてくる。

 

「・・・ククク・・・ハハハ・・・ハハハハハハ!アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」」

 

 哄笑を高らかに響かせながら、軽く片手を振る。

 そしてその顔の半分だけをこちらに向け、

 

「誠に愉快であった!」

 

 そして、トンっと軽く跳ぶとその姿は塀の向こう側へと消えた。

 徹頭徹尾、最初から最後まで、一貫して英雄王ギルガメッシュは自身の理屈と都合のみをオレ達に押し付け続けて、去って行ったのだ。

 













ギル様愉しそうで何よりですが、とっとと止めを刺しておけよ、とも思います。
それをやったら、お話が続かないわけですが。
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