Fate/√  【群像時変】   作:わが立つ杣

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1月16日 午前








第4話  ~15日前②~ 「扉は開かず」

 Interlude in

 

 

 早朝。

 この季節ではまだ朝日が顔を出すには早く、僅かに空が白んできた刻限。

 ライダーは現界してからの習慣で、間桐邸の屋根の上に佇み周囲の状況を観察していた。彼女の脚の先まで届く程に長い薄紫色の髪が僅かに吹く風に靡いている。

 サーヴァントは眠る必要がない。聖杯戦争が正式に開始となるのはまだ暫く先となるという見立てだが、夜が明ける迄はこうして念のために他陣営の襲撃に備えている。

 実際に昨夜はキャスターと思しきサーヴァントとの遭遇戦が発生した。警戒するに越したことはない。

 

「とは言え、あの状態では既に消滅しているでしょうね」

 

 理由はわからなかったが、キャスターは既にマスターを失っており現界しているのがやっとの状態だった。今のライダー自身も仮のマスターに従属しているが故に魔力不足で本領を発揮できる状態ではないが、邪魔さえ入らなければあのまま苦も無く止めを刺せていただろう。

 

「聖杯戦争開始前にサーヴァントが消えた場合、新たな補充などがあるのでしょうか?」

 

 などと独り言ちながら思案していたところ、

 

「桜?」

 

 屋敷に面した道の先から、間桐桜がこちらへと歩いてくるのに気が付いた。

 ライダーの本来のマスターである桜の朝は早い。

 彼女はいつも【衛宮士郎】の家で、彼と一緒に朝食を作り、食べてから弓道部の朝練に参加しているためだ。

 今日も彼女は彼の家に30分程前に向かっており、ライダーはそれを見送っていた。

 

「忘れ物でもしたのでしょうか?」

 

 かなり早足で戻ってきた桜は、入口の門扉を開けて敷地内に入ってきたが、その間、ずっと俯いたままだった。ちょっと忘れ物をして取りに帰ってきたという雰囲気ではない。

 様子が気になったライダーは、屋根から降りて桜に声を掛けることにした。

 

「桜、戻って来るなんて珍しいですね。何かあったのですか?」

 

「あ、ライダー・・・・・・いいえ、なんでもないの。ただ、ちょっと都合が悪いからって、先輩が家に入れてくれなかったの」

 

 少し顔を逸らせ、髪に結わえられたピンク色のリボンを弄びながら桜は答えた。

 その目は心なしか虚ろだ。

 

「そうですか。体調を崩していたのでしょうか?」

 

「ううん。そうじゃないみたい」

 

 不可解な話だった。

 ライダーは、仮のマスターである慎二と同行することが多い。そのため、桜や慎二の通う穂群原学園には霊体化して何度も足を運んでいる。

 衛宮士郎は慎二の友人でもあり、彼の()()()()は既に把握しているが、些か過剰なほどに親切で律儀な少年という印象だ。率直に言って、慎二とは似ても似つかない気質を持っており、わざわざ足を運んでくれた後輩を無下に追い返すような人物とは思えなかった。

 

「何か事情があるのでしょうね」

 

 目の前で落胆を露わにする真の主人(マスター)に対して、ごく常識的な慰めの言葉しか出てこなかった。

 

「そうね・・・・・・」

 

 桜は絞り出すようにそう応じると、足早に屋敷へと入っていった。

 

「大丈夫でしょうか・・・・・・」

 

 その後ろ姿を見送りながら、ライダーは呟いた。

 桜の日常は過酷だ。

 現界してから程なくして、この間桐家の歪さ、悍ましさにライダーも気付いていた。

 桜はこの家の魔術の根幹をなす数多の蟲を体内に埋め込まれており、恒常的に地下の蟲蔵で体を嬲られている。そして、兄である慎二には疎まれ、虐げられるだけでなく、その肉体を犯されていた。

 ライダーが生前過ごした世界とて清廉ではなく、醜悪で残酷な出来事など珍しくもなかったが、その彼女から見ても桜の境遇は酷いものだ。

 何とかしてあげたいという思いを抱いてはいたが、当の桜自身は現状を受容しているようだった。さらにライダーの今のマスターは曲がりなりにも慎二であり、行動には制約がある。

 そしてこの家の全てはあの老人、即ち間桐臓硯がコントロールしており、桜もその影響を多分に受けている。あの得体の知れない老人の目的、そして正体を暴かなければ迂闊な事はできないとも感じていた。

 いずれにせよ、この家に安らぎなど微塵も見出せない桜にとっては、衛宮士郎は唯一つの心の拠り所の筈だった。

 

