Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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1月31日 未明









第30話 ~当日④~ 「改戦」

 C turn

 

 

 ほの暗い土蔵の中。

 様々な想念に囚われて、私はただただ立ちつくしていた。いったいどれくらいの時間そうしていたのかはよくわからない。

 だが、ずっとこうしているわけにはいかない。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 すんなりと。

 決してすんなりと受け入れたわけでもなく。

 まだ、現実として固定化されたわけでもなかった。

 だが、なんとなく目の前の光景が事実であることも、諦めのような感情と共にしっかりと理解できた私。

 改めて彼の風体をつぶさに確認する。

 以前と同じように、背丈としては私よりも少し高いくらいで、この国の一般的な男性としては少し低め。

 服装は見慣れたカットソーにジーパン。

 違いと言えば羽織っているコートがショートコートではなく、見慣れない黒のロングコートであり、顔つきがやや引き締まっていて多少精悍さを感じさせることくらいだ。

 

「・・・あれ?」

 

 目の前に立つ、あの少年・・・いや、あの少年と殆ど同じ風体の【サーヴァント】が首を傾げた。

 

「ひょっとすると・・・あんたもサーヴァントじゃないのか?聞いた話では魔術師のマスターに召喚されるから、そいつのサーヴァントとして戦う事になるって聞いてたんだけど・・・」

 

 マスターである筈の私がサーヴァントであることに戸惑っている。

 そして、彼が現れてから私がただの一言も発していないことも訝っているようだ。

 当然だろう。

 

「・・・えっと・・・ちょっとは喋ってくんないかな?こっちも結構・・・いや、凄く慌てててるんだ。なんか色々と()()()()()みたいなんだよ」

 

 彼の表情が心底、困ったようなものになった。

 

「・・・・・・悪かったわね。少し驚いていただけよ。(わたくし)があなたの・・・・・・マスターで間違い無いわ」

 

 漸くの事で、私は口を開くことができた。

 眼前の少年が戸惑いを露わにした事が、私自身の混乱を鎮静化する材料にもなったのかもしれない。

 

「あなたは、そう・・・ア・・・アサシンのサーヴァントよね。私もそのつもりで召喚したわけだし」

 

 実際には、それすら曖昧なままに召喚を試みていた。

 まだ召喚されていないクラスがアサシンだった事をぼんやりと認識していたに過ぎない。

 

「ああ。一応、クラスとしてはアサシンだな」

 

「そして、あなたも察しているとおり、私もサーヴァントよ。キャスターのね」

 

「そうだよな。まあ、魔術師のクラスなんだからサーヴァントがサーヴァントを召喚することもできるってことか。なんか裏技っぽいけどな」

 

「ええ。イレギュラーなのは間違いないわね。でも、戦力という点では優位になるでしょう」

 

「・・・えっと・・・本来ならそうなるわけだよな・・・」

 

 少年はバツの悪そうな表情を浮かべて、頬をぽりぽりと掻いた。こういう自然な仕草は全くと言っていいほど、以前の彼と変わらない。

 それにしても、彼の先程からの言葉はどこか曖昧で、自信なさげなものが多い。

 どういうことだろうか?

 

「本来なら?」

 

「あいや、さっきも言ったろ。上手くないって」

 

「本調子じゃないということなの?」

 

「そういうことになるかな」

 

「具体的には何がどう調子が悪いのかしら?」

 

「えっと、先ずは記憶が曖昧というか抜け抜けというか・・・ぼんやりとしているというか、そんな感じだな。自分が生前どんな事をしてきたのかあまり覚えてない」

 

「・・・・・・・・・そのようね」

 

 少なくとも目の前の少年が私という存在が誰であるかを認識できていないことは、間違いなかった。

『忘れてしまった』のか、あるいはこの【衛宮士郎】がそもそも私の事を『知らない』のか、どちらなのかはわからないが。

 

「だからなのかもしれないけど、自分が何をできるかもよくわからないんだ」

 

「自分の戦い方がよくわからない、ということかしら?」

 

「・・・め・・・面目ない。多少の魔術が使えることくらいはわかるんだけど、それだけじゃ全然戦力にならないってこともわかるんだ。サーヴァントとして召喚されたんだから、もっと色々できる筈なのに」

