Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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2月1日 未明








第35話 ~2日目①~ 「蒼vs紅」

 Interlude in

 

 

赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

 ゴウッッッ!!!

 

 凜が宝石魔術で竜牙兵達を牽制したことで得られた一時(いっとき)を無駄にすることなく、()()()()が弓につがえた矢剣を放つ。凜には感じ取れなかったが、彼は上階に潜む(キャスター)の気配を感じ取ったのだ。

 吹き抜けになっているとはいえ1階から2階を見上げても、視界に入る範囲では誰もいない。放たれた矢剣の進路にも何もないように思えたが、当然無駄に攻撃を仕掛けたわけではない筈だ。おそらく、精製した緋い矢剣に特殊な効果が付与されている。

 凜は瞬時にそう考えた。

 だが、その思考を続けることも、攻撃の成果を確認することも許されなかった。

 

「っ!?」

 

 自分達が立ち回る1階(フロア)を切り裂くようにして、青と黒の人影が急接近してくるのに気が付いたのだ。

 

「セイバーッ、横っ!なんか来るっ!!」

 

 咄嗟に凜は、上階に意識を向けていたセイバーに注意を促す。

 

「なにっ!?」

 

 こちらへと向かってくるのは、赫い長槍を携えた青い服の男と、ダークグレーのスーツを着込んだ赤髪の女だった。

 

「こりゃ、当たりってやつだな!バゼット!」

 

 先頭を走る青の男が目を爛々と輝かせ、

 

「奥にいる女が、遠坂凜です。聖杯戦争参加者で間違いありません」

 

 男に続いて走る女が淡々と答える。

 

「ってことはあいつは・・・アサシン・・・って風情じゃねえよな・・・セイバーなのか?」

 

 ゴッ!

 

 訝りながらも青い疾風が速度を増した。

 凜の魔術の余波で、竜牙兵達の包囲網は疎らになっている。その間隙を縫って、青のサーヴァントは標的である赤のサーヴァントとの間合いを瞬時にゼロにしていた。

 

「っつあぁぁぁっ!」

 

 ジャッ!

 

 人の目では視認不可能な赫い稲光が走る。

 神速の域に達した疾走に加えて、鍛え抜かれた胸筋と上腕の膂力により速度が上乗せされ、通常であれば絶対不可避の長槍による一突きだった。

 

「セイバーッ!!」

 

 あんなの絶対に躱せない。そう確信してしまった凜は悲鳴を上げることしかできなかった。

 だが。

 

 ガギィィィィィィィッッッ!!!

 

 まさに寸でのところ。

 瞬時に生み出した双剣を交差させて、セイバーは死の切先を反らす。

 

 ビッ・・・

 

 赤のサーヴァントの褐色の頬に一筋の赤い線が刻まれるに留められていた。

 

「おおっ、マジかっ!?凌ぎやがった!」

 

「ちっ、なんて速さだ・・・」

 

 仕掛けた側と仕掛けられた側。両者から同時に驚嘆の声が上がる。

 

 バッ

 

「ナイス!セイバーッ!」

 

 突然の襲撃者に驚きながらも、凛の判断は早かった。

 右腕を振るい、青い宝石を一つ放り投げる。

 

「吹っ飛べ!」

 

 ゴゥッッ!

 

 凝縮された突風が、襲撃者に横合いから衝突した。

 

「おっとっとっ!」

 

 凛の気合いをはぐらかすような、真剣味のない声があがる。だが、完全に無意味というわけではなかったようで、青のサーヴァントは僅かにその風圧の影響を受けて押し飛ばされた。

 

「反応はええな、お嬢ちゃん」

 

 赫い長槍を肩に無造作に担いだ状態でトンっという軽い着地音とともに、青のサーヴァントが感心したように凛に告げる。

 

「あんた、ランサーね?」

 

「まあ、見たまんまだよな・・・そっちはセイバー、だよな。アサシンだったら、間違いなく今の一撃で終わっていたんだがな」

 

