Interlude in
「・・・んで、その神父に会うわけか?バゼット」
椅子に座る相手に向けて、窓際に立つ長身の男が疑わし気に問い掛けた。
男は一目でよく鍛え上げられているとわかる肉体をタイトな青い服に包んでいる。
「はい。以前からの知り合いなのです。そもそも今回の戦いに私を推挙してくれたのも彼です」
そう答えるのは、整った凛々しい顔立ちが印象的なショートカットの女だ。男物のスーツに身を包んでおり、女性としてはかなりの長身。受け答えもサバサバとして男性的だった。
「ふうん。本来、中立であるべき監督役がねえ。それってフェアじゃねえな」
「聖堂教会も魔術教会も統制できない闘争など望みません。そういう意味では、私も彼も秩序ある聖杯戦争の進行という点で利害は一致している」
「どうにも、怪しいなあ」
「何がですか、ランサー? 彼は信頼に足る人物です」
「いや、そっちじゃなくて、あんたがな」
ニヤリと笑みを浮かべた【ランサー】と呼ばれた男は、踵を返して部屋の扉へと向かう。
「どこへ行くのです?」
「気にすんな。ちょっとそこいらをぶらりとしてくるぜ。折角の逢瀬を邪魔しちゃ悪いからな」
「なっ!?」
ガタリと音を立てて、女が椅子から立ち上がる。
「あばよ。しっかりやんな」
右手をぷらぷらと揺らして、彼は扉の外へと出て行った。
「なにを言っているのかさっぱりわからない」
女、即ち【バゼット】は、自身が信頼するサーヴァントを見送って嘆息した。
彼を召喚して三日が経つ。
狙いどおりの、そして幼い頃より憧れていた英霊を召喚することができた。
充分な力を備えており、その姿は勇壮。一つ一つの動きには全く無駄がなく、惚れ惚れするほどだ。
そのうえ、気質としてはさっぱりしていて気持ちがいい。
というわけで、殆ど申し分のないサーヴァントなのだが、マスターである自分に対して何かとからかうような態度が多いのが僅かに不満ではある。
「ですが、概ね順調と言っていいでしょう」
バゼットとランサーが拠点として滞在しているのは、冬木市の深山町にある通称【双子館】と呼ばれる洋館だった。この館はバゼットを派遣した魔術協会からあてがわれたもので、前々回の聖杯戦争でも魔術協会に所属する参加者が利用していたという。
当の参加者の結果は惨憺たるものだったという話だが、験担ぎやら縁起などに頓着しないバゼットは気にしていなかった。
その参加者が弱かった。
ただ、それだけのことだ。
「私としたことが、少し浮ついているかもしれませんね」
自嘲気味に呟きながらも、自分の内面が浮き立っていることが感じられた。
信頼する人物に招聘され、子供の頃から幾多のエピソードに心躍らせられた母国アイルランドの大英雄【クー・フーリン】と共に戦う。
普段の仕事では感情が揺らぐ必然性も必要性もない。淡々と作業をこなすように教会から与えられる任務をこなし、そしてその過程では幾多の人々を殺めてきた。
だが、今回は特別な仕事になる。
そんな予感に満ちていた。
ランサーが立ち去って僅かの後。約束どおりの刻限である午後7時に、神父服に身を包んだ訪問者がこの館にやってきた。
今回の戦争の監督役である冬木教会の神父、言峰綺礼だった。
「久しぶりだな。バゼット・フラガ・マクレミッツ」
身の丈190Cmに届く偉丈夫の神父から、その姿と立場に似つかわしい荘厳な声が発せられた。
「ええ。ご無沙汰をしておりました、言峰神父。先ずはこの度の聖杯戦争への魔術師協会からの参加枠について、私を推挙していただいた件、改めて礼を言わせていただきます」
広大な玄関ホールの扉を開けて、待ち侘びた相手を迎え入れると、バゼットは客間へと案内した。
「なに、最も適切と考えられる人物として、私の中で自然と思い浮かんだ名前を伝えたまでだ。特に感謝されるものでもあるまい」
「そうですか。ではこれ以上の礼は申し上げません。ですが、その言葉も最上級の賛辞としてありがたく承っておきます」
そう告げて、バゼットは神父に手近な椅子に座るよう促し、自身も腰を降ろした。
