Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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1月31日 夜









第34話 ~当日⑧~ 「双絢爛舞」

 E' turn

 

 

 新都へと向かう道すがら。

 シャッターの降りつつある深山町商店街を抜けたあたりで、キャスターが実体化すると水晶球をオレに見せて来た。

 

「どうやらあのお嬢さん達は、坊やが・・・亡くなっている事を既に知っているようね」

 

 促されるままに中を覗きこむと、さっきまでオレ達がいた居間が映し出されていた。

 そこでは赤い外套を着た長身の男と、同じく赤いカットソーを着た少女が話し込んでいる。

 キャスター(マスター)は、屋敷全体に巧妙に隠した遠視と遠話の魔術を施しておいたわけで。要するに監視カメラと盗聴器を家中に仕掛けたようなものだ。

 

「まあ、そういうこともあるよな。今のところ、表立ってニュースになっている様子はないみたいだけど」

 

 あの監督役の神父がうまく処理したのだろうか。オレの遺体が見つかれば、いくらなんでも完全に隠蔽するのは難しいような気がするから、どこかに隠したのかもしれない。

 

「元々神父とあのお嬢さんは面識があるようだから、神父から聞いたかもしれないわね。監督役としては公平性を欠くけれど、あの男は結構恣意的、というか自分なりのルールで動くところもあるもの」

 

 既に周囲は暗くなっており、人通りも少ないのでオレ達は並んで歩きながら話す。

 

「公平性を期すなら参加者全員に伝えているかもな」

 

「・・・それだと、私にだけ不公平なのだけれど」

 

「そりゃ、そうだな・・・・・・案外、遠坂達はオレが死んでるのを直接見たんじゃないのかな。昨夜のオレ達・・・というか、あの屋敷で起きた戦いは、かなり目を引いたんだろう?」

 

 サーヴァントとなったオレの存在を確実に知っているのがあの神父なので、あいつが伝えたという推測が一番手っ取り早いが、そうでない可能性もある。

 

「ええ。そう考えたほうが自然なのかもしれないわ。あのお嬢さん達だって、坊やの屋敷方面で魔力の揺らぎぐらいは感じたでしょうから」

 

「屋敷での異変を切欠にこの辺一帯を確認して回った可能性もあるな」

 

「そうね」

 

「なんにせよ、あっちはマスターを一番に狙っているのは間違いないな」

 

「落とせそうなところから、落とす。常道だから当然でしょう。それにあのお嬢さんは(わたくし)を毛嫌いしているみたいだし。でも、お陰でこっちとしてはやり易くなるわ」

 

「まあ、一応そういうことになるか・・・」

 

 今回の狙いを予め聞かされていたが、オレとしては不本意だった。オレよりもキャスター(マスター)のリスクが高い作戦なのだ。

 

「あら?随分とご不満みたいね。まあ、あなたの性格なら無理もないところだけど。今回は我慢して頂戴ね」

 

「わかってるよ。オレが不甲斐ないのが問題なんだから」

 

 渋々とオレは頷く。今回の目的が達せられれば、オレが前面に出て戦えるようになり、キャスター(マスター)を守ることもできるようになる筈だ。

 

「・・・それから・・・我慢ついでにもう一つ。あなたの性格・・・というかおそらく信条的に相容れないことがあるわ」

 

 今度は、キャスター(マスター)が歯切れ悪く、こちらの反応を窺うような視線を送ってくる。

 

「なんとなく、わかっているさ。さっき遠坂達が言っていた魂喰いってやつだろ。オレだってサーヴァントだ。概念はわかっている」

 

 サーヴァントの生命力そのものである魔力の調達方法は、基本知識として聖杯から提供されている。オレの身体だって魔力で保たれているわけで、マスター以外の普通の人間からの補給手段があることはわかっていた。

 今、キャスター(マスター)の魔力は()()()()だ。遠坂達と相対する前に、補充する必要があるのはわかっている。

 勿論、オレ自身がそれを実行する気はさらさらない。『正義の味方』としては論外だ。

 

「正直、凄く抵抗はあるけど、マスターには何も言えないさ」

 