「・・・まったく、もう少しでキャスターを落とせるところだったというのに。間の悪い奴め」

 

 急襲を凌いで体勢を整えたセイバーが、心底苛立たし気に毒づく。

 

「キャスター?・・・成程、ひょっとしてこいつらはキャスターの手先ってわけか?」

 

 槍兵は囲みの途切れたところを突っ切ってきたため、今は前方に凛達、背後には多くの骸骨兵がいる状態だ。

 だが、男は自身の後方に居並ぶ骸骨兵を、どうでもいいように一瞥すると平然と笑みを浮かべた。

 

「そうよ。いいところで邪魔してくれちゃって」

 

「そりゃ悪かったな。だが、オレにはあんたらのほうが旨そうに思えるんだわ」

 

 非難を重ねた凜だったが、ランサーはどこ吹く風。

 

「ランサーッ!」

 

 叫んだのは、骸骨兵達の囲みの外縁部に立つスーツに身を包んだ長身の女。バゼットだった。

 正面に居並ぶ異形の兵団に対峙しながらも、己がサーヴァントに対して怒り心頭という体だ。

 

「馬鹿なのですか、あなたはっ!?包囲の真っ只中に敢えて突っ込むなんて!」

 

「いやあ、一番強そうな奴を落とすチャンスだったもんでな。悪いな、置いてきぼりにして」

 

 マスターをチラリと見て、ランサーは不敵に笑う。

 無論、この台詞は『火に油』以外のなにものでもない。

 

「そういう問題じゃないっ!」

 

 案の定、バゼットはダンダンッ!床を蹴りつける。

 

「これは、戦闘狂の類だな」

 

「まあ、いかにもって感じよね」

 

 二人のやり取りを傍観していた凛達も呆れて溜息をついた。

 

「ギギ・・・」

 

 一方で、言葉を解す頭などない異形の兵達はこのやり取りに一切の興味を示すわけもなく。

 

 ザッ!

 

 一体の骸骨兵が背中を向けていたランサーを、隙のある敵と認めたか。一気に踏み込んで切り込んできた。

 

「ご苦労さんだな」

 

 ドゴッ・・・!

 

 だが、突如として振ってきた赫い鉄塊に骸骨兵は叩き潰された。

 ランサーは殆ど体勢を変えることなく、正面を向いたまま後方から接近してきた敵にその槍を無造作に振り下ろしたのだ。

 

 ガラガラッッッ――――――

 

「せっかくこれだけおもちゃがあるうえ、腕利きの猛者(もさ)もいれば、いい女も揃ってるときた」

 

 砕け散った骸骨兵の骨片をバキバキと踏み潰して、青の槍兵は凛とバゼットに視線を送る。

 

「とことん楽しまなきゃ嘘だろ」

 

その赤い瞳が爛々と輝いていた。

 

 

 

 Interlude out

 

 

 

 

 E' turn

 

 

「追ってこないな」

 

「あの剣もそうだけど、アーチャー達も来ないわね」

 

 2階の窓から脱出したオレ達は、後にしてきた建物を振り返った。

 

「・・・なんか、中がごちゃついてるみたいだな・・・」

 

 耳を澄ますと、店舗内から鋭い剣戟の音が聞こえてくる。

 残っている竜牙兵と、遠坂達との戦いが続いているはずではあるが、それとも少し違うような気がした。

 この店舗の入口は西側だが、今オレ達は南側にいる。少し危険にも思えたが、店の入口側へと回り込んで様子を窺うことにした。

 

「あれは・・・?」

 

 向こうから気付かれないように用心して入口から覗くと、遠坂達や竜牙兵のほかに見知らぬ女(男物のスーツを着ているが、シルエットから推測)と、槍を携えた男が見えた。

 

「あれはランサーね。もう一人の女は、ランサーのマスターでしょう。前に坊やが教えてくれた魔術師の特徴と一致するわ」

 