「さて、本日わざわざご足労いただいた用件は何でしょうか?本来、私のほうから教会にご挨拶に伺おうとしていたところだったのですが」
「いや、私の余計な一言によって、面倒をかけることになってしまったのだ。であれば、こちらから出向くべきと考えたまでだ」
神父は神妙な面持ちでバゼットに意図を伝える。
「そのようなことはありません。魔術協会を通じた正式な仕事ですし、私自身も自分が適任者ということも理解しています」
「そう言ってもらえると少し心の荷が軽くなるな。何せこれからのことを考えると、私としては気が重くてな」
「言峰神父でもそのようなことがあるのですね」
バゼットの言峰綺礼という男に対する印象は、『泰然自若』が人の形を成した存在。『揺らぎ』という概念から遥か縁遠い人物というものだった。
その口から『気が重い』などという言葉が出てくるなど違和感しかなかった。
「無論だ。監督役と言っても、名ばかりのものだ。サーヴァントと対峙すれば、所詮一溜りもない。強制力がない以上、統制は難しいからな」
「ですが神父なら、必ず職務を全うされるでしょう」
偶然にもいくつかの仕事で共闘する場面があったことが、彼との縁だ。
協会の代行者である彼は実力者ではあるが、もしも正面から戦うことになればほぼ間違いなく自分が勝つだろう。
しかし、単純な戦闘力とは別の次元で自分はこの【言峰綺礼】という人物に絶対に及ばないという確信もあった。
「そうありたいものだな」
返ってきたバゼットの言葉に神父はそう応じて、改めて顔を上げた。
「さて、今後の方針について話し合いたいところだが、その前に確認したい。キミは現状をどの程度把握しているのかな?」
「そうですね。アインツベルンと間桐が既にサーヴァント召喚を済ませていることは把握しています。遠坂はまだのようですね」
「ふむ。しっかりと御三家はマークしているようだな。流石、というべきかな」
「そのほかに気になる情報として、私とは別口で外来の魔術師が独自のルートで協会から参加の認可をとりつけたと聞いています。そして、既にサーヴァントを召喚したとも」
「それも確かだ。ただし、実はそのマスターは召喚したサーヴァントが外れだったと言って、数日程前に私にそのサーヴァントの始末について斡旋の依頼をしてきた」
「ムシのいい話ですね」
基本的にマスターである魔術師よりもサーヴァントのほうが強い。そうである以上、この戦いではサーヴァントの優劣が勝敗の一番の
「そうだな。まあ、そんなことできるわけもないと丁重に断ったがね。その時点でキミが入国していれば頼めたのかもしれないが」
「結局どうなったのですか?その魔術師は」
後半の神父の一言に浮き立つ気持ちを誤魔化すように、バゼットは問う。
「死んだよ。おそらくそのサーヴァントに殺されたのだろうな」
「はぐれサーヴァントがいるということになるのでしょうか?」
「残念ながら、そのサーヴァントの消息はわからない。常識的に考えれば既に消滅しているだろう。フリーの魔術師にでも見つけられれば別だがな」
御三家を除けば、この冬木に所在する魔術師はいない筈だ。
前回の聖杯戦争の生き残りが一人いたと聞いているが、その人物は数年前に他界している。外来の魔術師がこの地に偶然滞在している可能性は極小と考えられる。
「これまでに召喚されたサーヴァントのクラスはわかりますか?」
「アインツベルンがバーサーカー、間桐がライダー、死んだマスターが召喚したのはキャスターだったな」
「私はランサーを召喚しました。正式にマスター登録をお願いします」
改めて神父に伝えることで、少し誇らしいような気持ちになる。
「承ろう。残るはセイバー、アーチャー、アサシンだな。あと10日程で全ての英霊が揃う。キミの健闘を祈らせてもらおう」
「警戒すべきは、やはりアインツベルンのバーサーカーでしょうか?」
「そうだな。アインツベルンは敢えてバーサーカーを召喚したようだ。魔力消費が激しく、御し難いクラスであるにも関わらずだ。よほど魔力と制御に自信があるのだろう」