 

 困り果てたような顔をしながら、目の前の少年は深々と頭を下げてきた。

 

「いいわ」

 

 私はそんな彼の一挙手一投足に意識を捕らわれながらも、言葉を返す。

 

「え?」

 

 顔を上げた少年は、あまりにもこちらがあっさりとその事態を受け入れたことに却って戸惑いの色を浮かべた。

 

「会話をしたり、訓練をすることで自然に思い出すこともあるでしょう。私の魔術も役に立つかもしれないわ。色々と試してみましょう」

 

 この【衛宮士郎】が、私の知っている【衛宮士郎】なのかは定かではないが、彼の素養はわかっているのだ。彼自身が自分のスタイルを覚えていないことなど、私にとっては些末な問題に過ぎなかった。

 そう。

 この異常事態とは比べるべくもない。

 

「そうか。いや、こんなこと言ったらめちゃくちゃ怒られるんじゃないかってビクビクしてたよ。『この役立たず』ってな具合で」

 

 心の広いマスターでほんと良かった、と続けた少年は心底ほっとしたように、安堵の表情を浮かべて改めて(こうべ)を垂れてきた。

 

「いったん居間に移動しましょう。あなたの状態の確認や、この聖杯戦争の現状について、落ち着いて共有したほうがいいから」

 

 顔を上げて屈託のない笑顔を見せる赤毛の少年に向けて淡々と告げながら、私は土蔵の扉を出る。

 

「・・・付いて来て頂戴・・・えっと・・・アサシン」

 

 正直、まだどんなふうに彼と接したらいいのかよくわからない。

 

「なんか、色々と気を遣ってもらって悪いな」

 

 彼は頷いて、大人しく私の後に続いた。

 

 パシャッ

 

 雨でぬかるんだ地面に足を踏み出すと、ローブの裾が汚れた。

 だが、元々ここに来るまでにローブは雨によって、濡れ雑巾と化し、裾はとっくに泥だらけになっていた。

 簡単な水除けの魔術でコーティングすれば、そんな事にはならないのに。

 ここに至る道中、いつもであれば、殆ど無意識にやっていることさえ忘れてしまっていたのだ。

 そんな事を思いながら、玄関の灯りが点いたままになっている母屋に吸い寄せられるように歩みを進める。

 そして。

 後ろからは死んだ筈の・・・いや。

 私が殺してしまった筈の【衛宮士郎】がついてくる。

 おかしな状況だった。

 

 ・・・・・・だとしても・・・・・・

 

 私はこの時。

 全てを受け入れることにした。

 ただ一つの事を除いて。

 

 

 

「これはまた、なんとも珍妙な」

 

 突如として横合いから、随分と聞き慣れてしまったあの独特の低い声が届いてきた。

 

「なんだ、あんたは?」

 

 後ろから付いてきていたアサシン、【衛宮士郎】が警戒を露わにして、私の前に出た。

 サーヴァントとして、マスターである私を守ろうとする構えだ。

 もっとも、生前の彼であっても同様の動きをしただろう。落ち着かせるために、その肩に手を置いた。

 

「この屋敷付近で被害が発生した様子だったので、事態を収拾するために慌ててここまで出向いて来たわけだが・・・」

 

 つかつかとその男、言峰綺礼は崩落した外壁を乗り越えて敷地内へと入ってくる。

 

「・・・ああ、ひょっとしてあんたがこの戦いの監督役ってやつか?」

 

 聖杯からひととおりの知識を与えられている少年が確認した。現界したばかりの彼からすれば、知識と事実の合致を少しずつ体感していきたいところだろう。

 

「うむ。そのとおりなわけだが・・・」

 

 この神父の口元の片方だけを吊り上げる笑みを何度か見ているが、今回のニヤニヤ笑いは、いつにも増して皮肉めいた色合いが濃かった。

 

「いやはや本当に稀有な体験をさせてもらえるものだな。監督役など、正直厄介極まりない仕事ではあるが、このような奇怪な出来事と遭遇できるのは、或いは役得とすら言えるのかもしれん」

 

「あなたからすれば確かに奇妙な状況でしょうね」

 

「そうだな」

 

 頷きながら、神父は(ふところ)から金属製の円盤のようなものを取り出した。

 