「もし、それを失ったとしたら・・・・・・」

 

 ライダーは門を開けて路上に出ると、衛宮邸の方角を見据えた。勿論、ここからでは見える筈もない。

 冬の頼りない日差しが、彼女自身と、そして間桐邸を照らし始め、薄っすらと影を作り出すようになっていた。

 

 

 Interlude out

 

 

 C turn

 

 

 心地よい匂いがする。

 何とも言えないいい香りが鼻腔の奥をくすぐるのを感じて、ゆっくりと目を開けると板張りの天井が見えた。柔らかな木の色合いと節目が気分を落ち着かせてくれるが、直前の記憶とは乖離する光景のような気がした。

 

「ここは?」

 

 僅かな気怠さと、清々しさとが混ざったようなぼんやりとした虚脱感の中で小さく呟く。私は布団と呼ばれる寝具に自分が横になっているのに気が付き、ゆっくりと上半身を起こした。

 依然として魔力不足は否めず、体はやや重いもののそれなりに動ける。

 全身を確認すると、大きめの浴衣を着ており、腕や腹部には包帯が巻かれている。

 段々と記憶がはっきりしてきた。

 

「坊や?」

 

 昨晩は、【衛宮士郎】という名の半人前の魔術師だと自称する少年と出会った。そして彼をなんとかその気にさせて、性交による魔力の補給を受けることができたのだ。

 彼の工房だと言う土蔵で事を成したが、どうやら私はその後で眠ってしまったらしい。この部屋は和室と呼ばれるこの国の伝統的な家屋の一室のようだが、私をここまで運んでくれたのだろう。

 魔力供給は一般人からでも可能ではあるが、魔術師から受けるほうが比較にならない程に濃密だ。そのため、今の私はこの世界に安定して繋ぎ留められるだけの魔力を有しているのが感じられる。

 絶体絶命のあの状況で、半人前とは言え魔術師に出会えたのは僥倖以外の何物でもなかった。

 しかも、警戒心はあるものの、こちらの要求に対して真摯に応えようという実直さがあり、魔術師特有の擦れた気質が感じられない。

 それは即ち、

 

「操りやすい、いいコマになりそう」

 

 だが、所詮は男である。

 最初のマスター【アトラム・ガリアスタ】という名前だったが、あの男も本当に碌でもなかった。生前に運命を狂わされた相手とそっくりのクズだった。

 私は自分の男運の無さを自覚している。

 どんなに純朴そうでも、この聖杯を手に入れるための操り人形として少年を利用するつもりだった。

 その衛宮士郎について、昨日の夜の出来事を思い出す。

 

「半人前と本人は言っていたけれど、魔力自体はまずまずだったわね」

 

 謙遜しているだけなのかもしれないし、魔術協会に所属していないと言っていたから、その中途半端な立場を意識しての発言なのかもしれない。

 

「お礼はしっかり言っておくべきね」

 

 いずれにせよ、あの少年とは友好的な関係を築いておくべきだ。

 取り入るにせよ操るにせよ、油断させるためには信頼関係があると認識させた方がいいに決まっている。そう考えながら立ち上がると、障子戸を開けて廊下に出た。

 すると、目を覚ました直後から漂ってきていたいい匂いが、より濃厚に感じられるようになる。

 

 トントントントンッ

 

 さらに小気味のいいリズムで、何かを軽くたたくような音が響いてきた。

 人がそちらにいるからというよりも、ただただ、その匂いと音に引き寄せられるようにして廊下を進み、その発信源と思しき部屋の前まで辿り着いた。

 

 ザッ

 

 障子戸をスライドさせて部屋に入ると、衛宮士郎はこちらに背中を向けて何やら作業をしている様子だった。

 

「おはよう。坊や」

 

「あ、おはよう・・・・・・えっと、キャスター」

 

 少年は私に気付いて振り返ると、何故か顔を赤らめながらぎこちない挨拶を返してきた。

 

「・・・・・・も・・・・・・もうすぐ支度が終わるから、そこに座って寛いでくれ」

 

 と言って、部屋の中央に置かれた大きな座卓のほうを指差した。

 その勧めに従って、私は大きめのクッション(座布団というらしいが)に腰を降ろす。

 

「昨日は色々とありがとう。本当に助かったわ」

 

 再び背中を向けて作業を始めた少年に礼を言う。

 彼は私のいる居間と続きになった厨房で、食事を作っているようだった。

 

「・・・あ・・・いや・・・・・・なんていうか・・・・・・こちらこそ、その・・・・・・」

 