「あとは、遠坂がセイバーを召喚した場合、強敵になりそうですね」
「かも知れんな」
「とは言え、遠坂の目的は魔術協会の利害とも一致しています。目に余るような所行がない限り、当面は殊更に敵対する必要はないですね」
「うむ。遠坂はこの土地の管理者でもある。無秩序な闘争を望んでいないのは間違いない。従って、監督役の私とも、キミとも利害は一致しているな」
「では、遠坂の現当主の人となりを確認した後、問題なければ接触して共闘を持ち掛けます」
「それがいいだろう」
鷹揚に頷いた神父は、これで話はお終いというように席を立った。
それを見たバゼットは少し慌てて自身も席を立つと、部屋のドアへと向かった。
「お忙しいのですね。折角なのでもう少し話をしたかったです」
客人である神父を見送るためドアを開けながら、バゼットは言った。
「またの機会にしよう。教会に戻って、迷える子羊達を導いてやらねばならんのだ。私はあくまでも聖職者だからな」
客間を出た二人は、並ぶようにして玄関へと向かう。
迷える子羊。
それは自分のことではないだろうか。
喜び勇んでこの極東の地にやってきたのは、この男に導いてもらえるかもしれないと、そんな期待があったからではないか。
バゼットはそんなことを思いながら、神父の前に出て、玄関扉のドアノブに手をかけようとする。
「・・・言峰神父・・・私はうまくやれるでしょうか?」
思いがけず、そんな問いを神父に投げ掛けていた。
「ん? ああ。キミなら大丈夫だとも」
唇の片方だけを吊り上げて、神父は嗤う。
その言葉は聞く者が聞けば、なんの感情も込められていないことに気付いたかもしれない。
【バゼット・フラガ・マクレミッツ】。
魔術協会屈指の戦闘能力を持つ極めて強力な魔術師であり、封印指定の執行者。
稀有な能力を持つ魔術師を『保護』という名目で捕縛する役割を担う生粋の対魔術師兵器。
即ち人間の範疇では最高峰に近い力を持つ存在という事である。
しかし今、言峰綺礼の目に映るのは、無防備になったただのつまらない女の背中に過ぎない。
ほんの僅かにその瞳に歪んだ喜悦の光が浮かぶ。
既にその手には、黒鍵と呼ばれる聖堂協会の代行者が使う特殊な細剣が握られていた。
ドゴォッッッッ!
扉が突然弾けた。
「なっ!!??」
バゼットは、自身が開けようとしていた扉が粉砕された瞬間、咄嗟に体を横に投げ出して衝撃と木片をまともに受けるのを辛うじて避けた。
彼女の並外れて研ぎ澄まされた感覚と身体能力の賜物であったろう。
「なぁにをしてやがるっ!?このクソ神父が!!!」
ダンッ!!
と、叫びながら館内に飛び込んできたのはランサーだった。
「・・・ふ・・・ランサーか・・・離れていた筈だが、主人の危機を察知したか」
後方へと大きく跳んで破砕された扉をやり過ごした言峰綺礼が淡々と呟く。
「え?」
バゼットは唖然とした。
自身のサーヴァントが突然、玄関の扉を破って乱入してきたこと。
そして、今の神父の言葉。
彼女の頭は全く理解が追いついていない。
「答えやがれっ!てめえ、どういう料簡だ!?」
両手に赫い槍を構えて、鬼の形相を浮かべた槍兵が神父に向けて吠えた。
「・・・ラ・・・ランサー。一体どうしたというのですか?」
「バゼット、なにを暢気なこと言ってやがる!お前は今、こいつに殺されるところだったんだぞ!」
「!?・・・そんな筈・・・」
バゼットは俄かには信じられなかった。
だが見れば、神父の手には確かに武器が握られている。
「完全に出し抜けたと思ったのだがな。思った以上に優秀なサーヴァントだ。なぜ勘づいた?」
「館に向かう様子を見てな。プンプン匂ったってだけだ」
「歴戦の勇士ならではの観察力ということか。英霊を甘く見過ぎたかな」
「何故バゼットを殺そうとした?」
「くく。手駒となるサーヴァントが欲しくてな。手軽に殺せるマスターがいたから、ちょうど良かったというだけだ」
「言峰神父・・・あなたは・・・」
その言葉で漸く事態を認識し始めたバゼットが声を震わせる。
「てめえ、完全に腐ってやがるな」