 彼女の魔力不足の原因はオレ自身にある。

 彼女を守るのが最重要命題である以上、堪えなければいけない。

 

「それでも敢えてお願いできるんなら、一人一人に対する悪影響を極力減らしてくれってことだな」

 

「そう。ありがとう・・・・・・ご期待に沿うようにするわ」

 

「・・・よろしく頼む・・・・・・さて、急いだほうが良さそうだな」

 

 水晶球には、二人が玄関を出たところが映し出されていた。こちらを追ってくるつもりだろう。

 オレ達とそう離れているわけではない。

 遠坂達と対峙するには諸々の準備が必要なのだ。

 

「ええ」

 

 答えたマスターが霊体化する。

 新都へと向かうべく、オレは眼前に聳え立つ大橋へと駆け出した。

 

 

 Interlude in

 

 

 

「これって・・・」

 

 微かな違和感を覚えて、遠坂凜は立ち止まった。

 新都の中心街からはかなり離れた薄暗い通りにやって来たところだ。人の気配は殆どなく街灯もまばら。先に進めば進むほど、住宅は少なくなり、雑木林が増えてきた。

 これまでに新都のオフィス街を中心に方々(ほうぼう)を探索していたが、今のところ目標(キャスター)の行方を示すような手掛かりは得られなかったため、それならばと探索の領域(エリア)を変更したのだった。

 

「結界・・・か?」

 

 傍らに立つ彼女のサーヴァント、()()()()も周囲の様子を窺う。

 

「ええ。巧妙に隠しているけど、間違いないわね。中と外が遮断されているわ」

 

 

 ──―きゃぁぁぁぁぁぁ──―

 

 

 

「っ!?」

 

「む!?」

 

「聞こえた?」

 

「不謹慎かもしれないが、こういう時の悲鳴はやはり女の声のほうがよく通るものだな」

 

「なにを暢気な事を言っているのよ!」

 

「いや、隠密裏に襲うなら男のほうが向いているんじゃないかと思ってな」

 

「普通に考えれば、女性のほうが与しやすいわけだけど・・・・・・サーヴァントからすれば、一般人なら男だろうと女だろうと差はない・・・・・・わね」

 

「そのとおりだ。何某(なにがし)かの意図があるとも考えられる」

 

「罠ってこともあるわけね」

 

「そうだな。とは言え、だからと言って無視できないのが、『女主人公(ヒロイン)』の辛いところだな」

 

 男の顔に柔らかい笑みが浮かんだ。

 

「あんた、ちょっと変わった?」

 

 いつものシニカルな笑いではないように感じて、凜は少し不思議そうに聞く。

 

「さて、どうだろうな」

 

 今度はいつもと同じ笑いを浮かべて、男ははぐらかす。

 

「ちょっと調子狂うけど・・・・・・」

 

 遠坂凜は清冽に笑う。

 

「悪くないわね。そんなあんたも。さ、行きましょ」

 

 ザザッ

 

 二人は夜闇を切り裂いて、薄暗い通りを駆け抜ける。

 すると。

 

「止まれっ!凜っ!」

 

 セイバーが左手で、マスターである凜を制止した。

 

「どうしたの?」

 

「そうだな・・・まあ・・・おかしなものが見えた・・・」

 

 セイバーが少し目を凝らすような格好になる。

 この先の道は、300m程直進した後、直角に曲がることになる。

 

「おかしなもの?」

 

 凜は目を凝らしてセイバーの視線の先を追うが、薄暗いこともあり、不審なものは見えなかった。

 

「・・・骨・・・だったな」

 

「は?それって襲われた人が骸骨にされちゃったってこと?」

 

「そういう雰囲気ではないな」

 

「季節外れの肝試しをやっている連中がいるってことかしらね」

 

「それだと試されているのは我々ということになるな・・・私の推測が正解に近付いたということでもあるが・・・警戒して行くぞ」

 

「この先にあるのってたしか・・・」

 

「知っているのか?」

 

「いやあ、実はあまり詳しくは知らないのよね。土地勘もないし。なんにせよすぐにわかるわよ。行きましょう」

 

 

 

「あれは?」

 