 極めてぎこちない言葉が返ってきた。

 私が彼のためになるようなことなど何もしていない筈だが。

 などとこちらが思案している間にも、少年の顔は一層赤くなっていく。

 

「・・・・・・ああ、そういうことね」

 

 私は漸く合点がいった。

 要するに、彼にとっては貴重な初体験だったわけである。

 改めてこうして顔を合わせたがために、緊張しているというよりも恥ずかしがっているということだろう。

 

「ふふ・・・ごめんなさいね。あなたの大切な初めての相手が(わたくし)みたいな行きずりの女で」

 

「ななっ・・・・・・!?」

 

 少年は顔を真っ赤にして完全に固まってしまった。

 ほっておいたら段々と膨れて爆発しそうだ。

 これはからかい甲斐がある。なかなか新鮮で面白いものだ。

 

「とと・・・とにかく、先ずは食事にしよう。一応、オレが用意したから」

 

 誤魔化すようにそう言うと、少年は広い卓に料理を並べていった。白いご飯、お味噌汁、サラダ、卵焼きなどだろうか。目を覚ました時から、私の鼻腔をくすぐっていた匂いの発生源たる品々だ。

 

「色々と手間をかけさせてごめんなさいね」

 

 間近にすると一層心地良い香りが漂ってきた。少し興奮するくらいに胸が高鳴る。

 

「和食中心ですまない。口に合うか正直心配なんだけど」

 

「いいえ。とても美味しそう」

 

 本心からそう応じる。

 サーヴァントは食事による栄養補給は不要だが、味覚はちゃんとあるし、美味しいものは美味しい。

 

「それじゃあ、ありがたくいただくわね」

 

 料理の手前には箸のほか、スプーンやフォークも並べられていた。この国では一般的に箸を使うはずだが、私に気を遣って一通り揃えてくれたのだろう。少年の気配りが窺い知れた。

 すぐにでも食べたい衝動を覚えたが、なんとか堪えた。

 私は一呼吸置いて箸で卵焼きを取り分けると、ゆっくりと口の中に運んだ。

 

 

 

「最高だったわ。坊やはお料理、凄く上手なのね」

 

 実際、食事は衝撃的と表現できるほどに極上の味だった。

 食べている最中は顔にだらしない笑みが浮かんでいるのが自覚できたが、それを止めようとも、そして止められるとも思わなかった。

 

「ありがとう。まあ、男としてはどうなのかなって思うけど、褒められるのは嬉しいな」

 

 正面に座る少年は湯呑みを両手で弄びながら、はにかむ。

 

「坊やはご家族はいないのかしら? 昨日からあなた以外の人の気配を全く感じないのだけれど」

 

「ああ。5年前に親父が死んでからは、ここに一人で住んでいる」

 

「そうだったの。苦労してるのね」

 

 私にとっては彼に縁者がいないというのは、何かと都合がいい。

 

「一応近所にオレの面倒を見てくれる先生がいて、いつもは朝食を食べに来るんだけどな」

 

「今日も来るのかしら?」

 

 そうだとすれば、一時的に身を隠すなり、霊体化するなり対処する必要がある。

 

「いや、昨日会った時、今朝は来られないって言ってたから大丈夫だ」

 

 長期的には少年の記憶を操作しつつ、人避けの結界を張って近付けないようにしたほうがいいだろう。

 

「あら? そう言えば、坊や、学校は大丈夫なの?」

 

 ふと、壁に架けられた丸い時計を見ると、時刻は9時を過ぎている。

 

「今日は休むことにした。連絡済みだから大丈夫だ」

 

「ごめんなさいね。迷惑ばかりかけちゃって」

 

 彼が私を慮って、休んだ事は明らかだった。

 

「構わないさ。死にかけてた相手を放ったらかしにするわけにはいかないだろ。それに普段からたまには休めって言われてるしな」

 

 そう言って屈託のない笑みを浮かべるが、すぐに真剣そのものの表情になる。

 

「それよりも色々と話したい。夜は切羽詰まってたし、これからのこともあるしな」

 

「勿論よ」

 

 こちらにも都合のいい申し出だった。

 

「キャスターは聖杯戦争っていう殺し合いのために召喚された存在。だけど、魔力の供給源になるマスターを失って危うい状況なんだな?」

 

「ええ。昨日説明したとおり、私は聖杯戦争のために召喚されたサーヴァントよ。でも既に元々のマスターは何者かによって殺されてしまい、今は現界しているのもやっとの状態よ」

 

「死なないようにするために、これからも魔力が必要なわけだよな。供給の手段はその・・・・・・・・・()()以外にないのか?」

 