「てことは、結果的にランサー陣営も釣れてたってことか」

 

「敢えて目につくように動いたものね」

 

 この店舗の周辺でマスターの補給を済ませてから、魔力の残滓を残しながらやってきたのだ。

 その撒き餌は、遠坂陣営を誘き寄せるためのものだったが、付近にいたランサー陣営も引っかかったということだろう。

 

「とにかく、敵同士を鉢合わせにできたわ」

 

「紙一重だったけどな」

 

 タイミングがズレていれば、遠坂達だけではなく、ランサー達に襲われて挟撃されていた可能性もある。

 今回ばかりは本当に幸運だった。

 

「運が良かったわね、珍しく」

 

「・・・自分で言っちゃうかな・・・」

 

「早くここを離れましょう」

 

「ああ」

 

 オレ達は苛烈を極めるであろう戦場を後にした。

 

 

 

 

 Interlude in

 

 

「っはぁぁぁっ!」

 

 ドゴッ!

 

 バゼットの放った右拳が異形の兵士の顔面を打ち抜く。

 だが、

 

 ジャッ!

 

「ちっ!?」

 

 それだけは倒し切れずに、反撃で横薙ぎに振われた剣をかわした。

 

「マスター。頑張ってくれい。なにせこっちは動き辛いんだわ」

 

「わかってますっ!いま、やってるでしょうがっ!」

 

 ガスッッ!ドンッ!

 

 今度は鎧のない両脇腹?に左右のフックを連続して、浴びせた。

 

 カラカランッ

 

 このダメージが決定的なものとなり、骸骨兵が崩れた。

 

「呆れた強さね。あの骸骨達、結構強いわよ」

 

「ああ。人間離れしているな」

 

 ランサーと対峙しながらも、視界の端でバゼットの戦い振りを捉えた凛達が驚嘆する。

 現状、二人はランサーと対峙しながら骸骨兵の散発的な攻撃に備えている。同様にランサーはこの二人を正面にしながら、背後にいる骸骨兵を警戒している状態だ。

 

 ガッ!

 

「一体全体、なんでっ!」

 

 ゴッ!!

 

「わたしばっかりっ!!」

 

 バギィィッ!!

 

「こんなにっ!ああっ、鬱陶しいっ!!!」

 

 自然と、囲みの外側にいるバゼットのみが骸骨兵の排除に注力している状態だった。

 獅子奮迅といった趣きで、怒声、或いは罵声混じりに複数の敵を相手取って、降り下ろされる剣を躱し、拳を振るう。既に彼女の周りは斃した敵の残骸で、足の踏み場もない程になっている。

 

「さて、こっちはのんびり待つとするか」

 

 マスターの奮闘を背後に感じながら、ランサーは挑発的な笑みを浮かべた。

 

『セイバー。仕掛けるわよ』

 

『当然だな』

 

 ランサーに対峙する凜とセイバーは念話で会話する。

 今の各々の位置からすれば、前面に凜達、背面に骸骨兵に挟まれているランサーは最も不利だ。しかし、このままバゼットが骸骨兵達を全滅させて合流すればその優位は消える。

 

「ギギッ」

 

 骸骨兵の一体が、ランサーへと歩を進めた。

 

「ん?」

 

 その動きを察知した槍兵が僅かにそちらへと目を向ける。

 

『今っ!』

 

 ザッ!

 

 間合いを一気に詰めるべく、赤のサーヴァントが双剣を構えて駆け出した。

 

「つあぁぁぁっ!」

 

「そりゃ仕掛けて来るよなっ!」

 

 二人が動いてくることを確信していたランサーは、落ち着いて迎え撃つ体勢をとる。

 すると。

 

 バッ―――

 

 二人の中間地点に黄色の宝石が放り込まれた。

 

「照らせっ!」

 

 カッ!