 片側2車線の車道の先、開けた土地に大型の店舗が建っていた。

 広大な駐車場はかなりの数の車を収容できるようになっている。既に照明が切られている看板には『島鳥』のニ文字が、うっすらと浮かんでいる。

 

「郊外型のインテリア用品店か。かなりデカいな」

 

「ええ。土日はかなりの人が来るらしいわ。とは言っても、私自身は一度も来たことないけれど」

 

「まあ、凛の屋敷には一般家庭向けの家具は馴染まないだろうな」

 

 会話をしながら二人は敷地へと近付いていく。

 

 パッ──―──―

 

「え?」

 

 建物の照明が灯り、闇夜にその全容がくっきりと浮かび上がった。

 

「どうやら我々をあの店の中に招待したいらしいな」

 

 幾分距離があるため、凜が目を凝らすと、店舗の入口には女性を抱えた骸骨が見えた。

 

「まだこちらに気付いたわけではなさそうだな」

 

 二人は道路脇に設置された自動販売機の影に入って姿を隠す。

 

「・・・骸骨兵ってところね。降霊系とか死霊系の魔術かしら。いかにもって感じ。魔女にはお似合いだわね」

 

 ちらちらと顔を出して、凛は様子を確認する。

 

「気絶しているようだが、女は人質のつもりだろうな」

 

 白いコートを着込んだ長い髪の女性だった。骸骨兵の腕で支えられてぐったりと項垂れているため、顔までは見えないが、20歳(ハタチ)そこそこだろう。先ほどの悲鳴の主と思われた。

 

「本格的に手段を選ばない感じね。それだけ切羽詰まってるってことだけど。とは言え、無闇やたらとは仕掛けられないか・・・」

 

投影(トレース)開始(オン)

 

「へ?」

 

 隣のセイバーがおもむろに弓を出現させたのを見て、凜が素っ頓狂な声を思わず漏らす。

 

「大した距離ではないな」

 

 などと独り言ちながら、自然な動作のままに矢を番えたのを見て、さらに凛が慌てる。

 

「・・・って、ちょっとちょっと、あんた何やってんのよっ!?」

 

「ふ。仮にも英霊だぞ。甘く見てもらっては困る、ということだ」

 

 今はまだ二人は駐車場の外縁部におり、骸骨兵まではだいぶ遠い。彼我の距離は100m弱と言うところだろうか。ここから矢を放てば女性に当たる可能性がかなり高い。常識的にはそうとしか思えない。

 凛はやむを得ない状況になれば、一般人を犠牲にすることは厭わない覚悟だったが、初手から『救い出す』という選択肢を捨てるつもりもなかった。ましてや自分達の能動的なアクションを切欠にして、人死に(アクシデント)が起きるなどということは簡単には許容できない。

 

「わ〜〜〜っ!ストップ、スト~ップッ!!!」

 

「アーチャーでないのが、少し不安なところだがな」

 

 しかしながら、凛の制止の声などおくびにも介さずに、男はニヤリといつもの笑みを浮かべた。

 

 ゴゥッ!

 

 赤い外套を纏った自身のサーヴァントは、片膝立ちのまま、引き絞った弦から三本の矢を同時に解き放った。

 

 ドンンンッ・・・

 

 遥か先で重厚な音が響き、ここまでその振動が伝わってきた。

 

「・・・・・・・・・や・・・・・・やっちまいやがったわ・・・・・・」

 

 茫然とした凛が両手で顔を覆う。

 

 カラカラ・・・

 

 向こうでは砕けた骨片が乾いた音を立てて、地面に落ちる。

 

「ふ。落ち着いてよく見てみるがいい、マスター」

 

 当の本人は泰然として、首をしゃくって状況を確認するよう促す。

 

「・・・見るったって、あんた・・・」

 

 この位置からだと、様子がはっきり見えない凜はやむを得ず歩いて犯行(?)現場へと近付いていく。

 

「ん?」

 

 半分ほどの距離を進んだところで、凜は気が付いた。

 

「あらま、無傷みたいね」

 

 バラバラになった骸骨兵の残骸に半ば埋もれてはいたが、盾にされていた女性は傷一つなく横たわっていた。

 