ランサーの闘気が一気に膨れ上がり、周囲の大気が文字どおり震え始めていた。
「本当なら楽に死なせたくはねえんだがな。経験上、てめえのような奴はとっとと始末しておくに限るな」
ランサーは長槍の切っ先を神父へと突き付けた。
「やれやれ、どうやら私の悪運も尽きたかな。ランサーのサーヴァント相手ではな」
そう言いながらも、神父の顔には依然として笑みが張りついていた。黒鍵を両手に4本ずつ、計8本を指の間に挟み込んで、ランサーに対峙している。
「せいぜい末期の悪あがきをさせてもらおう」
「そんな殊勝な覚悟をしたやつの顔じゃねえな」
この男は危険だと自身の直感が最大限の警告音を発している。ランサーは先程の言葉どおり、時間を掛けるつもりは毛頭なかった。
3歩踏み込めば自身の間合いだ。
なんの遊びもなく、全力でかかれば一瞬で勝負はつくだろう。
「くたばりやがれぇっ!!!」
叫びながら、ランサーはその槍で神父を串刺しにすべく踏み込もうとした瞬間だった。
「ランサーっ!!!」
悲鳴とも言えるバゼットの声が響いた。
ほんの僅かに遅れて。
ドゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!
「何だとっっ!?」
凄まじい勢いで10本程の武器が館の壁を砕いて突破してきた後、ランサーのいた付近の床を破壊していた。
シュウゥゥゥ・・・
バラバラになった床の木片と粉塵が舞い上がり、広い玄関ホールを覆い尽くした。
「・・・ったく・・・なんだってんだ・・・?」
ランサーは飛来した武具を咄嗟に転がるようにして躱していた。片膝立ちになった彼は床に片手を付いて油断なく玄関扉のあったほうを見やる。
ランサーの視線の先を追うようにして、神父もバゼットもそちらに目をこらす。
一連の破壊行為により正面の壁は既に壁としての体裁を成しておらず、夜の帳が降りた外の様子がはっきりとわかる状態となっていた。
「綺礼よ。何を一人で愉しそうなことをしている?」
館の外からは、傲岸不遜としか形容できない声が届いた。
「アーチャーか。助けにきたというわけでもないだろうが、私の悪運は尽きていなかったということかな」
軽く服を払いながら神父が応じる。
「無論だ。久しぶりにお前が愉しそうな顔で、いそいそと出掛けるものだから興味が湧いてな」
夜闇の中に姿を現したのは、黒いジャケットを着こんだ金髪の男だった。
その赤い瞳は煌々と光に満ちており、顔には悠然とした笑みが浮かんでいる。
はち切れんばかりの生気と自信が全身から発せられており、男の周囲だけが眩く輝いているかのようだ。
「ん?そんな顔をしていたかな?」
神父は自身の顎を左手で撫でるような仕種をした。
「仕事のつもりだったのだがな」
「何を言う、綺礼。これを仕事と断言するのは厚顔の極みと言えるな。明らかに娯楽の類であろう。無論、
「ランサーを手に入れるのは、監督役としての仕事を円滑にするためのつもりだったが。まあ、その過程で些か愉悦を感じる部分があったかもしれんな」
「であろう。お前もまた、この聖杯戦争を愉しみにしていたという事に他ならないな。いずれにせよ10年もの時を待ち、ようやく聖杯戦争が始まろうというのに、あまり興冷めなことをしてくれるな」
そう結論付けて、金髪の男は綺礼から視線を外して、ランサーとバゼットを見据えた。
「まさか・・・サーヴァント・・・」
バゼットは己が目を疑った。
信を置いていた神父が自分を殺そうとしただけでなく、サーヴァントを従えているとは夢にも思わなかった。
「クソが・・・アーチャーだと?」
体から血を滴らせながら膝立ちになったランサーが呻く。飛来した武器の殆どを避けたものの、一本だけが脇腹を掠めていた。
「言峰神父・・・あなたもマスターだったのですね・・・」
「さあ、どうだろうな」
問われた神父ははぐらかした。
顔には相変わらずの笑みが浮かんだままだった。
「であれば、私からランサーを奪う必要などないのでは?」