 

 凜の声と共に石は強烈な光を放ち、店内は刹那、全ての空間を白色で満たされた。

 

「なっ!?」

 

 ランサーの口からは驚愕を示すような一音が発せられる。

 

「悪く思うなよ!!」

 

 ジャッ!

 

 セイバーの交差させた双剣による斬撃がランサーを襲った。

 凜とタイミングを合わせたセイバーは宝石が弾ける瞬間には目を閉じており、視界に何ら支障は生じていなかった。

 

「・・・へっ・・・オレも随分と軽く見られたもんだな」

 

 しかし、それはまたランサーも同様だった。

 

「なにっ!?」

 

 ガギィィィンッ!

 

 セイバーの斬撃よりも一手早く繰り出されたランサーの刺突。

 振り下ろす動作に入る半瞬手前で、敵に裏の裏をかかれたことを悟った赤の剣士は寸でのところで攻撃のための剣を防御に切り替えて、槍を受けていた。

 

「ぐぬぅぅぅっ!」

 

「さすが、セイバーってとこだが・・・」

 

 ゴッ!

 

 何かがぶつかる音がするとともに、セイバーは左の肩口に鈍い痛みを感じた。

 

「がっ!?」

 

 横合いから襲ってきたのは、ランサーの右脚だった。

 槍を受けた直後に、繰り出された回し蹴りに踏ん張り切れず、赤のサーヴァントは数歩弾き飛ばされる形となった。

 

「セイバーッ!?」

 

「案外と月並みな手だったな。殺らせてもらうぜ、お嬢ちゃんっ!」

 

 最大の障害である敵サーヴァントを突破した槍兵は、一気に本丸であるマスターへと肉薄する。

 

「凜っ!」

 

 ランサーの狙いを赤のサーヴァントも察知するが、もう間に合わない。

 

「やばっ!?」

 

 背面に巨大な陳列棚を背負っている凜は、後退の余地がない。

 横へと動いて、雑貨が並べられているテーブルを盾にするくらいが関の山。

 そう見えたが。

 

「弾けろっ!」

 

 ドンッ!

 

「なにっ!?」

 

 いつの間に仕掛けたのか。

 凜に詰め寄ろうとしたランサーの足元で、赤い宝石が弾けだのだ。

 

 ザッ

 

 ほんの僅かな時間だったが、敵の足止めに成功した凜はテーブルを跳び越えると、セイバーの近くへと着地した。その足は魔術で強化済だ。

 

「・・・ふぅ・・・あぶないあぶない・・・」

 

「大したものだな。凜」

 

 赤のサーヴァントが窮地を脱したマスターの隣に並ぶ。

 

「サンキュ。とは言え、こりゃちょっと厳しいわね。正面切っての切った張ったじゃ向こうが一枚上手って感じじゃない?」

 

「今の仕掛けは正面切ってたとは言えないと思うが・・・相当な手練れなのは間違いないな」

 

「・・・いやいや・・・」

 

 パンパンと全身に纏わりついた細かい破片を払いながら、ランサーは余裕の視線を向けてくる。耐魔力のあるランサーは魔術自体は殆ど効かない。不意を突かれたため動きを止められたものの、実態としてダメージはない。

 

「いいねえ、お嬢ちゃん。宝石はとっくに仕込んであったわけか」

 

「まあね。でも、今ので使い切っちゃったわよ」

 

「若いのに大したもんだ。場数を踏んでいるってわけじゃねえみたいだが、センスがあるし、何より肝が据わってやがる」

 

「あまりレディに対して使う誉め言葉じゃないと思うけど」

 

 凜はニヤリと笑う。

 

「さてと、そろそろうちのマスターが掃除を終える頃合いかね」

 

 凜との会話を続けながらも、ランサーはバゼットの様子を窺う。

 

「やぁぁぁっ!」

 

 ガスッ!ゴッ!