「言ったろう?剣士の(たしな)みだと」

 

 近付いてきたセイバーは得意げに笑って目を閉じた。

 

「はいはい、よくわかったわよ。でも、今度からは・・・って、あっ!?」

 

 カラカランッ

 

 骨と骨とが擦れるような音が響き。

 

「なにっ!?」

 

 ザッ

 

 店の奥から2体の骸骨兵が新たに現れると、そのうちの1体が気絶したままの女性の体を店の中へと引きずり込んだのだ。

 

「ちっ!一匹だけじゃなかったのかっ!油断したな」

 

 セイバーは毒づきながら、素早く弓を構えて一矢を放つ。

 

 ドゴッッ!

 

 距離が近くなったため、先程以上の衝撃音が響く。

 が、

 

「だめか!」

 

「脳みそなさそうだけど、生意気にもちゃんと仲間を庇うのね」

 

 完全に不意打ちだった初撃と違い、今回はこちらの存在が認識されている。1体の骸骨兵が、人質を抱えたもう1体を庇うように動いたのだ。

 結果的に盾となった1体は破壊したものの、もう1体は奥に入ってしまい、この位置からは姿が見えなくなってしまっていた。

 

「・・・どうあっても、店の中に引き摺りこみたいようだな・・・」

 

 サーヴァントは思案する。

 一般人を盾にしているが、向こうも魔術師だ。こちらがいざとなれば人質など意に介さないということはわかっているだろう。

 店内という狭い空間かつ棚などで障害物の多い戦場で、大量の骸骨兵でこちらを圧し潰すつもりか。あるいは、数多くの(トラップ)を仕掛けているのかもしれない。結界を張っているのも間違いないだろうから、こちらの力を弱体化させてくることも考えられる。

 凜はこのまま外に残したほうが安全ではないだろうか。

 

「いきましょう、セイバー。色々と小細工を弄しているとは思うけど、あなたと私なら突破できるわよ」

 

 まるでセイバーの迷いを一刀で切り払うように、毅然として凜は右手を振るった。

 

「一番のリスクはこっちが分断されて、私が落とされること。わざわざ相手に都合のいい選択をすることはないでしょ」

 

 遠坂凜が自信に満ちた鮮やかな笑みを、セイバーに向ける。

 

「・・・ふ・・・いやはや・・・まったく・・・」

 

 その直視できないほどの生気が放つ眩しさを避けるように、男は目を閉じた。

 

「了解だ、マスター。全力でキミを守ろう・・・」

 

 いや、違うな、と続ける。

 

「全力で突破するぞ!」

 

OK(オッケー)ッ!」 

 

 二人は入り口を目指して、並んで駆け出した。

 

 

 

 E’ turn

 

 

 

 少し離れた先。眼下で展開される乱戦を、オレは興奮すら覚えながら凝視していた。

 

 ギンッ!ドンッ!ガンッ!ゴッ・・・

 

 10体余りの人骨に鎧を着せたような異形の兵団(キャスター(マスター)は【竜牙兵】と呼んでいた)に対して、一騎のサーヴァントと一人の女魔術師のペアが戦い続けている。

 この建物は中央が吹き抜け構造となっており、オレは2階から1階の戦闘を見ている状態だった。

 さらに言うなら、オレ自身はキャスター(マスター)の結界に包まれている状態であり、他者からは不可視かつ余程近付かない限り魔力感知もされることのない、隠密状態となっている。

 一方でキャスター(マスター)は、オレの傍らで実体化している。万一にも1階から物理的に見えないように、身を屈めて落下防止用の柵に隠れている状態だ。オレに対する魔術を付与しているのと竜牙兵達を操っているため、術師自身は霊体化しているわけにはいかないのだ。

 

『・・・す・・・凄いな・・・』

 

 目が離せない。

 オレの意識は、赤い外套を纏った長身のサーヴァントの一挙手一投足に釘付けになっていた。

 白と黒の片刃剣を、振り下ろし、その身に迫る竜牙兵の刃を受け止め、或いは躱した流れでそのまま斬り払っている。

 その流麗かつ合理的な剣技は、極限まで己を研ぎ澄ませることで身に着けたような、究極の洗練美とも言うべき匠の業だった。圧倒的な膂力でも、才能でも、芸術でもなく、技術の粋がそこにはある。

 オレは直観的にそう理解した。

 

「ほんと、剣も弓も1級品よね。あんたっ!」

 

 サーヴァントの支援を続ける女魔術師、遠坂凜がきびきびと動き回りながらも賛辞を贈る。

 

「お褒めに預かり光栄だ!」

 

「ギィイィッ」

 

 ガギィッ!