「これは霊器盤と言ってな。我々監督役がサーヴァントの召喚状況を観測する道具だが」

 

 こちらに向けた面には、7つのクラスを表す意匠がぐるりと配置されている。そして、それぞれの傍らに小さな蒼い炎が灯っていた。

 

「3時間ほど前にセイバーのクラスが召喚された」

 

 そう言って、神父の指は剣を模した意匠をなぞる。

 

「そして、つい先程唯一残っていたアサシンのクラスに最後の火が灯ったわけだ」

 

 続いてその指は、骸骨のような意匠の上へと移動した。

 

「・・・ええ。あなたの目の前にそのサーヴァントがいるわね」

 

「まさか現代人が・・・サーヴァントとして現界するとはな。だが、元の衛宮士郎はどうしたというのだ?まさか、生贄にでもしたのか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 思わず私は返答に詰まった。

 神父はさして深い意図もなく発したのであろう言葉は、限りなく真実に近かった。

 

「現代人だって?」

 

 神父の言葉にアサシン【衛宮士郎】が反応する。

 自分の名前はわかっているが、具体的に何者であるかわからない彼からすれば興味を惹かれる話だろう。

 

「うん?どういうことだ?お前は自分が何者であるかわかっていないのか?」

 

「どうやら、そうらしいな。まあ、召喚されたばかりで記憶が混濁してるだけだとは思うけどな」

 

「これはまた、さらに混み入った状況だな」

 

 神父が私を一瞥すると、目を細めた。

 

「細かい話は私にもよくわからんから、後でそこのキャスターに聞けばよかろう。要するに、彼女がお前のマスターなのだろう?」

 

 私が知っているのは、と神父は続ける。

 

「私はお前と数日前に会って、会話をしている。人間としてのお前とな」

 

「どんな目的で会ったんだ?」

 

「お前は正式なマスターではなかったが、この聖杯戦争に関わっていた。正確にはまだ戦いは始まってはいなかかったがな」

 

「それで?」

 

「どうということはない。私と多少の情報交換をしただけだ。私はお前と数えるほどしか会っていない、これ以上の話は特にないな」

 

「そうか」

 

「確認しておきたいのだが、この屋敷の外壁はなぜ破壊されたのだ?」

 

「あなたが教えてくれたギルガメッシュというサーヴァントと戦闘になったわ。その影響よ」

 

「ふむ」

 

 神父が考え込むように、顎を撫でて下を向いた。

 

「いずれにせよ、これで今回の聖杯戦争における全てのサーヴァントが揃ったわけだな」

 

「そういうことになるかしらね」

 

「それでは、いよいよ聖杯戦争の正式な開戦だ」

 

 神父の重低音が奏でる言葉は本来ならそれなりに重みを持っているものなのだろうが、私にとっては今更さしたる意味を持たない宣言だった。

 だが、これにより本格的に動く陣営もあるだろう。

 

「この屋敷で起きた事案の後始末も含めて、私は仕事に取り掛からねばならないからな。これで失礼する。主従仲良く、聖杯を求めて精々励むことだな」

 

 

 

 Interlude in

 

「ただいま〜。戻ったぜい、バゼット」

 

「『ただいま〜』じゃないっ!!」

 

 ゴッ!

 

「どわっ!?」

 

 青い服に全身を包んだ偉丈夫、ランサーは超高速でかっ飛んできた椅子を、すんでのところでしゃがんで避けた。

 ドアに激突した木製の椅子が砕けて、パラパラと髪の上に降ってくる。

 

「い、いきなり何しやがるっ!?」

 

 頭を抱えてしゃがみ込んだ状態、威厳の欠片もない姿勢ではあったが、アイルランドの大英雄クー・フーリンは脊椎反射で己がマスターに苦情を申し立てた。

 魔力の籠らないただの物理兵器?であるため、サーヴァントである彼がダメージを負うことはないが、明確な害意が込められた攻撃だったのは確実である。

 

「一人でどこに行っていたのですかっ、ランサーっ!いつ開戦するかもわからないこの状況でっ!」

 

「あいや、ちょっと散歩に」

 

「ふざけないでくださいっ!」

 