 

 残った2体の骸骨兵を屠ったところだった。

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

 肩で大きく息をつき、バゼットは油断なく凜達を警戒しながらも、ランサーを睨みつけた。

 

「・・・か・・・片づけましたよ。全部っ!」

 

 骸骨兵だったものの、残骸がそこら中に散らばっていた。

 それを忌々しそうにバキバキと踏み砕きながら、彼女はランサーの元へと近付いてくる。

 

「お~お~。ご苦労様」

 

 ランサーが片手を挙げて、マスターを労う。

 

「思った以上に、早かったわね・・・」

 

 凜が顔を顰める。

 

「一旦退きたいところだけど、位置的にそれも難しいし、スピードも向こうのほうが速そうなのよね」

 

「一戦交えて、その中で隙を見出すしかないな」

 

「向こうは俄然やる気満々だしね」

 

 見れば、ランサーは首をグルグルと回しており、バゼットはバキバキと拳を鳴らしている。

 

『こんな作戦はどうかしら?』

 

『聞こう』

 

 二人はしばし、念話で問答を続けた。

 

『それでいこう』

 

 凜との念話を終えて、嘆息しながら赤のサーヴァントが前に出る。

 

「止むを得んな。どこまで務まるかわからんが・・・私がお相手しよう」

 

 真剣な表情で、セイバーはランサーへと対峙する。

 

「いいねえ、こういうの。尋常なる立ち合いってやつだな」

 

 待ってましたと言わんばかりに青のサーヴァントが槍を構えた。

 

「あくまでも、仕事です。ですが、あなたは好きなようにやってください。それが望みでしょう」

 

 バゼットはランサーの意図を汲んで、その場を離れる。

 

「ありがてえな、やっぱ持つべきものは・・・」

 

 主の言葉に笑みを浮かべた英霊は手にした赫い槍を構えた。

 相対するセイバー達は一気に警戒を強める。

 

「凜っ、離れていろっ!」

 

 ランサーの闘気が一気に膨れ上がったのを感じたセイバーは、凜に声を掛けながら双剣を握る手に力を籠める。

 

「・・・理解のある主だなっ!」

 

 ダッ!

 

 瞬時に間合いを詰めたランサーが赤のサーヴァントにその槍を突き出す。

 それは、ただただ真っ直ぐで、そして鋭い。

 

「つぁぁっ!」

 

 その神速の穂先が自身の体に薄皮一枚届いたかどうか。

 そのタイミングで赤のサーヴァントは裂帛の声を響かせながら、交差させた双剣を上から下へと。

 全身全霊の力を込めて振り上げていた。

 

 ギィぃィぃィぃィぃィぃィぃンッッッ!!!

 

 激突した槍と2本の剣。

 

「うぉぉっ!?」

 

 槍の勢いを斜め上方向へと強引に変換されたランサーはそのまま体ごと宙へと放り出され。吹き抜けを通って、2階の天井付近迄達していた。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

 赤のサーヴァントは、自分が稼いだ貴重な時間を最大限有効に使う。

 その手に黒弓と5本の矢を編み上げると、先ず3本を番えて宙に浮いているランサー目掛けて引き絞ると、瞬時に解き放つ。

 

 ゴウゥゥッッ!!!

 

「弓だとっ!?」

 

 思わぬ追撃に驚愕したランサーだったが、反応自体は早かった。

 3本の矢は同時に放たれたにも関わらず、それぞれ明確な狙いがあることが見て取れた。

 両肩と腹部。全てが簡単には躱せないように適度に散らばった部位が狙われている。悪魔的とも言える、容赦のない射撃だ。

 

「ちぃっ!てめえっ、やっぱりまともなセイバーじゃねえなっ!!」

 

 ガヅンッ!

 

 罵声を浴びせながらも、ランサーは2本の矢を体の捻りで躱しながら、避けきれないと見た残りの1本を槍を盾にして防いだ。

 

「ぐっ!?」

 

 だが、矢の勢いに押されてさらに体が浮く。

 

 ドゴゴンッ!!