 少年は気まずそうに目を逸らした。

 

「ないことはないわ。例えばこの敷地はまずまずの霊脈を有しているのよ。勿論それだけでは足りないけれど、ここに結界を張って周囲の土地の魔力も集めるようにすれば、なんとか現界を保てると思うわ」

 

「そうか。なら、そうすればいい」

 

 事もなげに少年は言った。

 つまりこの坊やは私がここに居座る事を認めたわけだ。

 若干拍子抜けするぐらいだが、私としては狙いどおりの展開ではある。

 

「でも、あなたを巻き込むことになるわ。私としては、これ以上あなたに迷惑をかけたくはないの」

 

「オレは、既に覚悟を決めている」

 

 きっぱりとそう言い切った少年の真剣な眼差しは、全く揺らぐ気配がなかった。

 どうやらとっくに決意は固めていたようだ。

 本気で私の味方をするということだろう。

 

「わかったわ。坊やの気持ちをありがたく頂戴するわ」

 

 私はここで折れる形にした。

 こちらとしては望ましい帰結に至っているのだ。これ以上、無意味な問答をする必要はないだろう。

 

「でも、聖杯戦争が始まれば、現界を保てるというだけでは到底生き残れないわ。昨日のように他のサーヴァントと戦うことになった時に、すぐに殺されてしまう」

 

「そんな・・・・・・」

 

「だからこれも本当に申し訳ないのだけれど、ある程度の頻度で昨日のような魔力供給もお願いしたいわ」

 

 彼の目をまっすぐに捉えて、懇願する。

 

「私を助けると思って」

 

「・・・・・・・・・・・・わかった」

 

 少年は顔を赤らめながらも頷いた。

 これで、万全だろう。

 責任感の強そうなこの少年には、か弱い女である私を見捨てることはできない。ダメ押しに私の身体(からだ)という甘い蜜も与えておけば、充分に操っていける。

 完全に私の計算どおりだった。しかも、ごく自然な会話の流れで事が決まったように感じられた筈だ。

 

「ところで、落ち着いたら夜中に坊やが私を運んでくれた建物・・・・・・土蔵というのだったかしら? あそこに行きたいのだけれど」

 

 ここで私は話題を切り替える。

 

「散らかっているから、本当はあんまり人に見られたくないんだけどな。何か気になるのか?」

 

「そうね。一つ目の理由としては魔術工房が欲しいのよ。あそこは地脈もいいし、密閉された空間だから適していると思うの」

 

「そうなのか。それならちゃんと片付けないとな」

 

 少年はポリポリと頬を掻く。

 

「他にも何かあるのか?」

 

「そうね。もう一つ確かめたいこともあるのだけれど、それは実際に行ってみてからのほうがいいわね」

 

 そう答えた私は、少年が淹れてくれた緑茶という飲み物を口にする。独特の渋みが口の中に広がる。

 

「不思議と落ち着くわ。このお茶」

 

 と独り言ちる。

 

「良かった。口に合わないんじゃないかと心配したんだけど」

 

 少年はそう言って安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

「悪くない部屋もあったけれど、やっぱりあの土蔵が一番かしらね」

 

 土蔵以外にも工房の候補になりそうなところがあるのか確認するため、少年にこの屋敷を一通り案内してもらった。

 敷地内には数多くの部屋を有する母屋以外にも、道場と呼ばれる鍛錬場もあるなどかなりのスペースがあった。しかし、この国の伝統的な設計理念で建造されており、基本的に開放的な構造となっているため、工房に適している部屋は殆どなかった。

 唯一ベッドが設えられた部屋が屋敷の奥にあり、候補にはなり得たが、やや手狭に感じた。

 

「それにしても、本当に使用人も無しにここに一人で住んでいるの?」

 

 思わずそんな質問が口を突いて出た。

 

「し・・・使用人? そんな発想自体がないんだけど・・・」

 

「だって、あなたって日中は学校に行って、その後は仕事・・・アルバイトというのだったかしら?それをこなして、帰ってきてからは自分で料理を作って、さらに魔術の鍛錬もしているのでしょう?」

 

「日課だからな」

 

 少年は事も無げに肯定した。

 

「どこにこの広い屋敷のお手入れをする時間があるのよ?どのお部屋も綺麗になっていたと思うのだけれど」

 

 それどころか全ての部屋において塵一つなかったように見えたのは、気のせいだろうか。

 土蔵へと向かう途上で見かける庭木の造形も見事なまでに整っている。

 

「自分でもよくわからないけど、ふと手が空いた時に自然とやってる感じかな。あ、でも手伝ってくれる近所の子も・・・」

 