 

 男は眼前の竜牙兵が振るってきた袈裟斬りの一刀を、両手の白剣と黒剣を交差させて受け取めると、竜牙兵の体ごと押し込み、

 

 ガンッ!!

 

 たたらを踏んだ相手を下から白剣による逆袈裟で、叩き斬った。

 二人が戦っているエリアは開けた空間ではあったものの、大型の陳列棚のほか、商品籠やテーブルなども随所に設置されており、障害物は多い。

 それらを巧みに利用して、一斉に襲いかかられることを避けるようにも立ち回っているのがわかる。

 

「これで5匹目だな」

 

「う~・・・まだ、10匹以上残っているわね~・・・鬱陶しいわ~」

 

 マスターである遠坂凜を背後に庇いながら、アーチャーは双剣を振るう。一方で、遠坂凜は別方向から襲い掛かろうとする竜牙兵を、魔術で狙撃して牽制しており、常にアーチャーが二体同時に攻撃を受けないように気を配っていた。

  

『今仕掛ければ、簡単に倒せそうに見えるわね』

 

 オレの隣で身を潜めているキャスター(マスター)が、念話を送ってくる。

 1階で戦闘中のアーチャー&遠坂ペアは、一見して竜牙兵達に()()()()()になっているように思える。確かに、ここでキャスター(マスター)が攻撃を仕掛ければ纏めて斃せるかもしれないが・・・

 

『・・・いや、やめておいたほうがいい。あのサーヴァントは奇襲を警戒して余裕を残して戦っている。寧ろ、こっちを誘っているのかもしれない』

 

『・・・そう・・・よね。ちょっとした出来心が湧いてしまうけれど、目的はもう果たしたのだから、欲張らないほうがいいわよね。坊や、充分に、()()のでしょう?』

 

『ああ。大丈夫だ』

 

 オレは首肯した。

 実際には試してみないとわからないが、大丈夫という確信があった。

 正直なところ、あの赤いサーヴァント(アーチャー)の戦い振りをもっと見てみたいという欲求があったが、そこは堪えるべきだろう。

 

『それじゃあ、引き上げるとしましょう。あの調子だと私のコントロールがなくなると、完全に一方的な展開になってしまうわ。ある程度の数が残っているうちに急いで退散するわよ』

 

『了解だ』

 

 オレ達は速やか、かつ慎重に、脱出路として予定していた最も近くにある窓へと向かおうとした。

 が、

 

「ようやく尻尾を掴んだぞ、魔女めが」

 

 剣呑な声に戦慄を覚えて、階下をみると、アーチャーの目がこちらを捕らえた。

 実際にはオレの姿は見えないので、そんな筈はないのだが、そんな錯覚を覚えるほどその眼光は鋭かった。

 

『『なっ!?』』

 

 オレもキャスター(マスター)も敵のあまりの目敏さに驚愕する。

 ヤバい!

 

「凜っ!ほんの一時(ひととき)で構わん。骸骨どもを押さえてくれ!」

 

「了解よっ!」

 

 サーヴァントの声に対して待ってましたとばかりに、覇気の塊のような合意の返事が店内に響いた。

 

「弾けろっ!」

 

 ッドンッッ──―!

 

 遠坂が放った赤い宝石が竜牙兵の群れの直前で爆ぜた。

 

「骸骨どもが、露骨に吹き抜け側に私達を誘導していたからな・・・ずっと上階の様子を窺っていたというわけだ」

 

 既に脱兎の如く駆け出しているオレ達の背後から、ヤツのご丁寧な解説が追ってきた。

 ちらりと後ろを振り返ると、アーチャーがアーチャーらしく弓を既に構えていた。

 つがえられているのは、緋色の剣。

 あれはマズい!