 

 その背面ではランサーが躱した矢が天井に激突し、屋根に穴が穿たれた。

 それにより、漆黒の空が垣間見えるようになり、ランサーの体はそのまま剥き出しになった鉄骨を擦り抜けていった。

 

「今の時代、これくらいのマルチロールは必須だぞ。いくら高名な英雄でも、時代に合わせたアップデートぐらいはしたほうがいい」

 

 弾き飛ばされた敵には聞こえないにも拘らず、そう嘯いたセイバーが、今度は1本の矢をつがえて、斜め後方を振り向いた。

 そこにはバゼットと対峙する形になっている凜がいる。

 

 ゴッ!

 

 弓から放たれた矢が、彼女の後方にあった巨大な陳列棚に刺さると、

 

 ドゥンッ―――!

 

 爆薬が詰まっていたかのように、小規模な爆発を起こす。

 

 ガラガラガラ・・・

 

 陳列棚は矢の突き立った場所を中心に、大穴が開いた状態となった。背面の板がなくなりバランスが崩れているので、程なくして棚全体が崩壊するだろう。

 

「ナイス、セイバーッ!」

 

 退路が確保された形になった凜は、すかさず自身のサーヴァントが作った脱出路を通り抜けていく。

 

「ちっ、逃がすものですかっ!」

 

 その動きを見て取ったバゼットは凜を追おうとするが、

 

 ゴッ!

 

「っっ!?」

 

 バギィッ!!

 

 バゼットでなければ、間違いなく終わっていたであろう赤のサーヴァントからの一射が彼女を襲った。だが、バゼットは凜を追いながらもセイバーの動向も警戒していた。近距離で放たれた矢に対して、己が拳でその一射を逸らしていた。タイミングを合わせたのは、殆ど勘任せだ。

 

「くぁぁぁっ!」

 

 とは言え、流石に勢いを完全に殺しきれるわけもなく、体ごと吹き飛ばされ、置かれていたテーブルに激突する。

 

「まったく・・・本当に人外レベルだな・・・」

 

 今の攻撃を防がれるとは思ってもみなかったセイバーは、呆れつつも、止めのために3本の矢を精製して素早くつがえた。

 

「くっ!?」

 

 バゼットはその追撃に備えて素早く体勢を立て直すが、既に自身が圧倒的な力を持つ狩人にターゲットとして照準を合わされていることを悟った。『絶体絶命』とはまさに、自身の現状に他ならない。

 しかし。

 

「させるかよっ!!!」

 

 その時、上空から怒声と、

 

 ギュンッ!!!

 

 赫い稲妻が落ちてきた。

 

「ぬっ!?」

 

 セイバーは咄嗟に、既に構ていた矢を稲妻に目掛けて放ったが、その選択が誤っていたとすぐに気が付いた。

 

 ガィィィィィィィィィンッ!!!

 

 衝突した一の赫と三の銀。

 当然に。

 勝つのは、前者だ。

 

 ドゴォォォッ!

 

 銀色の矢群を、赫い槍が蹴散らして。

 敷き詰められたフロアタイルを削って、深々とそれは床に突き立った。

 

「ぐぅっ!」

 

 槍の通り道には赤のサーヴァントがいた。彼が纏っていた外套は切り裂かれ、左肩から下に向けて一筋の裂傷を負う。微かに軌道が逸らされたこと。そして体の捻りで結果的には最小限の傷に留まった。

 

「てめえが撃ってくんなら、こっちは投げるしかねえよなあ」

 

 ギュンッ―――

 

 床に刺さっていた槍は、意志を持ったかのように振動して抜けると、上空のランサーの元へと戻ると、鉄が磁石に吸い寄せられるように主の手に収まった。

 ランサーはその槍を真っ直ぐに構えて、セイバーへと落下してくる。

 

「ちぃっ!」

 

 手傷を負った赤のサーヴァントは、弓をその場に落として、詠唱することもなくその手に双剣を瞬時に出現させる。

 

「そうこなくっちゃな。セイバーのくせにアーチャーの真似事なんかするんじゃねえっ!」

 

 ギィンッ!