 と、少年は言い淀んだ。

 

「・・・・・・いや、なんでもない。たまに手伝ってくれる近所の人達もいるから、なんとかなっているんだ」

 

「・・・そ・・・そうなの・・・」

 

 途中の態度が少し気にはなったが、それ以上は追及しないことにした。いずれにせよ、この少年がかなりマメな気質であるのは間違いがなさそうだ。

 

 ギイィィィ

 

 土蔵の入り口に着くと、少年が扉を押し開けた。

 内部は薄暗かったが、入口から差し込む光を頼りに見渡すとかなりのスペースがある事がわかる。

 剥き出しの地面には青いビニールシートが敷かれており、昨夜も使った古めかしいストーブの他にも、壊れた自転車やヤカン、ペンギンの形をした用途のわからない物など多種多様なガラクタがある。

 

「ここだけはどうしても片付けきれないんだよ。藤ねえ・・・さっき少し話した保護者代わりの先生のことなんだけど・・・その人が次から次へと変な物を持ち込むもんだから」

 

 と、少年は顔を顰める。

 夜は衰弱した状態だったので中の様子をつぶさに確認できなかったが、綺麗に整理された部屋ばかりを見てきた後だと、相対的にはかなり散らかっている印象を受ける。

 

「ここで鍛錬をしているという話だったわね?」

 

「ああ、殆ど毎日。だけど全然進歩しないんだ」

 

「そうなの?」

 

 私と少年はそんな話をしながら、土蔵内へと足を踏み入れた。

 改めてそこかしこにある多様な道具を見回していた私は、ふとある物に意識を引き付けられた。

 

「これは・・・もしかして昨日の・・・」

 

 そう呟いて、木箱の上に無造作に置かれていた一本のナイフを手にする。掌より少し大きい程度の小さく、シンプルな形状だが、しっかりとした作りをしている。

 私は微かにそのナイフに見覚えがあった。

 

「あ、そうだな。助けた時に咄嗟に作ったヤツだ」

 

「咄嗟に作った?」

 

 不可解な表現だった。

 そうだ。

 思い返せばあの時、この少年はこのナイフをどこかから取り出した様子がなかった。

 

「ひょっとして、魔術で生成したという事かしら?」

 

 私は推測を口にしてみた。

 

「何箇所か傷を負っていたから止血しなくちゃいけなかったんだけど・・・そのための手頃な物がなくて。仕方なく上着を切って包帯代わりにしたんだよ」

 

「つまりは・・・【投影】ができるってこと?」

 

「情けない話だけど、それ以外殆どできないんだ。一応【強化】もできるんだけど・・・・・・宝くじに当たるより少しマシ程度にしか成功しないから、自慢できるようなもんじゃないし」

 

「投影ができるなら、包帯そのものを作ればよかったんじゃないのかしら?」

 

 そう言いながらも、この言葉には矛盾がある事に私は気付いていた。

 いや、そもそもこの状態がおかしなことだらけなのだ。

 

「包帯を作れる自信はからきしなかったんだ。何故だかわからないけどオレがまともに投影できるのは、刃物くらいしかないんだから」

 

「ちょっと信じ難い事ばかりね」

 

 事象も彼の言葉も不可解な事だらけで、私としてもそう返すのがやっとだった。

 

「そもそも、投影した対象物がこうして残り続けているのが異常なの。普通はしばらくすると消えるものよ」

 

「そうなのか? でも、このナイフもそっちのヤカンも消えないぞ」

 

 少年は奥に転がっているガラクタの山を指差した。

 

「ヤカンやそのペンギンみたいな道具もあなたが投影したの?」

 

「あいや、そっちのかき氷器は藤ねえが持ち込んだものだ」

 

 と言って、彼は顔を顰める。

 

「そう・・・・・・」

 

 私は手にしたナイフを目の前に掲げて、つぶさに確認した。

 魔力で編んだ造作物にしては、何というか素材の持つ本来の存在感が強い。

 

「これ・・・おそらく投影じゃないわね・・・」

 

「え? じゃあなんだって言うんだ?」

 

「あなた自身の特殊能力のようなものなんじゃないかしら・・・」

 

 私はきょとんとしている少年の瞳をじっと見つめた。

 

 









後半部分は前作と同様の流れなのでかなり端折っていますが、ご容赦を。



※誠に申し訳ございませんが、諸事情によりサブタイトルと前書き日付を変更させていただいております。万一、それらを材料にして考察されている方などがいらっしゃいましたら、ご容赦いただきたくお願い申し上げます。
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