 と、思った瞬間にヤツの姿は死角になってこちらからは見えなくなった。

 だからと言って、助かったというようなお気軽な話なわけもない。

 

『マスター、オレの結界を解除してくれ。来るぞ!』

 

「わかったわ」

 

 包んでいた不可視の結界が解除されると同時に、オレは詠唱する。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

 つい先ほどこの目に焼き付けたばかりの、黒と白の剣を生み出した。

 2本の夫婦剣は自分の体の一部のように両手に収まる。

 

「よしっ」

 

 状況は切迫しているが、目的が達せられたことの確認はできた。

 あとは・・・

 この危機を乗り切って、生き残るだけだ。

 

赤原猟犬(フルンディング)!」

 

 処刑の呪文が階下から這い上がってきた。

 

 ゴウッッッ!!!

 

 猛烈な重圧を背中に感じるとともにオレは、反転して()()を視認した。

 天井の照明に照らされた眩いばかりの緋色の刃。

 それが、

 

 ギュンッ!

 

「曲がった!?」

 

 慣性の法則を無視したありえない軌道だった。

 1階から2階へ。

 斜め上へと射出された凶器は急激なカーブを描き、真っすぐにこちらへとカッ飛んでくる。

 標的はキャスター(マスター)だ。

 

「壁よ!」

 

 キャスター(マスター)がオレの前面に無色無形の壁を展開する。

 だが、

 

 ドシュッ・・・

 

 その切っ先はその壁を瞬時に貫いた。

 

「坊やっ!」

 

 オレの後ろにいるキャスター(マスター)が叫びながら、こちらへと向かって来る気配を感じる。

 だが、オレはその刃を彼女に届かせる気など毛頭なかった。

 既に目の前には刃の切っ先を示す【点】がある。

 

「つあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 ギャイイイイイイィィィィィィィッッッッッッ!!!

 

 オレは交差させた双剣を盾にして、その突貫を食い止める。

 飛来した緋の刃。

 それを食い止める黒と白の夫婦剣。

 せめぎ合う金属が甲高い悲鳴を発して、その震えが直に伝わって両腕の筋肉がビキビキと悲鳴を上げる。

 

 ガギイィッ!

 

 拮抗していた力のベクトルを反らすべく、体を沈めながら双剣を上に向けて跳ね上げると、緋の剣も勢いを維持でなくなり、軌道を上に捻じ曲げざるを得なかった。

 

 ゴゴォンッッッ!!!

 

 その剣は天井に激突して大きな穴を穿った後、停止した。

 天井ぶち抜いた先にあった鉄骨に食い込んで止まったのだ。

 ・・・だが。

 

 ギギギィィィ

 

「うげっ・・・まだ、来るか・・・」

 

 様子を見ると、緋色の剣は意志(この場合はキャスター(マスター)を殺そうとする固い意志ということになるわけだが)があるかのように、鉄骨の拘束を解こうと藻掻いていた。

 その様は網にかかった人喰いザメがまだこちらを食い殺そうともがいているかのようで、ぶっちゃけ超恐い。

 

「とにかく、今のうちに脱出しましょうっ!」

 

「同感っ!」

 

 剣は天井からすぐには抜け出せないようだったので、今がチャンスだ。

 距離をとってしまえば、追ってこなくなるかもしれない。

 オレ達は一目散に駆け出すと、

 

 バリィンッ!!

 

 元々脱出経路として予定していた窓を割り破って、外へと飛び出すと、月明かりの乏しい夜闇がオレ達二人を迎え入れた。

 冷たい空気が直接肌に刺さる。

 だが、アイツや緋色の矢剣が放っていた殺気に比べれば、どうということはない。

 

「逃げるが勝ちってやつだな」

 

「ええ」

 

 アスファルトで固められた駐車場に着地したオレとキャスター(マスター)は、頷き合った。

 

 











これでやっと「当日」が終わりです。長かった・・・



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