「んなこと言ったって、あんただってこの前一人でノコノコとうろついてたじゃねえか?しかも、見事に敵とカチ合っていやがったし」

 

「あの時はまだ、あなたが万全じゃない時だったから仕方なかったのです。情報収集だってしておかなければ、後手後手に回り兼ねないのですから」

 

「だったら、今回のオレだってちゃんと仕事してきたんだから、別にいいだろう」

 

「だからっ!今は私もあなたも問題ないのですから、二人で行動するって、話していたでしょうがっ!」

 

「ああ、わかったわかった」

 

 降参するようにランサーは両手を挙げて、立ち上がると、わざとらしくぱんぱんと埃を被った服を払う。

 

「ったく・・・親に置いてきぼりにされたガキじゃあるまいし」

 

「あなたに緊張感が無さすぎるんです」

 

「そうかね」

 

 アイルランドの英雄は正面に仁王立ちになっている赤毛の女に薄く開いた片目だけで見据えた。

 

「で、何がわかったんですか?得るものがあったのでしょう?」

 

 そう言うと、バゼットはランサーのその視線を逸らすように身を翻して、部屋の奥に向かう。

 通常よりはやや広いツインルームの奥には小さなテーブルと二脚の椅子が設られており、バゼットはそこに腰掛けた。

 当初拠点としていた双子館がアーチャーの襲撃により破壊された後は、拠点を特定されないよう幾つかのホテルを転々としている。

 

「そう、急かすなよ。世の中、順番ってもんがあるだろ」

 

 ランサーは飄々と応じながら、小型冷蔵庫を開くと中から缶ビールを取り出した。

 

「っ!?」

 

 それを見たバゼットの怒気が膨れ上がりかけるが、辛うじて堪えると何も言わずに黙ってテーブルの上に置いた手を組んだ。

 

「ぷはーっ!やっぱ、うめえな。こっちの酒は。この刺激が喉にビンビンくるぜ」

 

 プルトップを開けたランサーが一気に中の琥珀色の液体をぐびぐびと飲んで、満足気に頷いた。嚥下の時間から推測して、500ml缶の中身は既に殆ど空っぽだろう。

 

「あなたの世界では、いわゆるエール酒もまだなかったのですよね?」

 

 諦めたようにバゼットは、ランサーのペースに乗ることにした。

 

「ああ。出回っていたのは専ら蜂蜜を原料にした酒だったな。あれはあれでいいんだけどな。こっちのほうが苦みがあってガツンとくる感じがいいな。もうちょいアルコールっぽさが強いほうがいいけどな・・・・・・と、ほらよっ」

 

 言いながら、冷蔵庫からさらに2本の缶ビールを取り出したランサーがそのうち1本をバゼットに放り投げる。

 

「っと」

 

 バゼットが飛んできた缶を片手で受け止めた。

 

「んな難しい顔ばっかしてると折角の美人が台無し・・・・・・いや、とにかくあんたも飲みな。景気づけってやつだな」

 

「景気づけもなにもあなたは毎日浴びるように飲んでいるでしょうが。濃い酒がいいなら、スコッチをお勧めします」

 

 反駁しながらも、バゼットも止むを得ず缶を開ける。

 

「色々と面倒はあるが、自分の生きた時代とは全然違う世界を体験できるんだぜ。とことん楽しまなくちゃな。さあて、つまみ、つまみっと」

 

 と、今度はコンビニのビニール袋を漁り始めた。

 

「ん?」

 

 その様子を呆れながらも静観していたバゼットが訝る声を漏らした。

 

「ランサー。なんの景気づけなんですか?」

 

「決まってるだろ。戦争のさ。まあ、オレらの戦いは実際にはあの日に始まってはいるんだけどな」

 

 『あの日』とは、双子館で金色(こんじき)のサーヴァントと遭遇し、そして惨敗した日に他ならない。

 

「と言う事は全騎揃ったわけですね」

 

「ああ、多分な」

 

「それが先ほど言っていた収穫ということですか?」

 

「そうだな。川の向こう側をうろついていたら、派手な魔力のぶつかり合いを感じたんでな。様子を見に行ってみたら、この前あんたが殺し損ねたって言ってた坊主に会ってな」

 

「ああ、衛宮士郎ですね」

 