 

 落下してきた槍の穂先を躱しつつ、右の白剣で槍の柄の部分を払う。

 だが、払われた槍はそのまま大きく、そして素早く円を描いて、今度はセイバーの腹を薙ごうと襲ってくる。

 

「くっ!?」

 

 手傷を負った分、微妙に反応が遅れているのをセイバーは感じていた。バックステップでその攻撃をやり過ごすが、穂先が腹の皮一枚を削いでいく。

 

「バゼット!こっちはいい。向こうのお嬢ちゃんを追えっ!」

 

「言われなくても、わかっています!」

 

 タタッ―――

 

 一時、セイバーに狙われていたバゼットだが、今はランサーが押さえている状況だ。遮蔽物の多いこの戦場で、この場から姿を消した敵のマスターの動きをマークする必要がある。

 バゼットは、遠坂凜が通ったルートをなぞるようにして、その行方を追った。

 

「さて、いきなりあれだけの弓の腕前を見せられると・・・お前がセイバーなのか・・・それとも本当は違うのか、色々と疑念は浮かんでくるがな・・・」

 

 ランサーは横目でバゼットが陳列棚の奥へと駆けていくのを見送りながら、セイバーに対峙する。三歩踏み込めば間合いに入るという距離だが、槍は無造作に肩に担いでいた。

 

「ふん。いっそのことそのままアーチャーだと思ってくれないかね?そのほうがこの後の展開としては、私には好都合だ」

 

 対するセイバーは、いつ仕掛けられてもいいように双剣を体の前面にしっかりと構えている。

 力も速さも明らかに向こうが上。対処を間違えれば、持ち堪えることはできない。セイバーは彼我の力量差を正確に見積もっていた。

 

「てめえのような輩と会話しても無駄なことはわかってるさ。はっきり言って、お前がセイバーだろうが、アーチャーだろうが、まかり間違ってキャスターだろうが・・・そんなことは、オレにとってはどうでもいい」

 

「・・・だろうな」

 

「弓の使い手としても、そして剣の使い手としても、英霊たるに相応しい猛者が、今、オレの目の前にいる・・・」

 

「お褒めに預かり光栄だ」

 

「それだけで、充分だ!」

 

 ブンッ!

 

 ランサーは刹那で間合いを詰めると、弧を描いて槍を横に薙いだ。

 

 ガギンッ

 

 セイバーはそれを黒剣で受けながら、勢いを殺すように軽く右へと跳ぶ。さらに、その先にあったダイニングチェアを掴むと、

 

 ブンッ

 

 追撃してくるランサーへと放る。

 

 バギャッ!

 

 眼前に迫ったその椅子を槍で破壊したランサーの目の前には、セイバーが既にいた。

 

「ふっ!」

 

「ちぃっ!?」

 

 ギィィィンッ!!

 

 同時に振り下ろされてきた双剣を横にした槍でランサーは受け止める。

 一本の槍と二本の剣が形作る二つの十字の交点に猛烈な圧力がかかり、赤と青のサーヴァントの超人的な力比べが均衡する。

 

「ほんと、大したもんだぜ。搦手気味の戦法が得意なようだが、常に考えながら戦っている。とんでもねえ場数を踏んでるのは間違いないな。てめえ、どこの英霊だ?」

 

「ふふ。そういうキミはなんとなく察しがつくぞ。獣の如き眼光、その速さ、そして赫の長槍」

 

「けっ!そりゃ、正体なんて明かす筈ねえよな。つまんねえ縛りだぜ」

 

 その言葉とは裏腹に、英霊クー・フーリンの紅潮した精悍な顔には歓喜の笑みが浮かんでいた。

 

 

 Interlude out

 

 

 

 












伝統の一戦をお届けしております。
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