「ふふ。そこのサーヴァントが私の言うことを大人しく聞くように見えるか?もう少し思いどおりに動くサーヴァントを欲したまでだ」
神父は先ほどまで扉のあった場所、今となっては単なる館の内と外の境界線を越えて金髪の男へと近づいて行く。
「至高の王たる我がわざわざ出向いてやったというのに、勝手に話を進めるな。雑種」
金髪の男は傲然とバゼットに言い放った。
「しかし、仮にランサーが私のサーヴァントになったところで、お前の気分次第で遊び相手にすればいいだけだろう。それに、お前はこの世界が結構気に入っているのではないか?聖杯戦争をそれほど心待ちにしているとは知らなかったな」
神父はそのまま金髪の男の脇を通り過ぎる。
「無論だ。だからこそ、この戦争で世界が歪む様を眺めるのは娯楽であり、参加者達の業を愛でるのもまた興となる。そして、それらは王たる我が手ずから触れることで価値を増す。その辺の機微を理解せぬ貴様でもあるまい」
「なるほどな。マスターとサーヴァントが織りなす絵図もまた、愉悦の対象ということだな」
「そういうことだ。綺礼よ」
「であれば手出しはすまい。好きにするがいい」
金髪の男の後方で止まると、神父はこちらを向いて後ろ手を組んだ。
その場で状況を見守る構えだ。
「てめえらの方こそ、何を好き勝手なこと言ってやがる!」
二人に罵声を浴びせながら、ランサーが立ち上がった。
釣り上がったまなじりが凄まじいまでの怒りを表している。
「くくく。今、我は気分がいい。貴様の刎頸ものの暴言も今日だけは聞き流してやろう」
「ランサー、私はどうすれば・・・」
状況に混乱したままのバゼットは、困惑の目を己がサーヴァントに向けた。
「バゼット。お前の頭ん中がぐちゃぐちゃになってることは充分わかってる。今は黙ってオレの闘いぶりを見ていやがれ」
つい先ほど金髪の男達に向けた口調とはうってかわった落ち着いた声で、ランサーはバゼットに告げた。
その闘気は膨れ上がったままではあったが、表情は冷ややかなものになっていた。
先程の不意打ちで傷ついた脇腹は既に癒えている。
「・・・ですが、先程のあのサーヴァントの攻撃は・・・」
「ああ、全部宝具並だったな。複数の宝具を一斉に飛ばして攻撃してくるアーチャーか。わけわかんねえよな」
勝つためには、相手の戦力を測ることが重要だ。
ランサーはそれを充分に分かっていた。先ほどは怒気を露わにしたが、対峙しているのが尋常でない相手であることは理解している。
「さて、10年ぶりの祝祭だ。存分に愉しませてもらうぞ」
『10年ぶり』とは、いったいどういうことだろうか?
依然として事態に混乱しながらも、バゼットは先程来のアーチャーの言葉を反芻する。
確かに前回の聖杯戦争から10年が経過している。
しかし、このサーヴァントはまるでその間、この世界で待っていたかのような言い方をしている。言峰神父との問答もそれを示唆するものだった。
「今回召喚されたわけではないということ?」
バゼットは自身の口から零れた推測が、正鵠を射ているように思えた。
「さあな。何にせよあれをどうにかしないとな」
ランサーは緊迫した表情を浮かべている。まともに戦った場合、勝算は高くないと分析していた。
「でなきゃ、オレ達の戦いはここで終わりだ。そんなのはつまんねえだろ」
ランサーはニヤリと笑った。
「あいつの攻撃は本気でやべえ。オレ一人ならなんとか凌げるから、離れててくれ」
「わかりました・・・」
不安の色を浮かべながらもバゼットはランサーの言葉に従い、距離をとる。
「くくく、そろそろ良いか?」
そう告げた金髪の男が腕を組むと、その背後の空間から幾多の武具が次々と顔を出す。
剣、槍、鉾、斧等々多種多様。
数えてみれば20を超える。
その切先はランサーとその近くにいるバゼットに向けられていた。
「それでは、宴を始めるとしよう」
王が、高らかに宣言した。
綺礼もギル様も本当に楽しそうで何よりですね。
ここまではライダーとキャスターの小競り合いくらいしかありませんでしたから、初めての本格的な戦闘パート開始です。