序章 いってらっしゃいの真実
「お姉ちゃん、古龍が…!」
「……え?なんで……?」
もうこの地に戻ることは叶わないかもしれない。そんな絶望を私は予感した。
「ハル、今日はおつかいに行って欲しいんだ」
昼下がりの頃、下の階に降りてきた私に父はそんなことを言い出した。リビングで座っていた父は私を呼び寄せると、お金の入った赤い巾着袋と大きめの袋を私に渡した。
「隣町の方で、買い物をしてきて欲しい。ハルとフユで、ガルクに乗って行ってくるといい」
私、ハルはそういうふうに言われた。
「お父さんは?」
「お父さんはちょっとした仕事があってね、それなのに急にそれが必要になったんだ、買ってきてくれるね?」
「……うん」
私は、少し押しつけられるようにその頼みを聞いて、引き受けた。まぁかくいう私は、お父さんの役に立つためにルンルン気分である。
「フユ、行くよ!」
「え?待ってよお姉ちゃん!」
私はすぐに二階の私と双子の弟、フユの部屋に駆け込み、早速外出の準備をした。
私は、父にもらった狩りの訓練用の桜色の服に着替えて、これまた訓練用に父にもらった大剣を担いだ。10歳の私には少し大きく重心を持っていかれそうになるも、わっとと…と言いながらなんとか耐える。
弟のフユの方も昼寝から飛び起きて、急かされるように準備をする。ハルの服と色違いで水色になっているお揃いの服を着て、訓練用武器の狩猟笛を手に取った。弟はメロディを覚えるのが得意で、演奏も上手で……、これが弟の天賦の才なのだと姉ながら誇らしく思っていた。
私とフユは階段を飛び降りるくらいのスピードで降り、そのまま玄関へ直行する。窓の方からは私たちのガルクのシュント鳴き声が聞こえる。私と同様、シュントの方も楽しみのようだ。
「いってきまーす!」
威勢のいい元気な私の声。
「い、行ってきます!」
それに置いて行かれまいと懸命に走るフユの声。
「…あぁ、気をつけてな」
リビングの父は、私たちのドタドタとした足音にかき消されないように、少し声を張って返事をした。少しばかり笑みを含んでいた。
これが、今のところ私たちと父の最後の会話になっている。
出発が昼下がりの頃だったので、隣町に着く頃にはすっかり日が暮れようとしていた。
ハルとフユを乗せたシュントが隣町に入るべく門をくぐる。そこで二人は一度シュントから降りた。
「シュント、ありがとう」
フユがサッと降りて、シュントに優しく声をかける。
「シュントぉ!お前はいい子だ!」
私は少し上から目線の発言をして、ヤッと飛び降りると、思いっきりワシャワシャとシュントの頭を撫でてやった。シュントは喜んで……はいないみたいだった。
「お、お父さんのおつかいかい?」
隣町の中の方を歩いていると、不意におじさんに話しかけられた。私たちの方も何度かここに足を運んだことがあるため、顔を覚えられていたらしい。というのも、私の父は巷じゃ有名なモンスターの生態や遺伝に関する研究者で、私の父に聞けばこの辺のモンスターのことは大体分かると言われるほどだった。
「うん!おつかい!」
私は元気よく答える。おじさんが「そーかそーか!」なんて言って頭を撫でてきた。
「お父さんの方から買い物を頼まれたこと聞いてるさ!」
おじさんは威勢よく答える。どうやら私の父のお友達のようだ。
「しかしまぁ……、」
と言っておじさんは空を見上げる。私たちもつられて上を見る。
「もう太陽もお休みの時間のようだ、あんたらのお父さんにも言っておいてるから、今日はうちに泊まっていきな!」
そう言っておじさんはにっこり笑う。
「あ、ありがとうございます」
フユが少し驚いたようにお礼を言った。
「ありがとー!」
私もお礼を言った。
私たちは、おじさんの営む店の二階のスペースに泊まることになった。
「少し埃っぽいかもだがごめんねぇ」
おじさんが少し謝ってくるので私たちは慌てて否定した物だ。
その夜。
「お姉ちゃん、」
二人で一つのベットに潜る私に、フユが話しかける。
「なぁに?」
私は眠たい目を擦ってフユに聞いた。
「なんか、イヤな気がする…」
「イヤな気……?」
なんとも、フユが眠れていないようだ。おじさんちの慣れてない布団のせいだろうか?それにしては、少し涙ぐんだような声をしていた。何か怖い夢があったのだろう。
「明日のためにちゃんと寝なさい?」
「……うん」
訳もわからない私はとりあえずそう言って、フユを撫でてあげた。シュントの時とは違い、とても優しく、フユにヒビが入って壊れないように撫でてあげた。私はフユが寝付くまで、気が済むまで撫でておいた。
その時、私のお家のある村は、災禍に襲われた。