「そうだ。そいつがついっさきまであの薄笑い金ぴか野郎とセイバーのサーヴァントが戦っていたって教えてくれたわけだ」

 

「成程。セイバーが召喚されたわけですね」

 

「そうみたいだな。確かあのクソ神父と出会った時、まだ現界していないのはセイバー、アーチャー、アサシンの3騎って話だったんだろう?」

 

「ええ。私の見立てではその後遠坂もサーヴァントを召喚しているようですね」

 

「アーチャーがあの金ぴか野郎だったわけだから嘘ついていたと仮定すれば、坊主の言っていたセイバーが最後の一騎ってことになる」

 

「遠坂陣営がセイバーを召喚したということは?」

 

「オレは丁度、遠坂邸の様子を窺っていたんだが、そっちには動きがなさそうだったからな」

 

「ということは、遠坂のサーヴァントはアサシンということになりますか?」

 

「そういうことになりそうだが、実のところあのクソ神父の言ったことなんか信憑性はねえからな」

 

「その点は何とも言えませんが、実際、私達を襲ったあのアーチャーが、本当のアーチャーなのかという疑念はありますね」

 

「そうだな。あいつが10年前からいたってんなら、今回のアーチャーが別にいてもおかしくはねえ」

 

「そうですね。サーヴァントは8騎いるかもしれないことを想定しておくべきでしょう」

 

「だとしても、開戦したとみなしたほうがいいことに違いはないだろ」

 

「はい。これからはその前提でいきましょう」

 

 こくりと頷いたバゼットは、飲みかけていたビールを一気に喉の奥へと流し込む。さらに、持ったままのアルミ缶を、ぐしゃりと握り潰した。

 

「・・・厳しい戦いになるでしょうね」

 

 神父の正体が露見したことで、情報源が限られることになったバゼット達は情報の入手が覚束ない状態となっている。だが、あの金色のサーヴァントの存在、そしてアインツベルンが召喚したバーサーカーが強力であるらしいこと。

 それだけでも充分脅威だ。

 

「だろうな。さっき見かけたキャスターは、どうってことなさそうだったがな」

 

「ああ。私も柳洞寺の下で、少しだけ見ましたね。対峙していたライダーのほうが優勢でした」

 

「一方で、あの坊主・・・衛宮士郎か。あいつ・・・」

 

「殺したのですか?」

 

「いや、素直でいい奴だったからな。今回は放置しておいた」

 

「そうですか。まあ、あまり脅威になるとは思えませんからね」

 

「そうか?どうもキャスターとは上手くいってない様子だったが、あの坊主、なかなか気骨があるように見えたぜ。頭も悪くない」

 

「一度、直接対峙しました。多少特殊な魔術も使っていましたが、半人前もいいところでした」

 

「以前はそうでも、わからねえぞ。あの手の(やから)は化けるもんだ。『男子三日会わざれば刮目して見よっ』てやつだな」

 

 そう言ってランサーはビール缶を眼前に掲げて、目を細めた。

 探るような眼光がバゼットを射抜く。

 

「なあ、バゼット」

 

「どうしたのです?」

 

「お前、何のためにこの戦いに参加してるんだ?」

 

「・・・何を・・・いまさら・・・」

 

「組織に命じられた仕事だから、か?」

 

「当たり前です。それ以上でも以下でもない。任務だから、遂行するまでです」

 

「そうかい」

 

 つまらなそうに応じたクー・フーリンは、先程のバゼット同様にビール缶を傾けて中の液体を全て喉へと流し込む。

 

「・・・バゼット。お前さんは(よえ)えよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 バゼットは己が強さを充分に知っている。

 しかし、祖国の英雄の指摘が何を意図しているのかは理解していた。

 黙って、そのまま次の言葉を待つほかに、彼女にできることはなかった。

 

「・・・・・・このままじゃ・・・・・・間違いなく死ぬぜ。我が主(マイ・マスター)

 

 

 

 Interlude out

 

 












直近三話は大きな転換点を迎えるエピソードだったため、雰囲気を壊さないようにということで、後書きを控えました。
長い前置きが終わり、これから戦いが本格化していく予定です。
徐々に迫ってくるストック切れに戦々恐々としています・・・




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